「離婚後も、これまで住んだ家に住み続けたい」。そうした希望は、転校などで子育て環境を変えたくない理由から多い。しかし、賃貸ではなく「持ち家」の場合、財産分与や、住宅ローンをどうするかという問題が絡んでくる。特に、住宅ローンの名義人ではない妻が住み続ける場合は、どうすればいいのか? 3回シリーズの第3回は「住み続ける場合」の財産分与に関して、離婚問題に詳しい弁護士の白井可菜子氏に話を訊いた。
第1回 財産分与の基本
第2回 家を売っても、住宅ローンの負債が……
第3回 住み続けるなら、どうやって分与する?
持ち家を所有するには
不動産評価額の確定と代償金の用意が必要

法律事務所アルシエン所属。離婚前の相談から協議、調停、訴訟まで丁寧・迅速に対応。親権、養育費、DV・モラハラ、不倫慰謝料など家庭内問題に明るく、特に一番の被害者となりやすい子供の幸せを守るという視点を大事にしている。著書に『弁護士が語る我が子の笑顔を守る離婚マニュアル ~円満離婚のススメ~』(啓文社書房)。
前回は、オーバーローンの持ち家を売却する事例を紹介した。今回は、「どちらか一方が持ち家を所有し続けるケース」を検証する。
【前回の記事はこちら】>>離婚の際、住宅ローンが家を売っても完済できない「オーバーローン」状態! それでも売却するには?
「多くの離婚例を見てきた経験からいうと、離婚後も夫婦のどちらかがそのまま持ち家に住み続けたいと希望する例は非常に多いです。特にお子様がいる場合は、学校を転校させたくない、環境をできるだけ変えないであげたいといった理由から、親権を得るほうの親が住み続けることを希望するケースはたくさんあります」(法律事務所アルシエン・白井可菜子弁護士)
この際、重要なのは持ち家の住宅ローンが残っているか、いないかだ。まずは、持ち家に「住宅ローンが残っていない」場合から解説していこう。
◆住宅ローンが「残っていない」とき
├(1)不動産の所有権を「保有している者」が居住を希望する場合
└(2)不動産の所有権を「保有していない者」が居住を希望する場合
◆住宅ローンが「残っている」とき
├(3)住宅ローンの名義人である夫が持ち家を取得して住み続ける場合
├(4)住宅ローンの名義人は夫で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
├(5)住宅ローン名義人は双方(ペアローン)で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
└(6)オーバーローンの住宅ローンの名義人は夫で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
一方が住み続けたい家に
住宅ローンが「残っていない」とき
夫婦の一方が住み続けたい家に「住宅ローンが残っていない」ときは、以下の2つケースがあり得る。
(1)不動産の所有権を「保有している者」が居住を希望する場合
(2)不動産の所有権を「保有していない者」が居住を希望する場合
├[A] 居住希望者が所有者に賃料を支払い続ける
└[B] 居住希望者に所有権を移転する
(1)の「不動産の所有権を『保有している者』が居住を希望する」場合は、相手側から財産分与を求められた際は代償金さえ払えば、相手の同意などはなくてもそのまま自身の財産として保有し、かつ住み続けることができる。
一方、(2)の「不動産の所有権を『保有していない者』が居住を希望する」場合は、まず所有名義人側の同意をとることが必要となる。
なお、(2)-[A] の「居住希望者が所有者に賃料を支払い続ける」ケースは実際はまれだ。離婚するに至った2人がその後も金銭のやりとりを行うのは困難であること、いつ賃借関係の解消を求められるかわからないことが理由に挙げられる。
そうしたことから、不動産の所有権を保有していない者が居住を希望する場合、(2)-[B] の「居住希望者に所有権を移転する」ケースがほとんどだ。
所有権の移転とは、一方が持つ不動産の所有権を、他方に譲渡し取得させることをいう。所有権の移転自体が財産分与なので、相手側から財産分与を求められた際のみの(1)と異なり、(2)-[B] では財産分与を避けて通ることができない。
