北区(東京都)は、荒川などの一級河川が流れる自然豊かなエリアですが、一方で、水害リスクもあるエリアです。ここでは、北区の川をめぐる治水の歴史や都市の発展をじっくりと紹介していきます。洪水ハザードマップだけでは分からない、川と川辺での生活をイメージしてみてください。(ライター・藤本惣平)
北区を流れる河川や駅の標高
東京都の水源のほとんどが河川水であるように、川はわたしたちにたくさんの恵みをもたらしてくれます。また河川周辺の地域は、河川敷や公園などが整備されていることも多いので、とくに子育て世代に人気のある地域です。ただし、近年頻発する集中豪雨などによる水害リスクについて、よく知っておく必要があります。
本企画では、東京都内23区の川の流れや歴史を追うことで、水景に刻まれた都市の物語を読み解くとともに、水害リスクについても紹介していきます。第1回は北区です。
北区は、東京都23区の北部に位置し、都内では城北地区に分類されます。北は埼玉県川口市および戸田市、東は荒川区と足立区、西は板橋区、南は文京区と豊島区に面しています。
北区の総面積は20.61km²で、23区内では11位、23区の総面積(627.57km²)の3.28%を占めています。また、北区内は図表1のように「赤羽地区」「王子地区」「滝野川地区」の3つに区分けされています。
【図表1】北区の3地区と河川の位置関係
北区には4つの河川が流れている
北区には以下の4河川が流れており、図表1のような位置関係となっています。
・荒川(全長173.0km)
埼玉県および東京都を流れ東京湾に注ぐ。荒川水系の本流で一級河川に指定されている。
・新河岸川(全長34.6km)
埼玉県および東京都を流れる一級河川。東京都北区の岩淵水門先で隅田川に合流する。荒川水系隅田川の支流である。
・隅田川(全長23.5km)
東京都北区の岩淵水門で荒川から分岐し東京湾に注ぐ一級河川である。
・石神井川(全長25.2km)
東京都小平市から東京都北部を東へ流れて北区内で隅田川に合流する。一級河川で荒川水系の支流である。
北区内の鉄道路線駅の所在地の標高は?
北区内を走る路線は、JR京浜東北線、JR埼京線、JR東北本線、JR山手線、東京メトロ南北線、都電荒川線(東京さくらトラム)の6路線で、図表2は、それぞれの鉄道路線駅所在地の標高を表しています。
【図表2】北区内を走る鉄道路線駅所在地の標高
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「赤羽地区」〜かつての河川の名残を楽しめる地区だが、水害に注意
浮間、赤羽、赤羽北、赤羽台、赤羽西、赤羽南、岩淵町、志茂、西が丘、桐ヶ丘
赤羽地区は北区の北部に位置し、地区内を走るJR京浜東北線の西側と東側で標高の落差が大きいのが特徴です。
JR京浜東北線の西側は武蔵野台地にあたり、比較的標高が高く、小さい河川などによって削られた谷地が複雑に分布し、起伏に富んだ地形をしています。一方、赤羽地区の北部からJR京浜東北線の東側には、荒川および新河岸川が流れており、その流域は低地となっています。
また、JR赤羽駅周辺の標高は4.5mと低地ですが、駅西方から500メートルほど離れた赤羽台1丁目周辺の標高は20.6mと、その落差が際立ちます。
赤羽地区を流れる、荒川、新河岸川、隅田川
赤羽地区北部から、岩淵町、志茂に沿って浮間北端と対岸の埼玉県戸田市の間を流れるのが、一級河川である「荒川」。荒川流域の河川敷は、緑地や野球場などが整備され、近隣の人々の憩いと潤いの場となっています。
北区内を抜けた荒川は、足立区内を通り、江東区と江戸川区の区境を経て東京湾へと流れ出ています。
また、浮間の南端を流れる「新河岸川」は、低地の東側へ、赤羽北、岩淵町を縫うように流れ、岩淵水門付近で「隅田川」に合流します。
隅田川は、岩淵水門のある志茂から王子地区の神谷を経て、足立区と北区の区境を流れ東京湾へと流れていきます。
隅田川の洪水を防ぐ「岩淵水門」
荒川と隅田川の分岐点(所在地は志茂)にある岩淵水門は、荒川と新河岸川・隅田川と3つの川をつなぎます。平常時は水門が開けられていますが、荒川上流からの流量が増えた場合は水門を閉め、隅田川の洪水を防ぎます。
