賃貸住宅に入居する際、ほとんどの場合で火災保険に加入する。ところが、火災保険の補償内容をよく理解せず契約している人も多い。実は、賃貸住宅でも火災保険は自分で選ぶことができる。補償内容や保険金額、保険料は会社によってさまざまなので、実際には多くの選択肢があるのだ。(住宅・不動産ライター 椎名前太)
・「賃貸住宅の火災保険」はなぜ必要?
・賃貸住宅用の火災保険の相場は?
・「家財の保険」とは
・「借家人賠償責任保険」とは
・「個人賠償責任保険」とは
・引越し先でも、火災保険は引き継げる!
・まとめ
「賃貸住宅の火災保険」はなぜ必要?

アパートやマンションにかかわらず、賃貸住宅に入居する際には、火災保険への加入が求められることがほとんどだ。なぜ、賃貸の火災保険に加入しなければならないのだろうか。大きな理由は3つ。
・自分の財産を守るため
・隣家などの財産を守るため
・借りている部屋の原状回復(大家さんに対する補償)のため
このことから、賃貸住宅用の火災保険は、「①家財の保険」「②借家人賠償責任保険」「③個人賠償責任保険」の3つがセットになっている商品が多い。

これらの詳細については、後ほど細かく説明していこう。
賃貸の火災保険料、相場はどれぐらい?
賃貸の火災保険は、自分で選ぶことができる
賃貸住宅の火災保険に加入する人の多くは、賃貸契約を結ぶタイミングで、不動産会社から用意された火災保険に入るケースがほとんど。だいたい1年契約で1万円、2年契約で2万円などと、一括で支払うことが多いのではないだろうか。
実は、賃貸住宅の火災保険は自分で選ぶことができる。このことを知らない人が多いために、不動産会社が勧めてきた商品に加入しているのだ。保険に限ったことではないが、相場を知るためにも、まずは複数社から見積もりを取るべきだ。
賃貸の火災保険料、相場はどれぐらい?
今回は、賃貸用火災保険を提供している3社(チューリッヒ少額短期保険、日新火災海上保険、ジャパン少額短期保険)と、都民共済の保険料を、実際に見積もりした。都道府県民共済は、民間の損害保険会社より比較的保険料(掛け金)が安いといわれている。
チューリッヒ少額短期保険
「ミニケア賃貸保険」
年間保険料:4770円
家財の保険金額:300万円
借家人賠償責任:1000万円
個人賠償責任:1000万円
生活再建費用:10万円
修理費用:100万円
被害事故法律相談費用等:30万円
※出典:チューリッヒ少額短期保険WEBサイト「お見積り」
日新火災海上保険
「お部屋を借りるときの保険」
年間保険料:6000円
家財の保険金額:300万円
借家人賠償責任:2000万円
個人賠償責任:1億円
被害事故法律相談費用等:30万円
※出典:日新火災海上保険WEBサイト「お見積り・お申込み」
ジャパン少額短期保険
「新すまいRoom保険A」
年間保険料:7600円
(ただし、契約期間は2年間のみ)
家財の保険金額:300万円
借家人賠償責任:1000万円
個人賠償責任:1000万円
※出典:ジャパン少額短期保険WEBサイト「かんたん自動お見積もり」
千葉県民共済「新型火災共済」
年間掛金:5120円
(賃貸用火災共済:3440円、個人賠償責任:1680円)
家財の保険金額:300万円
借家人賠償責任:1000万円
個人賠償責任:3億円
※出典:都民共済WEBサイト「掛金シミュレーション」「個人賠償責任保険」
これを見てもわかるように、賃貸住宅用の火災保険は、自分で選べば「年間約5000円~8000円以内」に収まる。現在、年間1万円程度の保険料を支払っている人は、ぜひ一度、見積もりを取ってみることをおすすめする。 今回、見積もりを取った条件としては、「家財の保険」「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」の3つがセットになっていること、保険金額は300万円、契約期間は1年から2年とした。保険料(共済の場合は掛金)の相場は、1年間で6000円前後といったところだ。
また、千葉県民共済の保険料(掛け金)は、共済の割に安く思えないかもしれないが、借家人賠償責任が一律で3億円と、かなり高額だ。単純に保険料だけで選択するのは得策ではないことが分かる。
【関連記事】>>専門家が選ぶ、おすすめ火災保険は?【賃貸編】
賃貸の火災保険
①自分の財産を守る「家財の保険」
それではここから、賃貸の火災保険に含まれている各補償について説明していこう。まずは、家財の保険を解説する。
失火責任法により、もらい火での損害も自分で補償しなくてはならない
