台風や地震などの自然災害は、いつ発生するか予測がつきません。そのため、普段から災害に備えておく必要があるのですが、防災・災害対策に「ほとんど取り組んでいない」という人も多いのが実態です。そこで、まずは基本的な考え方として、災害における「リスクマネジメント」について紹介しましょう。ハザードマップの確認方法なども解説します。(優益FPオフィス 代表取締役:佐藤 益弘)
災害対策の難しさと必要性
ここ数年、大規模災害が増えています。
特に昨年2018年は6月に大阪北部地震、7月に西日本豪雨、9月に北海道胆振東部地震と立て続けに大規模災害が発生しました。また、今年2019年も、夏場に九州や山陽山陰地方を大規模な豪雨が襲いましたし、台風15号による大規模停電や、19号による河川氾濫などが発生したことなどが記憶に新しいところです。
被災された方には本当にお気の毒なのですが、このような災害の後は、倒壊や毀損している住宅を見ることが多くなります。もし自分が同じ状況になってしまったら……。そう考え、心配になっている方は多いでしょう。
そこで、この連載では「住宅の災害対策は本当にできるのか?」「住宅の災害対策の具体的な方法と考え方」などについて紹介していきます。
「住宅の災害対策」で問題になるのは?
住宅の災害対策を考える上で、最も重大な問題とされていることが2点あります。
1点目は、住宅が倒壊や毀損してしまうことで、「生活自体ができなくなってしまうこと」です。
住宅(=家)は生活の拠点です。生活の中心として機能しているので、その軸を災害により突然失ってしまうと、何をどうしたら良いかが判断できなくなってしまいます。
また、昔から、「家(住宅)は自分の夢の具現化された形」だといわれます。その夢の場所が無くなったり、壊れてしまったりするわけですから、精神的な不安やダメージも計り知れません。
もう1点は、大きな努力をして得た住宅という資産が、災害により一瞬にして価値を無くしてしまうことがあるということです。もし、住宅ローンを返済中で保険に加入していなければ、大きな借金だけが残ることになります。
そういう意味では、災害は住宅購入時に考えられる「究極かつ最大のリスク」だといえます。
災害リスクは知っていても、対策は不十分
災害への対応策を考えるには、3点ほどポイントがあります。
・「第1点」災害といっても、地震、台風や洪水などの水害、崖崩れなどの土砂災害といったさまざまな災害があり、災害ごとに適切な対応が異なる
・「第2点」災害自体がいつ起きるのか明確には分からない
・「第3点」そもそもどれくらいの被害を受けるのかは個々人により違っていて、画一的な対応が取れない
これらのことから、災害対応に関しては分からない事ずくめで、どのように対応して良いかも分からないため、後手に回ってしまう人が多いのだと感じます。
このことは、「日常生活における防災に関する意識や活動についての調査結果」(内閣府調査)を見ても伺えます。「災害が発生する可能性が高い」と思っている人は6割以上もいるにも関わらず、逆に6割以上の人が「ほとんど防災の取り組みをしていない」と回答しているからです。
この調査結果は2016年に発表されたものですから、近年の防災意識の高さを見ると全く同じ数字とは思えませんが、災害への備えをしようと思いながら、なかなか手が付けられないといったことは、多くの人が経験していることでしょう。
ライフプランや住宅の修繕計画のように、「将来のいつ時点でどのようなイベントがあり、いくら資金が必要か?」ということが明確に分かれば、事前に対策も打てますが、災害の場合はそうではありません。
・いつまでに準備すれば良いか?
・どのような準備をすれば良いか?
それが明確に言えないために、対応が取りづらいという難点があります。正直、私自身もいつ来るのかわからない災害への対策に気が乗らず、準備するのが精神的に難しいこともあります。
では、何もしなくてもいいのでしょうか?
