マンションに売り時、買い時があるのをご存じだろうか。それが築26年~30年。売る立場になれば、この築年数帯が最も短期かつ希望価格で売りやすい。また、購入する視点からは、この築年数帯のマンションは選択肢が多く、基本性能も一定のレベルに達している上、新築に比べると格段に安く手に入るというメリットがある。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
マンションは築26年を過ぎると格段に買いやすくなる
まずは、図表1をご覧いただきたい。これは、東日本不動産流通機構がまとめた、首都圏中古マンションの築年数帯別の成約件数と平均成約価格だ。
図表1 首都圏中古マンションの築年数帯別成約件数と成約価格
四半期レベルの成約件数は「~築5年」と「(築26年)~築30年」が700件台で、「(築6年)~10年」「(築11年)~15年」「(築16年)~20年」「(築21年)~25年」がそれぞれ1000件台の前半になっている。
成約件数の多さでいえば築6年~25年がメインだが、この築年数帯の中古マンションの成約価格の平均は5000万円以上で、中古マンションとしての割安感が乏しい。
それが、「(26年)~30年」になると、成約件数は1000件を切るものの、平均価格は5000万円台から一気に3000万円台に下がり、格段に買いやすくなるのだ。
築26年~30年の中古マンションなら、年収400万円台でもゆとりを持って買える
たとえば、「(築21年)~25年」のマンションを平均価格の5222万円で買う場合、自己資金222万円、金利0.375%、35年元利均等・ボーナス返済なしの条件で5000万円の住宅ローンを利用すると、毎月返済額は12万7049円になる。
家計の安全を考えて、返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)を25%に抑えるとすれば、610万円ほどの年収が必要になる。
それが、「(26年)~30年」の3696万円の中古マンションを、自己資金196万円、3500万円のローン(金利など条件は上記と同じ)で買うとすれば、毎月返済額は8万8934円に減少。やはり返済負担率を25%にするために必要な年収は427万円ほどに下がる。まだまだ若くてさほど年収が高くない人でも十分に購入できるようになる。
都内の賃貸マンションなどに住んでいる人であれば、10万円程度の家賃を負担している人もいるだろうから、無理なく買える範囲ではないだろうか。
1990年代の供給数は現在の2倍以上なので選択肢が多い
「(築26年)~30年」といえば、1994年から1998年竣工のマンションになる。不動産経済研究所のデータによると、新築マンションの首都圏の供給戸数は1994年が8.0万戸、1995年が8.5万戸、1996年が8.3万戸、1997年が7.1万戸、1998年が6.6万戸だった。
現在は年間3万戸前後まで落ち込んでいる点を考慮すれば、「(築26年)~30年」はストックが多い。その分、購入希望者からすれば選択肢が多いというメリットがある。
しかも、1990年、1991年のバブルのピーク時には、首都圏の新築マンションの平均価格は6000万円を超えていたのが、バブルがはじけて1990年代の半ばには4000万円台にまで下がった。
マンションが売れなくなって、中堅・中小のデベロッパーのなかには、マンション分譲から徹底したり、倒産するケースも増えた。その過程においては、在庫物件を投げ売りするケースも増えたといわれる。
そうした事情から、この時期にマンションを買った人たちは、それまでに比べてかなり安く購入できているので、無理して高く売らなくても十分に売却益が出る可能性が高い。その分、先の図表1にあるように、成約価格が安くなっている面もあるのではないだろうか。
1990年代からマンションの基本性能が飛躍的に向上
しかも、この時期はバブルがはじけてマンションが急速に売れなくなった時期であるにもかかわらず、大量供給が続いたので販売競争が激化、マンション分譲各社が「安くていいものを供給する」ことに力を入れるようになって、マンションの基本性能が著しく向上したといわれている。
たとえば、建物の上下階を分けるコンクリートの厚さを意味する「スラブ厚」は、それまで13cm程度だったのが、この時期に15cm、18cm、そして20cmと厚くなって、耐震性、耐久性、断熱性、遮音性などが飛躍的に向上した。同時に二重床、二重天井のマンションも増加した。
設備・仕様面でも、光回線、ケーブルテレビ、インターネットなどが普及し、キッチン回りではキッチンシンクに設置して生ゴミを処理するディスポーザー、食器洗い洗浄機が、浴室回りでは浴室乾燥機が普及し始めた。浴室の広さも120cm~160cmが中心だったのが、130cm~170cm、140cm~180cmに拡大した。
