管理がずさんなマンションは住宅ローンが出ない?『正直不動産』原案・夏原武とさくら事務所の長嶋修のセミナーをレポート(後編)

2022年7月17日公開(2024年2月8日更新)
千葉利宏:ジャーナリスト

「マンションは管理を買え」といわれるように、管理力はマンションの資産性に結び付く。では、どのように管理力を見定めればいいのだろう。今回、不動産業のリアルな現実を描いて好評を得ている漫画、『正直不動産』の原案を担当する夏原武氏、さくら事務所会長・不動産コンサルタントの長嶋修氏、同社長の大西倫加氏、らくだ不動産の山本直彌氏の4人によるセミナーが開催されたので紹介する。前編はこちら
※ホームインスペクション(住宅診断)などの消費者向けサービスを提供しているさくら事務所が、マンションの資産性を分析し、マンション購入のサポートを行う新サービス「FACTORS4―マンション資産性レポート」の提供を開始したのにともなうセミナー。

【メンバー】
大西 倫加(司会)
 さくら事務所 代表取締役社長
夏原 武
 漫画『正直不動産』原案
長嶋 修
 さくら事務所創業者・会長の不動産コンサルタント。『正直不動産』原作・ドラマ共に一部監修
山本 直彌
 らくだ不動産・エージェント兼さくら事務所・マンション管理コンサルタント

マンションの資産性を決める3つの要素と4つのファクターとは

さくら事務所オンライン記者発表の様子
オンラインで開催されたセミナーの様子(左から、長嶋氏、夏原氏、大西氏、山本氏)

大西:さくら事務所では、マンションを買う買わないにかかわらず、専門家に中立な立場で相談できる「相談サービス」があります。新築マンションに関する最近の質問で多いのが「このマンションをこの価格で買ってもいいのでしょうか?」です。消費者は資産価格を気にしながら、価格高騰が続くなかでマンションを購入しているわけで、価格の根拠や、その価値が維持できるのかどうかに関心が高いのでしょう。

 同じエリア、駅からの距離、規格のマンションなら、新築時点ではほぼ同じ相場価格で売り出されますが、築年を経た後にどうなるのか―。当社が調査したデータでは、成約価格に差が付いていました。成約日数にも大きな違いがあり、結果として価格を下げて成約しているからでしょう。

 マンションの価格、成約日数に影響するファクターが何なのかを分析するためのレポートが、今回リリースした「FACTORS4―マンション資産性レポート」です。消費者にとって資産性の定義は漠然としていて、多くの人は成約価格や不動産会社の査定価格を資産性と言っているのではないかと思います。

山本:実はマンションの資産性はほかのところにある。

大西:実際の成約価格を見ると、エリアによって大きく跳ね上がることもありますが、その傾向が将来的に継続するのかを正確に予測するのは難しい。それ以外にマンションの成約までにかかる日数に大きく影響する要因として、3つの要素と4つのファクターがあります。相場価格を決める「立地条件」に加えて、「建物仕様」「管理力」が3つの要素です。

 4つのファクターは、売り出し価格や査定価格を評価するための「相場価格」、建物仕様に合わせた適切な維持管理ができるだけの金銭的な余裕があるかといった「持続可能性」、建物を修繕することに伴う「居住快適性」、そして、いかに多くの人たちに、このマンションに住みたい、借りたい、買いたいと手を挙げてもらえるポテンシャルを保っているかどうかという「流通可能性です。これらが、マンションの資産性を決めているのです。

山本:マンションの資産性は価格ばかりに着目されてきましたが、「価格を構成する要素って何だろう」という分析は今までされていませんでした。当然、立地も重要ですが、本当に住みやすいのか、きちんと管理されていて修繕資金も含めて適切に運営されているかが、消費者が求めているマンションの条件でしょう。

 みんながどんどん買い求めれば求めるだけ、成約までの日数が短くなって、需要と供給のバランスで価格が上がっていく。価格を構成する要素を細かく分析し、消費者が判断しやすくすることで、将来の資産性につなげるのが、このレポートの役割になると思っています。

管理力の高さがマンションの資産性に結び付く

夏原:僕が取材していても、管理の問題が大きなファクターになっていて、新築であれ、中古であれ、管理会社はどこか、管理組合の構成はどうかが大事。先日も、某マンションで管理体制を巡ってクーデターが起きたって聞くし…。

大西:ありましたね。業界騒然。

夏原:それは極端な例ですが、実際に住んでいる人にとって、管理がしっかりしてないのは嫌ですよね。そこがネックになっているマンションも多く、トラブル発生も珍しくないと聞きます。場合によっては管理会社を飛び越えて、直接、オーナーにクレームを入れる入居者も出てくる。「なぜ、そんなことをしたのか」と聞くと、「管理会社が機能していない。いくら言ってもちゃんとやってくれない」と。だったら、オーナーに文句を言ったほうが早いとなる。その辺はすごく注目して見ています。

山本:専有部の内見に行くにしても、そこにたどり着くまでの共用部のエレベーターがボロボロだったら、もう見に行かないですよね。

夏原:タワーマンションは、きれいなエントランスとか、無駄に広いロビーとか、見栄えを良くしていますが、実際には、廊下がきれいなのか、悪臭はないか、といったことが大事なのでは?

