地震保険だけでは全壊時の住宅再建は不可能! 地震被害に100%備える「上乗せ特約」「費用保険金」とは?

2024年5月8日公開(2024年5月8日更新)
平野雅章:横浜FP事務所 代表

地震での被害に備える保険、それが「地震保険」です。ところが、地震保険はそもそも「生活再建のための保険」なので、住宅が全壊したとしても新たに再建するだけの保険金は受け取れません。では、地震への被害に100%備えることはできないのでしょうか?(ファイナンシャルプランナー・平野雅章)

地震保険の加入率は、全国でたったの35%

地震保険だけでは不十分?
地震保険だけで備えは十分?(出所:PIXTA)

 「令和6年能登半島地震(以下、能登半島地震)」は、あらためて地震への備えの必要性を私たちに感じさせました。

 地震被害への備えとして、まず挙げられるのは地震保険ですが、実際のところ加入している人はあまり多くありません。全世帯に対してどの程度の世帯が地震保険を契約しているかを示す「世帯加入率」は、いまだに35%に過ぎません。

地震保険 世帯加入率(全国)(引用:損害保険料算出機構)

そもそも地震保険とは? その特徴と問題点

 火災保険では、損害を受けた建物や家財を、新たに再建・再購入するのに必要な金額が、保険金として支払われます。一方、地震保険というのは、損害を受けても、それを再建・再購入するために支払われるものではありません。

 この違いは、火災保険と地震保険とでは、そもそもの意義が違っていることによるものです。

地震保険は、政府と民間損保会社による「半公的な保険」

 地震保険は政府と民間損害保険会社が共同して運営する、なかば公的な保険です。そのため、地域や構造、保険金額などの加入条件が同じであれば、どの保険会社で加入しても保険料は変わりません。

 補償の対象は住宅と家財で、地震の揺れによる損害だけでなく、地震や噴火を原因とする津波や火災による被害も補償してくれます。

 なお、地震保険料率は、「収支の償う範囲内において、できる限り低いものでなければならない(=利潤を含まない)」と法律で定められています。一般的に地震保険料は高いと思われがちですが、実は、民間の損保会社にとって地震保険はもうけを出すための商品とは言えません。

地震保険の問題点

 地震保険は単独では加入できず、火災保険に付帯する方式で契約しますが、問題点としては、地震保険の保険金額(保険金の上限)は、建物と家財それぞれに火災保険の保険金額の30~50%の範囲内でしか設定できないことです。

 火災保険の保険金額は通常、再調達価額(保険の対象の住宅や家財と同等のものを再築または再購入するのに必要な金額)で設定します。

 地震保険ではその金額の50%までしか加入できないということは、地震によって自宅が全壊した場合、地震保険の保険金だけでは再築ができないのです。

地震保険でかけられる保険金額と支払い保険金
地震保険金だけでは、住宅を再建することはできない(画像:東京海上日動WEBサイト

 そのため、「入っても意味がないのでは」「保険料の割には補償が薄い」といった印象を持つ人も少なくなく、地震保険の世帯加入率の低さの原因の一つになっていると考えられます。

100%補償を可能にする「地震危険等上乗せ特約」

 では、地震による被害を100%補償することはできないのかというと、そうではありません。最近では、保険会社独自の地震補償を最大50%付帯でき、「地震保険と合計で100%の補償を確保できる火災保険」を販売している保険会社もあります。

 これらは「地震危険等上乗せ特約」などと呼ばれる特約で、ほとんどの商品では、地震保険で支払われる保険金と同額が同特約から支払われる仕組みです。

地震危険など上乗せ補償特約の概要
地震保険金と同額の保険金を上乗せする特約で、地震被害を100%補償する(出所:東京海上日動公式WEBサイト

 同様の特約は、損保ジャパンや、東京海上日動といった大手のほか、一部のネット損保でも取り扱っています。

 建築費の高騰が続く中、注文住宅では建築費が3000万円を超えることも珍しくありません。注文住宅を新築して建物の住宅ローン残高が多い期間などは特に、検討に値する特約だと思います。

地震危険等上乗せ特約に加入した場合の保険料は?