日本には、「失火責任法」という法律がある。失火者に重大な過失※が無い限り、損害賠償責任を負わせないというものだ。
つまり、隣近所などからのもらい火で自分の家財が損害を受けたとしても、多くの場合、その失火者に損害賠償請求をすることはできない。自分の財産は、自分で守らなくてはならないのだ。
1.台所のガスコンロに天ぷら油の入った鍋をかけて加熱中、その場を離れて出火させた場合。
2.たばこの吸い殻が完全に消えたことを確認せず、その吸い殻を紙類が入ったビニール製ごみ袋に入れて放置したまま外出し、出火した場合など(出典:日本損害保険協会)
賃貸住宅の場合、建物は大家の所有物なので、建物の火災保険には大家が加入する。賃借人が入るのは、部屋のなかに収まっている自分の持ち物(財産)への火災保険ということになる。これが「家財の保険」だ。
家財の保険は、火災だけではなく、落雷や爆発、風災、雹(ひょう)災、雪災などによる損害も補償範囲となっているのが一般的。このほか、盗難なども補償範囲に含まれていることが多い。ただし、地震による損害は地震保険の補償範囲となるので、オプションで地震保険に契約しなくてはならない。
ここで注意したいのは、宝石や美術品といった一定以上の金額のものは、火災保険契約時に損保会社に申し出ておかないと、補償の対象外になるということだ。各損害保険会社によって違いはあるが、30万円以上の品物を申し出の対象にしている会社が多い。
家財の保険金額はどれぐらいに設定したらいい?
家財の保険をかけるとき、保険金額をいくらに設定したらいいのか、迷う人も多いだろう。
保険金額は、家具や家電、衣服などを改めて買い直す場合にかかる金額を設定する。だが、実際にどれぐらいの金額がかかるか、ひとつひとつ計算する人はほとんどいない。そこで、年齢や世帯人数に応じて目安となる金額があるので、こちらを参考にするといいだろう。以下は、損保ジャパンが提示している家財評価表だ。
また、上記の表には載っていないが、1人暮らし世帯の場合だと、200万円から300万円程度が一般的だと言われている。
また、本当は300万円分の家財しかないのに、500万円の火災保険に加入した場合、事故時に500万円支払われることはない。保険金の支払い額は、実際に家財を再購入するための費用が限度額になるからだ。
そのため、多めの保険金額を設定しても保険料が上がるだけで、メリットはない。
【関連記事】>>火災保険の対象には「家財」も必要? 保険の対象になるもの・ならないものや、保険金額の決め方を確認しよう!
賃貸の火災保険
②大家さんへの補償「借家人賠償責任保険」
賃貸住居の火災保険に「家財の保険」と必ずセットになっているのが、「借家人賠償責任保険」。借家人賠償責任保険とは、借主が部屋に損害を与えてしまった場合に備えるものだ。
火災や爆発、漏水などによって、借りている部屋に損害を与えてしまったときや、部屋を退去するときには、借主は大家に対して原状回復の義務がある。原状回復に必要な費用を補償するのが、この借家人賠償責任保険だ。
この義務は民法によって定められており、「善管注意義務」と「原状回復義務」がそれにあたる。
民法第400条の「善良な管理者としての注意義務」のことで、賃貸住宅の借主は借りている部屋や室内の備え付けの設備に対して、一般的・客観的に要求される程度の注意をしなければならない。例えば、風呂場やトイレなどの水回りの清掃を怠り、著しくカビや汚れを発生させた場合や、こぼしたジュースをそのままにしてフローリングを劣化させる、壁面に釘やネジを打ち込んで穴を開ける……など、入居者の管理が行き届いていないときには、「善管注意義務違反」となる。
借主の使用により発生した建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損傷などを復旧する義務。つまり、部屋を退去する際には、借りた当初の原状に回復して返還しなくてはならないというものだ。ただし、通常使用による損耗や、経年劣化について回復する義務はない。
この2つの義務があるために、故意か過失かにかかわらず、借りている部屋に対して損害を与えると、大家から損害賠償を求められることがある。過失や偶然の事故によって損害を与えてしまった場合には、この「借家人賠償責任保険」から、保険金が支払われる。
ただし、注意すべきは「借家人賠償責任保険」の補償範囲は、火災、破裂・爆発、漏水事故に限られるということ。例えば、「洗濯機のホースが外れて部屋が水浸しになった」「ストーブの消し忘れでボヤを起こし、壁や床が焼けてしまった」といった場合は保険金が受け取れる。
