「湾岸2024年問題」で湾岸エリアの中古マンション価格はどうなるのか? 本記事では、過去の事例を引き合いに出しながら、「湾岸2024年問題」について解説するとともに、買い手・売り手はどのように行動をすべきなのかを解説していきます。(ふじふじ太:不動産コンサルティングマスター)
※本記事の「湾岸」とは、主に東京の中央区・江東区の東湾岸エリアを指します
「湾岸2024年問題」で、中古マンション価格は下落する?
マンション価格の高騰が目立つ現在、マンションの購入・売却のタイミングについて悩まれている方も多いのではないでしょうか。
"東京2022オリンピック後暴落説"を信じ、安くなったところで買おうと思われていた方も大勢いらっしゃるかと思いますが、結果的に、東京湾岸エリアのマンション価格は上昇の一途をたどっております(図表1参照)。
図表1 湾岸エリアの成約単価推移(2019年1月〜2023年4月)
では、次の買い時・売り時はいつなのか? 湾岸エリアでのマンションの購入・売却を検討されている方にとって、今後訪れると予想される「湾岸2024年問題」というトレンドを知っておいて損はないと思います。
「湾岸2024年問題」とは
「湾岸2024年問題」ってなに? と思われた方も多いと思いますので、簡単に説明しましょう。
まず「晴海フラッグ」と「パークタワー勝どき」という2つの大規模新築マンションが同時期(2024年上旬)に入居開始になります。
その影響で、近隣の中古マンションの売却募集数(在庫)が大量に増え、一時的に受給バランスが崩れることで、物件価格が下落する可能性があるという事象を指します。
在庫が増えると価格調整が入る
では具体的に、今後どのくらい在庫が増える可能性があるのでしょうか。
「晴海フラッグ」の板状マンションの総販売戸数は2,690戸で、「パークタワー勝どき」の総販売戸数は1,715戸(事業協力者戸数除く)だったので、湾岸エリアで2024年上旬に引き渡しを控える総戸数は4,405戸となります。
新築マンションの営業担当さんの話によると「同じ湾岸エリア内で買い替える方も多い」とのことで、仮に全体の10%だと想定すると約400戸。
さらに「晴海フラッグ」は投資目的で購入されている方も多く、即転売住戸が全体の10%と仮定すると、約250戸が追加で売却される可能性があります。
【関連記事】>>【HARUMI FLAG SKY DUO(晴海フラッグ )】の価格・間取り大公開!1名義2戸の販売規制も
今後、トータルで650戸程度が在庫として供給されると考えると、恐ろしい数です。
不動産価格の決定要因として「需要と供給」は重要な要素です。
在庫数(供給)が大幅に増加するということは、経済学の価格決定メカニズムに従えば、一定の価格調整が入ることは必然と言えます。
「湾岸2024年問題」をまとめると以下の通りです。
↓
その総戸数は4,405戸
↓
湾岸エリア内の買い替えと「晴海フラッグ」を即転売する人が一定数いる
↓
その合計は約650戸と想定される
↓
在庫数(供給)が大幅に増加することで一定の価格調整が入る可能性がある
湾岸エリアで在庫が増え、価格下落圧力がかかる時期はいつ?