この岩淵水門には新旧ふたつの水門があり、旧水門は通称「赤水門」と呼ばれ、1916年に着工、1924年に完成。新水門は通称「青水門」と呼ばれ、1974年に着工、1982年に完成しました。青水門は、赤水門の老朽化、地盤沈下対策、洪水調整能力の強化のため、旧水門から300mほど下流に設置されています。
荒川の氾濫時には、注意が必要な地区
東京の下町にあたる荒川流域(現在の隅田川流域にあたる)では、江戸時代から明治時代にかけて洪水が頻発していたため、現在の岩淵水門のあたりを分岐点として、上流を荒川放水路とする計画が立てられました。この荒川放水路事業は、1911年に着手され、並行して進んでいた旧岩淵水門の完成(1924年)で上流から下流までつながったことで、1930年に放水路が完成。1965年には、荒川放水路が荒川の本流となったことで、分岐点である岩淵水門の下流が「隅田川」に改称されています。
また、「北区の水害年表」によると、1930年以降、赤羽地区荒川流域にあたる赤羽、岩淵町、志茂において、川から水があふれ出る外水氾濫(※)の頻度は低くなってきており、1980年以降は皆無となっています。
ただし、「2017年度版 東京都北区洪水ハザードマップ(荒川が氾濫した場合)」では、家屋倒壊等氾濫想定区域とされており、有事の際には注意が必要な地域に指定されています。
このほか赤羽地区には、かつて荒川の川筋であった池とバードサンクチュアリ(野鳥を主とした野生生物が安心して生息できる場所)を併設した「都立浮間公園」や、旧岩淵水門の近くにあり、荒川を一望できる「荒川岩淵関緑地バーベキュー場」、赤羽西の台地にかつての河川に削られた谷状の地形を有し、湧水がある「赤羽自然観察公園」などが点在します。このように、赤羽地区は、かつての河川の名残などに接することができる地域なのです。
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「王子地区」〜さまざまな水景が楽しめ、水害の影響も受けにくい地区
王子、王子本町、上十条、十条台、十条仲原、岸町、中十条、東十条、神谷、豊島、堀船
王子地区は北区のほぼ中央部を横断するように位置しています。赤羽地区と同じく、JR京浜東北線の西側は武蔵野台地にあたり、高台の合間合間に谷地が複雑に分布する起伏に富んだ地形が特徴です。また、JR京浜東北線東側の隅田川流域に向かって広がる地域は低地になっています。
JR王子駅周辺も低地部にあたり、標高は5.0mですが、京浜東北線を挟んだ西隣にある飛鳥山公園は標高16.9mと、道行きは急激な勾配となっています。
王子地区を流れるのは隅田川と石神井川
王子地区東部の神谷・豊島に接しながら、足立区と北区の区境を流れる「隅田川」は、岩淵水門で荒川から分岐した一級河川です。流域には低層住宅や高層マンションが混在しているのが特徴。このあと王子地区内を抜けた隅田川は、荒川区と足立区、台東区と墨田区の区境を経て東京湾へと注がれていきます。
「石神井川」は、板橋区から北区内の滝野川地区へ流れ込む一級河川です。王子地区内の王子本町・王子・豊島を経て、堀船付近で隅田川に合流します。
王子地区は洪水の影響を受けにくい地区
JR王子駅前は石神井川が蛇行して流れています。そのため、市街地化が進んだ1958年頃から河川の氾濫による浸水などが増えています。とくに、1966年の台風4号の水害被害は甚大なものでした。そこで、1968年から1983年にかけて、音無橋付近から飛鳥山公園の地下を通り、ふたたび石神井川本流に合流する直線分水路(飛鳥山分水路)を貫通させました。この浸水対策の結果、「北区の水害年表」によると、王子駅近辺における外水氾濫は少なくなっています。
また、「2008年度版 東京都北区洪水ハザードマップ(隅田川・新河岸川・石神井川・神田川が氾濫した場合)」でも、所々で0.5m未満(屋外で大人の膝まで浸かる程度)となっており、洪水被害は少ないと想定されている地区です。
名主の滝公園など、水と緑豊かな王子地区
飛鳥山分水路の直線化工事後から、石神井川の音無橋近辺では、北区の公園整備事業が進み、現在は「音無親水公園」として地域の住民に親しまれています。また、音無親水公園から西へ向けて石神井川沿いの遊歩道への入り口となっています。
