都心部のマンション価格高騰により、パワーカップルがペアローンでマンションを購入するケースが増えています。一方、不動産の売却理由として多いのが離婚です。当記事では、ペアローンで家を購入・売却する際、知っておいてほしい注意点を解説します。(一心エステート株式会社代表取締役:高田一洋)
パワーカップルが離婚で不動産を売却する際の注意点とは
ニッセイ基礎研究所では、パワーカップルの定義を「夫婦ともに年収700万円以上」としています。パワーカップルが含まれる年収1,200万円~の世帯は、日本全世帯の7.2%にあたり、約390万世帯にのぼるそうです。
パワーカップルという言葉が登場したのは2010年頃。X(旧:Twitter)で、当初は”オバマ大統領とミシェル夫人”、”最も稼ぐパワーカップルは2人で年収100億円”など、現実離れした経済力を持つ夫婦やカップルを指す言葉のようでした。
その後、2013年に発売された書籍『夫婦格差社会』(中公新書、橘木 俊詔・迫田 さやか著)で、”夫婦ともに高収入の「パワーカップル」と、夫婦ともに低収入の「ウィークカップル」”という言葉が使われ、現在のような意味合いとして浸透するきっかけになったと考えられます。
パワーカップル世帯数は、2022年時点で37万世帯と10年前に比べて約16万世帯増加しています。
不動産売却理由は約3分の1が離婚
さて、今回取りあげるパワーカップルの離婚に関連した不動産売却ですが、パワーカップルに限らず、不動産を売却する理由が離婚であるケースは、売却相談のなかでもかなり多いです。
私の感触として、不動産売却案件の3~4件に1件は離婚が理由になっています。2分に1組が離婚しているといった話もあるので、当然に割合も高いのでしょう。
私が商圏としているエリアが東京都心部であることを考えると、パワーカップルである可能性は高く、物件の価格帯も高額なものが多くなっています。
離婚時、夫婦で所有している不動産には、いくつかの選択肢があります。売却してその売買代金を財産分与するケース。夫婦のどちらか片方が住み続けるケース。賃貸として貸し出し、収益を按分するケースもあります(あまり現実的ではありません)。
後ほど説明するように、離婚時の不動産の取り扱いは売却することをおすすめしていますが、どの選択肢においても、パワーカップルならでは、また最近の情勢だからこその注意点があります。それは“ペアローン”を利用しているという点です。
パワーカップルは「ペアローン」に注意
ペアローンとは、一つの物件に対し、夫婦(または親子)が、それぞれ契約者として住宅ローンを組むというもので、以下のようなメリットがあります。
・夫婦のどちらかが単独でローンを組むよりも借入金額を増やすことができる
・夫婦の収入を合算する収入合算と比べて、夫婦共に住宅ローン控除を受けられる
・ペアの両者が団信による保障を受けられる
ペアローンでマンションを購入するケースが増えている
この2~3年で、パワーカップルが都心の物件を購入する際、1億円以上のペアローンを組むケースがぐっと増えたように感じます。
そのもっとも大きな理由は、高騰する都心部のマンション価格です。
東京カンテイによると、2023年に東京23区で取引された中古マンション70㎡当たりの価格は7,055万円でした。2014年が4,023万円だったので、10年で75%以上価格が上昇しています。
さらに都心部に絞ったデータによると、2023年12月の東京都心6区(千代田、中央、港、新宿、文京、渋谷)の70㎡当たりの中古マンション価格は、1億995万円でした(出典:東京カンテイ)。
共働きのパワーカップルだからこそ、職場から近い山手線沿線の新宿・渋谷・池袋・恵比寿・目黒といった主要な駅、金融関連の会社が多い六本木周辺、商社やメガバングなら東京駅一帯(丸ノ内から大手町、八重洲)などで住まいを探すため、必然的に物件価格は高くなります。
1億円のマンションをフルローンで借りれば、月々の返済額は約25万円。思ったより安いと感じるかもしれませんが、離婚してどちらかがローンを支払い続けるとなると、毎月の手取り40万円程度(年収700万円)でローン支払いが25万円となれば生活は厳しくなるでしょう。
つまり、パワーカップルが離婚した場合、不動産はほぼマストで売却しなければならないということです。
