「不動産共通ID」という、不動産に関わる新しい仕組みが議論されている。日本の不動産の制度・仕組みは非常に複雑で使いづらいと言われているが、不動産共通IDが導入されれば、不動産ビジネスに関わる人々の利便性が向上。さらに一般人にとっても、中古住宅の価格が高く評価されやすくなる可能性がある。不動産共通IDの試みとその効果を、一般社団法人不動産テック協会の滝沢潔代表理事に聞いた。
不動産情報の連携ができていない日本
人々の生活に欠かすことができない不動産だが、日本全国にある膨大な建物や土地に関する情報を収集するのは、とても手間がかかる。
例えば、家を売買する、建築する際、不動産会社や住宅メーカーや施主が資料を取り寄せる先は以下のようになっている。
・国交省
・法務局
・市区町村の都市計画課、土木課、道路管理課、建築審査課、開発指導課、防災課、環境保全課、資産税課
・電力会社
・水道局
・自治会など施設管理先
必要な情報が散在しているだけでなく、窓口はバラバラで、資料を請求する際の書式なども統一されていない。市区町村の各課も連携は取れていない。
国交省の管轄で行われた研究会によると、不動産取引における情報収集だけで合計3日半は必要になるという(国土交通省「不動産流通市場における情報整備のあり方研究会)。
このようなコストは最終的には不動産を建築したり、売買したりする国民全般に跳ね返ってくることになる。
他にも、不動産に関してはさまざまな不便が生じている。
身近なことでは、不動産売買において、掲載情報の管理をいまだにアナログな人海戦術に頼っているため、「インターネットで見つけた売家に問い合わせたが、すでにもう買い手がいた」といったことが頻繁に発生している。
また、「中古物件を買ったけど、履歴情報がなく、購入後に調べてみたらあちこちが傷んでいて、想像以上にお金がかかった」などの不満もよく聞く。
ここ数年で、特定給付金やコロナウイルスワクチン接種などの遅れが注目され、縦割り行政によるデータ連携の不足が露呈した。政府は慌てて、マイナンバー制度の普及に本腰を入れだしたが、不動産においてもシステムの非効率を無視できなくなり、不動産共通IDのようなデータ整備が必須になってきているのだ。
数字とアルファベットで不動産を識別
一般社団法人不動産テック協会は、日本全国の不動産の情報革命に向けて、「不動産共通ID」の普及を進めている。不動産共通IDとは、建物と土地を、18ケタの数字とアルファベットで識別できるようにするものだ。
住宅メーカー、デベロッパー、不動産仲介会社、管理会社、家賃保証会社などは、それぞれが不動産に関する情報を持っているが、他社とは連携できていない。この「不動産共通ID」でお互いの情報をひもづけ可能にすることで、利便性を高めることができる。
日本語で表記される住所には多数の問題
しかし、「日本の不動産に振るIDがなぜ数字とアルファベットなのか?」とか「すでに、日本語の住所があるじゃないか?」などの疑問が湧いてくる。
不動産テック協会代表理事の滝沢潔さんによると「実は日本語で表記される住所には問題がたくさんあるんです」と指摘する。
例えば、日本人によくある名前の「斎藤」だが、「斉藤」と表記することもあれば、「齋藤」と書くこともある。人間が見れば、書き方が違っただけで、どれも同じ「さいとうさん」だから、住所や下の名前などで同一人物だと判断できるだろう。しかし、コンピューター上では、全くの別人となってしまい、検索にも引っかからない。
このように日本語表記の揺れは、情報をデジタルで処理する上で致命的な違いになる。「5丁目」と「五丁目」が、別の住所となってしまうこともあるのだ。
住所の仕組みが複雑で非効率
日本の住所を混乱させる要因は、日本語だけではない。日本の住所体系には、建物に対する「住居表示」と、土地・建物に対する「地番(ちばん)」の2つがある状態なのだ。
住居表示、地番は具体的にどう表記しているのか、ここでは西宮市の事例を見てみよう。西宮市役所の住所は以下のようになっている。
- ・住居表示「兵庫県西宮市六湛寺町10-3」
- ・地番 「兵庫県西宮市六湛寺町100」
地方では住所に含まれる数字が4ケタ表示だったりするが、これは地番になる。
住居表示は「建物」のみに対応
住所には従来、「地番」が使われていた。
しかし、戦後になって急速に都市化が進み、郵便物などの処理が困難になったことで1962年に、「住居表示」が導入されるようになった。ただし、京都市など住居表示が実施されていない地域もある。
郵便や宅配物は、「住居表示」によって運営されているし、一般向けの地図にも「住居表示」が使われているため、日常的には「地番」の存在を意識することも少ない。裏を返せば、そのくらい意識せずに、社会が回っているとも言える。
しかし、住居表示はあくまで「建物」に対して割り振られたもので、住所の仕組みとしては、中途半端だ。
また、各市区町村が住居表示を管理しており、システムとしてはつながっていない。その上、頻繁に住居表示は変更されるため、住所の仕組みとしては使い勝手が非常に悪いのだ。
「地番」は問題だらけのシステム
一方で、日本には従来、土地・建物に対する「地番」という仕組みがあり、法務局によって土地・建物に対して識別番号が割り振られている。