JR京浜東北線王子駅西側は、武蔵野台地と川に削られた谷地が繰り返されるダイナミックな地形となっており、かつては「王子七滝」と呼ばれる7つの滝がありました。約8mの落差のある滝から落ちた水が、小川となって園内を巡る「名主の滝公園」は、王子七滝のうちのひとつが残され、整備された公園です。
また、「清水坂公園」も武蔵野台地の崖地を生かしたもので、園内には地下水をくみ上げた渓流が、まるで山間を縫うように流れています。
このように王子地区は、水と緑豊かな景観が繰り広げられる、希有なエリアといえるでしょう。※堀船は、滝野川地区に入れていましたが、王子地区に修正します。
「滝野川地区」〜四季折々の花木が楽しめる遊歩道などが魅力だが、内水氾濫に注意
滝野川、田端、田端新町、東田端、栄町、昭和町、中里、西ヶ原、上中里
滝野川地区は北区の南端に位置し、地区東端を除いては台地となっていますが、高台中央部の北から南にかけては谷地となっているのが特徴です。
西端の滝野川に面するJR板橋駅の標高は24.9mですが、谷地に当たる中里に面するJR駒込駅は15.3m、隣駅のJR田端駅は5.3m、JR駒込駅から北方向約1㎞にある上中里駅は10.5mとなっており、起伏の激しさを物語っています。※駒込駅の標高を5.3mから15.3mに、上中里駅の標高を23.7mから10.5mに訂正します。
滝野川地区を流れる、滝野川、石神井川
石神井川は、北区の西隣にある板橋区から、滝野川地区内の滝野川を経由して、途中、王子地区の王子本町・王子・豊島・堀船を経て、隅田川に注がれていきます。
滝野川地区の北部に位置する「音無親水公園」は、武蔵野台地の中央部を東西に流れる石神井川流域にあたります。石神井川の両側には遊歩道が整備され、桜をはじめ、紅葉、欅(ケヤキ)、橡(クヌギ)など、四季折々の花木が咲く緑地公園が配置されており、人々の散策路として親しまれています。
また、飛鳥山公園のすぐ近くにある「滝野川公園」も水と緑に囲まれ、子どもたちの遊び場や高齢者の憩いの場として利用されています。
隅田川に近い地域は、水害に注意!
「北区の水害年表」によると、滝野川地区内は、もともと外水による氾濫が起こりにくい地帯でした。しかし、1977年頃から、ヒートアイランド化による集中豪雨が発生するようになっています。さらに、大量の降水が川に排水されず、排水路の整備不十分などの原因で起こる内水氾濫(※)が増えている地区です。
また、「2008年度版 東京都北区洪水ハザードマップ(隅田川・新河岸川・石神井川・神田川が氾濫した場合)」では、隅田川に近い地域は2.0m未満(1階の軒下まで浸かる)となっているので注意が必要です。
西ヶ原にある霜降銀座商店街から本郷通りを越え、田端銀座商店街へと続く谷田川通りは、かつて流れていた谷田川が暗渠(地下に設けられた水路)となってできた通りです。谷田川は、現在の東京都中央卸売市場豊島市場(豊島区巣鴨)から染井墓地(豊島区駒込)内を経て、豊島区駒込と北区西ヶ原の区境、台東区谷中と文京区千駄木の間を流れ、上野の不忍池へと注がれていましたが、1932年からの工事によって暗渠となっています。
また、滝野川地区南端の旧中山道(滝野川銀座商店街)南側に平行している一般道も、かつては谷端川が流れていました。粟島神社(豊島区要町)境内の弁天池を水源とし、北区、板橋区、文京区を経て神田川に注がれていましたが、大雨による溢水、生活排水などによる水質悪化のため、1962年に廃止。現在は全区間が暗渠の下水道となっています。
北区の洪水ハザードマップ・防災施設・避難所をチェック
以上のように、北区は水と緑豊かな地区であると同時に、集中豪雨などによる河川の氾濫、内水氾濫といった水害に注意が必要な区域といえるでしょう。
そのため、有事の際に備え、北区が発表している洪水ハザードマップや避難所・自主避難施設を、よく確認しておくことが重要です。
以下は、荒川が氾濫した場合の洪水ハザードマップです。
以下は、隅田川・新河岸川・石神井川・神田川が氾濫した場合の洪水ハザードマップです。
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