離婚の際、住宅ローンが家を売っても完済できない
「オーバーローン」状態! それでも売却するには?
~離婚問題に詳しい弁護士が解説~離婚と「わが家」シリーズ 第2回

【第2回】2019年10月24日公開(2021年2月24日更新)
ダイヤモンド不動産研究所
監修者 白井可菜子:法律事務所アルシエン 弁護士

離婚することになり、住んでいた不動産を売却しようにも、売却額だけでは住宅ローンを支払い切れない「オーバーローン」。それでも、自宅を売却して手放したいときには、どうすればいいのか? 3回シリーズの第2回は「オーバーローンでも持ち家を売却せざるを得ない場合」の財産分与に関して、離婚問題に詳しい弁護士の白井可菜子氏に話を訊いた。家を売っても残る住宅ローンを完済する方法などについて、具体的な事例を挙げながら、分かりやすく解説する。

■離婚と「わが家」シリーズ リンク集■
第1回 財産分与の基本

第2回 家を売っても、住宅ローンの負債が……
第3回 住み続けるなら、どうやって分与する?

自宅の売却時、住宅ローンは一括返済しなければならない

 前回は「住宅ローンのない持ち家」「住宅ローンはあるが売却額が住宅ローン残高を上回る持ち家」を財産分与する状況を紹介した。
【前回の記事はこちら】>>離婚したら、わが家はどうなる? 不動産売却で住宅ローンを完済できても「いばらの道」

 ここからは「住宅ローンがあり、売却額が住宅ローン残高に満たない持ち家」の財産分与、いわゆる「オーバーローン」になってしまっているケースについて紹介しよう。

オーバーローンでも家を売却するには

 離婚をひかえた夫婦がオーバーローンになっている不動産を所有していた場合、選択肢は2つある。

①売却する
②どちらか一方が所有し続ける

 今回はこのうち、①の「売却する」を選ぶ場合について、詳しく解説していく。

 最も重要なのが、住宅ローン残高の返済だ。自宅の売却益を充てるだけでは住宅ローン残高の返済に不足する場合でも、この不足分も含めて、原則一括で返済しなくてはならない。なぜなら住宅ローンが残っているということは、不動産に銀行の抵当権がついている状態であり、住宅ローンを返済し抵当権を外さなければ、第三者へ売却することは現実的に難しいからだ。

法律事務所アルシエン・白井可菜子弁護士
白井可菜子(弁護士)
法律事務所アルシエン所属。離婚前の相談から協議、調停、訴訟まで丁寧・迅速に対応。親権、養育費、DV・モラハラ、不倫慰謝料など家庭内問題に明るく、特に一番の被害者となりやすい子供の幸せを守るという視点を大事にしている。著書に『弁護士が語る我が子の笑顔を守る離婚マニュアル ~円満離婚のススメ~』(啓文社書房)。

 「住宅ローン残高が5000万であれば、5000万を一括で返さなければなりません。金融機関は住宅ローン残高をきちんと回収できれば問題ないので、売却時に全額を返済するという条件に折り合いがつけば売却を了承してくれることがほとんどです」(法律事務所アルシエン・白井可菜子弁護士)

 持ち家の売却金を当てても住宅ローンが残る場合、補填できるだけの預貯金があれば話は早い。預貯金額を証明し、住宅ローン残高の補填に使うことを約束すれば、金融機関は売却を了承する。

 手元に蓄えがなければ、財産分与のために現金化を検討していた自動車や貴金属品などの財産を先に現金化し、住宅ローン残高を補填する方法もある。

 両親や親戚から資金を借りるのも手だ。

別のローンで不足分を補填する

 問題は、自宅を売却しても不足する住宅ローン残高を賄えるほどの資産を保有していない場合だ。

 その際、最初に検討されるのが別のローンを組むことだ。「キャッシング」「フリーローン」「カードローン」など、使い道を定めていない借り入れ制度を活用するのも一つの選択肢だろう。

 ただし、住宅ローンに比べて金利が高いことや、最大でも年収の1/3程度しか借りられないことに注意する必要がある。

 なお、こうしてローンを追加する債務者は、持ち家の住宅ローン名義人と同一であることがほとんどで、多くは夫だ。収入があるため、借り入れしやすいからだ。もしお互いに債務者となることを嫌っても、住宅ローンの返済義務は住宅ローン名義人だけに課せられている事実は変わらないため、離婚時に関係を精算するためにも、結局は住宅ローン名義人が債務の追加を受け入れざるを得ない。

