古くなった家屋の解体を検討していたり、住宅を建て替えたりするならば、解体工事が必要になる。しかし、解体工事の相場観や段取りなどについて情報が少なく、何から手を付ければいいか分からない人も多い。専門用語が並ぶ見積書を前に、何をどう見ればいいのか戸惑う。解体工事の仲介サービスを提供するクラッソーネに、工事見積書の見方や注意点を聞いた。
目次
大雑っ把な見積もりに注意!解体工事見積書の4つの基本構成を知ろう
解体工事の見積書を受け取ったら、どこを見ればいいのだろうか。クラッソーネによると、見積書は主に4つの項目で構成されているという。見積書の主な構成要素は、次のとおりだ。
【1】建物本体の撤去費用
【2】建築材料のリサイクル費用(廃棄物処分費)
【3】安全対策費用(付帯工事費)
【4】諸経費
【1】建物本体の撤去費用
建物本体の撤去費用には、建物を解体する作業の費用が含まれる。重機のリース代や人件費などがこれにあたる。後述するが人件費は地域性だけでなく、解体の内容や難易度などによって大きく変動する。
【2】建築材料のリサイクル費用(廃棄物処分費)
建築材料のリサイクル費用は、解体によって生まれる木材や金属、コンクリートなどを適切に分別し処理する費用のことだ。環境への配慮から必要となるもので、後述するが、適切な費用をかけなければ後に大きなトラブルになることもあるので要注意。
【3】安全対策費用(付帯工事費)
安全対策費用は作業員の安全確保だけでなく、解体される建物の近隣への安全対策も含まれる。防音シートや粉じん対策、交通誘導員の配置などがこれにあたる。
【4】諸経費
諸経費は、【1】~【3】の作業を行うための間接費用で、現場管理費や一般管理費などが含まれる。これらの項目を確認することで、何にどれくらいの費用がかかっているかがよく分かり、まずは見積書の全体像をつかむことができるだろう。
注意してほしいのは「解体工事一式」といった大雑っ把な見積もりだ。
項目ごとの金額がわかるように再提出を求めよう
【1】〜【4】で紹介した項目などなしで、一式で見積もりを出されると、適切な作業をやってもらえるかどうかが判断できない。場合によっては、工事が始まってから「廃棄物の処分は別料金」などと主張され、追加で料金を請求されることもあるかもしれない。
こうした大雑っ把な見積もりをもらったなら、細かい項目ごとの金額がわかるように再提出を求めよう。もしも、嫌がるようなら、そんな解体事業者はお引き取り願うのが得策だ。その他に、注意して見るべき項目はあるだろうか。
アスベスト調査・処理費用に注意
解体工事仲介サービスのクラッソーネ・川口哲平社長が特に注意して見てほしいと語るのがアスベスト調査・処理費用だ。アスベストとは石綿とも呼ばれ、断熱・耐火性に優れた建材として1950年代〜1990年代にかけて広く使用されたもの。
しかし、吸い込むと肺がんや中皮腫などのリスクが高まることがわかり、2006年に使用禁止になっている。こうしたアスベストを使用した既存建築物の解体・改修時には適切な対応が求められており、2023年からは一定の延べ床面積以上の解体前にはアスベスト含有の事前調査が義務づけられている。
「専門知識を持つ資格者によるアスベスト調査と報告が義務付けられており、見積書にこの作業項目があるかどうかを見落とすと後に大きな問題になる可能性があります。アスベストは目視だけでは判断が難しいときもあり、試料を採取し、サンプルを専門機関に送った上で判断します。アスベストの有無で処理費用は変わってくるため、適切な見積もりを出すには必須のものと考えましょう」(川口社長)
見積書には会社経費や諸経費、自治体への届け出費用などの項目もある。もしも、分からなければ営業担当者に遠慮なく聞いてみよう。後述するが、その際の態度や、やり取りの丁寧さでも優良な事業者かどうかを見抜くことが可能になる。
【関連記事】>>【2024年版】家の解体費用の相場、補助金は? 空き家の解体や売却時に使える節税特例などを解説!
