不動産のネット取引は一部解禁されたものの、不動産売買については未だ認められていない日本。不動産市場は、相変わらず不透明で閉鎖的です。不動産のネット取引が可能になれば、不動産を購入する外国人投資家が増加するなどのメリットがあるはずですが、認められる日はまだ遠そうです。
※編集部追記:不動産売買についても、2021年3月からオンラインでの「重要事項説明(IT重説)」が、2022年5月から「電子書面交付」の本格運用が開始されています。
海外では、不動産の個人間取引サイトが登場
日本でもスマホアプリのメルカリが登場してネット上で売り手と買い手が直接取引するサービスが人気を集めるようになりました。インターネットを利用すれば、個人でも簡単に買い手を探せるようになったからです。
マンションや戸建てといった不動産も、これまでは買い主を探すのが大変だったので、不動産仲介会社と媒介契約を結んで代わりに探してもらってきたわけですが、ネットを活用すれば個人同士が直接取引する「ピアツーピア(P2P)取引」は可能ではないでしょうか。
ところが、家を買うのも借りるのも日本ではネットだけではできません。家が高額でかつトラブルが発生しやすいことを理由に、ネット取引には慎重です。
海外では不動産のネット取引は以前から活発に行われており、最近では個人が保有する物件を掲載して直接売買できるP2Pの不動産取引サイトも登場しています。シンガポールでは「Averspace」といったP2Pサイトがあり、個人が保有する物件を掲載して直接、買い主を探すことができます。
なぜ日本では不動産のネット取引が解禁されないのでしょうか。
安心してP2P取引ができる環境整備が必要
日本でも、従来から個人が保有する家を親戚や知人などに直接譲渡する場合には、仲介会社に依頼せずに直接取引することは行われてきました。こうした相対取引は、法的に何ら問題はありません。
相対取引なら買い主も売り主も、仲介会社に仲介手数料を支払う必要がなくなります。売り主が個人の場合には、建物部分にかかる消費税や仲介手数料の消費税も納付する必要がないので、個人間取引はお得と言えます。
もちろん仲介会社は、正しい物件情報を提供し、取引のトラブルを防止する役割を担っています。しかし、安心してP2P取引ができる環境を整備すれば、もっと不動産取引を効率化できるようになるでしょう。
日本は重説を「対面」で説明する義務あり
日本で不動産のネット取引が実現していないのは、宅地建物取引業法で定めた法規制に理由があります。対象物件に関する重要な情報を記載した「重要事項説明書(重説)」を宅地建物取引業者は必ず作成し、売買契約を結ぶ前に買い主に「対面」で説明することが法律で義務付けられているからです。
また、売買契約書も書面での交付が義務付けられており、電子契約したあとに改めて書面を郵送しなければなりません。その手間を考えれば、重要事項説明書で対面した時に合わせて、書面で契約する方が楽というのも確かです。
政府は2013年に対面での販売が義務付けられてきた医薬品と合わせて、不動産のネット取引解禁に向けて検討する方針を打ち出しました。医薬品の方は処方薬を除く一般医薬品のネット販売が14年に解禁されました。
一方で、不動産分野では賃貸契約の重要事項説明書をネットで行う「IT重要事項説明書」が17年10月にようやく本格導入されたばかり。売買契約でのIT重要事項説明書は、社会実験を行っていた法人間取引ですら見送られてしまい、個人取引では検討さえ行われていません。
政府は、行政手続きや経済活動のIT化を促進するため、契約書や印鑑などを電子化する「デジタルファースト一括法案(仮称)」の検討を進めており、早ければ18年秋の臨時国会の提出する予定です。不動産取引の契約書面の電子化も検討対象になるでしょうが、実現するかどうかは不透明です。
【関連記事はこちら】>> 「買い主」が不動産仲介手数料を払うのは日本だけ! その上、売り主のために作った重要事項説明書を、買い主にも使いまわす不届きな不動産会社が多い!
海外は、不動産のEDI標準を策定
では、海外で不動産のネット取引(電子商取引、いわゆるEDI)が活発に行われるようになったのはなぜでしょうか。
EDIを行うためには、情報をやり取りするために標準データコード体系や標準規約を定める必要があり、海外では米国を中心に1990年代に不動産取引のためのEDI標準が策定され、国際標準化が進められてきました。日本でも経済産業省が中心となって様々なEDI標準を定めていますが、不動産分野のEDI標準はいまだに策定されていません。
日本は、そもそも不動産情報が非開示
そもそも海外では、不動産に関する情報やデータがオープンになっているので、日本のように契約直前になって買い主だけに情報を公開する「重要事項説明書」のような制度がありません。シンガポールでは不動産取引価格のデータが一般に公開されているので、販売価格が高いか安いかを買い主が判断できる環境が整っています。
Averspaceには、物件に関する情報をまとめた「コンディションレポート」や、賃貸で運用した場合の収益性などのデータを一覧できる「ダッシュボード」などを掲載しています。ネット取引しやすいように様々な情報が物件ごとに公開されているのです。
シンガポールでは、外国からの不動産投資が活発で、外国人投資家がわざわざシンガポールまで出向かなくて済むネット取引のニーズが強いという事情もあります。積極的に外国からの不動産投資を呼び込むために、ネット取引しやすい環境を整えてきたのです。
なお、シンガポールのP2Pサイトを見ると、大手デベロッパーなどが開発した新築のコンドミニアム(分譲マンション)を売り主として直接取引するのに利用しています。売り主・買い主ともにプロで、公開情報に基づいてネット取引できるスキルのある人が利用しているようです。
「不動産取引はトラブルが発生しやすいので、ネット取引はご法度」というのが日本の考え方ですが、一方でプロ同士であれば、その心配は無用です。導入が見送られている「法人間取引におけるIT重要事項説明書」くらいは早く認めた方がいいのではないでしょうか。
【関連記事はこちら】>> 不動産の売却価格(成約価格)が見られないため、日本ではどんな不都合なことが起こっているのか?
外国人投資家も対面で説明を受ける義務
日本でも数年前から外国人の個人投資家が東京湾岸地域に建設された超高層タワーマンションを購入するケースが増えています。日本では新築物件でも売り主が不動産会社なので対面での重要事項説明書が義務付けらており、外国人投資家は日本に来て売買契約しなければなりません。
不動産のネット取引が可能になれば、日本でも不動産を購入する外国人投資家がさらに増えると思うのですが…。
日本で不動産のネット取引がいまだに解禁されていないのは、不動産市場が相変わらず不透明で閉鎖的である証拠なのでしょう。
(編集協力=ジャーナリスト・千葉利宏)
【関連記事はこちら!】>>「IT重説」の解禁で不動産売買の重要事項説明が非対面で可能に! 不動産取引のオンライン化の展望は?
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