 持ち家の売却のために新たに設けた負債分は、財産分与の対象になる。

 たとえば、夫婦間に現金化できない財産が300万円分あり、持ち家を売却するために夫が200万円を借り入れたとすれば、差し引き100万円分が二分すべき財産となり、夫は妻に50万円のみを支払えばいい。

 「注意したいのは、財産分与の対象となるのは原則としてプラスの財産のみであり、ローンなどマイナスの負債は含まれないことです。上記のように、マイナスの財産があったとしても、それを越えるプラスの財産があり、合計した結果、総財産がプラスになるのであれば、それを二分します。しかし合計した結果、総財産がマイナスになった場合は、マイナス分を半分貰い受ける義務はなく、もともとの債務者のみがそのまま返済義務を負うことになります」(白井氏)

 たとえば現金化できない財産が300万円分あり、持ち家を売却するために夫が400万円を借り入れる必要があった場合、額面上は100万円のマイナスとなるが、妻は50万円分の債務を引き受ける義務はない。夫は300万円分の財産を受け取りつつ、400万円分の負債を返さなければならない。

 「さらに細かい話をすると、住宅ローンの金利部分については財産分与の対象になりません。財産を算定する基準日(離婚したとき、または別居したときのどちらか早い方)にある住宅ローン残高のみが対象です。基準日時点で400万円の住宅ローン残高があった場合、最終的に完済までには金利分を合わせて500万円以上を支払うことになるとしても、財産分与の対象として考慮されるのは400万円分のみになります」(白井氏)

 財産分与の割合や各種取り決めは当事者同士で自由に決めることができるので、絶対にここで示した内容の通りにしなくてはならないわけではない。しかし、これが原則的な考えであり、これに沿った内容で合意するケースは多い。

【事例】オーバーローンの持ち家を売却する

 2つの事例を紹介しよう。

A夫婦の場合
 

・購入価格:5500万円

・頭金:200万円

・購入年:3年前

・住宅ローン残高:5000万円

・査定価格:5000万円

・夫名義預貯金:300万円

 自宅の売却を検討するには、まず不動産会社で無料の査定を取り、持ち家のおおよその価値を把握することからはじまる。
【関連記事はこちら】>>不動産一括査定サイト&仲介業者25社で比較! メリット・デメリット、掲載不動産会社、不動産の種類で評価しよう

 A夫婦の場合、支払うべき住宅ローン残高と査定価格が5000万円と同額となったことから、問題なく売却できるように思える。しかし、売却には不動産会社への仲介手数料(売却価格の3%程度)、印紙税、登録免許税などの諸費用も必要だ。5000万円の持ち家を売るとなると、250万円程度の諸費用が見込まれる。

 300万円の預貯金があったため、A夫婦はこれを諸費用に充当。残高50万円を二分し、夫は自己名義の預貯金から妻へ25万円を支払うことになる。

B夫婦の場合
 

・購入価格:7000万円

・頭金:100万円

・購入年:1年前

・住宅ローン残高:6800万円

・査定価格:6000万円

・預貯金:300万円

 この場合も、まずは査定を取るところからはじまる。

 購入から1年しか経過していないが、中古扱いとなれば建物の価値は大きく下がるため、購入時7000万円の持ち家でも、1年後の売却価格は6000万円まで落ちてしまうこともざらだ。

 一方で、住宅ローン残高は6800万円も残っている。売却時に300万円の諸費用がかかると見込むと、1100万円の不足分が出てしまう。預貯金300万円を差し引いても、800万円だ。

 ただ今回の場合、夫の収入が高く、800万円をフリーローンで借り入れることができた。夫は現金化できない200万円分の財産を受け取りつつも、結果600万円分の負債を負った状態での離婚が成立した。

 「マイホームを購入してすぐに離婚というケースはそれほどないのではないか、と思われるかもしれません。しかし、これが意外なほどに多いのです。人生に一度の大きな買い物の中で意見の不一致が目立ったり、子どもが生まれて家族のかたちに変化があったりで、意外と離婚に至ってしまうことが多いタイミングなのです」(白井氏)

 持ち家がオーバーローンである場合、

・預貯金が足りない
・現金化できる財産がない
・親族から現金を借りられない
・追加ローンを組めない

のなら事実上、売却は諦めざるを得ず、記事冒頭で示したもう一つの選択肢、②どちらか一方が所有し続けるしかなくなる。

 次回はこうした「夫婦のどちらかが自宅を所有または住み続ける場合」の財産分与について詳しく解説する。

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