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親の実家の土地を名義変更したいが、相続人の行方がわからない! 
相続登記の現状や今後を解説 所有者不明土地のケース別解決策(2)

2020年6月6日公開(2020年6月23日更新)
佐藤益弘:優益FPオフィス 代表取締役

「土地を相続して自分の名義にしたいが、所有者がどこにいるのか分からず登記ができない」といった、相続登記に関する悩みが増えています。この問題を解決すべく、2019年末の法務省法制審議会 民法・不動産登記法部会「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」をベースに、「相続登記」の現状と今後についてお伝えしたいと思います。(ファイナンシャルプランナー・佐藤益弘)

相続時の登記が義務化されていない

所有者不明土地の不動産相続登記
画像:PIXTA

 所有者不明土地の形式的な問題は、「相続時の登記が義務化されていない」からです。登記がされないまま長い時を経ることによって、誰が所有者なのか、共有持分(共同所有しているモノの所有権の割り合い)がどうなっているのかが不明になるのです。

 そうなってしまっては、いざ登記をしようと思っても、数代前の権利者から所在を追わなければならず、多大な費用や手間がかかるため、物理的に登記できないという状況に陥ってしまいます。なにも、地方や郊外の保有ニーズが低い土地に限らず、町中のとても良好な立地であっても、登記がそのような状態だと身動きが取れない状況になってしまいます。今回は、このような「登記」の問題に切り込んでいきましょう。

相続登記が現状、任意なのはなぜか?

 そもそもなぜ、相続時の登記は任意なのでしょうか? 少し難しい話になりますが、日本が明治維新を経て近代国家になっていく中、法治国家として基盤になるルール=法律が必要でした。早期に近代化するには、憲法や民法、刑法などの基幹になる法律は西洋、特にその当時の先進国であるフランスやドイツから学び、模範にして作成するしかなかったわけです。

 私たちの間で何か争いがあったときに、その問題解決のための指針となるのが「民法」という法律です。不動産の登記はこの民法(不動産登記法)に含まれますが、この民法によると、登記とは、土地など不動産の購入や相続、贈与等で手に入れた、「所有権を持っている」という証明=公示するために使える制度です。

 この民法(不動産登記法)の作成段階で、登記は所有権を持つ際の対抗要件という役割のみで、所有権を得るための必須条件とはしませんでした(この民法は1896年にできた古い法律なので、ここ数年大きな改正が続いています)。

 ですから、登記をしなくても所有権を持つことができるというわけです。ただし、登記をしないと、当事者以外の赤の他人(第三者)には「自分が所有者だ」と主張することはできません

【関連記事はこちら】>>「所有者不明土地」とは? 増加する理由や、その問題点について詳しく解説!

登記されないまま放置されることで、所有者不明土地が増える

 実際に日本の人口が増加し、経済成長も右肩上がりだった時代には、土地など不動産の価格は”上昇し続ける”という土地神話の存在もあり、「ほとんどの人は登記をするよね」、「登記するのは当然」という空気があり、実際に登記する人がほとんどだったため大きな問題にはなりませんでした。

 ただ、1990年代のバブル崩壊、21世紀に入ってから、少子高齢化&人口減少社会が到来し、失われた20年と言われた長期停滞期の中、不動産価格&価値の二極分化の様相が鮮明になりました。

 登記をするには一定の費用と時間など手間がかかります。それなりの経済的、時間的な負担があるため、費用や時間をかけて登記しても無意味と思われる不動産、たとえば、価値が低い土地ならば、相続時に登記がされないまま放置され、時を経て、「所有者不明土地」が発生した、というメカニズムが多いでしょう。

 また、そもそも相続の際に家族間の信頼関係が強ければ争いになることもないので、立地の良い不動産であっても、その時は未登記のままでいいという人もいたはずです。

相続登記は費用や時間の負担が大きい

 相続が発生した際には、登記名義を変更するための相続登記が必要です。その準備としてさまざまな書類を用意しなければなりません。相続登記を経験した方なら分かると思いますが、事前に整理していなければ、この準備はとても面倒な作業となります。

 また、相続登記に必要な書類は、①「法定相続」による相続か、②家族間で話し合い「遺産分割協議」を経た上での相続か、③「遺言」により亡くなった方の意思を尊重した相続かによって異なります。

 以下は、誰が登記名義人になるのかが確定している場合の「法定相続」による名義変更に必要な書類です。ちなみに、これが未登記土地=所有者不明土地の場合、もともとの所有者を探し出すのに膨大な手間と費用がかかります。

 「法定相続」による名義変更に必要な書類(登記名義人が確定している場合)

・亡くなった人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・亡くなった人の住民票の除票(本籍地の記載があるもの)または、戸籍の附票(登記上の住所が記載されているもの)
・相続人の現在の戸籍謄本または抄本(被相続人が死亡した以後に取得したもの)
・相続人全員の住民票
・固定資産税の評価額がわかる固定資産税納税通知書、評価証明書


 これらの書類は、亡くなった人と登記名義人の関係を示すために必要です。相続人の人数などにより所要時間は異なりますが、資料収集から書類作成まで概ね1~2カ月はかかると思ってください。特に亡くなった人の出生から死亡までのすべての戸籍や住民票の除票を取得することは、事前にその人の足取りを知らないと、相続手続きを取り扱う各種窓口に何度も足を運ぶことになり、非常に大変です。

【関連記事はこちら】>>「相続」で必要な書類、手続きのスケジュールを解説!

