台風の被害に遭った場合、火災保険は利用できるのだろうか? 温暖化の影響もあってか、台風被害は年々拡大しているのだが、加入している火災保険の補償内容や、水災(水害)補償の有無によって、補償内容は変わってくるので注意が必要だ。(住宅・不動産ライター 椎名前太)
ここ数年、台風被害が毎年のように発生している
ここ数年、大型台風が毎年のように発生しているのはご存知の通りだろう。温暖化の影響もあって、台風はより強く、また上陸する頻度も増えている。
一般社団法人 日本損害保険協会の調査によると、2018年以降、台風被害における火災保険金の支払い額が1億近くに達しているのは、以下の7つの台風だ。
台風被害 | 保険金支払額 | |
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2018年・台風21号による被害 |
約9億2,022万円 |
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2018年・台風24号による被害 | 約2億8,559万円 | |
2019年・台風15号による被害 |
約4億2,442万円 | |
2019年・台風19号による被害 | 約4億7,505万円 | |
2020年・台風10号による被害 | 約9,318万円 | |
2022年・台風14号による被害 | 約9,840万円 | |
2022年・台風15号による被害 | 約3,329万円 | |
※出典:日本損害保険協会「近年の風水害等による支払保険金調査結果(見込み含む)」 |
こうした状況を踏まえ、台風の被害に備えておきたいと思う人もいるだろう。では万が一、台風被害に遭った場合、どの程度まで火災保険で補償できるのだろうか?
火災保険の基本補償では、「火災、落雷、破裂、爆発、風災、雹(ひょう)災、雪災」の補償がセットになっていることが多い。そのうち、台風による被害を補償するのが「風災補償」だ。
ところが、台風による被害のすべてが風災補償で補償されるわけではない。
台風被害は、被害内容によって対応する補償が変わる
実は、台風による被害内容はいくつかの種類に分けられ、その内容によって対応する保険が異なっている。
保険金支払いの対象となる被害 | 対応する保険 |
---|---|
台風、突風、竜巻、暴風などによる被害 |
風災補償 |
落雷による損害 | 火災・落雷補償 |
台風、暴風雨、豪雨等による、 洪水・融雪洪水・高潮・土砂崩れ・落石などによる被害 (ただし、床上浸水または、 地盤面から45cmを超えた浸水、損害割合が30%以上の場合) |
水災補償 |
台風の被害に遭ったら、「水災補償」「風災補償」「落雷補償」のいずれかを使って補償を受けることができる。どの補償内容になるのかは、被害の状況や内容によって違う。
そのため、火災保険に基本的に備わっている「風災補償」+「水災補償」があれば、多くの台風被害に対応することが可能だ。
台風の被害として一般的にイメージできるのは、「風によって屋根や窓ガラスが壊れた」といった強風によるものだが、これらは主に風災補償で対応できる。ところが、注意が必要なのは洪水、浸水といった水害だ。
2019年の台風19号では、大雨により全国各地の河川が氾濫し、多くの住宅が浸水被害を受けた。この場合、洪水自体は台風が原因ではあるものの、洪水による浸水被害については風災補償の対象外。下からやってくる水による被害は、水災補償で対応するのだ。
具体的にどの被害がどの補償で対応されるのか、ケース別に確認してみよう。
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【台風被害に遭ったら、どの補償で対応される?】
・烈風で玄関や雨樋、ガラスやアンテナが破損した→ 風災補償
・強風により屋根が壊れ、部屋の家電製品が壊れた → 風災補償
・豪雨によって排水があふれて床上浸水した → 水災補償
・台風の大雨による土砂崩れに住宅が巻き込まれた → 水災補償(損害の状態や程度による)
・台風による雷で家電製品が壊れた → 落雷補償
ただし、火災保険の対象とならないケースもある。たとえば、自動車や人は補償対象となっていないため、車が水没したり(車両保険で対応)、強風で転倒してけがをした(傷害保険の対象)という場合は、火災保険の補償の対象外だ。
風災補償、落雷補償、水災補償について
風災補償とは
台風、旋風、竜巻、突風、暴風などによる被害を補償するもの。(※これらの風が原因で発生した洪水や高潮などによる被害は除く。)多くの火災保険商品で、基本補償としてセットされている。
落雷補償とは
落雷による被害を補償するもの。台風が原因となっている場合でも、落雷によって被害を受けたのであれば、落雷補償で対応する。こちらも多くの火災保険商品で、基本補償としてセットされている。
水災補償とは
対象は台風や豪雨による浸水、洪水、融雪(ゆうせつ)洪水、土砂崩れ、高潮などによる被害。ただし浸水は「損害割合が30%以上」「割合が30%未満でも床上浸水」「地盤面から45㎝超浸水」のいずれかの場合が適用となるケースが一般的。
水災補償は、基本補償の中にセットされていない場合もあるので注意が必要。基本的に加入している人が多いが、加入していない人も一定数いる。
台風被害時に保険を利用する際の注意点とは?
