近年、台風が接近・上陸する頻度が増えています。それに伴い、風災被害の増加も意識する必要がありますが、戸建てに比べてマンションの風災被害はイメージが難しいため、マンションの火災保険で風災補償に加入する必要があるのか疑問を持つ人もいるかもしれません。そこでこの記事では、マンション風災被害の現状と、風災補償の必要性について考えます。(ファイナンシャルプランナー・平野雅章)
世界的に自然災害リスクは増加している
自然災害のリスク環境は、ここ数年で大きく変化しています。国際的な研究でも、甚大な被害を及ぼす強い台風の増加や、台風の接近頻度が変化しているなど、これまでとはその出現傾向も大きく異なってきていることが分かっています(※1)。
強い台風が増え接近頻度が変化したことで、台風を原因とした各種災害の増加についても意識する必要があります。事実、洪水などの水災被害や、強風による風災被害はここ数年で増えており、2022年には台風14号、15号と大型台風が立て続けに襲来し、全国各地に甚大な被害を及ぼしました。
台風以外にも豪雨や突風・竜巻、大雪など、一定規模の被害を及ぼす自然災害は毎年のように発生しており、それが近年の火災保険料の上昇にもつながっています。
こうした背景から、これまで以上に自然災害に備える必要がある時代になってきたと言えるでしょう。
※1 参考:損害保険料率算出機構「火災保険参考純率改定のご案内」2023年6月28日
「風災補償」はどのような損害に対応できるのか
台風をはじめとした強風・突風・竜巻などによる被害を補償するのが、火災保険の「風災補償」です。
そもそも火災保険は、火災による被害だけを補償するのではなく、さまざまな自然災害も含め補償範囲の広い保険商品です。
その中でも「風災補償」は、台風や突風、竜巻などによる損害を補償しますが、雹(ひょう)や雪による損害の補償もセットになっていて、「風災・雹(ひょう)災、雪災」としている損保会社がほとんどです。
「風災・雹災、雪災」で補償されるのは、次のような損害です。
【風災・雹(ひょう)災・雪災補償の補償範囲】
・強風、暴風、突風、竜巻などによる損害
・強風などによる飛来物での損害
・雹による損害
・雪や雪崩による損害
例えば、「台風が来て屋根瓦がはがれた」「雹が降って設置してあるソーラーパネルが壊れた」「雪の重みで家が倒壊した」といったケースが風災・雹災、雪災補償の対象です。いずれにしても、イメージしやすいのは戸建てにおける被害なのではないでしょうか。
【関連記事】>>台風による被害は、火災保険でどこまで対応できる? 損害内容によって、対応する保険が異なるので注意しよう
マンションの風災で最も多いのは「ガラスの破損」
では、マンションが風災被害に遭いにくいのかというと、そうではありません。
2018年9月の台風21号の被害調査レポートによると、被害箇所に関するデータ4290件のうち、集合住宅では「ガラス」が約8割と圧倒的なシェアを占めていました(※2)。
建物は高層階になるほど風が強くなるのに加え、風をさえぎるものが少なくなります。強風により直接ガラスが破損する場合もあれば、強風で飛ばされてくる小石や瓦などの飛来物が、ガラス破損の原因となることもあります。
ですが、ガラス被害のために風災補償に入っておくべきかというと、分譲マンションでは通常その必要はありません。
※2 参考:台風21号の被害調査レポート(2018年9月発表、シェアリングテクノロジー株式会社調べ)
窓ガラスはマンションの共用部分であることが多い
分譲マンションは、所有者それぞれが所有している「専有部分」と、所有者全体で共有している「共用部分」とに区別されています。
マンションの所有者は、建物と家財の両方またはいずれかを保険の対象として個人の火災保険に加入しますが、建物においては専有部分だけを火災保険の対象とするのが一般的です。共用部分は、マンション管理組合が別途火災保険に加入するからです。
個人の火災保険の対象となる「専有部分」の範囲は、基本的には室内全体とその中にある設備になります(玄関扉などのように「外側は共用部分、内側と鍵は専有部分」といったように、専有部分と共有部分が混在している場所もあります)。
国土交通省が提示する「マンション標準管理規約」では、窓ガラスやサッシを共用部分としています。従って、窓ガラスが破損した場合は、共用部分の破損という扱いになり、マンションの管理組合が加入する火災保険(マンション総合保険)により補償されることになります。
ですので、先述したように「ガラス被害のために風災補償に加入する必要は、通常はない」ということなのです。
ただし、マンションによっては例外もあります。現在、多くのマンションではマンション標準管理規約に準じて管理規約を作成していますが、古い物件など一部のマンションの規約では専有部分の範囲が異なることがあり得ますので、自分のマンションの管理規約を確認するようにしましょう。
第2章 専有部分等の範囲
(専有部分の範囲)
第7条 対象物件のうち区分所有権の対象となる専有部分は、住戸番号を付した住戸とする。
2 前項の専有部分を他から区分する構造物の帰属については、次のとおりとする。
一 天井、床及び壁は、躯体部分を除く部分を専有部分とする。
二 玄関扉は、錠及び内部塗装部分を専有部分とする。
三 窓枠及び窓ガラスは、専有部分に含まれないものとする。
3 第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする。
(引用:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」最終改正 2021年6月22日)
