最新の新築マンション市況はどうなっているのか? 新築マンションに詳しい住宅評論家・櫻井幸雄氏が、最新の価格相場、売れ行き、人気物件について解説する。新築マンションの価格高騰が話題になる中、実需層には価格を抑えた物件や小規模マンションが人気となっている(住宅評論家・櫻井幸雄)
販売中の人気マンションの傾向は「低価格」と「コンパクトマンション」
継続的に行っている全国・新築マンション人気度調査の最新版がまとまった。調査期間は2023年10月1日から12月31日まで。2023年が終わる3ヶ月間だ。
本調査は「パンフレットなどの資料請求」、「販売センターでのモデルルーム見学や商談」が、「総戸数」に比べてどのくらい多いかを「人気倍率」として計算し、ランキングにしている。
まずはその人気マンションの傾向から解説する。今回の人気物件にはどんな性格のマンションが多いのだろうか。
堅実な実需層が、抑えた価格のマンションを購入
販売中マンションで人気物件の目安となる人気倍率「1倍」以上を記録したのは全国で103物件。そのうち、短期間に完売する可能性が高くなる人気倍率「5倍」以上となったのは、全国で10物件。半年前の調査では6物件だったので、その数は増えている。
今回調査で、最高値となったのは、都心の小規模マンション。JR山手線目黒駅から徒歩6分の一戸建て住宅地内に建つ「プラウド白金長者丸」(すでに完売)の人気指数「11.5倍」だった。地上3階地下1階・全26戸の小規模・低層のマンションで、2023年1月に建物が完成してから販売が開始された。
その価格は約59㎡の1LDKが1億3200万円からで、約85㎡の3LDKが2億600万円など。都心立地の低層マンションで、現実的に住みやすそうなレジデンスになっていることが人気を集めた理由と考えられる。
続く2位は都内世田谷区の「ザ・パークハウス上野毛テラス」の人気倍率「8.9倍」。それに奈良県の「ローレルコート生駒ザ・レジデンス」(人気倍率8.6倍)、「Brillia 東上野」(人気倍率8倍)が続く。
以上、超人気物件に共通するのは、すべて小規模マンションであること。そして、住宅エリアに立地する物件が多く、それほど高額ではないことも特徴となる。
「プラウド白金長者丸」は1LDKが1億円以上、3LDKが2億円などそれなりの価格になるが、JR山手線内側の住宅エリアに立地しているのだから、それは仕方がないだろう。
世田谷区の住宅エリアに建設される「ザ・パークハウス上野毛テラス」は、1LDKが6200万円からの設定。奈良県の「ローレルコート生駒ザ・レジデンス」は、3LDKが5000万円台、「Brillia 東上野」は、1LDKが5200万円台から、2LDKが1億円を切る設定だ。
「今や、新築マンションを買おうとすると、3LDKで1億円以上が当たり前」という報道が増えたなか、現実に人気を高めているのは、抑えた価格のマンションだった。そして価格を抑えるため、2LDKでもよいとする購入者が増えたことも新たな傾向となっている。
首都圏のマンションは価格が上がり、中国人が買っているとか、富裕層が買い占めているという話が頻繁に出るのだが、実際にマンションを買っている多くの人は普通の日本人で、投資用やセカンドハウス用ではなく、自ら住むための物件を購入している。
投資目的の購入者ならば、経済の変化や金利の上昇で、すぐに購入を手控える。しかし、堅実な購入者は、簡単には購入計画をあきらめない。今は、そのような堅実市況に戻ってきたように思われる。
具体的には、東京23区内では1億円を切る価格帯のファミリータイプや6000万円台までの1LDK、そして郊外では5000万円台、6000万円台のファミリータイプが人気を集める……そんな市況が展開されると予想されるのである。
晴海フラッグなど、人気すぎる注目マンションはランキング外に
なお、首都圏の新築マンションにおいては「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」が、ここ数年で一番の注目マンションとなった。またその他、三田の「三田ガーデンヒルズ」や浜松町の「WORLD TOWER RESIDENCE(ワールドタワーレジデンス)」など、注目度の高いマンションがいくつか存在している。
これらの注目のマンションがランキングに入っていない理由は、総戸数が多く、モデルルーム見学者を絞っているため、倍率が高くならないことが原因である。
減速する地方のマンション市況。その先は?