そういうわけではありません。例えば、これから30年以内に南海トラフ地震は70〜80%の確率で、首都圏直下型地震は70%の確率で起きると言われています。先日は超大型台風19号が襲来しました。いつ起きるかは分からないけれども、近い将来必ず起きると考えられている以上、対応する必要はあるでしょう。
「リスクマネジメント」という考え方を知る
「リスク(Risk)」とは、危険性、つまり、損失を受けるかもしれないという不確定要素のことをいいます。このコラムでは「災害の起きる可能性」を指しています。「マネジメント(Management)」とは経営や管理を意味しており、「リスクマネジメント」とは、危険性を認識して損失を回避したり低減したりすることだといえます。
リスクマネジメントの具体的な流れとしては、
①どのようなリスクがあるのか?を特定
②そのリスクを分析(大きさの算定)
③自分自身にどのような損失があるのかを評価(確認)
④具体的な対応
というものになります。
みなさんも経験があると思いますが、人は想定外のことや理解できないことが起きると何も考えられなくなり、その場に立ち尽くしてしまいます。助かった方は、災害が発生した際に「どのように行動したら良いか?」を事前に想定し、防災訓練等日頃から試行していた方が多かったようです。私たちも同じように、被害に遭いそうな災害を想定し、その被害度合いを認識しつつ、取るべき行動を事前に想定しておくことが大事でしょう。
災害対策における最も有効なリスクマネジメントという意味では、「災害に遭わないこと」が一番になります。つまり、住宅のある土地(=居住地)を被災しない場所にするのが良いわけですが、そういう場所が果たしてあるかといえば、わが国は災害多発国といわれている国です。未だに解明されていない活断層もあれば、気象条件により通常とは違う動きをする台風もありますから、そのような場所を探すのは至難の業でしょう。
そうであるならば、「居住地にどのような災害が発生し、どれくらいの被害を受けそうか?」ということを事前に知っておけば安心感が高まります。ただ、難しいのは、ひとことで「災害」と言ってもさまざまな災害があること。
今回のテーマである地震や洪水のような自然災害もあれば、火事のような人為的な災害もあります。また、自然災害でも台風のような進行性の災害もあれば、地震のような突発性の災害もあります。進行性の災害であれば、避難準備などの時間的な余裕が多少は持てますが、突発性の災害の場合はそのような余裕はありません。
災害リスクを知る重要なツール「ハザードマップ」
自分自身が被災しそうな災害を認識する方法として使えるツールが「ハザードマップ」です。ハザードマップとは、被災が想定されるエリアや避難場所の位置等が表示された地図で、自然災害による被害の軽減や、防災に使用するために作られています。洪水・内水、土砂災害、地震など災害ごとに分けられており、実際の災害でもその有効性は認識されています。
自分の地域のハザードマップについては、お住まいの市区町村から配布された紙の地図か、もしくは国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で確認することができます。
例えば、洪水用ハザードマップでは、河川の周辺地域など浸水する恐れのある区域と想定される浸水深(浸水レベル)が、色の濃淡で分けて表示されています。濃い色ほど想定される被害の度合いも高いということです。注意点としては、地図が小さすぎて見づらかったり、通常、四角いドットで被害予測が示されているので、微妙な位置だと判別がつきづらかったりすること。
また、ハザードマップは一定の条件で自然災害が起こったケースを基に作成されています。ですから、目安として使うにとどめておき、被害予測が微妙な場合は厳しい方だと認識した上で災害対策を検討すると良いでしょう。
ハザードマップを見ると、居住地が「どのような災害に遭いやすいエリアなのか?」「どれくらいの被害に遭いそうなのか?」が分かり、どのような被害にどの程度遭うか想定できます。専門家に確認すれば、被害額も想定できます。
このように、目的が明確化すれば、次に取るべき具体的な行動を考えられるようになります。
また、ハザードマップの他にも災害に関する情報を発信しているサイトがいくつかありますので、下記で紹介します。災害情報を瞬時に集められたり、国や市町村が取り組んでいる防災対策や、災害に関する知識を身に付けることができるので、役立ててください。
■気象警報・注意報(気象庁)
■記録的短時間大雨情報(気象庁)
