不動産は相続において、いろいろな点で重要な影響を与えます。今回は、相続と不動産の「深い関係」について考えてみます。(協力・監修:税理士法人 弓家田・富山事務所 弓家田良彦氏)
相続財産は、不動産の占める割合が多い
相続財産とは、亡くなった人(被相続人)が生前に所有していた「金銭に見積もることができる経済的価値のある全てのもの」を指します。有形、無形を問わず、その範囲は非常に広いといえます。
しかし、金額ベースでみると多くを占めるのが土地や建物といった不動産です。
■相続財産の金額(平成30年)※カッコ内は構成比 |
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土地 | 家屋 | 有価証券 | 現金・預貯金等 | その他 | 合計 |
1,121億円 (25%) |
226億円 (5%) |
1,070億円 | 1,508億円 | 552億円 | 4,477億円 |
出典:国税庁資料 (注)上記の計数は、相続税額のある申告書のデータに基づく。 |
平成30年分の相続税の申告状況によると、相続財産の金額による構成比は、現金・預貯金等33.7%(平成29年37.0%)、土地25.0%(平成29年29.7%)、有価証券23.9%(平成29年15.3%)の順となっています。
かつては土地と建物の不動産で相続財産の半分以上を占めていたこともありますが、近年は次第にその割合が下がり、現金・預貯金等のほうが割合としては多くなっています。とはいえ、いまだに土地と家屋で3割以上を占めており、金額も合計1300億円(評価額ベース)を超えます。
不動産は、現金や預貯金に比べて分割しにくい
土地や建物などの不動産が他の相続財産と大きく異なるのが、分割のしにくさです。
現金や預貯金あれば、法定相続分や遺産分割協議の合意にもとづいて、すぐ分割することができるでしょう。
しかし、不動産はそうはいきません。
例えば、亡くなった人(被相続人)の配偶者と被相続人の兄弟が相続人になり、めぼしい相続財産は配偶者が被相続人と住んでいた自宅のみだったとしましょう。
この場合、法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟が4分の1(兄弟が複数いれば4分の1をさらに等分)となり、配偶者が住んでいる自宅の扱いが問題になります。自宅を売却して金銭で分けると配偶者の生活に影響がありますし、かといって自宅を配偶者と兄弟で共有とするのも問題を余計にややこしくするだけです。
そこでよく利用されるのが、「代償分割」という方法です。
「代償分割」では、一部の相続人が不動産(今の例では配偶者が自宅)を相続し、他の相続人にはその相続分に見合った金銭(代償金)を渡します。これなら不動産を売却することや共有にすることを避けられます。
ただし、不動産を相続する相続人に、一括で支払うにしろ分割払いにするにしろ、資金力が必要となります。もし、代償金を支払う余裕がなければ、そもそも代償分割は利用できません。
なお、本件の例のように子供のいない夫婦で相続人が被相続人の配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合は兄弟姉妹には遺留分がありませんので、「すべての財産を妻××に相続させる」という遺言を残しておけば、妻は嫌な思いをすることなく全財産を相続することができます。子供のいない夫婦は必ずお互いに遺言をするということを心掛けた方がいいでしょう。
不動産の評価は、相続税と遺産分割では異なる
相続財産としての不動産は、現金や預貯金、上場株式などと比べて分割がしにくいだけでなく、そもそも「いくらするのか」という評価が難しいという特徴があります。しかも、2つの意味で評価が難しいのです。
第一の難しさは、相続税の申告納税における評価額と遺産分割協議における評価額が異なりうるということです。
相続税の計算上、不動産は国税庁が定めた「財産評価基本通達」で評価することになります。土地については「路線価方式」もしくは「倍率方式」で評価し、家屋については固定資産税評価額をそのまま使用するというのが基本です。
ところが、「財産評価基本通達」による評価額は通常、市場で取引される実勢価格より低くなることが多いのです。エリアや周辺環境、道路付けなどでも異なりますが、市場の実勢価格より2~3割ほど低いことは珍しくありません。