台風の被害に遭った際に、火災保険を不満なく利用するには注意が必要だ。
火災保険加入者の約3割は、水災補償に加入していない
前述のように、最近の多くの火災保険は水災(水害)補償がセットになっているが、なかには水災補償をオプション扱いとしている保険会社もある。フルパッケージの保険にはおおむね水災補償が入っているのだが、ライトプランなどになると、水災補償はオプションになり、その分保険料が下げられている。
2018年度の、火災保険の水災補償付帯率は69.1%※1で、約3割の人が水災補償を付帯していない保険に入っている。
その理由としては、「自分の家が水害に遭うと思えない」「保険料を節約したい」というものが多いが、一部には「自分の入っている保険に、水災補償が付帯されているかどうかが分からない」という人もいるから驚きだ※2。もし、加入している火災保険に水災補償が含まれているか分からないのであれば、まずは保険内容を把握しよう。
水災補償を付けると、もちろん保険料は高くなる。しかし、近年増加している台風や大雨による洪水、浸水被害に万全に備えるのであれば、保険料は上がるが水災補償は付けた方がいいだろう。
※1 参照:損害保険料算出機構「火災保険 水災補償付帯率」
※2 参照:内閣府「水害に対する備えに関する世論調査」
免責金額の有無や金額は、保険会社によってそれぞれ
さらに、免責金額も保険会社によって異なるので気を付けたい。
免責金額とは、保険の対象となる損害が発生した際に加入者が負担しなければならない金額のことだ。たとえば、免責金額10万円の火災保険に入っていて、保険対象になる損害額が30万円であれば、10万円までが自己負担で、差額の20万円が保険会社から支払われることになる。また、損害額が10万円以下だった場合には、全額が自己負担になり、保険金は支払われない。
ある保険会社は免責金額を0・1・3・5・10万円のなかから選ぶことできる。また、「20万円以上の損害でないと保険金を支払わないが、その場合は自己負担は0円となり、損害額全額が支払われる」という保険会社もある。
要するに、免責金額は保険会社が独自に設定しているのだ。当然ながら免責金額が低くなればなるほど、火災保険の掛け金は高くなる。
建物と家財、なるべく両方加入したい
ほとんどの火災保険は補償対象を「建物」と「家財」に分けている。
建物とは窓、屋根、外壁、床、内壁、物置、カーポート(簡易的な車庫)など建物を構成する部分だ。たとえば台風被害による屋根瓦の割れ・浮きや、バルコニーの防水シートのめくれ、フェンスのゆがみなどは、建物に対する火災保険で補償される。
家財とは家具、衣類、家電、自転車など生活に必要な物品を指す。たとえば床上浸水によって家具や家電が使えなくなった、突風で自転車が倒れてハンドルが曲がったといった場合は、家財に対する火災保険で補償される。
「建物」と「家財」はどちらか片方を選択することも両方選択することも可能だ。もし、建物だけを選択していれば家財に対する補償は受けられない。逆のパターンも同様だ。なので「火災保険に入ればすべて安心」と考えるのではなく、必ず加入前に対象となる補償の種類、免責金額を確認し、補償対象は必ず「建物」と「家財」の両方を選択したい。
火災保険金の請求期限は、被災した日から3年以内
そして火災保険は保険金申請の時期にも注意が必要だ。保険金の請求期限は、保険法によって3年と定められている。これは被災した日から3年以内に保険金の申請を行わないといけないということだ。被災後は心身ともに大変な時期だが、必ず3年以内に申請するようにしよう。
台風被害による保険金の請求方法
では、いざ被災してしまった場合の一般的な保険金請求方法を説明しよう。
1.契約者が保険会社に損害があったことを連絡
