現在、日本では空き家が増え続けており、この30年間で2倍以上に増加している。空き家は放置したままでいると、倒壊・崩壊、ゴミの不法投棄、放火など、周辺地域にさまざまな悪影響がある。だが、相続などで空き家を所有した場合、どのように対処したらいいのか困るという人も多いだろう。そこで、空き家物件の具体的な対処方法ついて解説しよう。
空き家の放置は周囲に悪影響を与える!
人が住まなくなった家は、年月がたつと建物が老朽化し、見た目が悪くなるだけでなく、さまざまな問題を引き起こす。家が崩れ落ちる危険性も指摘されるが、人がいない空き家が放火の対象になりやすいことは言うまでもない。
新潟県上越市では、空き家で火事が起きて近くの家と合わせて3軒が燃えた。札幌市でも空き家で火事が発生している。インターネットで「空き家」「火災」と検索すると、似たような報道が多数あり、日本全国で空き家が火災発生場所になっていることがわかる。
消防庁のデータによると、火災の原因は「放火」と「放火の疑い」が合計3,713件で、これは毎日10件以上の火事が起きていることを示している。さらに驚くべきは、日本で起きる火事の約10.2%が「放火」と「放火の疑い」であるということだ(2022年の統計で総火災数は36,375件、出典:「令和4年(1月〜12月)における火災の概要(概数)について」)。
これは空き家の所有者だけでなく、周囲の人々にとっても大きな問題といえよう。空き家を所有しているなら、速やかに処分や対策を考えるべきだ。
まず空き家対策には、最終的に大きく分けて3つの方法がある。
【売却】仲介業者、買取再販業者
【公的機関を使う】空き家バンク、相続土地国庫帰属制度※
※相続土地国庫帰属制度:相続または遺贈によって土地の所有権を相続した人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国に引き渡すことができる制度(2023年4月27日から開始)
所有する空き家の状態を踏まえながら、適切な対応を取るための方策を考えてみよう。
空き家の対処方法は、物件の条件によって異なる
空き家をどのように対処すべきかは、物件の状態と、立地条件によって変わってくる。以下のチャートで、空き家の対処法についてケース別に分けてみた。
【図表:ケース別 空き家の対象方法】
ざっくり分けるとすると、借り手がつきそうなら「賃貸・シェア・民泊」、買い手がつきそうなら「売却」、借り手も買い手もつかないような物件であれば「空き家バンクなどの公的機関」を使って対処することになるだろう。
空き家の対処を決めるにあたり、確認するべきは以下の3つだ。
1. 物件の状態を確認
2. 今後、自分たちで利用する予定があるか
3. 立地を確認(都心か地方か、限界集落か)
それぞれのステップについて、具体的に説明していこう。
1. 物件状態を確認
まず、空き家の状態が重要だ。クリーニングや簡単なリフォームをすれば十分に住めるのか、そうではないかを見極めよう。
正確な状態を知るにはホームインスペクター※などに依頼する必要があるが、建物を支える柱や梁(はり)などの躯体(くたい)に腐敗や損傷があるならば、住める状態ではないと言える。リフォームなどをしても、建て替えと同程度の費用がかかるので諦めた方がよいだろう。※ホームインスペクター(住宅診断士):住宅全体の劣化状況や欠陥の有無をチェックし、修繕や対策が必要な箇所や、おおよその費用などについて診断する資格を持った専門家
・すぐに住める、リフォームすれば住める →解体しない
2. 今後、自分たちで利用する予定はあるか
解体して更地にするにせよ、リフォームするにせよ、今後将来にわたり、所有者である自分たちがその土地・物件を利用する予定があるかどうかを考えよう。利用する予定がないのであれば、手放す(売却する)という選択肢が浮かび上がるだろう。
後述するが、手放すことを決めたからといって、必ずしも売却できるわけではない。当然のことだが、売却するには買い手を見つけなくてはいけないからだ。
・今後、利用する予定はない →所有しておく
3. 立地を確認
特に、売却をすると決めた場合に重要になるのが立地だ。不動産を売却するには、一般的に、不動産仲介会社を通じて買い手を探してもらうことになる。
都心はもちろん人気があるので売りやすいだろう。地方であっても、最近は積極的に仲介してくれる不動産会社が増えてきたので、根気よく探せば買い手が見つかる可能性がある。
問題になるのは、限界集落などの過疎地にある空き家だ。これは買い手がつきにくいため、公的手段に頼ることも視野に入れよう。
・地方(不動産会社が仲介してくれる可能性がある)なのか →売却
・限界集落、過疎地にある →空き家バンクなど公的手段を検討
以上を踏まえて、次に、実際の対処方法と、注意するポイントについて解説していこう。
空き家対処法① 解体する
さて、住むことができず、倒壊の危険もあるならば、いち早く解体してしまうのがいいだろう。特に建物が雪国にあるならば、降雪の前に対策を取ろう。
言うまでもなく解体費用がかかるが、倒壊リスクや前述の放火など周囲へ与える影響を考えて、潔く決断しよう。その際に、解体事業者などを使い、解体費用や対応などについてよく聞いた上で、どこに依頼するかを決めよう。
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【関連記事】>>家の解体費用の相場、補助金は? 空き家の解体や売却時に使える節税特例などを解説!