一方、日常生活で発生するほとんどの事故が、破損・汚損などだといっていい。「子どもが走り回って床に傷がついた」「模様替えをしたら壁紙がはがれた」などだ。ところが、破損・汚損は補償範囲に含まれていないので、こういったケースだと保険金は受け取れない。
賃貸の火災保険
③「個人賠償責任保険」では日常のトラブルに備える
大家への責任とは別に、隣人に対して損害を補償しなくてはならないケースもある。そのための備えが「個人賠償責任保険」だ。
たとえば、漏水事故などが起きて、下の階の部屋が水浸しになってしまった場合、その損害は事故を起こした側が補償することが多い。こうしたときに、個人賠償責任保険を契約していると、その損害を保険金でまかなうことができる。また、火災で隣家に損害を与えてしまった場合も、個人賠償責任保険が利用できる。
そのほかにも、個人賠償責任保険では、日常生活のさまざまな事故に対応している。ケガをさせてしまった相手への治療費や、買い物中に高価な売り物を壊してしまった場合の弁償などにも保険金が支払われる。また、保険に入っている本人だけでなく、家族が損害賠償責任を負ってしまった場合にも対応できる。
なお、個人賠償責任保険を契約する際は、自動車保険やクレジットカードに付帯していることがあるので、重複契約になっていないか確認したほうがいいだろう。2つの損保会社で個人賠償責任保険をそれぞれ契約している場合、保険金は2社から半分ずつ支払われる。その際の手続きは2倍になるので注意したい。
このような理由から、一般的な賃貸住宅向けの火災保険は多くの場合、「家財の保険」「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」の3つがセットになっている。「借家人賠償責任保険」「個人賠償責任保険」は特約になるので、単独で加入することはできない。
火災保険の契約途中で引っ越した場合はどうなる?
入居している賃貸住宅から引っ越す場合、加入中の火災保険をそのままにしてはいないだろうか? もちろん、引越しと同時に契約期間が満了するのであれば問題ない。実は、1年もしくは2年間一括で契約した部屋の火災保険は、退去時に解約することができる。その場合、保険期間が残っていれば返戻金がある。
また、契約期間が残っている場合は、住所変更や保険内容の見直しをすることで、新しい家でも契約を継続することができるので、以下の手続きを確認しておこう。
【賃貸→賃貸の場合】
保険会社に連絡して、「異動(変更)手続き」を行えば、契約を継続できる。ただし、同居人が増えて家財が増えた場合などは、保険料は再計算され、追加で保険料を支払うこともある。ただし、物件によっては管理会社が火災保険を指定するケースもあるので、管理会社への確認が必要だ。
【賃貸→持ち家の場合】
賃貸用の火災保険と、持ち家用の火災保険は、補償内容が異なる。そのため、賃貸の際に契約していた火災保険を、持ち家に対して継続契約することはできない。持ち家だと、建物部分も自分の所有物になるので、新しく加入する火災保険では、「建物」「家財」両方の保険に入ることが必要だ。
【持ち家→賃貸の場合】
現在住んでいる持ち家の売却・解体などするのであれば、契約中の火災保険は解約して、賃貸用の火災保険に改めて加入することになる。引き続き持ち家を保有するのであれば、現在契約中の火災保険はそのまま残して、その持ち家の火災保険とし、引越し先の賃貸用の火災保険に、別途加入することになる。
まとめ
賃貸住宅用の火災保険に関心を持つ人は少ない。そのため、賃貸契約を結ぶと同時に火災保険にも契約して、そのまま更新している…という人がほとんどだ。しかし、不動産会社から勧められる商品がベストとは限らない。
見積もりを取ってみて分かるように、保険料の相場は「約5000円~8000円以内」だ。そのため、まずは自分で商品を探して加入するのが賢い方法といえる。自分に適した保険金額や、補償内容さえわかれば、見積もりを取るのは比較的容易だ。不動産会社や大家に対しては、事前にその旨を伝え、加入後はその証しとして保険証券のコピーなどを提出すれば問題はない。
特に、個人賠償責任保険に関しては、クレジットカードや自動車保険に付帯していることもあるので、もしそうなら、個人賠償責任保険はあらためて加入する必要はないので注意が必要だ。
【関連記事】>>専門家が選ぶ、おすすめ火災保険は?【賃貸編】
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