マンション購入後1年で転勤になった場合、 売却か賃貸どちらのメリットが大きいかをシミュレーション!

2023年9月7日公開(2023年9月6日更新)
ふじふじ太:不動産コンサルティングマスター

現在住んでいる家の住み替えを行う際、売却か賃貸かの判断ポイントとして、今回は具体的な事例と数字でシミュレーションしてみます。ご自宅を売るか貸すかで悩まれていて、どちらがどのくらい利益を生むのか、どう比較すべきかを知りたいという方は、ぜひ参考になさってください。(ふじふじ太:不動産コンサルティングマスター)

売却か賃貸かどちらが得かをシミュレーション

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住み替える際に売却か賃貸かどちらのメリットが大きいか(出所:PIXTA)

 前回のコラム「住み替える際に今の家を売却するか、賃貸に出すべきかの判断ポイント5ステップ!」では、売るか貸すかの基本的な考え方について言及いたしました。

 今回は、具体的な数字でシミュレーションしながら、ケーススタディーという形で売却か賃貸に出すかの考え方をご紹介していきます。

<ケーススタディー>
 Aさんは都内で新築マンションを7,000万円で購入したが、入居後1年で海外転勤が決まってしまった。

 購入時に借りた銀行に相談をしたところ、やむを得ない事情ということで一定期間は同じ金利のままで賃貸に出すことについて許可をもらっている。

 コロナ特需もあり物件価格の上昇の恩恵を受けて、現在の時価は9,500万円である。

 いずれは帰国する予定だが時期は未定であり、いっそ売却をして利益確定をするか、賃貸で継続して保有するか悩んでいる。

 帰国する時には子供も大きくなり手狭になるため、同じ物件に戻らない可能性も十分考えられる。

 さて、このケースの場合、Aさんは売却するか賃貸に出すかをどう判断していけばよいのでしょうか。

売却と賃貸のメリット算出方法

 判断ポイントとして確認する項目は以下の2点です。

  • 【売却】3,000万円特別控除で受けられるメリットを算出
  • 【賃貸】年間収支のメリットを算出

 順を追って解説していきます。

【売却】3,000万円特別控除で受けられるメリットを算出

 売却した場合のメリットを算出してみましょう。計算に必要な前提条件は以下の通りです。

<前提条件>
a.取得価格:  7,000万円(2020年新築取得)
b.購入時諸費用: 280万円
c.売却想定価格:9,500万円
d.売却時諸費用: 300万円
e.年間減価償却費:  60万円

 まずは、前提条件から課税譲渡所得を算出します。

 譲渡所得を計算する際の考え方ですが、7,000万円で取得した物件は、経過年数とともに建物分のみが一定額減価するという税法上の決まりがあるため、減価償却分を差し引いたものを現在の価値として計算する必要があります。

 本ケースに当てはめると、ちょうど経過期間が1年だとすると、取得価格から60万円減価したと考えるため、現在の価値は6,940万円となります。時価とは異なり、あくまで税法上の基準の価値です(詳しくは国税庁のホームページ「No.3261 建物の取得費の計算」をご覧ください)

 6,940万円の価値のものが、時価9,500万円で売却できるということなので、売却益は、2,560万円となります。

 そこから購入時と売却時の経費を差し引いたものが、課税譲渡所得となります。すると本ケースの場合、課税譲渡所得は1,980万円となります。

課税譲渡所得=c―a―b―d+e=1,980万円

 また、所有期間が5年以内なので、税率は「短期譲渡所得」の41.1%となります。したがって、納税額は以下の計算のとおり、約813万円です。

納税額=1,980万円 × 41.1% = 約813万円

【関連記事】>>不動産を譲渡(売却)した時の税金の計算方法とは? 節税特例や減価償却の考え方なども解説!

課税譲渡所得が3,000万円までは税金がかからない

 ただし、3,000万円特別控除を使うことで課税譲渡所得の上限3,000万円まで非課税にできるので、本ケースでは納税額を0円にすることが可能です。

 よって、3,000万円特別控除を適用させることで受けられるメリットは約813万円という結論となります。

 なお、3,000万円特別控除はあくまで居住物件を売却した場合の優遇であるため、一定期間以上賃貸に出すとこの優遇は使えなくなるのでご注意ください(※正確には住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが適用要件のひとつとなる)。

 詳しくは国税庁ホームページ「No.3302 マイホームを売ったときの特例」をご覧ください。

 では続けて、賃貸に出した場合の収支の概算を計算していきます。

【賃貸】年間収支のメリットを算出

 同ケースにおいて、賃貸に出した場合の計算に必要な前提条件は以下の通りです。

<前提条件>
a.賃料:34万円(普通借家想定)
b.支払い金利:3万円(満額借り入れ想定・金利0.5%)
※住宅ローン支払い総額:元金15.2万円+金利3万円=18.2万円
c.月額管理費・修繕積立て金:3.2万円
d.月額固定資産税:1.1万円
e.月額管理手数料(5.0%):1.8万円

 賃貸収支を計算する際の注意点ですが、キャッシュフローを前提に考えるのではなく、支払い元金をマイナス計上せずに、実際のメリットを前提に考えましょう

 すでに物件価格が大幅に上昇しているので、売却した段階で、支払った元金はすべて戻ってきます。

 毎月支払う元金は、積立て型の貯金をしているようなもので損をしている訳ではないため、元金分をマイナスとして考える必要はありません。住宅ローンの支払い額の中で、マイナス計上するものはあくまで金利のみです。

賃貸収支=a―b―c―d―e=24.9万円

 よって、実際のオーナーの月間収支のメリットは24.9万円となります。

 さらに言うと、元金返済は月々少しずつ増加し、金利は減少していくので、長く貸すほどメリットは多くなります。

 結果、下記のとおり年間の賃貸に出すメリットは約298万円となります。

年間賃料収入=24.9万円×12カ月=約298万円

 本来はここから所得税が引かれるのですが、所得税の計算は個別性が高いので今回は割愛いたします。

 また本ケースでは対象外ですが、買い替えの場合は新居における住宅ローン減税のメリットも考慮して計算をするとより正確です。

売却と賃貸どちらのメリットが大きいかを比較する

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売却と賃貸どちらのメリットが大きいか(出所:PIXTA)

 3,000万円特別控除のメリットと賃貸に出した場合の年間メリットが出そろったところで、いよいよ比較をしていきます。

 判断の基準は「3,000万円特別控除分のメリットを賃貸で回収するのに何年かかるか」です。

 筆者の感覚として、回収に2年以上の期間を要するのであれば、売却をされることをおすすめしております

 それは、お金の価値を考える際に「時間価値」という視点もあり、即金で手に入るお金の方が後から手に入るお金よりも価値が高いという側面もあるためです。

 本ケースにおいては、

・売却のメリット:813万円
・賃貸のメリット:298万円

 となりますので、「813÷298=約2.7年」となります。

 上記より、3,000万円控除分のメリットを回収するには、賃貸に出してから3年弱の期間を要する形になります。

 したがって、本ケースにおいては「賃貸に出すよりも売却した方がよい」という結果となりました。

 この判断基準は、あくまで筆者が考える一つの基準に過ぎません。物件にもよりますが、首都圏の不動産価格が大きく下がる見込みは今の所ないという点を考慮すると、5年、10年と長く貸せるのであれば、賃貸に出した方がメリットは大きくなるでしょう。

 上記シミュレーションを参考に、ご自身のライフプランに合った選択をしていただければと思います。

【関連記事】>>住み替える際に今の家を売却するか、賃貸に出すべきかの判断ポイント5ステップ!

 

 

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