山本:ごみ置き場が整理されているかを見るだけでも、居住者のクオリティーが分かったりしますよ。

夏原:郵便受けに「ちらしお断り」がべたべた貼ってあったり、ごみ箱があふれていたり…。

大西:管理力を見るうえで、長嶋さんが大きな課題と感じているところはありますか?

長嶋:そこはブラックボックスですよね。不動産会社も言われないと答えないし、聞かれても分からないしで、マンション管理組合の運営の実態はなかなか見えてこない。

大西:当社がサポートしているマンション管理組合では、大規模修繕を行うのではなく、状態を監視しながら、中規模修繕を繰り返しながら管理しているところもあります。

長嶋:人間に例えると、大手術になる前に定期健診しながら、ちょこちょこメンテナンスするやり方と言えますが、その辺が購入希望者にも分かるようになればいいですね。

 その他の課題としては、不動産会社が高く査定したから高く売れるわけではないので、査定の精度が金融の担保評価に結び付かないとダメでしょう。管理状態が良い物件なら担保評価は100%。一定程度以下の物件は70%にすると、管理力が資産性に直接、結び付くようになりますよ。

 例えば、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」や税制でもよいですが、管理力に明確な差を付けて誘導するような施策をやってくれたら良いと思います。国や地方自治体の取り組みはダメなマンションを何とかしようというものばかり。そうしたマンションはどうやっても動かないので、トップランナーを伸ばした方が早いと思いますけど。

大西:国としても、2022年春から「マンション管理計画認定制度」を導入して、管理状態の見える化に乗り出しました。状態が良いマンションでは、フラット35の金利優遇が受けられることも検討しているようです。物件検索のポータルサイトとも、同制度の認定状況を物件に表示することで連携する協議を進めていくと聞いています。ブラックボックスだったものが少しずつ開いてきているのは良い流れですね。

山本:都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)、6区(5区+文京)の新築マンションでは、修繕積立金が上がる傾向なので、国の施策による一定の効果が出てきていると思います。マンションも、どう運営・管理するかで大きく変わりますから、デベロッパーのアフターサービスも使えるものは使い、自治体の助成も受けられるものは受けて、節約しながら、より良い修繕をしていくという姿勢が大事になってきます。

長嶋:アメリカでは、マンションの管理組合の運営状況も、データベースに入っているので、管理組合の運営状況が悪いと、銀行のローンが下りないこともあります。そうすると、5000万円で売れるものが3000万円に下がったりする。逆に、管理組合の運営状況が改善されて住宅ローンが使えるようになると、相場価格3000万円のエリアで5000万円に上がったりします。マンションの管理状況と金融が連動しているので、日本も早くその方向に持っていってほしいのですが、時間の問題だと思いますよ。

夏原:資産性の指標として金融が実行できるかどうかは、一番分かりやすい。一般の消費者が一番分からないのは相場なんですよ。マンション価格の妥当性。新築であれ、中古であれ。それが分からないから相談するわけで、一つの目安として、今の話はすごく理解しやすいです。

長嶋:マンション管理組合の役員や理事は、ボランティアでやるのが当たり前で、順番で回ってくるので仕方なくやっている感じがありますよね。それが、みんなで協力してやることで、自分たちのマンションの資産価値は維持される、さらには上昇する可能性もあるという感じになると、多分、雰囲気が全然、変わるだろうと思います。

夏原:確かにうまく回してちゃんと利益を出し、管理組合として良い運営をしているところもありますね。晴海にあるタワーマンションでも、最初の管理組合の理事長に、誰もなりたがらなくて大変だったようです。結局、僕の知り合いが引き受けたけど、総会でも居住者の多くが電子投票の委任状を出して実態がない。それが、ボランティアではなくて、ちゃんとした利益を出せる管理組合になれば変わりますね。

管理の状況を確かめて買いたいという人が増えてきている

大西:マンションを買ったら、人ごとではなく、自分たちで管理組合を運営していくことを啓発しながら販売してこなかったことも、この業界の課題でしょうね。販売時の修繕計画の精度が粗ければ、自分たちでいろんなことを精査しなければならないことを、最初にもっとしっかり言うべきですよ。

夏原:建物と管理組合をセットにして説明しながら販売しているデベロッパーなんて聞きませんね。

長嶋:一部のデベロッパーでは、昔から努力していますが、マンションを買うほうがそこまでの説明を求めていなかった。少し前までは「鍵一本で管理が楽だから…」という理由でマンションを購入し、管理は「全部、管理会社にお任せ」という雰囲気の時代が長かったからですね。