解体後に利用予定がある
建物解体後に更地になった土地を利用する予定があるだろうか。現状がすでに空き家になっているのだから、多くはすぐに利用する予定はないのではないか。
ならば、一時的な活用方法として時間貸し駐車場などを検討するのも一手と言える。とくに最近ではakippaなどのスマートフォンなどから使える予約制の駐車場マッチングサービスも普及してきている。特別な機器の設置などが不要で、賃貸収入も簡単に手に入るので、積極的に活用しよう。
解体後に利用する予定はない
将来にわたって利用予定がないならば、いち早く売却することを考えよう。
ここ数年はパワービルダーと呼ばれる新築住宅の建て売り業者の購入意欲高い。交通の便が良いエリアならば、パワービルダーが買い手になるかもしれない。なかには近隣住民が買うことも少なくない。売買仲介を行う宅建業者の手を借りるのもよいだろう。
こちらも一括査定などで複数の不動産会社から見積もりをもらって、売却プランを検討しよう。うまくいけば、希望する金額で売れるかもしれない。
【関連記事】>>不動産一括査定サイトのメリット・デメリットを解説!
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空き家対処法② 賃貸などで活用する
空き家となっている物件があまり傷んでおらず、そのまま利用できる場合。もしくは、リフォームをすれば利用できるという場合も、対応はさまざまだ。
それぞれのメリット、デメリットを理解して、適切な方法を見つけよう。
賃貸住宅として貸し出す
王道と言われるのが賃貸住宅として貸し出すこと。言うまでもなく、賃料収入が手に入る。特にファミリー向けの賃貸物件が少ないエリアでは、すぐに借り手が見つかるかもしれない。
しかし、賃貸需要が乏しいエリアもあるので、地域の賃貸住宅事情に詳しい不動産会社の意見を取り入れて活用方法を検討したい。
シェアスペースとして一時的に貸し出す
居住をする気はないが、何らかの事情で定期的に利用したいという人は、最近、急拡大しているシェアスペースとして運用する手もある。自分が利用しない期間だけ、貸し出すことができる。
もちろん、需要が少ないエリアもあるが、地域の集まりなどで意外なニーズもあるようだ。最近では、スペースマーケットのような空いている部屋や物件と、それを利用したい人とをマッチングさせるポータルサイトも登場している。登録料や掲載料は無料なので、一度試してみるのもいいだろう。
民泊として運用する
2023年に入り急速に回復している観光需要を狙った、民泊利用も検討する価値がある。日本では大人数に対応したり、長期宿泊したりできる施設が少ないため、民泊は意外な借り手がいるようだ。中には想定以上の収益が得られるケースもある。
しかし、賃貸住宅やシェアスペースに比べれば、清掃やゴミ出しなど物件管理の手間がかかる。民泊代行業者が対応してくれる場合もあるが、そうでなければかなりの手間を覚悟する必要がある。
こちらも、先ほどのシェアスペース同様、利用者と物件をつなぐサービスが存在する。AirbnbやADDressなどがそれだ。Airbnbは世界で利用されているため、インバウンド需要が見込める。ADDressは、利用者が毎月定額の使用料を払って、全国各地にある登録先の宿に泊まれるというもの。主な利用者はワーケーション目的の日本人だと言われている。
また、もちろんだが固定資産税は継続的に発生する。賃貸や民泊などで得た利益と差し引いて、マイナスになるようであれば負債となる。
空き家対処法③ 売却もしくは空き家バンク登録
リフォームすれば住むことができる空き家を持っていて、なおかつ今後も利用する可能性がない場合は、売却を考えよう。売却方法には「仲介」と「買取」の2種類があり、一般個人に売るのが仲介、不動産会社へ売るのが買取だ。
仲介と買取のどちらを選択するかは、空き家がある場所によって大きく異なってくる。
売却(都心にある空き家)
まず、交通の便が良い都心にある場合は、仲介での売却を考えることになる。交通の便だけでなく、商店街や医療サービスが充実していて、環境がいい住宅街も同様だ。言うまでもないが買い手が現れれば希望額で売れるだろう。しかし、売却までは首都圏でも平均8カ月かかるという調査もあるので、長期戦も覚悟しておこう。
