「財産を共有名義にしていたことで相続争いに発展した」、「共有名義の土地を処分したいが、相手の所在が不明」といった、遺産における「共有権解消」に関する相談が増えています。この問題を解決すべく、共有権解消の現状と今後、また、共有権と所有者不明土地の関係についてお伝えしたいと思います。(ファイナンシャルプランナー・佐藤益弘)
相続時に遺産を共有名義にしてしまうと・・・
「共有になっている土地を単独名義にしたい」という相談を受けることがありますが、相続時に遺産を共有名義にしていたために、家族で意見が割れ、収拾がつかなくなっている状況も少なくありません。以前受けた相談で、以下のような事例があります。
実家の管理維持費用は、住んでいる母が持つということで、その時は事なきを得ましたが、先日、母が他界しました(二次相続)。
残っている財産はわずかな預貯金と、実家の土地建物のみ。借金はありません。預貯金については、葬儀や今後の法事などの費用でトントンという感じです。
めぼしい財産といえば実家の土地建物だけですが、都内の住宅地に位置し、利用価値のあるエリアなので、話し合いでもめています。
兄は「売却してお金で分けた方が気楽だ」と言い、姉は「(自分が使いたいので)そのまま残したい」と言い、妹は「良い場所だから賃貸経営したい」と言い、意見はバラバラで、みんなで意見のハッキリしていない私を説き伏せに来ます。
あれだけ仲が良かった兄弟同士で、関係がギクシャクしてしまい、この状況に嫌気がさしています・・・。
このように、一次相続時に財産を「共有名義」にしてしまうと、その時は両親のうちどちらかが存命なので、大きなトラブルにならなくとも、二次相続の際には個々人の意識や経済的な事情などにより、意見をまとめることが困難に。最悪、骨肉の争い~"争族"状態に陥ってしまいます。
実は、財産が少ないほど遺産争いが多い!
よく、「家(うち)には財産がそんなにないので、遺産争いなんて関係ない」とおっしゃる人がいますが、本当にそうでしょうか?
統計から、遺産争いの現状を見てみましょう。
家庭裁判所における遺産相続事件の「新受件数(審判+調停)及び平均審理期間の推移」(図表1)を見てみると、高齢化の影響等により、新受件数(審判+調停)が年間15,000件、1時間当たり1.8件発生している計算になり、長期的に見て増加傾向にあることが分かります。
平均審理期間(提訴から終局までの期間)については、ここ数年、12カ月を下回る11.5カ月水準で推移しており、長期的に見れば短縮傾向にありますが、それでも1年近く争うことになります。ちなみに、相続税の確定申告期限は、亡くなってから10カ月ですから、本来はそれまでに円満解決させたいところです。
また、図表2「遺産分割事件の容認・調停成立件数(遺産の価額別)」からも分かるとおり、家庭裁判所が扱う遺産分割に関する事件(遺産争いで財産額が5,000万円以下)が全体の75%以上を占めています。
つまり、「家(うち)には財産がそんなにないので、遺産争いなんて関係ない」というのは、現実はその逆で、「遺産が限られている=分ける財産がない=からこそ、遺産争いが起きている」という構図になっているのです。
このように、遺産争いが顕在化する可能性が高くなりますから、多くの実務家が言っているとおり、できるだけ共有名義での相続は避けた方がよいということを覚えておきましょう。
共有権解消は全会一致が必要なため困難!