首都圏以外の場所をみると、人気物件が多いのはやはり大阪を中心にした近畿圏。特に大阪市内の中心部や北摂・阪神間で人気物件が目立つ。人気倍率5.5倍の「ザ・パークハウス 大阪梅田タワー」は、梅田駅最寄りの超高層マンション。うめきたエリアの第2工区が着工したことで、梅田再開発への期待が再び高まり、人気になったと考えられる。
同様に、大阪中心部の再開発として注目されているのが阪急電鉄神戸線「十三」駅周辺。その場所に建設される「ジオタワー大阪十三」も注目物件となっている。地上39階ての超高層は定期借地権方式なのだが、人気は高い。
それ以外の地方都市では、人気物件が減ったところが多い。特に、北海道、東北地方では減り方が激しい。それは、調整期に入った結果だろう。これまで勢いよく売れていたため、マンションを買おうと思っていた人の多くがすでに購入。今は、購入希望者が減ったため、人気倍率が全般的に落ちているわけだ。
地方都市では、もともとマンション購入希望者の人数が限られているため、調整期が出現しやすくなるものだ。
販売開始前もコンパクトマンションが人気
販売開始前で人気物件の目安・販売前の人気倍率「2倍」以上となったのは、全国で35物件。半年前の調査では37物件だったので、わずかに減少。しかし、1年前は29物件、さらに1年半前は23物件だったので、変動幅は小さい。
そのなかで、販売開始とともに、短期間で完売する可能性が高い「販売前の人気倍率10倍以上」となったのは3物件だった。
最高値となったのは「ザ・パークハウス 千代田六番町」(東京都千代田区)で、販売前の人気倍率は「40.7倍」。第2位は福岡県内屈指の高級マンションエリアに建設される「ザ・パークハウス 大濠翠景」で、販売前の人気倍率「24.2倍」。第3位は大阪中心部に建設されるファミリー向けマンションの「ローレルアイ天満宮」(販売前の人気倍率22.0倍)だった。
以上3物件はすべて総戸数が50戸未満の小規模マンションだ。
総戸数が200戸を超える「大規模」で販売前の人気倍率が高かったのは、「シティタワーズ板橋大山ノースタワー/サウスタワー」(全273戸で、販売前の人気指数8.6倍)と「THE TOYOMI TOWER MARINE&SKY」(販売対象1609戸で、販売前の人気指数5.1倍)、そして「パークシティ中野 ザ タワー エアーズ /ブリーズ」(全807戸で、事前人気倍率8.1倍)が際立ってている。
いずれも23区内の超高層マンションで、現時点では価格未定。購入できる価格帯であって欲しい、という期待を込めて注目している人が多いマンションとなる。以上大規模3物件は、これから要注目のマンションであることは間違いない。
さて、ここから、今回調査で分かったマンション市況の現状解説と
2024年、新築マンション価格は「バブル」と言われるほど上昇
2023年は、新築分譲マンションの「価格上昇」が何度も話題になった年だった。東京23区内の新築分譲マンションの平均価格が初めて1億円を超えた……つまり、平成バブル期を超えたことが話題になったし、郊外部も含めた首都圏全体の平均価格が1億円以上になったという調査結果が出されたこともある。
2023年は株価も上昇。2024年2月13日には日経平均株価が3万8000円を超え、1990年1月に3万8000円台を記録して以来、34年ぶりの水準となった。ちなみに、史上最高値は、1989年12月の3万8915円で、最高値更新も現実味を増している。
地価もマンション価格も上昇。この状況から「今はバブル」とする報道も増えてしまった。
しかしながら、多くの人にバブルの実感などないだろう。物価は上がっても収入が増えていない。税金、社会保険料の負担は増す一方で、むしろ生活が苦しくなったという実感のほうが大きい。その点は、平成バブルのときとの明らかな違いとなる。
今から30年以上前の話なのでご存じない方も多いだろうが、じつは平成バブルは1987年(昭和62年)のNTT株公開から始まった。その2年前に電電公社から民営化されたNTTの株は、公開時の一次売り出し価格が約119万円だった。
それが、約2カ月で318万円まで高騰。他の株価も上昇したことにより、普通のサラリーマンでも500万円から1000万円の臨時収入を手にする人が続出。あぶく銭が入ったことでマイホームを買う人やリフォームする人、車を買う人があふれて、世の中にお金が回り出した。
つまり、一般の人も幅広く巻き込んで世の中が浮かれたから、狂乱のバブル状態が生じたのである。