見積書で注意すべきポイントとトラブル防止策
見積書を元に工事を発注したものの、作業開始後に想定外の事態になることもある。よくあるのは工事を発注した側と解体事業者側とのすれ違いだ。
更地といっても、業者により大きな差
「まず、仕上がりの状態がどうなるのかを、しっかり確認することが重要です」とクラッソーネの川口社長は語る。
「例えば、『更地にする』という作業内容の合意があっても、人によって想像する状態が異なることがあります。廃棄物はどの程度取り除くのか、整地はどの水準で行うのか、新たな土を入れるのか否かなど、具体的にどの程度の状態にするのか、事前に確認しておくことが大切です。整地の程度や、残った植栽の処理、境界線の明示など、細かい点まで確認しておくとよいでしょう」(川口社長)
場合によっては画像などを探してきて、「この状態になりますね」と確認するのもよいだろう。
追加費用の可能性について確認
また、追加費用が発生する可能性についても確認が必要だという。例えば、地中に予想外の構造物が見つかった場合など、追加の作業が必要になることがある。こういった可能性について、あらかじめ話し合っておくことで、後々のトラブルを防ぐことができる。
地中埋設物などは規模や深さなどによって撤去費用は大きく異なる。また事前の調査にも限界があるため、優良な解体事業者であっても工事が始まってから想定外のことが判明することもある。解体事業者には「もしも…」に備えた概算費用を聞いておくなどして、影響を最小限にとどめる努力をしておこう。
見積書を比較検討するときに意識しておく4項目
これまで紹介してきたことを意識しながら、複数社から見積もりを取得したらどうすべきだろうか。異なる会社の見積もりを比較検討するためにも知っておくべきことがたくさんある。特に大切なのは以下の4点だ。
・費用の内訳が明確に記載されているか
・他社と比べて金額設定が高くないか
・現場確認後に見積書を作成しているか
・許可業者であり、自治体へ届出を行っているか
これらの点をしっかりと確認することで、不必要なトラブルを避けることができるだろう。見積書の金額は安ければいいというものではない。仮に金額が高くとも、その料金に明確な理由があり、発注する側も納得できるものならば問題ない。
例えば解体現場周辺の交通量が多い場合は、解体事業者側の判断で交通誘導員を追加することもある。当然、その分だけ人件費が高くなるが、なにより安全を優先するために必要なお金の場合は、惜しむべきではないだろう。
なぜ?同じ作業項目でこんなに金額が変わるのか
複数の見積書を検討していくうえで、同じ項目なのに金額に大きな差が出ることもある。解体工事の価格はさまざまな要因で変動するのだ。主な要因としては、地域差、季節変動、作業条件が挙げられるという。
地域差による違い
川口社長は地域差による違いについて次のように語る。「地域によって人件費や廃棄物処理費用が異なります。例えば、都市部では地価が高い等の理由から廃棄物処分のコストが高い傾向のあり、また廃棄物処理場までの運搬距離も長くなる傾向があることから、解体費用も高くなりがちです」
季節変動による違い
季節変動については、例えば豪雪地帯では冬季の解体工事は除雪作業も含めて行うことが多くなり、どうしても費用が高くなる。また、年度末の3月や、空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)の期日となる年末までに建物を解体したいという需要もあるため、年末近くになると価格が上がる傾向にあるという。
作業条件による違い
作業条件も大きな要因だ。狭い場所での作業は大型機械が使えないので人手がかかり、結果的に費用が上がる。
「大型重機ならば1日で終わる作業であっても、重機の進入経路がない場合は小型のものでしか作業できず余計に時間がかかるということもあります。当然、それだけ人件費もかかってしまいます。こうした細かい点も意識しながら、見積書を検討したほうがよいでしょう」(川口社長)
また、周辺環境への配慮が必要な場合、防音対策や粉じん対策などもコスト増になってくる。こういう費用は安全や衛生に関わる話なので、無駄だと思って値切るのはおすすめできない。
特に自宅の建て替えなどであれば、解体から新築以後の周辺住民との関係性もある。解体費用は値切ればいいというものではないことは、ユーザー側がよく知っておくべきだろう。
構造や材料による違い
建物の構造や使用されている材料によっても解体の価格は変わる。例えば、木造と鉄筋コンクリート造では解体方法も費用も大きく異なる。また、前述してきたようにアスベストが使用されている場合は、特殊な処理が必要になるため、費用が高くなることも知っておこう。
解体費用を抑えるための工夫
必要不可欠な費用があることも、無理な価格交渉は余計なトラブルを呼び込む可能性があることも分かった。しかし、それでも安い分には助かるものだ。安全や品質を下げないままで、解体工事費用を抑えるための工夫はあるのだろうか。クラッソーネは以下のようなアドバイスをしている。
「まず、複数の業者から見積もりを取ることが重要です。当社の見積もりサービスを使った場合、加盟していただいている全国2,000社以上の解体業者ネットワークにより、複数の業者から見積もりを取り、最適な業者を選ぶことができるため、平均して2割程度のコスト削減が可能です」(川口社長)
解体工事業者も時期によって仕事量が大きく変わる。工事依頼が立て込んでいるときは、協力業者を手配するなどして対応するため、その分のコストが増してしまう。逆に仕事量が少ない時期ならば、同様の工事内容でも安くできることもある。
こういった事情から、工事の時期を柔軟に設定できる場合は、解体業者の繁忙期を避けることで、より安い価格で契約できる可能性がある。例えば、先ほど述べた年度末などを避けるといった工夫だけでなく、依頼から施工までの時間もなるべくゆとりがあるほうが、解体事業者もコストを下げやすくなるという。
【関連記事】>>古家付き土地の売却、解体費用の相場はいくら? 確定申告時の税金や特別控除についても解説!
解体事業者選びのポイント
最後に、見積もりから分かる解体事業者選びのポイントについて聞いた。「まず、見積もりの詳細をしっかり確認することが大切です。基本項目が記載されているか、追加費用の可能性はないか、などをチェックします。次に、近隣への配慮がしっかりしているかどうかも重要なポイントです。解体工事は騒音や振動が発生しますから、近隣とのトラブルを避けるためにも、しっかりとした対策を取っている業者を選ぶべきです」
「そして、意外と見落とされがちなのが、営業担当者の対応や現地調査の様子です。丁寧で誠実な対応をしてくれる業者は、工事中のトラブルにも適切に対応してくれる可能性が高いです。現地調査の際に、どのような点に注意して調査しているか、質問にきちんと答えてくれるか、なども重要なポイントです。また、近隣住民の方への挨拶など物腰や態度も含めてよく見ておきましょう」
実績や評判も重要な判断材料になる。過去の施工例や顧客の声なども参考にするといいだろう。可能であれば、実際に過去の施工現場を見学させてもらうのも良い方法だという。
まとめ
解体工事の見積書は、一見複雑で分かりづらいもの。実際に自ら発注して、家屋を解体した経験がある人はごく一部だろう。しかし、基本的な構成を理解し、注意点を押さえておくことで、より適切な判断ができるようになる。また、複数の業者から見積もりを取ることや、工事の時期を考慮することで、コストを抑えることも可能だ。
適切な解体工事は、安全で快適な生活環境の創出や環境保護にもつながる。見積書を慎重に検討し、信頼できる業者を選ぶことで、スムーズな解体工事を実現しよう。
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