先述したとおり、1億円以上の物件が増えたのはここ2~3年であることを考えれば、パワーカップルが離婚を理由として不動産を売却するケースは今後増えていくと考えられます。
なぜペアローンは離婚時に注意が必要なのか
では、なぜペアローンは離婚時に注意が必要なのでしょうか。主に2つの理由があります。
売却するときに夫婦両方の同意が求められる
1つ目は、売却するときに夫婦両方の同意が求められるという点です。ペアローンは共有名義の住宅ローンで、所有権は夫婦それぞれが持つことになります。
そのため、夫婦どちらかが売却をしようとしても、もう一方が同意しなければ売却することができません。
また、金額の合意形成が難しい可能性もあります。1億円で売却することに合意できていたとしても、金額の交渉が買主から入ることもあります。500万円値引きの交渉が入って9,500万円になったときに、旦那はOK、奥様はNGといった場合、ただでさえ離婚で感情的になっているなかでは、交渉がかなり難航するケースも多いです。
ペアローンは連帯債務
2つ目は、ペアローンが”連帯債務”であるということです。連帯債務とは夫婦双方がそれぞれの連帯保証人になっているということです。連帯保証人は一般的な保証人よりもより大きな責任を背負っています。
通常、保証人は、債権者がいきなり保証人に債権の支払いを求めてきた際に、まずは債務者に支払いを請求するように求めることができます(「催告の抗弁」)。
また、債務者がローンを支払う資産や能力があるにもかかわらず返済を拒否した場合は、保証人はまずはそれらの資産を強制執行することを求めることができます(「検索の抗弁」)。連帯保証人は、「催告の抗弁」や「検索の抗弁」といった権利を持ちません。
再婚して、新しくペアローンで住宅を購入しようとしたら、前の家の連帯債務が残っていたばかりに、返済比率がオーバーして借入可能額が大幅に減額されたといったケースもあり得るのです。
【関連記事】>>夫婦で一緒に借りた住宅ローンは、離婚すると「思わぬトラブル」の原因になる!連帯保証、ペアローンのデメリットを解説
ペアローンで購入した不動産、離婚時に売却すべき理由
先に述べた通り、離婚する場合には住んでいた家を売却することをおすすめしています。
その一番の理由は、財産分与が簡単であることです。離婚時には、結婚後に夫婦で築いた財産を公平に分けなければなりません。
物件を持ち続けて夫婦のどちらかが住み続ける場合には、相手方が持っている不動産の所有権の割合(持ち分)を、住み続ける側の人が買い取るといった手続きや資金が必要で、ただでさえ離婚によって疲弊している双方が条件をすり合わせることや、資金面でも難しいケースが多いです。
また、住み続ける奥様とその子どもに対し、元夫が養育費の代わりとして住宅ローンを払い続けるといったケースもあるようですが、返済が滞るケースも多く、差し押さえから競売、強制退去といった危険性もあります。
離婚時の財産分与の方法としては、住まいである不動産を売却することがもっとも手間がかからないのです。
離婚時の不動産売却、オーバーローンは地獄の始まり
離婚時の不動産売却の際に注意しなければならないのがローン残債です。
原則、不動産にローン残債がある場合、売却した代金によってその残債が一括返済できるか、売却代金で返済できない場合は、自身の持ち出しによって差分を補填しなければなりません。
住宅ローンを借り入れた際、金融機関はその”借金のかた”として抵当権を、その不動産に設定します。不動産を売却するにはこの抵当権を外さなくてはなりません。
売却代金がローン残債よりも上回るケースを”アンダーローン”と呼びます。アンダーローンであれば、ローン残債を一括で返済し、残った代金を夫婦で分与するだけなので比較的スムーズに売却は完了します。
しかし、売却代金が残債を下回る“オーバーローン”の場合は地獄の始まりです。夫婦それぞれが持ち出しで残債を返済するか、それでも足りない場合は、離婚して他人になったあとも、不足分を補うために組んだローンを支払い続けるという悲惨な未来が待っています。
※売却時に完済できない場合は、売却できず、離婚後もローンを支払い続けることになります。
【関連記事】>>離婚の際、住宅ローンが家を売っても完済できない「オーバーローン」状態! それでも売却するには?
