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富裕層への課税強化や贈与税との一体化など、相続税の今後について税理士が解説!
相続税の専門家インタビュー/弓家田良彦(2)

2021年12月1日公開(2021年11月30日更新)
古井一匡:ライター
監修者 弓家田良彦:税理士法人 弓家田・富山事務所 所長

相続税対策としてかつてブームとなったタワマン節税などには、近年、税務署による厳しい対応が目立つようになりました。そこで、「最近の相続税の相談傾向」やここ数年続いている「富裕層への課税強化の動き」「相続税と贈与税の一体化」など、相続税の今後について、連載を監修していただいた、税理士法人 弓家田・富山事務所の弓家田良彦氏にインタビューしました。

富裕層への課税強化の動きについて

 1年以上にわたって続けてきた「不動産と相続」シリーズもいよいよ終わりに近づきました。今回は、協力・監修をお願いしてきた税理士法人 弓家田・富山事務所の弓家田良彦氏に、富裕層への課税強化の動きについて伺いました。

 弓家田氏は年間70~100件の相続税申告を手掛けるなど相続税の実務に詳しく、一般向けの解説書なども多数執筆されています。そのお話は具体的で分かりやすく、多くの方にとって参考になるはずです。

――ここ数年、相続税における富裕層への課税強化が続いていると言われますが、実務家としてどう感じていらっしゃいますか。

弓家田良彦
税理士法人 弓家田・富山事務所の弓家田良彦氏

 当事務所では、それほど複雑で特殊な相続税対策をしているケースを扱ったことはありません。相続税対策をするとしても、生前贈与などオーソドックスなやり方が主流であり、富裕層への課税強化といってもさほど心配することはありません。

 ただ、例えば海外財産が狙われているのは確かだと思います。2014年1月から導入された「国外財産調書制度」では、毎年12月31日時点において、海外に保有する資産の合計額が5000万円を超える国内居住者は、翌年3月15日までに税務署に「国外財産調書」を提出しなければなりません。

 2018年からは、租税回避を防ぐ国際的な枠組みであるCRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)が本格的に稼働し、参加国の金融機関が把握している非居住者の金融口座情報がそれぞれの国の税務当局に報告され、それを各国の税務当局間でダイレクトに交換するようになっています。

 かつてのように、海外に資産を移すことで相続税対策をするといったやり方はもはや通用しません

――タワーマンションなど不動産を用いた相続税対策についても最近、税務署の厳しい対応が目立っています。

 国税庁の方針に基づき、各地の国税局が積極的に調査しているようです。その結果、裁判にまでもつれるケースも出てきています。

 そうしたケースを見ると、まず納税者の側が、相続が発生する直前に銀行借り入れによりタワーマンションや賃貸マンションを購入し、相続税の申告では国税庁の「財産評価基本通達」に定められた評価方法で税額を計算して納税。その後、タワーマンションや賃貸マンションを売却するというパターンが多いようです。

 それに対し、国税庁側は、“伝家の宝刀”といわれる財産評価基本通達の「総則6項」を適用し、不動産鑑定士による鑑定評価で相続税額を計算しなおし、追徴課税などの更正処分を課すのです。

 国税庁としては、銀行借り入れと不動産を組み合わせた露骨な相続税対策に厳しい姿勢で臨んでいるわけです。

 ただ、実際に「総則6項」の適用までいくかどうかのポイントになるのは、被相続人の年齢や生活状況、銀行借り入れによる不動産の購入の経緯、そして相続発生後の売却の有無とタイミング、などです。

 一部には、融資をした銀行の内部稟議(りんぎ)書に「節税目的」といった趣旨の記載があったから「総則6項」の適用を受けたといった解説も見かけますが、それが決め手かというと違うように思います。今後の判例などの積み重ねに注目しています。

最近の相続税を巡る相談の傾向について

――最近の相続税についての相談にはどんな傾向がありますか。

弓家田良彦

 以前は、相続が発生してから慌てて相談に来られることが多かったのですが、最近はご両親とも元気なうちにお子さんたちと一緒に相談に来られるケースが増えています。

 一次相続(両親の一方が亡くなった際の相続)では、残った親が遺産の大部分を相続し、税負担についても「配偶者控除」によりほとんどありません。

 それに対して二次相続では「配偶者控除」がない分、相続税がかかるケースが大幅に増えます

 こうした事情を理解し、一次相続の前から準備を始めようというご家族が増えているのです。

 ただ、答えはひとつではなく、それぞれのご家族によって最適な準備は違います。私がいつもアドバイスしているのは、次の3つです。

  • ①相続人同士の争いを避ける
  • ②納税資金を準備する
  • ③合理的に節税する

 ①については、遺言の活用が最も一般的です。家族信託という方法もありますが、事前に資産(不動産など)の名義を特定の相続人などに移すことに、被相続人の抵抗感があるようです。ただし、相続人である子の中に障害のある人がいるようなケースでは利用価値があります。