 一方、難点は保険料です。特約なので、加入する際には保険料が上乗せされます。以下は、ある保険会社のホームページで行った試算例です。

(1)地震危険等上乗せ特約なしの場合

年間保険料(火災保険料+地震保険料)
・火災保険 1万3370円
・地震保険 4万9950円
→合計6万3320円


主な補償内容
・住宅の種別:一戸建て
・住宅の所在地:東京都
・築年数:5年
・保険期間:1年
・火災保険の保険金額:建物2000万円、家財700万円
・基本補償:火災、破裂・爆発、風災・ひょう災・雪災、物体の落下・飛来等、(給排水設備の事故等による)水濡れ、盗難
・地震保険の保険金額:建物1000万円、家財350万円(火災保険の50%)


(2)地震危険等上乗せ特約ありの場合
(1)に地震危険等上乗せ特約を地震保険と同じ保険金額で追加

年間保険料(火災保険料+地震保険料)
・火災保険 7万2810円
・地震保険 4万9950円
→合計12万2760円


※他に臨時費用保険金(損害保険金の10%、100万円限度)、地震火災費用保険金(火災保険金額の5%、300万円限度)、失火見舞い費用保険金、残存物取片づけ費用保険金、損害防止費用等を含む
※ネット損保会社の保険料例。著者が同社のホームページで算出

 この特約を加えることで火災保険料が年間約6万円増えたので、この分が地震危険等上乗せ特約の保険料に相当することになります(火災保険料に含まれる)。

 この例では、特約料金が地震保険と比べ約1.2倍の金額になりましたが、保険会社によっても同特約の保険料はかなり異なります。現在加入している保険会社の特約料金が知りたい場合は、保険会社や代理店に直接問い合わせましょう。

契約期間は1年更新となるケースがほとんど

 また、地震危険等上乗せ特約の付帯には、保険会社が個々に制限を設けています。主な制限は、保険期間です。

 火災保険と地震保険は両方とも契約期間は最長5年間ですが、この特約を付帯する場合、火災保険と地震保険の両方とも1年契約とする必要がある商品と、地震保険と地震危険等上乗せ特約のみ1年契約となる商品があります。つまり、契約期間が短くなります。

 火災保険と地震保険は両方とも、1年超の契約は保険料が割安です。

 例えば地震保険の場合、保険期間5年で保険料を一時払いとすると保険期間1年の4.7倍の保険料で済みます。つまり、保険期間を1年に制限されることで、長期契約で保険料が割安になるメリットも失うことになります。

 また、地震保険料が将来値上げされた場合、保険期間が5年であればその間は値上げの影響を受けませんが、保険期間が1年であれば値上げがあるたびに影響を受けることになります。

高額な保険料を支払ってでも、地震保険・上乗せ補償特約が必要なのか?

隣の家の火災で延焼している家地震による被害は、建物の倒壊だけではない(出所:PIXTA)

 1981年(昭和56年)5月31日までの建築確認において適用されていた「旧耐震基準」に比べ、それ以降の耐震基準(新耐震基準)は格段に耐震性が向上しています。

 また、住宅性能評価制度における耐震等級では、現在の建築基準法の水準を等級1、等級1で耐えられる地震力の1.25倍の力に対して耐えられる等級2、1.5倍の力に耐えられる等級3があり、最近では注文住宅で耐震等級2や3の建物は当然のようになり、建売住宅でも増えてきました。

 築浅の一戸建てでは、地震の揺れによる損壊のリスクは確実に減ってきたと言えるでしょう。

 一方、能登半島地震では、輪島市で地震による大規模な火災が発生、焼失区域の面積は約50,800㎡(東京ドーム約1.1個分)、区域内に含まれる建物の数は約300棟と推定されました

 一戸建てで怖いのは地震による火災であり、特に首都圏などでは住宅密集地域も少なくなく、延焼のリスクをより考える必要があります。

 知っておきたいのは、火災保険では、地震を原因とする火災による損害は原則、補償されないことです。周囲から延焼した場合も同様です。自宅が出火しなくても、周囲から延焼すれば火災保険からの補償は原則受けることができないのです。地震による火災の損害を補償するのは地震保険であり、また地震危険等上乗せ特約を付帯していれば補償対象となります。