しかし、不動産を売買する際などは、かならず登記簿に所有権の移転を記載する必要がある。これは「地番」で表記しているのだが、以下のような問題がある。
- ・日常的に使っている「住居表示」を「地番」に変換するシステムは存在しておらず、いまだに目視などで対応するしかない。
- ・建物は必ず「地番」にそって建てられているわけではなく、複数の地番の上にまたがって作られている建物があることも珍しくない。建物が登記されている地番を代表地番と呼ぶが、所有者などが知らない限りは関連する地番の全ての登記簿謄本を確認するか、法務局に電話などで依頼して調べてもらうしかない。
- ・隣り合った住所が連番になっていなかったり、土地が細かく分けられたりするなどして、非常に複雑
こうした問題があり、現状は使い勝手が良い仕組みとは言えない。
なお、土地地番図(字限図、公図)をネット上で無料で公開している自治体はほとんどない。数少ない事例としては、西宮市が公図をネットで無料公開している。※参考:西宮市地理情報システム「にしのみやWebGIS」
不動産共通IDのメリットは多数あり
では、不動産共通IDが整備されれば、一般の人にはどんな影響があるのだろうか。以下のようなメリットがあると考えられる。
①中古住宅の価格が上昇する可能性がある
住宅のリフォーム履歴などを工務店が記録し、取引に利用できるようになれば、きちんとメンテナンスされた住宅が高く評価されるようになり、価格が上昇することも。
②不動産仲介手数料が安くなる
不動産取引に必要な情報の入手が簡単になり、コストが低減する。
③不動産投資がしやすくなる
賃貸管理システムと連動すれば、賃貸住宅における過去の入居率が一目瞭然で分かるようになる。「かぼちゃの馬車事件」に代表されるような、実態の価値よりも何倍も高い投資用不動産をつかまされる人が減少する。
④不動産情報サイトの情報が正確になる
現在、掲載情報の管理は人に頼っていることが多く、情報更新が遅いため既に取引が完了している古い情報を掲載したり、いわゆる「おとり物件」を掲載していることがあるが、全ての物件の取引状況がリアルタイムでわかるので、こうしたトラブルがなくなる。
⑤所有者不明土地の所有者探索が容易になる
様々な不動産に関する情報がひもづけられるようになることで、所有者の探索の手がかりが増える。
このような事例は、共通IDが作られて、さまざまな企業が利用するようになって初めて訪れる未来の話である。かなり先のことになるかもしれないが、いずれにせよ、IDがなければ、何も始まらないことは間違いない。
米国では過去の売買履歴も見られる
不動産取引が日本よりも活発とされるアメリカの事情は、どうなのだろうか。
アメリカ・シリコンバレーの不動産ポータル会社「Movoto」でCFOを務めていた市川紘氏によると、アメリカでは売りに出された中古住宅は全てMLS(Multiple Listing System)と呼ばれるデータベースに登録され、不動産事業者に限らず誰もが閲覧可能になる。
全ての物件情報が公開されるので、アメリカでは不動産情報サイトや不動産仲介事業者は物件そのものの情報では差別化することができない。そのため、「家の売買履歴」や「固定資産税評価額の履歴」「交通アクセス」「学区のスコア」など、散在している情報を集約して、エンドユーザーに提供する。「AIによる価格査定」も、こういった情報に付加価値をつけるための競争が原動力になった。
また、アメリカでは物件を吟味するための情報が豊富にあることが、中古住宅売買が頻繁になる理由の一つと言えそうだ。
市川氏は「実はアメリカには横断的な不動産共通IDはありません。アメリカでは住所表記の揺れがあまりないため、不動産共通IDがなくてもさまざまなデータを統合しやすかったからでしょう。日本で不動産共通IDが整備できれば、アメリカのような便利な環境が生まれるばかりでなく、アメリカでも実現できていないサービスが生まれるかもしれません」と期待する。
日米で物件情報公開の仕組みや言語の違いなどがあるため、不動産共通IDがあることで全ての不便が解消されるわけではない。しかし、不動産共通IDが利便性を高める最初の一歩になるのは間違いないようだ。
国も本腰を入れ始めた住所の仕組み改革
不動産に共通のIDを割り振る仕組みは、先程紹介した不動産テック協会だけでなく、国土交通省も2022年3月に「不動産IDルールガイドライン」を作成し、ルール整備を行っている。こちらは、17桁の数字で構成されるものだ。従来からある不動産登記簿の不動産番号(13桁)+特定コード(4桁)で不動産を特定しようというものだ。
複数のIDが乱立する心配もあるが、不動産テック協会では相互に連動して、より便利なやり方を進めていく方針だという。
実は、不動産に共通のIDを作る計画は過去に何度か持ち上がったことがあるが、とても困難なため、その都度、挫折してきた。
しかし、住所の仕組みを効率化することは、不動産という社会の共通の富を、より生かしていくための施策に違いない。国や業界の努力だけでなく、国民的な関心も必要になる。
ダイヤモンド不動産研究所でも、動向を注視していきたい。
【関連記事はこちら】>>不動産の売却価格(成約価格)が見られないため、日本ではどんな不都合なことが起こっているのか?
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