これに対し、マンション価格が上昇した昨年も、日経平均株価が3万8000円を超えた今年も一般の人に浮かれた気分はない。そのなかで、マンション価格だけが「バブル状態」といわれているわけだ。その結果、マンションの販売現場では「購入マインドの低下」を懸念する声が出ている。
自分たちとは関係ないところで景気のよい話がある、と感じる普通の人がマイホーム購入をあきらめてしまうのではないか……そう考えられているわけだ。
果たして、一般の人たちの間で「マンション購入回避」の動きがでているのか。今回の調査結果は、その疑問に対する答えを示してくれるものと言えるだろう。
新規発売戸数の減少で、人気物件も減ったが……
前述した「人気マンション」と認定できるマンションの数は減っている。1年前の2022年10月から12月期の人気物件数は136物件あった。それが、半年後の2023年4月から6月期の調査では118物件まで減少。さらに半年後の今回調査では109物件にまで下がった。
これは、「購入マインドの低下」によるものなのだろうか。その点は、慎重に判断したい。
たとえば、人気マンションの数が段階的に減ってきたのは、新規発売物件数が減っていることの影響が大きい。
不動産経済研究所の調べによると、2023年に、首都圏で販売された新築マンションは2万6886戸。2022年の2万9569戸よりもさらに少なくなった。1999年から2005年まで首都圏では毎年8万戸以上のマンションが発売されたのと比べると驚くべき少なさなのである。
つまり、新たに販売される新築マンションの数が減っているので、人気マンションの数が減るのは当然と考えられるわけだ。
人気マンションの数が減ったからといって、「購入マインドが低下した」とは言えない。新築マンションの発売戸数が減っているからといって、「マンションを買う人が激減している」わけではない。
理由は新築マンションの販売戸数が減る一方で、中古マンションの取引数は増えているからだ。
首都圏における1年間の新築マンションの発売戸数と中古マンション取引数を合わせると、その数はここ数年、6万戸程度で安定している。新築マンションが年間8万戸も供給されていた時代、マンション購入者の大半が新築を買った。新築対中古の比率は10対1程度だった。それが今は半々くらいになっている。
新築と中古を合わせればマンションを買う人の数は、大幅に減っているわけではない。ただし、新築マンションを買う人は「だいぶ減った」。だいぶ減ったことに合わせ、人気マンションと認められる物件数も少なくなってしまったのである。
新築マンションが減ったから、高額物件が増えた?
では、なぜ、新築マンションの供給戸数が減ってしまったのか。理由として大きいのは、ここ数年、新築マンションは価格が上昇し続けたことだ。
新築マンションの平均価格が上がり続けたのは、土地代が高い都心物件が増えたことと、建設費が上がったことが原因だ。
「マンションをつくりたくても、土地の売り物が出ない。希に出る土地が高いので手が出せない」と嘆く不動産会社は多い。高額の土地を仕入れ、高額のマンションを売り出しても、間違いなく売れるというなら、頑張って土地を買い、マンションの供給を増やすだろう。
しかし、高い値段で間違いなく売れるとはいえない。マンションが高額化すれば、どうしたって売れ行き不振の物件が出る。売れるマンションでも販売のスピードが落ちる。そんな状況が想像される中、新規物件の売り出しを増やせば在庫が積み上がるリスクがある。
在庫が増えれば、いずれマンションの暴落が起きる……この動きはバブルが崩壊したときと、リーマンショックのときで経験済み。不動産業界にとっては二度と繰り返したくない出来事だ。だから、不動産会社は「在庫の積み上がり」を回避すべく、発売戸数を減らしているわけだ。
発売戸数を減らすことで、マンションの売れ行きは維持される。爆発的に売れるわけではないが、まあまあ売れて、一部には高人気物件も現れる……まさに、それが今のマンション市況と考えられる。
確かに人気倍率が高いマンションの数は以前より少なくなっている。しかし、人気物件は出続けている。それは高額の都心マンションだけでなく、郊外のファミリー向けマンションにも……つまり、「購入マインドの低下」はまだみられない、というのが結論となるのだ。
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