火災保険金・地震保険金の請求を契約者に代わって行う、「保険金申請代行(申請サポート)」というサービスを知っているだろうか。近年、こうした業者が急増しているが、高額な報酬や違約金を求められるケースや、強引な契約を迫られるといったトラブルが増えている。(フリージャーナリスト:福崎剛)
保険金請求サポート業者による
悪質なトラブルは年間5000件を突破!
「火災保険金を利用すれば、自己負担ゼロで自宅をリフォームできる!」「保険金が支払われるように手続きをサポートする」
こうしたうたい文句で近年利用者を増やしているのが、「火災保険請求(申請)サポート業者」だ。
住宅修繕において火災保険金の利用を促し、修繕業者の手配や、保険金申請手続きのサポートを行い、損保会社から保険金が支払われたら、そのうちいくらかを成功報酬として請求するといったもの。
火災保険金請求時には、損保会社から「損害保険鑑定人(調査人)」が派遣され、現地調査を行うことがあるが、加入者自身が申請するケースも増えている。
そこで、火災保険請求(申請)サポート業者を利用することで、素人目には気づきにくい被害箇所(小さなヒビや、微妙な傾き、屋根の上などの目の届かない箇所など)の見落としによる請求漏れや、火災保険が使える損害かどうかの判断が正確になるといったメリットがあるというわけだ。
ところがこのサービス、消費者トラブルが多発している。消費者庁の発表によると、2021年度のトラブル相談は、確認できているだけでも5年前の約3倍である5000件以上に達している。また、相談は全国各地から寄せられているという。
「保険金が使える」と勧誘する住宅修理サービスの年度別相談件数※
トラブルの内容は、悪質な勧誘や、クーリングオフの妨害、修理箇所のでっち上げ、多額の違約金請求などが主で、消費者が金銭的な負担を強いられるケースも存在する。
特に、台風などの大きな自然災害の後に、電話や訪問などで勧誘してくることが多いと言われている。最近は、インターネット広告、SNSなどでも「保険金を使ってリフォームしませんか」などと、巧みに誘い込む手口が広がっている。
トラブル事例と手口について
では、実際に発生したトラブルについて紹介しよう。
【事例】強引な勧誘(どう喝など)
・「台風や雪の被害申請、損保会社に出していますか?」と突然訪問し、しつこく契約を迫った。次第に声を荒らげて強引に契約させようとする。怖くなり「早く帰ってもらいたい」という気持ちに負けて契約してしまった。
・一度契約を断ったにもかかわらず「工事は実質的に無料なので」と強調して、しつこく勧誘を続けてきた。断り続けていると、立ち去り際に暴言を吐かれた。
【事例】高額な違約金請求
・「不要なアンテナを5000円で撤去する」というチラシが投函されていたので、撤去を依頼。撤去の際に「雨どいの修理を保険金でできる」と言われ、修理業者と契約した。損保会社に保険金を請求したものの、保険金が工事費用には足りず、修理業者とは解約したいが、業者との契約書には「工事をしない場合は保険金の40%の違約金がかかる」と書いてあった。
【事例】解約やクーリングオフの妨害
・「火災保険を使って屋根や外壁工事の修理をする」というインターネットの広告を見つけて連絡を取ると、後日自宅にへ来て、「修理代を上回る保険金が受け取れる、手数料は保険金の40%だが、損にはなりません」と言われ契約。保険金が下りるかどうか分からないので、契約を解約しようとしたらできないと断られ困っている。
・クーリングオフを申請したが「なんで解約するんだ!」「簡単に取り消すことはできない」と言われ、自宅まで押しかけてきて解約理由の説明を求められた。また、材料費や人件費として金銭を請求された。