財産分与ではまず、不動産の評価額の確定を行う。不動産仲介会社で算出された査定額を元に、不動産をいくらと評価するかを決めていく。
【詳しく知りたい方はこちら】>>離婚したら、わが家はどうなる? 不動産売却で住宅ローンを完済できても「いばらの道」
「実際の売却はせずに、査定のみで評価額を決めていくことになります。不動産価値が高ければ代償金も高くなり、逆に、不動産価値が低ければ代償金も低くなるという関係上、対立構造が生まれやすいので、不動産評価額が決まらずに調停まで持ち込まれるケースも多々あります」(白井氏)
そのため、双方で査定依頼をする企業を2社ずつ選び、4社の中間値を不動産評価額として合意することも多い。
【関連記事はこちら】>>不動産一括査定サイト&仲介業者25社で比較! メリット・デメリット、掲載不動産会社、不動産の種類で評価しよう
不動産評価額が確定した後は、代償金を相手に支払う。
たとえば、持ち家の価値が1000万円であれば、居住希望者は持ち家の所有権を取得する一方、価値の半分である500万円をもう一方へ代償金として支払う。
代償金は、以下のような資産の中から用意することになる。
・特有財産(婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産)
・親族からの借金
・金融機関からの借り入れ
「一般に不動産価値は高額で、代償金の用意が難しいという声も少なくありません。相手の合意を得られれば、分割払いにしてもらう方法もあります」(白井氏)
一方が住み続けたい家に
住宅ローンが「残っている」とき
次に、持ち家の「住宅ローンが残っている」場合についてみていこう。
住宅ローン付き不動産には、ほぼ必ず抵当権が付いている。抵当権とは、住宅ローンの弁済が受けられない場合に、当該不動産から優先して弁済を受けられる担保権のこと。住宅ローンが残っている分、当該不動産の価値を抵当権者に掌握されているような状態にある。
誤解を恐れずに言えば、抵当権付住宅ローンがあるとすると、自身の単独所有名義でも不動産の価値のうち該当分は抵当権者の管理下にあり、自身では自由にできない状態にある。そのため抵当権付住宅ローンがある場合には、市場価格から住宅ローン残額分を控除した額が当該不動産の価値とされる。
不動産価値:5000万円
住宅ローン残高:3000万円
たとえば上記の場合は財産分与上、自宅不動産の価値は不動産価値の5000万円から住宅ローン残高の3000万円を引いた「2000万円」と扱われ、これを夫と妻で2分の1に分ける、という処理になる。
ここからは、夫婦の一方が住み続けたい家に「住宅ローンが残っている」ときの4つのケースごとに、財産分与の方法を解説する。(なお、いずれの場合も不動産価格を査定し、そこからローン残高を控除し、財産分与上の不動産価値を合意するという作業は必要)
├(3)住宅ローンの名義人である夫が持ち家を取得して住み続ける場合
├(4)住宅ローンの名義人は夫で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
├(5)住宅ローン名義人は双方(ペアローン)で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
└(6)オーバーローンの住宅ローンの名義人は夫で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
(3)住宅ローンの名義人である夫が持ち家を取得して住み続ける場合
不動産価値=5000万円、住宅ローン残高=3000万円とすると、夫は当該不動産取得の代償金として、不動産価値の半額である1000万円を妻に対し支払う必要がある。代償金は一括払いが基本だが、協議により分割払いが認められる場合もある。
そして、残った住宅ローンは、そのまま夫が支払う。
(4)住宅ローンの名義人は夫で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
妻が住み続ける場合、まずは、不動産の所有権も妻が取得することが検討される。