現在は、相続手続きが簡単にできる制度がある

 そういったこともあってか、2017年(平成29年)から,全国の登記所(法務局)で、各種相続手続きに利用することができる「法定相続情報証明制度」が始まりました

戸籍謄本
相続手続きには、亡くなった人の戸籍謄本だけでなく、相続人全員の住民票なども必要で、人数が増えるほど大変だ 出所:PIXTA
法定相続情報証明制度とは
 登記所(法務局)に戸除籍謄本等の束を提出し、併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を出していただければ、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付します。
 その後の相続手続は、法定相続情報一覧図の写しを利用いただくことで、戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなります。(引用元:法務局「法定相続情報証明制度」について


 この制度により、相続手続きが従来よりも簡単にできるようになりました。

不動産登記にかかる費用

 不動産登記費用の内訳には大きく分けて3つあります。

 1つ目は、相続登記に必要となる戸籍等必要書類の取得費です。金額的には大したことはありませんが、前述のとおり非常に手間がかかる作業です。

 2つ目は、相続登記を法務局に申請する際にかかる登録免許税や手数料です。登記をするための実費で、登録免許税とは登記内容を変更する際、国に対して支払う税金です。相続のために登記名義を変更する際の税率は0.4%(登録免許税法 別表第一 一(二)イ)。登録免許税は、「課税価格(固定資産税評価額)×4/1000」で計算しますが、相続は担税力(税金を負担する力)が低いので、さまざまな特例があります。自分で行う場合は、窓口になる法務局や登記方法をホームページで調べて対応しましょう。無料相談もあるので、必ずアドバイスを受けましょう。また、無料相談は混み合っているため早めに対応することをおすすめします。

 3つ目は、相続登記を司法書士に依頼した場合の専門家の報酬です。先ほどの1つ目と2つ目の作業を任せる場合の代行手数料です。実際にいくらかかるかはケースバイケースで、私の経験でも数万円~数十万円まで幅があります。事前に信頼できる司法書士を知らないのであれば、複数確認、見積もりをするとよいでしょう。安ければいいということではないので、どのような作業をするのか、その内容まで確認し、比較しましょう。

 個人的には、手間がかかってもご自身で対応できる所までは対応した方が良いと思います。書類の収集が最も手間のかかる作業となりますが、最低限の委任状などは自ら用意する必要があるからです。

相続登記における今後の予測

 現在、相続により不動産を取得した人に対して、取得したその日から一定の期間内に相続登記の申請を義務付ける方向で検討されています。また、申請義務に違反した人に対して、過料による制裁なども検討されています。これは、今まで行われた実績はありませんが、建物の新築時の登記義務(1カ月以内)に対する過料を援用したルールです。

 ただ、前述の通り、登記申請は負担が大きいのも事実です。ですから、相続人からの簡易な申し出による氏名・住所のみの報告的な「相続人申告登記制度」の新設も検討されています。これは、登記名義人が誰なのか分かるようにするためです。

 また、今までの登記制度は、"モノ=不動産"にひも付いた制度でした。今後はマイナンバー制度への連動も加味していると思いますが、"ヒト=人"にひも付いた制度に変更される予定です。登記漏れを防止する目的もあり、登記官が、亡くなった人の名義の不動産目録を証明する「所有不動産目録証明制度(仮称)」の新設も検討されています。

 さらに、転居など住所変更などの登記の申請も義務付けることで、行方不明者を出さない仕組みにしようとしています。

 外国に居住する所有者に対しては、恐らく税理士などの士業の仕事になると思いますが、国内の連絡先を登記する制度の新設や住所確認書類の見直しについて検討されています。これは税制との関連があるようです。

 このように、登記申請の義務化だけでなく、さまざまな方策を組み合わせることで不動産の登記情報の更新を確実に図り、実効的な制度にしようとしています

 これで、「相続人が誰か分からない」という問題自体は徐々に解消されるのではないでしょうか。なお、相続登記においては、相続登記の義務化だけを見るのではなく、各種制度が創設されるので、子孫に禍根を残すことがないよう、情報収集することが大切です。

【関連記事はこちら】>>「権利未登記」「違法建築」「境界未確定」など”不動産の売却”でよくあるトラブルの解決法とは?

「所有者不明土地」シリーズのリンク集

◆概要編◆
1.「所有者不明土地」とは?

2.「所有者不明土地」関連の法改正の行方は?

 

◆ケース別解決策◆

3.「相続放棄」で親の実家の空き地・空き家を手放したい

4.「相続登記」をして土地の名義変更をしたい
5.「共有権解消」〜相続した共有名義の土地を処分したい

6.「共有物管理」〜近所の空き地・空き家をなんとかしたい

7.「共有物分割」〜隣地から越境した木の枝は切除できる!?

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