【事例】「工事費全額が保険で賄えるような触れ込み」による損害
・インターネットで「保険金請求を行う際に必要な、被害状況説明のお手伝いを行います」と書かれたサイトを見つけて連絡を取った。「完全成功報酬型で、保険金が支払われた時にのみ保険金の30%を請求する」と説明を受けて契約。その後、保険金が100万円給付されたので、住宅メーカーに修理を依頼したところ、「70万円では修理できない」と言われてしまった。
多くのケースで「無料で点検」「無償で修理」など、いずれの場合も“無料”と強調したお得感を全面に訴求する手口で、しっかりと工事契約やサポート料を取るやり方だ。
申請”代行”ではなく、あえて”サポート”と記載する業者
「最近は、業者が保険請求を代行するのではなく、請求は加入者本人にさせて、後ろでサポートするケースが多いです」。こう話すのは日本損害保険協会 損害サービス企画部の本吉佳澄さんだ。
なお、無資格者が保険金の「申請代行」を行うことは弁護士法違反だ。そのため最近では、「代行」ではなく「申請サポート」とし、保険金請求は本人に行わせるというわけだ。
さらに、申請サポート業者の存在は損保会社側からは見えづらいという。
「高額なサポート料や工事代金でトラブルになっていても、損保会社はわかりません。悪質な業者にだまされて困っている……という相談を受けて、はじめてサポート業者を利用していることが分かるケースもあります」(本吉さん)
申請サポート業者と加入者との契約に対して、損保会社は基本的に口を挟むことはできない。
知らず知らずのうちに、保険金詐欺の加害者になることも
言葉巧みに悪徳業者に契約させられて被害を受けるばかりか、場合によっては「虚偽の保険金請求をした」と見なされて保険金詐欺の加害者になるリスクもある。
悪質業者の中には、経年劣化では保険金請求が出来ないことを知りながら、「台風で破損した」などの虚偽の理由で、保険金請求のアドバイスをするケースもある。
この場合、契約者は虚偽で保険金を請求したことになり、保険加入者本人が法的責任を問われかねない。悪質業者にだまされる被害者になり、同時に損保会社をだます加害者になってしまうことも十分あるので注意が必要だ。
各省庁、損保各社も申請サポート業者対策に本腰
ここ最近、火災保険金をめぐるトラブルの啓蒙チラシが、全国各地で配布されている。
こちらは一般社団法人 日本損害保険協会が作成したもので、消費者庁や金融庁、警察庁、国民生活センターの協力を得ながら「保険金請求に関する悪徳業者」への注意喚起を促している。日本損害保険協会の広報担当の木村拓登さんはこう話す。
「保険金の請求に関するトラブルは“消費者トラブル”という認識ですが、当協会としても被害者を出さないために、いろいろと取り組んで啓蒙運動を引き続きやっていくつもりです」(木村さん)
消費者庁でも同様の啓蒙チラシを作成し、注意喚起を図っている。
独立行政法人 国民消費者センターでもこれらの悪質業者に関する情報を公開。各市区町村単位でも、住民に対して注意喚起チラシなどを配布するなどの取り組みが行われている。
なお、日本損害保険協会では、9月にこうしたトラブルの相談窓口として「保険金に関する災害便乗商法 相談ダイヤル」を開設。そのほか、各所にトラブルに遭った場合の相談窓口が用意されているので、万が一、悪質業者の被害に遭った場合は連絡しよう。
【悪質な“申請サポート業者”に関する相談窓口】
運営 | 電話番号 |
---|---|
保険金に関する災害便乗商法 相談ダイヤル (一般社団法人 日本損害保険協会) |
0120-309-444 |
消費者ホットライン |
188 |
最寄りの警察署 |
#9110 |
保険金請求の流れを知れば、トラブルは回避できる!