不動産価値=5000万円、住宅ローン残高=3000万円とすると、妻は当該不動産取得の代償金として、不動産価値の半額である1000万円を夫に対し支払う必要がある。加えて住宅ローンについて、一括返済するか、債務を引き継ぐかしなければならない。
しかし、住宅ローンは名義人その人を信頼して貸し付けているため、そのまま妻が引き継げる可能性は著しく低い。
住宅ローンの一括返済も、債務の引き継ぎもできない場合は、自宅も住宅ローンも夫名義のまま、妻が住み、妻は毎月の住宅ローン支払相当額を夫へ支払っていき、ローン完済時に自宅の名義を妻に移すなど、夫の協力を得なければならない。それができないと、妻が持ち家を取得するのは困難になる。
「子どもがおり、妻が親権者である場合、夫は毎月の養育費を減免することを条件に、住宅ローンはそのまま支払い続けることもあります。また、夫が不動産を取得している状態のまま『子どもが小学校を卒業するまで』と期限を区切って妻と賃貸借契約を締結し、妻が毎月夫へ家賃を支払うことで住み続けられるようにする方法もあります」(白井氏)
(5)住宅ローン名義人は双方で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
双方が住宅ローン名義人であり、お互いの債務の連帯保証人となる「ペアローン」の場合、まずは金融機関へ相談に出向き、離婚に伴い債務者が一人になる旨を伝えて了承を得なくてはならない。反対されたり、一括返済や別の住宅ローンへの条件変更、別途連帯保証人を立てることなどが要求されることもある。
もし金融機関の了承が得られれば、後の処理は上の「住宅ローンの名義人は夫で、妻が持ち家に住み続けるケース」と同様だ。
不動産価値=5000万円、住宅ローン残高=3000万円とすると、住宅ローン残高を控除した不動産価値の半額にあたる1000万円を、妻が夫に支払う。そして妻は持ち家を取得し、夫の分も合わせた住宅ローン残高を一括返済するか、決められた期間返済していく。
金融機関の了承が得られなかった場合は、夫の協力を得てペアローンを継続させるしかない。
【関連記事はこちら】>>夫婦で一緒に借りた住宅ローンは、離婚すると「思わぬトラブル」の原因になる! 連帯保証、ペアローンのデメリットを解説
(6)オーバーローンの住宅ローンの名義人は夫で、妻が持ち家を取得して住み続ける場合
ここまでは持ち家の売却で住宅ローン残高を「完済できる」ケースを見てきたが、最後は以下のような、不動産価値がマイナスの「オーバーローン」のケースだ。
不動産価値:3000万円
住宅ローン残高:3500万円
財産分与はプラスの財産を分ける制度であるため、分与対象となる財産はないと判断される。
もっとも住宅ローンは残っているし、不動産の処遇も決めなくてはならない。この場合、実際は住宅ローン名義人である夫がそのまま所有することがほとんどだ。
そのため、オーバーローンにある持ち家を住宅ローン名義人ではない妻が取得し、住み続けるためには、何らかの方法で住宅ローンを一括返済しない限り難しい。
それができない場合には、所有権取得は諦め、夫に自宅不動産について賃貸借契約と結んでもらい、家賃を払って自宅に住み続けることになる。
「2分の1が基本的ルールの財産分与ですが、話し合いで異なる分け方を決めるのは可能です。子どもの暮らしを守るために、妻側に有利な分与で合意することも多いです」(白井氏)
【関連記事はこちら】>>離婚の際、住宅ローンが家を売っても完済できない「オーバーローン」状態! それでも売却するには?
どのケースにおいても関係者との柔軟な話し合いは不可欠で、合意点を見つけていく努力が大切だ。
第1回 財産分与の基本
第2回 家を売っても、住宅ローンの負債が……
第3回 住み続けるなら、どうやって分与する?
【注目の記事はこちら】 【査定】相場を知るのに便利な、一括査定サイト&業者"25社"を比較 【業者選び】売却のプロが教える、「不動産会社の選び方・7カ条」 【査定】不動産一括査定サイトのメリット・デメリットを紹介 【業界動向】大手不動産会社は両手取引が蔓延!? 「両手比率」を試算! 【ノウハウ】知っておきたい「物件情報を拡散させる方法」 |
<不動産売却の基礎知識>
相場を知るために、まずは「一括査定」を活用!
