学区、立地の将来性、インバウンド……
売り急がなくても、じっくり「高値売却」が狙える
不動産の”5つのケース”とは?

2019年5月10日公開(2021年2月26日更新)
ダイヤモンド不動産研究所

売りたい物件が位置するエリアに、他にない特徴があったり、競合物件が少なかったりする場合、売り急ぐと損をするかもしれない。そうした「希少性」のある物件は、近い将来に地価が上がり、高く売れる可能性すらある。今の家がどれだけの価値を秘めているかを知るには、買主のニーズを理解することが大事。ここでは、高値売却がじっくり狙える不動産の”5つのケース”について詳しく解説しよう。

【売り急ぐ必要のないケース(1)】
「売り物件の出にくいエリア」の場合

 一般的に不動産の買主は、購入を希望するエリアをある程度絞り込んで探す。そのため、売り物件が出にくいエリアでは、需給バランスによって、買主より売主が優位に立つことが多い。売り急がなければ、高値で売却できる可能性が高いということだ。売り物件の出にくいエリアには、主に以下のような特性がある。

(a)評判のよい学区に該当するエリア
 

じっくり高値売却が狙える不動産とは?

 子育て層が住まい選びをする場合、教育環境は重視するポイントの一つになる。家庭によっては、中学受験する子どもが多いと言われる小学校に通わせるために、学区(公立校の受け入れエリア)を限定して、物件探しを行っていることもある。

 中学受験を考える家庭は塾の費用や私立中学に通わせるゆとりのあることが前提となっているため、高収入であることが多い。希望するエリアの物件であれば、予算を多少オーバーしても購入してもらえる可能性が高いため、売出価格を強気に設定できる。

(b)住人の所得水準が高いエリア

 前記のように学歴水準の高いエリアもその一つだが、一般に文教地区や住人の所得水準が高いエリアは住環境や治安がよく、行政サービスの質も高い傾向にある。したがって、長く住む人が多く、流通する物件が少ない。

 こうしたエリアでは、新築物件の流通量も少なく、あっても価格が高額なため、中古物件の人気は高い。

(c)駅から徒歩5分以内のエリア

 都市部はもちろん、都市部から少し離れた地域でも、駅から徒歩5分圏内にはすでにマンションが建っていることが多く、今後開発できる土地はそう多く残っていない。そのため、需要に対して供給が限られている。

 さらに、東京・大阪・名古屋の3大都市圏では、駅から徒歩20分圏内の物件であれば、売り急がずに高値売却を狙える可能性がある。

 というのも、土地の価格を示す指標の一つ「公示地価」(平成30年)によると、3大都市圏の地価は、駅から徒歩500m未満(徒歩約6.3分)で前年比1.7%上昇。同様に1km未満(同12.5分)で1.3%、1.5km(同18.8分)で0.6%上昇しているからだ(一方で、駅から約2kmを過ぎると下落に転じている)。

◆公示地価「駅からの距離別」平均変動率(住宅地・三大都市圏)

駅からの距離 平成28年公示 平成29年公示 平成30年公示
0.5km未満 1.3 1.3 1.7
0.5~1km未満 0.9 1.0 1.3
1~1.5km未満 0.4 0.4 0.6
1.5~2km未満 0.0 0.0 0.1
2~3km未満 △0.2 △0.3 △0.1
3~5km未満 △0.4 △0.5 △0.4
5km以上 △0.9 △1.1 △1.1
全距離 0.5 0.5 0.7
※出典:国土交通省

 もちろん、3大都市圏内でもエリアによって、実勢価格は大きく違ってくる。不動産仲介会社からピンポイントなデータを入手するとともに、上昇トレンドにあるかどうかを判断するため、過去の価格の推移についても目を配るようにしよう。

【売り急ぐ必要のないケース(2)】
「待てば、競合物件が減る可能性が高い」場合

 たまたま同じマンション内や近隣マンションに、自分の物件よりも安い価格で競合物件が売り出されることがある。そんなときは安易に値下げせず、競合物件が先に売却されるのを「待つ」のも手だ。比較対象となる物件がなくなれば、強気に価格を設定していても、買主は高いか安いか判断できないためだ。

 特に競合物件が売りに出されている間も、内覧希望者がある程度いるようなら、待って成功する可能性は高い。現在の売出価格でも需要のあることが証明されていると考えられるからだ。

 競合物件の有無については、売り手自身で「ライフルホームズ(LIFULL HOME’S)」「スーモ(SUUMO)」といった大手不動産ポータルサイトで調べるのが一つ。より正確な情報を得たい場合は、不動産仲介会社に頼んで「レインズ(REINS)」のデータを調べてもらうといいだろう。

【関連記事はこちら】>>競合物件が「ある場合」と「ない場合」とで異なる、家やマンションの正しい「売却」戦略とは?