結果、所有者不明土地が発生する
共有権とは、所有権を複数で共同して持ち合い、利用していく権利です。たとえば、マンションなど集合住宅の場合、所在する土地や建物の権利を居住者が共有して、共同生活をしていきます。仮に、100人居住しているマンションで、共有権が1/100だからといって、1/100の割合分しか利用できないというわけではなく、対象になっている物(マンションの場合は部屋や共用部分など)の全部について、その持分に応じた使用をすることができます。
また、対象となっている物を保存したり=保存行為、管理したり=管理行為、変更(処分)したり=変更行為=することができますが、これらは、以下のように共有持分によりできることが限られています。
・管理行為…賃貸借など対象物の性質を変えずに収益を上げること。管理行為を行うには、共有持分価額の過半数の同意が必要です。
・変更行為…対象物の物理的変化を伴う行為、つまり、宅地造成や売買など処分すること。他の共有者全員の同意を得なければできません。
ですから、土地・建物でも、一旦、共有状態になると、処分したくても全会一致(全員が合意)しないと何もできない状態に陥るため、現実的に処分は不可能となるでしょう。
さらに、共有権解消のためには、費用や手間(時間)がかかるので、結局、断念せざるを得ず、その結果として、「所有者不明土地」となり、空き家や空き地が増加するという状態になります。
共有権解消の法改正が、所有者不明土地問題解決の鍵に
そのような状況ですから、所有者不明土地問題の解決のためには、共有権の解消を容易にするなどの道筋を立てることが不可避になります。
たとえば、「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会 最終取りまとめ」では、共有関係を解消し、所有権を一本化しやすくするような改正案が用意されています。
現行の民法では、遺産分割に期間制限がないので、相続発生後に遺産分割がされずに"遺産共有状態"となり、問題が先送りされる傾向があります。
前回、相続登記の記事でもお伝えしたとおり、相続登記は任意なので、遺産分割がされない場合、登記も放置される傾向があります。登記の放置状態が継続し、数回の代替わりが発生すると、関係者が膨大に増え、共有している相続分(持分)の算定や権利関係が複雑化してしまいます。
【関連記事はこちら】>>親の実家の土地を名義変更したいが所有者の行方がわからない! 相続登記の現状や今後を解説
共有権解消をめぐる今後の予測
通常の共有解消は、「相手が他人」なので、地方裁判所での手続きになりますが、遺産の共有状態を解消することは「家族間の問題」なので、家庭裁判所での遺産分割手続きが必要になります。
そこで、所有者不明土地問題の発生を抑制する方策として、民法(相続法)の改正を前提に、遺産分割がされずに長期間が経過した場合、遺産を合理的に分割する制度の創設=遺産分割の期限を決める改正が検討されています。
具体的には、「共同相続人は、遺産分割の合意及び遺産分割手続の申立てがないまま、相続開始時から10年を経過した場合、具体的相続分の主張をすることができない」という改正案です(参考:2019年末の法務省法制審議会民法・不動産登記法部会「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」)。
争族を避けるために、遺言を残すことが大事
ただし、分割方法等については、法制審議会内でも、執筆時点(2020年5月)で意見が分かれているようです。
上記の10年という分割期限を経過した後は、遺産分割は各相続人の法定相続分に応じて行うのですが、前述の「遺産分割手続き~家庭裁判所で行う」ことを前提にするか、「特定の財産ごとに共有物分割手続き~地方裁判所で行う」ことを前提にするかという議論です。
最近の民法(相続編)の改正で、自筆証書遺言がしやすくなりましたが、家庭裁判所あるいは地方裁判所、どちらの方法になっても、遺言の重要度が増すのは間違いありません。そのため、今後は、争族(遺産争い)を避けるためにも遺言をすることを前提に考えましょう。
共有の相続人の所在が分からない場合
共有権を持っている相続人がどこに居るのかわからない場合の対応も検討されています。分割期限を経過したが、一部の相続人の所在がわからない場合、他の相続人が、対象になっている不動産など遺産について、行方不明になっている相続人の共有持分の相当額(時価)を供託することにより取得できるようにします。
これは現時点でも、「代償分割」という相続の分割手法と、仮処分など複数の法手続きを経る事で可能ですが、実務上、非常に面倒なので、この改正により手続きが容易になります。
このように、「共有」のルールが大幅に見直されることが予定されています。また、共有権の解消も供託(国の機関である供託所に金銭や物品などを預けること)を用いることにより、不明所有者の持分を買い取ることもできるようになると予想されます。
共有権を解消し、所有の一本化がしやすくなれば、空き地・空き家問題の解消にもつながるでしょう。ただ、とても大きな法改正になる可能性があり、不動産取引に与える影響も非常に大きいので、十分に注意するようにしてください。
【関連記事はこちら】>>「権利未登記」「違法建築」「境界未確定」など"不動産の売却"でよくあるトラブルの解決法とは
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