築26年~30年の中古マンションなら専有面積も広めが多い
「(築26年)~30年」の中古マンションは、比較的専有面積が広い物件が多いのも特徴だ。
図表2にあるように、首都圏における「~築5年」の築浅マンションの成約物件の専有面積の平均は63.1㎡なのが、築年数が長くなるにつれて専有面積がジワジワと広くなる。
図表2 首都圏中古マンションの築年数帯・都県別専有面積(単位:㎡)
逆にいえば、最近は価格高騰のなかで、できるだけ価格を抑制するために専有面積を圧縮する動きが強まっているという見方もできる。
いずれにしても、築16年~25年は70㎡台と最も広く、「(築26年)~30年」は65.0㎡とやや狭くなるものの、それでも築浅マンションに比べると広めの物件が多い。
首都圏のなかで平均専有面積が最も広い千葉県でみると、「(築26年)~30年」は専有面積が74.0㎡となっていて、広めのマンションを探している人にとっては、注目しておきたい築年数帯ということができる。
しかし、「築30年~」になると、専有面積は狭くなってしまう。首都圏平均は57.1㎡で千葉県でも66.4㎡台だ。築30年超の築古物件になると、新築時には3LDKではなく、2DKなどの間取りが多かったので、現在のようなゆとりある広さの物件を探すのが難しくなってしまうわけだ。
築26年~30年の中古マンションは、売る側にもメリットがある
では、売る側からみれば、「(築26年)~30年」にはどんなメリットがあるのだろうか。
まず、価格面でみれば、図表1にあったように、築30年を超えると成約価格が一段と安くなってしまう。
「(築26年)~30年」の首都圏平均が3696万円に対して、「築30年~」は2398万円だ。1000万円以上も安くなってしまうので、それまでに売却するのが得策。高く売るためには築25年までなら平均5000万円以上だが、それを逃しても、「(築26年)~30年」なら、「築30年~」より平均でも1300万円近く高く売れる可能性が高いのだ。
しかも、図表3にあるように、売却時の築年数が「26年~30年」のマンションの価格乖離(かいり)率が最も低くなっている。
「21~25年」は-6.2%なのが、「26~30年」は-3.2%に下がり、「31~40年」になると-5.0%に上がってしまう。「26~30年」は「5年以下」の築浅物件の-3.8%よりも低くなっているのだ。
図表3 中古マンション売却時の築年数帯別の価格乖離率
26年~30年の中古マンションは値引き率が最も低い
価格乖離率というのは、売り出し価格と成約価格の差額を比率で示すもので、数式としては、「(成約価格-売り出し価格)÷売り出し価格×100」で求められる。
たとえば、5000万円で売り出したマンションが4500万円で売却できたとすれば、(4500万円-5000万円)÷5000万円×100で、乖離率は-10%になる。
それが、4800万円で売却できたとすれば、(4800万円-5000万円)÷5000万円×100で、乖離率は-4%になる計算だ。
マイナスの数値が小さいほど、希望の売り出し価格に近い価格で成約できたことになる。
乖離率がいくらになるかは、売り出し価格の設定にもよるだろうが、「26年~30年」なら、適切な売り出し価格を設定すれば、売り出し価格に近い状態で売却できている人が多いのではないだろうか。
さほど大きな値引きをしなくても売れるケースが多いわけで、買い替えが前提の売却でも、計画を立てやすいのではないだろうか。
耐震性も安心できるマンションが中心
なお、2024年は「令和6年能登半島地震」で幕を開けたこともあり、築年数の長い中古マンションは耐震性が気になるところ。
数百年に一度の震度6強程度の地震でも倒壊・崩落しないことが前提の新耐震基準が施行されたのが1981年。1990年代に建てられた、築26年~30年のマンションなら耐震基準を満たしているはず。その意味では、比較的安心して購入することができ、売るにも売りやすい面がある。
【関連記事】>>旧耐震基準と新耐震基準の違いについて解説! 新耐震基準でも、油断せずに耐震診断を
さまざまな面で、マンションを売るにも、買うにも築26年から30年を目途にするのがいいのではないだろうか。
【築年数別のマンション売却】記事一覧
・築10年で売ると損か得か?
・築20年は売り時?
・築30年たつと売りにくくなる?
・築40年でも売れる?
・築50年は売却できない?
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