売却後には買主に対して責任が生じることも知っておこう。売買成立後に物件の問題点が見つかった場合、契約後であっても売り手には契約不適合責任が発生する。場合によっては契約が白紙撤回されることもあることは、頭の片隅に入れておいたほうがよいだろう。
売却までの期間が短く、なおかつ契約不適合責任などがない処分方法もある。不動産会社への売却、つまり買取だ。
一般的な不動産会社でもいいし、不動産会社のなかには、買取を専門にしている業者(買取専門会社)もあるので、そこでもいいだろう。こうした不動産会社は住宅を買い取って、リフォームしてから新しい住人に売却したり、別の不動産会社に転売して利益を得ている。
仲介とは違い、スピード感を持って決済してくれるため、契約から入金まで僅か数週間ということも珍しくない。また、買い手が不動産取引のプロである宅建業者であるため、売り手の契約不適合責任は免除されるのも大きなメリットだ。
デメリットとしては、売買仲介でじっくりと買い手を探すよりも売値が下がってしまうことだ。一概には言えないが、2〜3割は安くなってしまうこともある。せっかくの財産なので高値で売却したいのならば、仲介で買い手を探そう。
【関連記事】>>不動産を「買取」で売るメリット・デメリットとは?
売却(地方にある空き家)
それでは地方の物件はどうだろう。場所によっては、仲介で買主を探すことが難しいかもしれない。そういう場合は、やはり不動産会社に売却するという選択肢を考えよう。
実は、地方エリアでも不動産買取をする会社が出てきたため、素早く売却することが可能になりつつある。不動産会社の「カチタス」では、主に地方の空き家の買取を手掛けている。買い取った空き家は、リフォームで心地よく住める状態まで修繕した上で一般消費者に販売している。
地方の場合は土地が余っているため、空き家を取り壊して更地にしても売却しやすくなるとは限らない。なので、こうした買取業者に相談するのも一手である。
売却(限界集落にある空き家)
さて、もはや限界集落レベルの場所に空き家があるならばどうすべきか。はっきり言えば、さすがに買取専門会社でもなかなか手を出せない案件である。
仲介でじっくり買い手を探そうにも、限界集落では数百万円どころか数十万円でも買い手が現れないことも珍しくない。手数料収入が期待できないため、不動産会社も積極的な動きはできなくなる。
とれる対策はほとんどないが、まずは空き家バンクに相談してみるのはどうだろうか。不動産市場での流通は難しいが、移住などを検討する人が興味を持つかもしれない。
また、2023年4月からは、「相続土地国庫帰属制度」が施行された。相続した土地において一定の条件を満たせば、土地の所有権を国に返還できるというもの。これによって、相続した資産のうち土地だけを手放すことができるようになった。負担金20万円(原則、面積にかかわらず)を支払う必要があるが、どうしても手に負えないという人は、こちらも検討しよう。
まとめ
自分の所有している空き家をどのようにしたらいいか、把握できただろうか。では改めて、ケース別・空き家の対処方法について、チャートを確認しよう。
図表:ケース別 空き家の対象方法
空き家を放置することはよくない。だが、空き家の対処方法については、立地環境や物件の状況によって大きく左右される。買い手が付かなければ売ることもできないし、借り手がいなければ賃貸することもできない。そんな時には、空き家バンクなど公的機関の手を借りることになるだろう。
近年、人口減少にともなって空き家も増加する傾向にある。それにもかかわらず、最近は薄れてきたとはいえ、新築を好む人が一定数いるのは事実だ。空き家がますます増えていくのは目に見えており、国としても対策を打ち出すに至った。
2023年3月には、京都市が全国で初めて「空き家税」を課すための条例を成立させた(2026年以降実施予定)。続いて6月には国会で、空き家と空き家に準ずる手入れが不十分な物件(管理不全空き家)について、固定資産税の軽減対象外とする課税強化法案が可決された。空き家を放置している所有者には税金を増やす、という方向に動いている。
相続された空き家をどうしようかと悩んでいる人は、早急に対策を取ることをおすすめする。
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