 ②については、資産の多くが不動産で占められている場合、納税資金用に売却する不動産を選び、いざというときすぐ売却できるように境界画定や権利関係の調整などをあらかじめ行うことが重要です。

 ③については、生前贈与や教育資金の一括贈与、無保険の方には一時払い終身保険を勧めるなどの一般的な節税方法を説明しています。特に生前贈与については、いざ相続が発生した時に「本当に贈与が行われたのか? いわゆる名義預金ではないか?」という点で税務署とトラブルになりやすいため、どうすれば名義預金とされないかということを詳しくアドバイスするようにしています。

――相続を巡ってのトラブルの傾向についてはどうでしょうか。

 裁判にまでもつれるような節税対策をしているケースは別ですが、資産家といわれる人ほど事前の準備をしっかり行っており、それほどトラブルにはなりません。

 むしろ相続でよくもめるのは、めぼしい財産が親の自宅といくばくかの預貯金だけ、そして自宅には同居する相続人(複数の相続人のうちの一部)がいる二次相続のケースです。

 同居している相続人と他の相続人の間で、親の自宅の扱いを巡ってトラブルになりやすいのは間違いありません。

 トラブルになりやすいことは分かっていても、事前に対策を講じることが難しいというところが、実は悩ましいところです。

相続税の今後について

――最近、「相続税と贈与税の一体化」といった議論が浮上しています。今後、相続税のあり方が変わる可能性についてはどのように見ていらっしゃいますか。

 昨年末に公表された与党の「税制改正大綱」にも今後の検討課題として相続税と贈与税の一体化が明記されており、今後、議論されていくことは間違いないでしょう。

 しかし、実務家からすると、具体的にどのような形で一体化するのか、なかなか難しいのではないかと思います。

 ひとつの案として、贈与税について現在ある「暦年課税」(受贈者一人につき年間110万円までの贈与が非課税)を廃止し、「相続時精算課税」(贈与者一人からの生前贈与2500万円まで非課税などとして相続時に精算)に一本化するという考え方があります。与党税調での議論もこれがメインのようです。

 しかし、以前からある「暦年課税」を急に廃止できるのかどうか、大いに疑問です。相続時精算課税制度に一本化すれば、確かに資産をいつ移転しても税負担において中立的になりますが、長引くデフレ経済のもとでは早めに資産を移転すると税負担が重くなりかねず(資産を移転した時点の評価額で相続税が計算されるため)、若年層への資産の移転が滞ってしまう可能性があります。

 また、何よりも相続時精算課税に一本化した場合、果たしてその贈与をどこまで把握することができるのかが大変難しいと思います。

 もうひとつの案は、相続人について3年分の生前贈与の持ち戻し加算をより長く(例えば5年とか10年)に延ばすものです。

 ただし、この場合は相続人に対する生前贈与のみが対象であり、相続人以外(例えば孫)への生前贈与は、3年以内の贈与についての加算規定がなく、しり抜けとなる恐れがあるので、現在の相続人に対する贈与のみの加算ではなく、三親等内の親族に対する贈与は、相続財産に加算するといったような工夫がなされるのではないでしょうか。

 このように考えると、制度設計をどうするか、それほど簡単ではないだろうというのが私の現時点での感想です。

――与党の「税制改正大綱」では、結婚・子育て資金の一括贈与に対する非課税枠についても「制度の廃止も含め、改めて検討する」と述べています。こちらは廃止の方向にあるのでしょうか。

 この制度はもともと、将来の経済的不安から若い人たちが結婚・出産をためらっているということで、両親や祖父母の資産を早期に移転することを目的としてできたものです。

 しかし、実態としてこの制度を利用しているのは主に富裕層であり、しかも贈与者が死亡した時に使い残しがあれば、相続税に加算されて相続税が課税されてしまうため、あまり節税効果も期待できないことから、元々、あまり利用されていないという現実があります。

 したがって、おそらく相続税と贈与税の一体化より先に、廃止になる可能性が高いと思います。

 いずれにしろ、相続税を巡る状況は今後、大きく変わる可能性があり、議論の行方を注視したいと思います。

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