中には「保険金請求手続きは難しいので……」と言って、勧誘する業者もいるようだが、保険金請求手続きは簡単に自分で行える。
悪質な保険金申請サポート業者に引っかからないためにも、「保険金請求手続き」の流れを簡単に説明しておこう。日本損害保険協会がHPでも紹介しているので、その流れをまとめると以下のようになる。
火災保険・地震保険金請求手続きの流れ
ステップ1
・(自然災害による損害が発生したら)保険代理店または損保会社に連絡する
▼
ステップ2
・保険金請求書類の受け取り
▼
ステップ3
・必要書類の作成、提出
【必要書類】
・保険金請求書(署名、捺印、事故状況、振込先などを記入)
・損害物(箇所)の写真を複数枚
・修理見積書(修理業者に作成を依頼する)
▼
ステップ4
・支払金額の確定・受け取り
ステップ3の必要書類のうち「損害物(損害箇所)の写真」は、デジカメやスマホで、分かりやすいように3〜4枚ほど撮影しよう。1枚目は建物全体、2枚目は損害箇所がわかるようにアップする、3枚目は違う角度から損害箇所がわかるもの、4枚目は自宅だとわかるように表札が写り込んだ家の写真……といった風だ。
損害箇所(高所や屋根など)によっては撮影が難しい場合もある。そういうときには、損保会社または代理店に相談するといい。いずれにしても、修理業者は損保会社に連絡した後に探すようにしよう。
なお、損保会社から修理業者を紹介してもらうこともできるので、業者探しに不安な人は依頼するといいだろう。
【関連記事】>>火災保険の請求はどうやる? 事故発生から支払いまでの流れと、保険金申請のコツを紹介!
要確認! 損保会社によって保険金の支払い要件が変わる
悪質な住宅修理業者によるトラブルが増えているため、損保会社によっては、保険金の支払い条件を変更したケースもある。
これまで、損害物(箇所)があれば保険金の請求によって、修理見積もり等を提出して損保会社が認めれば保険金が支払われていた。
例えば、台風で雨どいが破損したとしよう。修理見積もりが10万円だった場合、損害が認められて保険金10万円が支払われたとする。修理するかどうかは関係なく支払われたのである。
しかし、東京海上日動では、2022年10月から「建物の復旧に関する特約(建物を保険の対象とする契約に自動セット)」を新設し、実際に修理した場合、もしくは3年以内に修理する約束する場合にのみ保険金を支払うとしている。
悪質な保険金申請代行業者を締め出すための改定だが、加入者にとっては保険金の使途の自由度が著しく下がるものとなった。
損保ジャパンでも、悪質な住宅修理業者トラブルの対策として、保険金の支払い要件を見直し「損害を受ける前の状態に復旧したとき」に保険金を支払うとした。
同時に、悪質な住宅修理業者についての相談窓口「損保ジャパン 住宅修理トラブル相談窓口」も開設している。
このように、損保各社の対応により、保険金の支払い要件が変更されている場合があるので、加入している火災保険の補償内容をいま一度確認しておきたい。
まとめ
火災保険の保険金請求に関するトラブルの中でも、悪質な住宅修理業者による被害が急増している。特に、台風などの大きな自然災害の後に、電話や訪問などで勧誘してくることが多いといわれる。
トラブルに巻き込まれないためには、損害を受けた際には、まず最初に損保会社または保険代理店に連絡することだ。
・「屋根や雨どいを無料で点検します」といって突然に訪問・電話をしてくる業者は、要注意。悪質なケースが多い。
・火災保険の加入を確認する、または「保険金を使えば無料で修理できますよ」という業者も悪質なケースが多い。
・保険金請求の代行やサポートする業者は、高額な手数料を請求したり、契約解除を拒否するケースが多い。保険金請求に関しては、損保会社か保険代理店に連絡して手続きを尋ねるといい。
・住宅修理業者などから保険金請求のサポートを受けて、経年劣化を台風で破損したなどと虚偽の理由で保険金の請求をした場合は、保険金詐欺の加害者になる場合もある。保険で補償される内容か迷ったら、まず損保会社や保険代理店に相談するのが最善。
・万一、悪質住宅修理業者の被害にあった場合、警察や国民生活センタ−、損保会社の相談窓口などに一報しよう。くれぐれも「無料」「手数料なし」など甘い言葉で保険金による住宅修理をすすめられてもすぐに契約はせず、信頼できる家族などに相談して慎重に考えよう。
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