■土砂災害警戒情報・土砂災害警戒判定メッシュ情報(気象庁)
■川の防災情報(国土交通省)
■洪水警報の危険度分布(気象庁)
(参考)災害に関連する情報や知識、対策を紹介しているサイト
■土砂災害防止法(国土交通省)
■避難勧告等の判断・伝達(内閣府)
■市町村のための水害対応の手引き等(内閣府)
■災害・避難カード事例集(内閣府)
■水害・地震から我が家を守る 保険・共済加入のすすめ(内閣府)
■みんなでつくる地区防災計画(内閣府)
■風水害対策(内閣府)
■梅雨期及び台風期における防災態勢の強化について(内閣府)
■防災・危機管理e-カレッジ(消防庁)
(出所:内閣府「水害・土砂災害から家族と地域を守るには」)
どれから先に対策したら良いか、優先度をつけよう
限られた時間や予算の中で、住宅の災害対策を行うにしても、全ての災害に対応できるわけではありません。つまり、100点満点の災害対策はかなり難しいので、全て完璧にしようとは思わず、できる事から始めることが大切です。
例えば、住宅の屋根は地震対策という意味では軽い方が良いが、台風対策という意味では重い方が良いなど、「災害=リスク」によっては相矛盾する対応になってしまいます。技術面の話は建築士など専門家に確認してから対応するとしても、「想定外」と言われる大規模な災害が多発している現状があります。自分自身でも置かれた状況を認識し、調べられることは調べて、知識を得ていった方が良いでしょう。
災害発生時に良く問題になるのが、火事場泥棒のように横行する悪徳業者の存在です。事前に知識も情報も無く、想定もしていなければ、悪徳業者の口車に乗せられて、大損してしまうことになりかねません。そうならないためにも、まずは自分にとって、何がリスクで何がリスクでないかを知ること。災害対策であれば、「自分自身が被害に遭いそうな災害は何か?」を認識することが大切です。
自分にとって、どのような災害が身近なのかを把握したら、災害対策は多少やりやすくなります。では次に、何から準備したらよいか? ということですが、これもやはりやることが多岐にわたるので、混乱する原因となってしまいます。
そこで、例えば、自分自身にとっての「重要度」と「緊急度」という2つの基準を使って災害を判断するのはどうでしょうか? いろいろな基準を決めても良いのですが、問題の重さである「重要性」 と 猶予時間の有無である「緊急性」を基準にするのが分かりやすいと思います。
どんな人でも、重要度が高く、緊急度も高い問題(災害)であれば、自然に避難行動など回避行動をするでしょう。例えば、目の前に津波が迫っているのに逃げないということは通常あり得ません。ただ、自分なりの判断軸を持たないまま災害が起きてしまうと、理解不能な状態に陥ることがあります。そうなると適切な行動ができません。今回のコラムのテーマである「認識する」という事は、そういう点からも大切です。
その災害の重要度が低く、緊急性も低い場合は、優先順位は後ろになるでしょう。ただ、災害対策という意味では全く無意味なものはありません。例えば、「隣が耐震補強をしたから自分の家でも……」と思っても、お財布の事情により、すぐに取り組めないということもありますが、耐震工事自体が不要というわけではないのです。ただ、「自分自身にとって後回しでも大丈夫」と決めておかないと、キリがなくなってしまいます。
悩ましいのは、「重要度は低いが、緊急度が高い場合」と「重要度は高いが、緊急度が低い場合」です。この場合は自分自身で「どうするのか?」という基準を決めておかないと、なかなか行動が伴いません。
そこで、次回は「リスクマップ」というものを使った、より適正な災害対応をするための考え方について紹介します。
【関連記事はこちら】>>大震災や自然災害によって自宅が崩壊して、住宅ローンだけが残ったらどうする?【第1回】返済が苦しければ、私的整理ガイドラインで減免を
災害対策コラムのリンク集 |
1.命と住まいを守る「リスクマネジメント」とは? 2.「リスクマップ」を使って災害対策の優先度を知ろう 3.給付金など、災害後に受けられる6つの「公助」を紹介 4.災害発生時に頼りになるのは、助け合いの精神 5.もしもの備えには「生活費6カ月分」の預貯金が必要! |
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火災保険の基礎知識 | 保険金の請求方法 |
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