「在庫数が大幅に増えると一定の価格調整が入る」ということは、中古マンションの購入・売却を考えている方は、いつから在庫が増えるのかが気になるでしょう。
ここでは、大規模新築マンションの引き渡し前後で、在庫数がどのように変化するのか、またその結果、成約価格にどのような影響があるのか、過去の事例を参考に検証してみましょう。
ケース①「シティタワーズ東京ベイ」
図表2は、有明の大規模マンション「シティタワーズ東京ベイ」の引き渡し前後の、有明エリア限定の中古マンションの在庫数・成約価格の推移(シティタワーズ東京ベイを除く)です。
図表2 中古マンションの在庫数・成約価格の推移(有明エリア)
ご覧の通り、在庫数に関しては2019年9月頃から上昇が始まりました。引き渡しが2020年2月下旬からでしたので、引き渡しの約半年前から在庫が増えていることが分かります。
成約価格に関しては、在庫が増えていくに従い、徐々に価格下落圧力が強まっていることが読み取れます。その後、供給が減り始めると、成約価格は上昇しています。
価格が安くなったことで需要が加速し、一時的に増えた供給を、一気に需要がのみ込んだのでしょう。
需要と供給は、やはり一定の相関関係があることが分かります。
ただ、この時期はちょうどコロナで揺れていた時期でもあり、コロナショック・コロナ特需の影響もあったことは否定できません。
ケース②「ブランズタワー豊洲」
もうひとつのケースを見てみましょう。図表3は「ブランズタワー豊洲」の引き渡し前後の、豊洲エリア限定の中古マンションの在庫数・成約価格の推移(ブランズタワー豊洲を除く)となっております。
図表3 中古マンションの在庫数・成約価格の推移(豊洲エリア)
ご覧の通り、2022年1月頃から在庫が上昇しています。ブランズタワー豊洲は2022年3月中旬頃から入居開始だったので、入居開始のおよそ3カ月前から在庫が増え始めているという結果となっております。
成約価格を見てみると、シティタワーズ東京ベイの時ほどわかりやすい価格の下落はないですが、在庫が増加することで価格上昇に一定の抑止力が働いていることは読み取れそうです。
そして引き渡し後、在庫が減っていくに従い、価格が上昇するという構図は同じです。
ケース①②の検証結果をまとめると、以下の通りとなります。
↓
それは、引き渡しの半年〜3カ月前から始まる
↓
在庫が増えると、不動産価格に対して一定の価格下落圧力がかかる
「湾岸2024年問題」で在庫が増えてくるのは、2023年7月ごろか
「湾岸2024年問題」においては、晴海フラッグをはじめとしたグロス価格の安さとその圧倒的な規模から、近隣エリアのみならず、湾岸エリア全体に影響が波及すると読んでおります。
2023年5月までの湾岸エリア全体の在庫推移をみると、今の所はまだ在庫数にそれほど大きな変化はありませんが、直近はじわじわと在庫が増えてきている状況です。
図表4 湾岸エリアマンション在庫数合計推移(2021年7月〜2023年5月)
晴海フラッグに関しては引き渡しが早まり、2023年12月頃から入居開始になる予定ですので、半年前の2023年7月頃から本格的に売却募集が増えてくるのではないかと予想しております。
その予想を立てた上で、いつ買うべきか、いつ売るべきかについて、私なりの考察をお話しいたします。
買い時はいつ? 【湾岸エリアの中古マンション購入を検討している人】
上記のように、今後、湾岸エリアは新規売却募集数が増えることが予想されます。よって、これから購入をされる方にとっては選択肢が増えるという点で、絶好のチャンスと言えるでしょう。
ただ、不動産価格の大幅な下落(5%以上の下落)を期待すべきではありません。現在欲しいスペックの新規募集があり、かつ相場に近く、許容範囲の価格帯であれば、勇気を出して購入すべきです。
今後、仮に5%以上価格が下がることを期待するなら、以下のようなステップを経る形になります。
① 相場より高く売り出す【チャレンジ募集】
② 売れなくて在庫が増える
③ 相場価格で売り出す【普通の募集】
④ 売れなくて在庫がさらに増える
⑤ 相場以下(2~3%安く)で売り出す【割安な募集】
⑥ 売れなくて在庫がさらに増える
⑦ さらに相場以下(5%以上安く)で売り出す【超割安な募集】
現状は、まだ売り手市場が継続しており、①【チャンレンジ募集】をされている売主さんが多い状況です。
物件による差はありますが、湾岸エリアの多くのマンションは相場近くで募集すればすぐに売れており、④のフェーズに突入する前に成約してしまいます。
では今後、「湾岸2024年問題」が顕在化した時に④~⑦のようなフェーズまで進むかというと、どうもそうは思えないのです。
2〜3%下落するとすれば、2024年以降
都内の新築マンション価格は驚くほど高く、湾岸エリアの話題の新築タワーマンション「晴海フラッグ スカイデュオ」は、大盛況で高倍率の見込みとなっております。
月島エリアの再開発物件「グランドシティタワー月島」も、東湾岸エリアの最高値を更新する坪単価での販売を見込んでいます。ほかにも、湾岸エリアは複数の大規模再開発が控えており、さらなる人口の増加が見込めます。