大西:でも、ここ数年、本当に変わりつつあると実感しています。当社では、マンション管理組合向けのコンサルティング事業を長年、手掛けていますが、一般の人たちの意識が変わりました。まだ大多数とは言えませんが、管理の状況を確かめて購入したいという人も増えています。

 当社のインスペクションサービスを使ってマンションを購入された方には「ぜひ、管理組合の理事に立候補してください」と提案しています。自分たちのマンションを良くしようと思ったら、まず自分たちで理事会の基盤をつくることが大事なので、「管理の重要性に気付いたあなたが理事になってください」と言うと、本当に理事になる人が増えてきました。入居者がしっかり意識を向け始めると業界側にも緊張感が出てきます。素晴らしい理事がそろっているマンションには、管理会社もエース級の担当者を充てるようですよ。

マンガ正直不動産14表紙
人気連載中の『正直不動産』は、現在14巻まで発売されている。
©️大谷アキラ・夏原武・水野光博 / 小学館「ビッグコミック」連載中

 「夏原先生の『正直不動産』を読んでます」と言うと、不動産会社の担当者も緊張するので、ちゃんとやってくれるし、正直に言ってくれる。それと同じで、もっともっと知識武装、理論武装してほしいと思います。

 同様に、災害リスクも最近は情報量がすごく増えて、事前に自ら調べて、重要事項説明の時に細かい突っ込みを入れてくる顧客が増えたという話も聞きます。

夏原:ハザードマップも、役所のほうでバラバラに出すのではなく、全体を見えるようにしてほしいですね。

これからマンションを買う際に、気をつけること・やるべきことは?

正直不動産の原案の夏原氏と監修の長嶋氏
正直不動産の原案の夏原氏と監修の長嶋氏

大西:最後に、これからマンションを買おうと思っている消費者に「これだけは気を付けろ!」とか、「これだけはやっておけ!」とか、何かアドバイスがあればお願いします。

山本立地や施工業者など、誰でも見える情報も資産価値の構成要素ですが、やはり目に見えにくい管理が重要です。将来的にどう管理すれば資産価値が上がるかは、自分たちで変えられる未来です。マンションを購入する方にとって、そういう意識を持つことが一番大事になっていくと思います。

長嶋:早稲田大学の調査では、マンションの寿命は大体65年ぐらいだろうといわれていますが、そもそも歴史がないのでよく分からない部分があります。今の技術と設計で普通に建てられた新築マンションは、100年ぐらいは平気で持ちます。ただ、きちんと点検やメンテナンスをせず何もやらなければ、とても100年は持たないでしょう。

 建物の持続可能性が、資産性に結び付いていて、残り30年でダメになる建物なのか、100年でも大丈夫なのかで全然違ってくる。今は、ここを誰も評価していないので、同じ築年数であれば、同じ価格が付けられている。ある意味、選球眼さえ良ければ良い買い物ができるとも言えますが…。

夏原:僕は専門家ではないけど、マンションを購入する時に「部屋を購入する」という意識の人が多いのではないですか?「マンションに住む」とは、建物全体に関わることなので、管理や建物の耐久性の問題を忘れてほしくないですね。マンションの一部分を共有するという意識を持てば、全体が気になってくるはず。自分も積極的にマンションの管理に加わろうとか、マンションの状態を調べたり、いろんな人の話を聞いたりするでしょう。そうした意識を持って購入すれば失敗も少なくなると思いますよ。

大西:いろんな不動産業界人にインタビューしてきた夏原先生として、マンション選びの時に、どの不動産会社をパートナーに選ぶべきか。不動産会社の見分け方、見抜き方のコツはありますか?

夏原:難しい質問ですが、僕がいつも言っているのは「会社の看板で選ばないでね」と。有名な会社だから、企業規模が大きいからという理由で選ぶのだけはやめてほしいですね

 それと「面倒くさがらない営業マンに会うまで頑張りましょう」と言いたいね。結局は人なので、わがままを言っていいと思いますよ。それに対して面倒くさがらない、ちゃんと答えてくれる、こっちの希望をよく理解してくれること。全ての要望を満たすような物件を探すのは無理なので、「お客さんは何が捨てられますか」と聞いてくれる営業マンですね。

大西:完璧な物件はない。

夏原:「ここは削っても大丈夫ですよ」と向こうから聞いてくれる営業マンだったら、僕は信頼してもいいのではと思います。とにかく「有名だから…」というのはやめてほしい、気持ちは分かりますけど。

大西:本当に個人差が大きいですよね。それは不動産会社でも、マンション管理会社でも全部同じですね。

夏原:最近は、良い営業マンが多い不動産会社がだんだん増えてきてるような気がして、それはちょっとうれしいですね。良い人の下には良い人が集まるので、最後は経営者の考え方が大きいかもしれません。

大西:本日はありがとうございました。 

>>前編はこちら

【協力】さくら事務所

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