【売り急ぐ必要のないケース(3)】
「立地エリアの将来性が高い」場合

 近い将来、地価の上昇が期待できる要素があるかどうかのチェックも大切だ。インフラ整備や駅前の再開発事業が進展していて、今後、人気を集めそうなエリアは、地価が下落しにくいので、売り急ぐ必要はない。

 平成31年の公示地価を見ると、東京23区が6年連続ですべて上昇するなか、住宅地の上昇率のランキングトップ10には、ここ数年の“住んでみたい街ランキング”などに登場する「赤羽」「北千住」も、それぞれ4位と9位に名前を連ねている。

■住宅地の公示価格「上昇率ランキング」(東京圏・住宅地)

順位 変動率 平成30年公示価格
(円/㎡)
平成31年公示価格
(円/㎡)
1位 ◆東京都渋谷区恵比寿西2丁目20番1
15.0% 207万円 238万円
2位 ◆東京都北区滝野川5丁目6番4外
12.5% 70万2000円 79万円
3位 ◆東京都港区港南3丁目6番7
11.7% 95万8000円 107万円
4位 ◆東京都北区赤羽1丁目32番14(赤羽)
11.2% 99万8000円 111万円
5位 ◆東京都文京区本駒込1丁目204番
10.9% 156万円 173万円
6位 ◆東京都豊島区駒込4丁目15番41
10.7% 66万1000円 73万2000円
7位 ◆東京都港区芝浦2丁目1番33
10.4% 125万円 138万円
8位 ◆東京都荒川区東日暮里1丁目1番13
10.3% 80万6000円 88万9000円
9位 ◆東京都足立区千住寿町56番8(北千住)
10.0% 72万7000円 80万円
10位 ◆東京都中野区中野4丁目649番1
10.0% 86万円 94万6000円
※出典:国土交通省

 これらのエリアは数年前まで、賃料相場も安めの不人気エリアだったが、都心の物件に手が届かない人の需要の高まりや、近年は商業施設や交通の利便性も向上していることが要因となり、人気も地価も急上昇している。

 こうした大きな変化は、「道路の新設・拡張」「鉄道の路線開通や新駅の開設・相互乗り入れ」などによって都心部への利便性が向上したり、「駅前の再開発」などによってもたらされることが多い。

 こうした情報を得るには、役所の都市計画課などに問い合せるのがいちばんだが、サイトなどでチェックできることもかなりある。特に大手鉄道会社が主体となっている大規模開発などは、インターネット上に数年先までの開発計画の概要を公開しているケースが少なくない。ぜひ見逃さないようにしよう。

【売り急ぐ必要のないケース(4)】
「観光で注目されつつあるエリア」の場合

 近年、インバウンド(訪日外国人旅行)の需要が増えていることもあり、外国人に人気が出そうなエリアも発展する可能性がある。

 よく知られているのが、北海道のスキーリゾートとしてニセコ観光の一翼を担う「倶知安町(くっちゃんちょう)」だ。外国人の別荘需要と北海道新幹線などの建設工事に伴って働き手が増えたことで、平成31年の公示地価の上昇率は前年比50.0%。住宅地では全国1位の上昇率となった。このほか、外国人に人気のスキーリゾートである長野県の「白馬村」も、上昇率10.5%となっていて、全国平均の0.6%を大きく上回っている。

 もし売りに出そうとしている物件のエリアが、外国人観光客の訪問が増えていたり、街をあげて観光地化に力を入れていたりするようなら、売り急がずに将来性をよくチェックしよう。なかでも、自分は都市に住んでいて、相続した地方の実家を売りに出すようなケースでは気をつけたい。

【関連記事はこちら】>>外国人投資家に人気のある不動産は?

【売り急ぐ必要のないケース(5)】
「建ぺい率・容積率に余裕がある物件」の場合

 建ぺい率や容積率に余裕があると、将来、建て替えたときに、現在よりも大きな建物にすることが可能だ。こうした物件は資産価値が高いため、売却に時間をかけてもいいだろう。

 というのも、特にマンションでは、老朽化して建て替えるとなれば、住人の費用負担が問題になる。その際、建ぺい率や容積率にゆとりがあれば、現状よりも戸数を増やして建て替えて、増やした分を販売することで、建て替え費用に充てることができる。買主のなかには、将来の建て替えを想定して、建ぺい率や容積率に余裕のあるマンションを探している人もいる。

 逆に注意が必要なのは、建ぺい率や容積率が現在の基準をオーバーしてしまっている物件。前出のスキームが使えないため、建て替えるとなると、費用負担は多額になるからだ。そのため、現実には住民の合意が得られずに、ゴーストマンション化する恐れも出てくる。売却する気があるなら、早めに動くことをおすすめする。

 以上、売り急ぐ必要のない5つのケースについて見てきたが、立地に恵まれた一部の物件を除き、人口減の続く日本では年々、売却が難しくなっていくのは間違いないだろう。売却の意思があるなら、早めに情報収集に動いて、いつでも売りに出せるように準備を進めておこう。必要に迫られて売却するよりも、計画的に売却を進めたほうが、安値で売り急ぐ結果にはなりにくいはずだ。

【関連記事はこちら】>>【不動産売却の基礎知識】高値で売却するための、査定方法、費用、手続きの流れとは?

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