オーバーローンを避けるため、よい物件を選ぶべき
オーバーローンを避ける方法としてもっとも重要なポイントは、購入してから価格が下がらないばかりか、価格が上昇する可能性のある物件(マンション)を選ぶことです。
これまでのコラムで紹介してきたポイントと重複する部分もありますが、マンションの資産性は立地で決まります。まず、再開発や新駅などで人が集まる要因ができるところは狙い目です。
タイムリーな例としては、2024年1月に報道された、京浜急行電鉄本線「北品川」駅周辺でしょうか。日鉄興和不動産、三菱地所、三菱地所レジデンス、旭化成不動産レジデンスをはじめとした総勢13社が参画し、13.5haもの大規模な再開発が予定されているため、今後盛り上がる可能性が高いです。
また、シンボルマンションができそうなエリアもおすすめです。シンボルマンションとは、その地域のシンボルとなるような大規模・話題となるマンションです。新築マンションはどんどん高騰していっていますが、それでも都内の物件は売れています。価格の高い新築マンションが売れれば、その周辺の中古マンションの価格も引っ張られて上昇します。
たとえば、白金・高輪・三田エリア。「白金ザ・スカイ」や「三田ガーデンヒルズ」ができたことで、麻布十番や魚籃坂の物件価格はぐいぐい上がっています。
湾岸エリアにおいても、豊洲の「ブランズタワー豊洲」、晴海の「ハルミフラッグ」、勝どきの「パークタワー勝どきミッド」といったシンボルマンションによって、周辺の物件価格は上がっています。
マンションは金額が高くなるほど投資の要素が強くなります。パワーカップルが購入する1億円を超える物件であれば、なおさらリセールの利くものを選ばなければなりません。
私の持論ですが、東京や都心に限っては、”終の棲家(ついのすみか)”という言葉は死語になったと思っています。離婚だけではなく、ライフイベントに合わせて住まいを替える、そのためにはリセールバリューの高い物件を購入する必要があるのです。
【関連記事】>>マンションを賢く住み替える秘訣とは? 「リセール指数」が高い物件で高値売却を狙おう!
パワーカップルの離婚時、売却を賢く進めるポイント
パワーカップルの離婚は資産も大きいため、財産分与でもめる可能性が高いです。一番は、夫婦円満で離婚しないことなのですが、そんなわけにもいきません。
私自身、これまで何件も離婚による不動産売却をお手伝いしてきたなかで、重要だと感じるのは、離婚の不動産売却は夫婦双方が冷静に進めないと難しいということです。
精神的にも負担が大きい離婚ですが、不動産の売却価格やその分け方、売却スケジュールといった取り決めは、感情的にならずに進めなければ成功しません。
離婚を前提としたマンション売却でご主人と商談をしていたら、別居していた奥様が武装(催涙スプレーとフライパン)して乗り込んできたこともあります(幸運にもこの案件はスピーディーに買い手が見つかりましたが…)。
また、パワーカップルと呼ばれるような収入が多く、資産がある程度ある夫婦においては”婚前契約”をあらかじめ締結しておくことも一つの方法かもしれません。
アメリカのセレブ同士の離婚などで度々耳にする婚前契約ですが、日本でも有効な契約で、離婚時の財産分与やその範囲などをあらかじめ取り決めることで、トラブルを防ぐことができます。
ペアローンを組むのであればなおさら、もしもの離婚の際のリスクヘッジのためにも、婚前契約を検討してみてください。
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・離婚したい!と思ったときに「家を売るといくらになるか」調べる際の注意点
・離婚時の不動産売却の流れ&5つの処分方法を解説!
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