マンションの火災保険の風災補償支払い事例
それでは、やはりマンションでは風災補償は不要なのでしょうか。この疑問に答えるには、風災による専有部分の被害状況を知っておいた方がいいでしょう。
損保ジャパンによると、直近3年以内で、以下のような「マンション専有部分の風災被害への保険金支払い事例」があったとしています。
・台風によりマンション屋上のシート防水が破損し、水漏れが発生。壁紙や家財道具に被害が生じた
・台風の飛来物によりエアコンの室外機に損害を被った
これらの事例の中には、100万円を超えるような高額な修理代が必要なケースもあったとのことです。
2018年や2019年の巨大台風でも同様な事例が発生しているとのことで、マンションの専有部分でも風災被害が普通に起こりうると考えるのが正しい認識といえそうです。
加入しているマンション火災保険の補償範囲の確認を
保険は本来、「発生確率は低くても発生すると損害が高額となる可能性があるリスク」に向いています。
強い台風の増加や接近頻度の変化、さらには竜巻が全国各地で発生していることを考えると、今後より高額の損害をもたらす風災の増加が想定され、マンションの個人の火災保険でも、風災補償を確保する必要性は十分にあると考えています。
「自由設計型」火災保険契約では、風災補償が外されているケースも
話は過去にさかのぼりますが、以前はどの損害保険会社も「住宅火災保険(※3)」や「住宅総合保険(※4)」を同じ保険料率、同等の補償内容で販売していました。ですが、損保料率の自由化が推進され、2年間の経過措置を経て、2000年までには各社個別の保険料率・補償内容に移行しています(※5)。
この自由化以降に発売された火災保険を「オールリスク型火災保険(※6)」と総称していますが、この時からさまざまな補償範囲がセットにされたプランが選べるようになりました。
また、さらに自由度が高い火災保険として「自由設計型」も登場しました。自由設計型とは、基本補償の範囲を自分で自由に選べる保険です(一部制限があるケースもあります)。
ネット通販型の火災保険で自由設計型は増えていますし、代理店型の火災保険にも以前から自由設計型の商品はいくつかありました。風災補償を外せる商品も多く、私の相談者の中にも、マンションの火災保険で風災補償を外した契約を時々見かけます。
契約時には、風災補償は不要だと思っていたかもしれませんが、近年は環境が変わってきています。
火災保険の契約では、風災補償は強制付帯となっているのが標準的ですが、特にネット通販で加入した人・自由設計型に加入した記憶がある人、もちろんそれ以外の人も、まずは保険証券で基本契約の範囲に風災補償が含まれているかを確認することをお勧めします。
【関連記事】>>火災保険は、代理店型とネット通販(ダイレクト)型どっちがいい?それぞれの違いと、メリット・デメリットを比較
※3、※4 「住宅火災保険」「住宅総合保険」について:現在の「オールリスク型」と違って、各社横並びで補償内容が設定されていた時代から販売されていた火災保険商品です。各商品の補償範囲については、以下のような違いがあります。
【各種火災保険の補償範囲】
補償内容 | 住宅火災保険 | 住宅総合保険 | オールリスク型 火災保険※ |
自由設計型 火災保険 |
|
火災 落雷 破裂・爆発 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
風災 雹(ひょう)災 雪災 |
〇 | 〇 | 〇 | 選べる | |
水災 |
△※ |
〇 | 選べる | ||
物体の落下・飛来・衝突等 水濡れ 騒じょう等による暴行・破壊 |
〇 | 〇 | 選べる | ||
盗難 | 〇 | 〇 | 選べる | ||
破損・汚損等 | 〇 | 選べる | |||
※オールリスク型火災保険は、最も補償範囲の広いプランの場合 ※住宅総合保険の水災「△」は、補償上限が損害額の70%まで |
※5 参考:九條 守『保険業界戦後70年史』(2018年)
※6 オールリスク型火災保険は、各保険会社により名称は異なっています(例:個人用火災総合保険、家庭総合保険など)
風災補償の免責金額も確認しておこう
現在加入している火災保険の中に風災補償も含まれていることが分かったら、免責金額についても注意して確認しておきましょう。
以前の火災保険ではフランチャイズ方式といわれる、「一定の損害額までは全額自己負担で、それ以上の損害額となった場合に全額保険金が支払われる」方式が採用されており、金額設定は20万円が標準でした。
ですが、最近の火災保険ではフランチャイズ方式は減り、契約時に免責金額を契約者が選び、保険金が支払われるときは、損害額からその免責金額が差し引かれるタイプがほとんどになっています。免責金額は「なし」から「20万円」まで選べることが多いです。
【関連記事】>>火災保険の「免責」? 損害を受けても保険金を受け取れないケースや、免責金額の設定でどれくらい保険料が安くなるかを解説!
忘れがちな契約内容に注意
数々の相談を受けてきて、火災保険はその契約内容を覚えている人が比較的少ない保険だと実感しています。
特に、2015年10月の改定前まで、保険期間を最長36年まで選択できたこともあり、加入から長期間経過している人も多いです。この改定前に契約している人は風災補償が外れている可能性は低いのですが、一度、保険証券で基本補償の範囲、特に風災補償が含まれているか確認することをお勧めします。
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