不動産の売却に先駆けて、まずは相場を知っておきたいという人は多いが、それには多数の不動産仲介会社に査定をしてもらうのがいい。
そのために便利なのが「不動産一括査定サイト」だ。一括査定サイトで売却する予定の不動産情報と個人情報を一度入力すれば、複数社から査定してもらうことができる。査定額を比較できるので、不動産の相場観が分かるだけでなく、きちんと売却してくれるパートナーである不動産会社を見つけられる可能性が高まるだろう。

ただし、査定価格が高いからという理由だけでその不動産仲介会社を信用しないほうがいい。契約を取りたいがために、無理な高値を提示する不動産仲介会社が増加している。
「大手に頼んでおけば安心」という人も多いが、不動産業界は大手企業であっても、売り手を無視した手数料稼ぎ(これを囲い込みという)に走りがちな企業がある。
なので、一括査定で複数の不動産仲介会社と接触したら、査定価格ばかりを見るのではなく、「売り手の話を聞いてくれて誠実な対応をしているか」、「価格の根拠をきちんと話せるか」、「売却に向けたシナリオを話せるか」といったポイントをチェックするのがいいだろう。
以下が主な「不動産一括査定サイト」なので上手に活用しよう。
【注目の記事はこちら】 【業者選び】売却のプロが教える、「不動産会社の選び方・7カ条」 【査定】相場を知るのに便利な、一括査定サイト&業者"主要25社"を比較 【査定】不動産一括査定サイトのメリット・デメリットを紹介 【業界動向】大手不動産会社は両手取引が蔓延!? 「両手比率」を試算! 【ノウハウ】知っておきたい「物件情報を拡散させる方法」 |
■相場を知るのに、おすすめの「不動産一括査定サイト」はこちら! |
◆SUUMO(スーモ)売却査定(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地 | |
掲載する不動産会社数 | 約2000店舗 | ![]() |
サービス開始 | 2009年 | |
運営会社 | 株式会社リクルート住まいカンパニー(東証一部子会社) | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】 不動産サイトとして圧倒的な知名度を誇るSUUMO(スーモ)による、無料の一括査定サービス。主要大手不動産会社から、地元に強い不動産会社まで参加しており、査定額を比較できる。 | ||
◆HOME4U(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、ビル、アパート、店舗・事務所 | |
掲載する不動産会社数 | 1500社 | ![]() |
サービス開始 | 2001年 | |
運営会社 | NTTデータ・スマートソーシング(東証一部子会社) | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】 強みは、日本初の一括査定サービスであり、運営会社はNTTデータグループで安心感がある点。提携会社数は競合サイトと比較するとトップではないが、厳選されている。 | ||
◆イエウール(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、投資用物件、ビル、店舗、工場、倉庫、農地 | |
掲載する不動産会社数 | 1600社以上 | ![]() |
サービス開始 | 2014年 | |
運営会社 | Speee | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】 強みは、掲載する会社数が多く、掲載企業の一覧も掲載しており、各社のアピールポイントなども見られる点。弱点は、サービスを開始してまだ日が浅い点。 | ||
◆LIFULL HOME'S(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、倉庫・工場、投資用物件 | |
掲載する不動産会社数 | 2399社 | ![]() |
サービス開始 | 2008年 | |
運営会社 | LIFULL(東証一部) | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】強みは、匿名査定も可能で安心であるほか、日本最大級の不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」が運営している点。弱点は大手の不動産仲介会社が多くはないこと。 | ||
◆イエイ(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、投資用物件、ビル、店舗、工場、倉庫、農地 | |
掲載する不動産会社数 | 1700社 | ![]() |
サービス開始 | 2007年 | |
運営会社 | セカイエ | |
紹介会社数 | 最大6社 | |
【ポイント】 強みは、サービス開始から10年以上という実績があるほか、対象となる不動産の種類も多い。「お断り代行」という他社にないサービスもある。弱点は、経営母体の規模が小さいこと。 | ||
◆マンションナビ(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション | |
掲載する不動産会社数 | 900社超、2500店舗 | ![]() |
サービス開始 | 2011年 | |
運営会社 | マンションリサーチ | |
紹介会社数 | 最大9社(売却・買取6社、賃貸3社) | |
【ポイント】 強みは、マンションに特化しており、マンション売却査定は6社まで、賃貸に出す場合の査定は3社まで対応している点。弱点は、比較的サービス開始から日が浅く、取り扱い物件がマンションしかない点。 | ||
◆おうちダイレクト「プロフェッショナル売却」(不動産一括査定サイト) | ||
対応物件の種類 | マンション、戸建て、土地、一棟マンション、一棟アパート、店舗、事務所 | |
掲載する不動産会社数 | 9社 | ![]() |
サービス開始 | 2015年 | |
運営会社 | ヤフー株式会社、SREホールディングス株式会社(ともに東証一部子会社) | |
紹介会社数 | 最大9社 | |
【ポイント】ヤフーとソニーグループが共同運営する一括査定サイト。不動産会社に売却を依頼後も、ヤフーとおうちダイレクトのネットワークを使い、購入希望者への周知をサポートしてくれる。 | ||