火災保険に加入する時、補償内容が幅広く個々の内容も明確には理解しにくいため、不動産業者や保険代理店の提案のまま加入したという人も少なくないと思います。実は、火災保険の補償内容(地震保険の付帯を除き)を決める上で重要なのは「水災補償」を範囲に含めるか含めないかで、それ以外の選択は重要度が劣ります。その理由と水災補償の内容、検討方法について解説します。(ファイナンシャルプランナー・平野雅章)
水災補償とはどんな損害を補償するのか
水災補償は、台風、豪雨等による洪水、融雪洪水、高潮、土砂崩れ、落石等により生じた損害を補償します。
洪水とは河川の水が増加し堤防を越えるなどして氾濫するケースですが、下水道等の排水施設の能力を超えた雨が降った時などに下水道や水路等から雨水があふれだし浸水する「内水氾濫」による損害も補償対象となります。
融雪洪水とは、河川の流域内に残った積雪が大量に解けるために引き起こされる洪水を言います。
また、水災補償の対象として保険金が支払われるには、一般的に次のいずれかの認定基準に当てはまる必要があります。
水災補償の認定基準
・建物や家財がそれぞれの再調達価額の30%以上の損害を受けた場合
・床上浸水または地盤面から45cmを超える浸水により建物や家財が損害を受けた場合
床下浸水による損害は補償されないという点には注意しましょう。
自分が住んでいる場所の水災補償の必要性を判断するには、「重ねるハザードマップ」(国土地理院)が洪水、内水、高潮の浸水想定区域、および土砂災害警戒区域をまとめて見ることができるので便利です。
ただし、内水の浸水想定区域は掲載されている市区町村が少ないため、住んでいる市区町村のホームページで内水ハザードマップを確認するとよいでしょう。なお、地震による津波は地震保険の補償対象となります。
【関連記事】>>地震保険は必要か? 火災保険では補償されない「地震・津波・噴火」被災後の生活再建には不可欠な保険!
「水災補償の有無」が最も重要である3つの理由
火災保険の補償内容を決める上で最も重要なのが「水災補償の有無」です。その理由として、以下の3つが挙げられます。
2. リスクのあるエリアと少ないエリアが明確
3. 洪水などの水災リスクの変化
1. 保険料に与える影響が大きい
火災保険では、補償する内容ごとにかかる保険料が異なります。補償する内容を自由に選択できる「自由設計型の火災保険」では、内容ごとにその補償に必要な保険料を把握することが可能です。ある保険会社のホームページで試算を行ってみました。
■火災保険の試算条件
・住宅の種別:戸建て
・住宅の所在地:東京都
・築年数:5年
・保険期間:1年
・保険金額:建物2000万円、家財700万円
・免責金額(自己負担額):なし(破損・汚損補償のみ3万円)
・臨時費用特約(損害保険金の10%、100万円限度)を付帯
火災保険の補償内容別保険料の例
この商品では、保険料全体の約56%を水災補償の保険料が占めることがわかります。つまり水災補償を外せば保険料は半分以下になるわけです。
また、火災、落雷、破裂・爆発の補償は約12%、一戸建てでは必須の風災・ひょう災・雪災の補償は約11%なので、これらの補償の合計で保険料の約79%を占めます。
これら以外の補償にかかる保険料はかなり少ないのです。そもそも火災と風災の補償は最低必要という商品が多く、実際、どの地域に住んでいても必要性の高い補償なので当然加入することになると、戸建ての場合、水災補償を確保するかどうかが保険料をほとんど左右することになります。
2. エリアによってリスクの有無が明確
洪水や高潮などの水災は、他の自然災害や火災に比べ、どの地域で発生しやすいかが明確です。
「重ねるハザードマップ」や住んでいる市区町村のホームページに掲載されている「洪水ハザードマップ」などをチェックすることで、自分の住んでいる場所の水災補償の必要性は明確にわかります。
また、マンションについては、2階に住む人は洪水ハザードマップなどで浸水深の目安が3.0mとなっている場合、水災補償の付帯を検討したいですし、3階以上の階に住む人でも、その浸水想定の高さと自室の高さから判断が可能でしょう。
3. 洪水などの水災リスクの変化
気象庁気象研究所が日本に接近する台風の特徴の変化を調査した結果、過去40年で、東京など太平洋側の地域に接近する台風が増えていること、これらの接近する台風は強度がより強くなっていること、および、移動速度が遅くなっていることもわかりました。