一方、遺産分割協議における不動産の評価額をいくらにするかは、特に決まりはありません。相続税の評価額をそのまま遺産分割協議の前提とすることもできますし、市場で取引される実勢価格を前提にしてもかまいません。そこは、相続人同士の話し合い次第です。
しかし、不動産を相続する相続人と不動産以外の財産を相続する相続人がいる場合、不動産を相続する相続人にとっては、不動産の評価額が低いほうが有利です。
例えば、親が亡くなり相続人が長男と次男2人のケース(法定相続分は2分の1ずつ)で、親が長男一家と同居していた自宅(相続税評価額で5000万円)と預貯金(5000万円)が相続財産だとしましょう。
この場合、相続税の計算上、相続財産の評価額は1億円となり、遺産分割協議でもこれを前提にすれば、長男は自宅(5000万円)を、次男は預貯金(5000万円)を相続すればよいことになります。
しかし、自宅の実勢価格が6000万円だとするとどうでしょう。相続財産は1億1000万円(法定相続分は5500万円ずつ)となり、次男は長男に対して代償金500万円を要求できることになります。
遺産分割協議において不動産の評価額をどうするかで揉めた場合、家庭裁判所に調停を申し立て、それでも決着がつかなければ審判に委ねることになります。
家庭裁判所は不動産鑑定士に鑑定を依頼したり、不動産業者による簡易査定書で代用したりすることが多いようですが、そうなると時間もコストもかかり、親族関係にも大きな影響が出るでしょう。
相続税の申告のための不動産評価も、実は簡単ではない
第二の難しさは、相続税の計算にあたり、「財産評価基本通達」に基づいて行う評価も実際には、かなり複雑だということです。
【関連記事はこちら】>>不動産を相続した際の「相続税の計算方法」を解説!
例えば、土地については「路線価方式」もしくは「倍率方式」で評価した後、道路付けなどによって減額または加算されます。(倍率方式の場合は、一定の場合を除き、固定資産税評価額に倍率を乗じたものがそのまま評価額となります)
具体的には「財産評価基本通達」で細かく規定されており、次のようなケースでは「路線価方式」もしくは「倍率方式」で評価した後、減額される可能性があります。
・間口が狭く奥行きが長い土地
・形が歪な土地
・傾斜があったり、一部が崖になったりしている土地
・地積規模の大きな土地(三大都市圏においては500m2以上、それ以外の地域においては1000m2以上)
・私道に面した土地
・道路に接していないか、または少ししか接していない土地
・道路と地面の間に高低差がある土地
・幅が4m以下の道路に面する土地
・道路や通路として利用されている土地
・2棟以上の建物が建っている土地
・騒音、悪臭等周囲の住環境が悪い土地
・墓地に隣接している土地
・高圧電線が通っている土地 など
実際の土地はひとつとして同じものはなく、相続税の評価にあたっては上記のような様々な事情が影響します。これらを適切に考慮するかどうかで相続税の評価、そして相続税額が変わってくるのです。
相続税の計算においては、様々な特例もあります。
例えば、亡くなった人(被相続人)が住んでいた自宅の土地や事業に用いていた土地については「小規模宅地等の特例」という特例があります。
【関連記事はこちら】>>実家の相続で活用すべき「小規模宅地等の特例」を解説! 気をつけたい"3つの落とし穴"と、売却時の注意点は?
この特例の適用を受けると330m²(ケースによっては200m²または400m²)までの土地については、評価額が80%ないし50%減額されます。これは相続人にとっては非常に大きなメリットですが、適用に当たっては細かな条件があります。
また、「小規模宅地等の特例」を受けることのできる土地が複数ある場合には、一定の面積まで組み合わせて適用を受けることができます。その際、どの土地を選ぶかで全体の評価額が変わり、しかも一度決めたら後から変更することはできません。
なお、すでに相続税の申告納税が済んでいる場合でも、土地の評価額を見直してみて減額される可能性があれば、相続税の申告期限(相続発生から10カ月)から「5年以内」であれば、「更生の請求」を行い、払いすぎた相続税を取り戻せるかもしれません。
不動産と相続にはこのように、様々な意味で「深い関係」があることをよく認識しておきたいものです。
【関連記事はこちら】>>「相続」で必要な書類、手続きのスケジュールを解説! 不動産を相続するときの基礎知識(1)
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