※出所:国土交通省・国立研究開発法人 建築研究所「令和6年(2024年)能登半島地震による建物等の火災被害調査報告(速報)」(令和6年1月12日、令和6年1月19日修正)

地震による火災に備えるなら、火災保険の「地震火災費用保険金50%プラン」も

 地震保険に火災保険の保険金額の50%で加入し、火災保険に「地震危険等上乗せ特約」を付帯すれば、地震が原因の火災による損害に対しても100%補償が可能になりますが、もう一つ方法があります。

 火災保険では、地震を原因とする火災による損害は原則、補償されませんが、「地震火災費用保険金」というものが自動付帯されている商品が多く、それ以外の商品でも特約で付帯できます。

 地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災により、建物は半焼以上(再調達価額の20%以上の損害)、家財は全焼(再調達価額の80%以上の損害)が対象と支払い条件は厳しめですが、通常、火災保険の保険金額の5%が支払われます。

 一部の保険会社の商品では、この地震火災費用保険金を30%または50%に増やすことができます。50%に増やせば、地震等による火災に限定されますが、地震保険から50%、火災保険から50%で合計100%の補償が可能になります。

 以下は、ある保険会社のホームページで行った試算例です。

(1)地震火災費用保険金を付帯しない場合
年間保険料(火災保険料+地震保険料)
火災保険 1万8280円
・地震保険 4万9950円

合計6万8230円

主な補償内容
・住宅の種別:一戸建て
・住宅の所在地:東京都
・築年数:5年
・保険期間:1年
・火災保険の保険金額:建物2000万円、家財700万円
・基本補償:火災、破裂・爆発、風災・ひょう災・雪災、物体の落下・飛来等、(給排水設備の事故等による)水濡れ、盗難
・地震保険の保険金額:建物1000万円、家財350万円(火災保険の50%)

(2)地震火災費用保険金30%の場合
(1)に地震火災費用保険金特約を火災保険の保険金額の30%で追加
年間保険料
火災保険 3万6760円
地震保険 4万9950円
→合計8万6710円


(3)地震火災費用保険金50%の場合
(1)に地震火災費用保険金特約を火災保険の保険金額の50%で追加
年間保険料
・火災保険 4万9070円
・地震保険 4万9950円
合計9万9020円


※他に臨時費用保険金(損害保険金の10%、100万円限度)、失火見舞い費用保険金、残存物取片づけ費用保険金、損害範囲確定費用、仮修理費用、損害防止費用、セキュリティー・グレードアップ費用等を含む

 この地震火災費用保険金特約を「なし」から「50%」と加えることで、火災保険料が約3万円増えたので、この分が地震火災費用保険金特約(50%)の保険料に相当することになります。

 この例では、特約料金が地震保険と比べ約0.6倍の金額になり、前述の地震危険等上乗せ特約の保険料と比べると、約半分ということになります(保険会社により保険料は異なります)。また、50%のプランにしても、特別な保険期間の制限はなく、1年超の長期契約(最長5年)が可能な点もメリットです。

少額短期保険の加入も検討しよう

地震や火災について考えている家族
自分の状況にあった選択を(出所:PIXTA)

 世帯人数に応じ最高900万円の保険金額を設定できる地震の少額短期保険もあります。

 地震保険と併せて加入することで、100%補償の確保は難しいとしても、地震への備えを手厚くすることが可能です。

 地震補償を100%確保するには、地震危険等上乗せ特約が付帯できる火災保険を選び地震保険を保険金額50%で加入し、同特約を付帯することですが、保険料の高さと保険期間の制限がデメリットとなります。

 耐震性の高い一戸建てであれば、地震による火災の補償に絞り地震火災費用保険金を50%にするのも、コスト面を考えると現実的な選択肢と言えるでしょう。

 ただし、ハザードマップで津波の浸水予想地域に入っている場合は、やはり地震危険等上乗せ特約を検討すべきです。また、手元の貯蓄にある程度の余裕があれば、100%にこだわらずに地震保険に加え少額短期保険に加入し、貯蓄を一部取り崩して建物を再築するという考え方もあります。

 個々の世帯の状況にあった選択をしたいものです。

※少額短期保険業者が引き受けを行う、保険金額が少額、保険期間1年(一部分野は2年)以内で保障性商品のみの保険。

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