さらに、円安による海外投資家の首都圏マンションへの資金流入も活発です。肌感覚でも、中国人の富裕層が湾岸中古タワーマンションを現金で購入するというケースも目立ってきました。
海外投資家による需要の下支えもあるとするなら、今の経済状況が継続するという前提であるものの、今後、割安な物件の在庫が余るほど、需要が衰える未来は想像しにくいのです。
一時的に、⑤【割安な募集】まではあり得るかもしれませんが、少なくともそれは2024年以降になるでしょう。
相場で買うことさえ難しい中で、例えば、8,500万円が相場の物件を約3%安の8,250万円で買えるなら、飛びつく方も多いのではないでしょうか。
値下がりは最大でも5%未満程度に収まると思いますので、⑦【超割安な募集】にたどり着く前に、きっと需要が追い付いてくると考えます。
前述の「ブランズタワー豊洲」のケースでは、供給は増えたものの、価格はほとんど下がっておりません。
気に入った物件があれば、下落を待たずに購入がおすすめ
よって、今後数パーセントの価格の値下がりを座して待つよりも、相場で早めに購入して、早めに低金利のローンを走らせて確実に残債を減らした方が、賃貸で消耗するよりも合理的です。
繰り返しになりますが、今後、在庫が増えることの一番のメリットは価格が下がることではなく、選択肢が増えて気に入った物件に出会いやすくなるということですので、気に入った物件があれば、迷わず購入されることをおすすめいたします。
誰かが唱えた"不動産暴落説"を信じて買い逃し続けている方もいると思いますが、このチャンスこそ、ぜひものにしてほしいと思います。
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売り時はいつ? 【湾岸エリアのマンション売却を検討している人】
現在、湾岸エリアで保有しているマンションの売却を考えている方は、長期保有前提で、特に売却を急いでいないのであれば、そのまま保有しておいて問題ございません。
2024年の価格下落リスクを恐れ、焦って売却する必要は全くありませんし、わざわざライバル物件が増えるタイミングで売却する必要もありません。
あくまで一時的な受給バランスの乱れによるものですから、中長期目線では価格は維持する可能性が高いと考えます。
もちろん、いつかは必ず不動産価格の調整局面が来ます。しかし、過去の不動産価格の推移をみても、長期的に見れば上がったり下がったりしながら上昇し続けていることが分かります(図表5)。
図表5 首都圏新築マンション価格の推移
相変わらず施工費は高止まりしており、新築マンションの供給数は2013年辺りから減少が続いています。
今後も大幅に増加する見通しは薄く、いずれは欧米諸国のように中古不動産が取引の大半を占めるようになるでしょう。
一方、需要については低金利が続く以上、一定数見込まれ、海外投資家の下支えもあるとするなら、今後、不動産価格は高止まり傾向が継続すると考えております。
一般財団法人日本不動産研究所の調査によると、プロの投資家層による物件取得意欲は依然として高く、95%の市場関係者が「新規投資を積極的に行う」と回答しているとのことです。
今後、懸念点があるとすれば、世界経済の減速、地政学リスクによって日本経済が足を引っ張られることであり、国内事情よりも海外事情の方が気になるところです。
買い替えのため、2024年までに売却する必要がある人は?
悩ましいケースとしては、まさに2024年に新築への買い替えのため、現住居を売却しなければいけない方です。
新規売却募集数が増えることで、相場より高い【チャレンジ価格】での募集はしにくくなるでしょう。状況によっては、想定している価格よりも下げなければいけなくなるということも覚悟しておいた方がいいでしょう。
まだ売り手市場のうちに早めに売却をして、一時的に仮住まいに入るという方法もありますが、引き渡しまで1年を切っていると考えると、あまり現実的ではありません。
ご実家など仮住まいの場所をすでに確保できている方や、仮住まい先の費用を安く抑えられる方であれば良いですが、それ以外の方は、引っ越し費用や仮住まいの費用が重くなるため、逆に経費負けする可能性があります。
そのリスクと労力を背負うのはコスト的にももったいないので、供給が増えることは覚悟の上で、小細工なしで売却活動を頑張る方向で考えられた方が良いかと考えます。
売却活動をする際に注意することは、マーケットの流れと受給バランス、ライバル物件の状況をしっかり把握することです。
マーケットを読み違え、買い手市場に突入しているにもかかわらず不動産会社の言われるがままにチャレンジ価格で売却募集を継続しないようにしましょう。
募集価格が強気すぎると他物件の踏み台にされてしまい、募集の長期化を招くだけです。買い手市場においてそれは大きな機会損失となりますので、あまり欲張り過ぎてはいけません。
売却活動においては不動産会社頼りになり過ぎないように気を付けつつ、どうすれば自分の部屋を選んでもらえるのかを担当者としっかり話し合いましょう。
その上で、ご自身が納得できる売却戦略を立てて進めていけば、後悔のない売却ができると思います。
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