これは、日本付近の気圧配置の変化や海面水温の上昇などが原因と考えられます(※1)。これらの影響として、太平洋側の地域は洪水などの水災被害のリスクが以前に比べ高まっていると言えるでしょう。
しかし、火災保険の水災補償付帯率は2022年度で64.1%(※2)であり、リスクの高い地域に住む人の中にも水災補償を確保していない人がいることも想像されます。
※1 参考:気象研究所「過去40年で太平洋側に接近する台風が増えている」2020年8月25日
※2 出所:損害保険料率算出機構「火災保険 水災補償付帯率」
加入中の火災保険に水災補償が含まれているかを確認する方法
火災保険については、以前はどの損害保険会社も「住宅火災保険」や「住宅総合保険」という商品を同じ保険料率で販売していたのですが、1998年7月から2年間の経過措置を経て、2000年7月には各社個別の保険料率に完全移行しました(損保料率の自由化)(※3)。
※3 参考:九條 守「保険業界戦後70年史」(2018年)
自由化のあとも、「住宅火災保険」と「住宅総合保険」の販売は続けられていました。原則、「住宅火災保険」には水災補償がなく、「住宅総合保険」では損害の額の70%(保険金額の70%)が保険金の上限となる点に注意が必要です。
また、この自由化以降に発売された火災保険を、この記事では「オールリスク型火災保険」と総称しますが、各保険会社により名称は異なり(例:個人用火災総合保険、家庭総合保険など)、さまざまな補償範囲のプランが選べるのが特徴です。
それらの中には補償内容を一つ一つ自由に選べる「自由設計型火災保険」もあり、これらの保険に既に加入している人は水災補償を含んでいるかどうか、保険証券などで確認する必要があります。
火災保険を見直すなら、2024年9月までに検討を
契約者が支払う保険料の基となる保険料率は、純保険料率と付加保険料率で構成されます。純保険料は事故発生時に保険会社が支払う保険金に充てられ、付加保険料は保険会社の保険事業に必要な経費などに充てられます。
損害保険料率算出機構が算出する火災保険の純保険料率を「参考純率」といい、保険会社は参考純率をそのまま使用する、あるいは修正して使用することもできます。
参考純率は保険会社にとって使用義務のない参考数値ですが、実際には保険会社の保険料率に大きな影響を与えています。
2023年6月に損害保険料率算出機構が変更の届け出を金融庁長官に行い、決定した火災保険の参考純率の主な改定内容は以下の通りです。
②水災に関する料率を地域のリスクに応じて5区分に細分化
③地域の単位:建物がある市区町村別
④区分数:保険料が最も安い「1等地」から最も高い「5等地」までの5区分
⑤料率の較差:保険料が最も高い地域と保険料が最も低い地域の較差は約1.2倍
この参考純率の改定に基づいた商品改定を、保険会社の多くは2024年10月に予定しています。
①については、そのまま実際の各社の保険料引き上げ率になるわけではなく、地域によってばらつきがありますが、大幅な保険料引き上げとなる地域も少なくなさそうです。
②に関しては、水災等地が4等地や5等地などの市区町村では、水災補償の保険料の上昇は避けられないでしょう。自分の住んでいる市区町村の水災等地は、「損害保険料率算出機構 水災等地検索」で確認できます。
今、水災補償を確保していないけれど必要だと判断している、あるいは水災補償に入っていることは確認できたけど、火災保険の満期があと1~2年後だという人は、10月の各社の改定前に火災保険の見直しを行い、最長の保険期間5年で契約することを検討するとよいでしょう。
【関連記事】>>2024年、火災保険はさらに値上げへ! 47都道府県別・値上げ予測と、来年度の改定ポイントについて徹底解説!
まとめ
火災保険の補償内容は幅広いため、補償内容を覚えているのは大変ですが、まずは水災補償に注目すれば、かなり効果的な加入や見直しを行うことができます。
特に水災補償で大きな改定が控えている2024年10月になる前に、既に火災保険に加入している人は、保険証券で基本補償の範囲に水災が入っているか確認することをおすすめします。
また、この記事では火災保険のみを解説してきましたが、火災保険に付帯してしか加入できない地震保険への加入の判断も非常に重要なポイントです。
【関連記事】>>台風による被害は、火災保険でどこまで対応できる? 損害内容によって、対応する保険が異なるので注意しよう
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