必要なものは、契約者名、保険証券番号、事故に遭った日時・場所、損害の状況など。
2.保険会社から、保険金請求に必要な書類などについての案内を受け取る
3.必要書類をそろえて保険会社に提出する
・保険金請求書(保険会社から送られてくる)
・被災状況が分かる写真や画像データ
・修理見積書など
※場合によっては、罹災証明書(被災した地域を管轄する消防署または消防出張所で入手)や印鑑証明書など、保険会社が求める書類が別途必要になるケースも
4.保険会社の鑑定人による現地調査
調査項目は損害の状態、修理見積書、修理方法と業者など。その結果と契約者からの書類を基に保険金が確定する。東日本大震災のような大規模な災害などは、フットワークの問題などで調査をしないこともある。なお、火災保険はあくまで復旧を目的とするので、被災前よりグレードアップする申請は認められない。
5.契約者指定の口座に保険金が支払われる
分譲マンションの場合の注意点
火災保険の補償内容に関して、特に分譲マンションは注意が必要だ。
分譲マンションの火災保険は、分譲価格4,000万円に対して保険金額の上限が1,000万円といったように、物件価格に対して明らかに低額な設定になっている。「これでは少なすぎるので加入しても意味がない」と考えてしまう人もいるだろう。
しかし、この保険金額は適正価格といえる。なぜならマンションは一戸建てと違い、外壁やバルコニーといった共用部分は管理組合で一括して加入しているため、分譲マンションの持ち主が保険を掛けるのは、室内の壁や家具などに限られるからだ。
復旧にもっとも費用がかかる共用部分に関しては、別に支払ってもらえるので、分譲価格に対して保険金額が低めでも問題ない。
また、分譲マンションのなかでも高層階に住んでいる人は「床上浸水なんかあり得ない」と水災補償を外せる火災保険を選ぶ場合がある。しかし、バルコニーから部屋に浸水してくるといったこともあるので、できれば水災補償を付けておいた方がいいだろう。
台風被害に遭ったら、火災保険を活用して生活の立て直しをはかろう
火災保険は自動車保険と違って、利用しても毎月の保険料が上がることはない。したがって、被災したら積極的に火災保険を利用すべきだ。台風被害では、どの保険で補償されるのか分からないという人も多いが、基本的には「風災」「落雷」「水災」で補償できると考えておこう。
とはいえ、できれば被災はしたくない…というのが本音。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」を利用すれば、災害リスクの低い土地を探すこともできる。このサイトは、各自治体が公表しているハザードマップの情報が集約されており、日本全国の浸水が想定される地域などが分かる。
台風被害に万全に備えるのであれば、水災補償は「建物」「家財」両方に加入することをお勧めするが、どうしても保険料が気になるようであれば、 ハザードマップなどで周辺地域の地勢を踏まえて、災害リスクを検討したうえで、加入するかどうかを決めた方がいいだろう。
【関連記事】>>あなたの家の災害対策は万全? ハザードマップの確認だけでは足りない、命と住まいを守る「リスクマネジメント」を知っておこう
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見積もり可能な損保会社 | ・大手4社(東京海上日動火災、損保ジャパン、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保) ・SBI損保 ・日新火災 ・共栄火災など |
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