賃貸住宅の火災保険で「もらい火の被害は請求できる?」「不動産会社指定の保険に加入必須?」などの疑問をプロが解説! 

2025年8月15日公開(2025年8月14日更新)
平野雅章:横浜FP事務所 代表

賃貸住宅の契約時に不動産会社から火災保険を提案されますが、補償内容がわかりにくく、言われるがままに加入しているという方は少なくありません。そこで、賃貸住宅の火災保険についてわかり易く解説します。不動産会社が指定した商品に加入するメリットと注意点、自分で保険商品を選んで加入する際のポイントなどもお伝えします。(ファイナンシャルプランナー・平野雅章)

賃貸住宅の火災保険の主な補償内容

賃貸住宅の火災保険は自分の家財を補償するためなどの目的がある
賃貸住宅の火災保険は自分の家財を補償するためなどの目的がある(出所:PIXTA)

 賃貸住宅で火災保険に加入する目的には、以下の3点があります。

1.自分の家財を補償するため
2.借りている戸室の賃貸借契約における原状回復義務を果たすため
3.第三者への賠償責任をカバーするため

 それぞれについて解説します。

1. 自分の家財の補償

 火災や盗難などで自分の家財が損害を受けた場合の補償です。また、隣家からのもらい火の場合も、火元に損害賠償を請求できないのが通常です。火災保険に加入して自分の家財は自分で守る必要があります。

2. 原状回復義務を果たすため

 借り主が火災や水漏れ事故などを起こし部屋を損傷させた場合、貸し主に対して原状回復義務を負います。このために「借家人賠償責任特約」を付帯し、偶然の事故による建物の損害を補償します。

3. 第三者への賠償責任をカバーするため

 水漏れで階下の住民に損害を与えた場合など、第三者への賠償責任に備えて「個人賠償責任特約」を付帯します。日常生活や住宅使用中の偶然の事故による法律上の損害賠償責任を補償します。

 つまり、賃貸の火災保険は「家財補償」を基本に、「借家人賠償責任特約」と「個人賠償責任特約※1」を付帯して加入するのが一般的です。
※1同特約は保険会社により名称が異なり(個人賠償責任補償特約、日常生活賠償責任補償特約など)、本記事では「個人賠償責任特約」で統一しています

賃貸住宅で火災を起こしてしまった場合

 前述したとおり、自分が火災を起こし、周りの部屋などに延焼してしまっても、通常、損害を被った人から損害賠償を求められることはありません

 これは「失火責任法(失火ノ責任ニ関スル法律)により、失火(過失による火災)の場合、損害賠償はしなくてもよい。ただし、重大な過失の場合は除く」といった内容が定められているからです。

 重大な過失とは、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態※2です。
※2:出所:​失火責任法および重大な過失の定義:最三小判昭和32・7・9 民集第11巻7号1203頁
 
 もし、重大な過失として法律上の賠償責任を負ってしまった場合は、前述の「個人賠償責任特約」の補償対象となります

 また、自分が借りている戸室部分は、過失、重過失に関係なく「借家人賠償責任特約」で補償されます。

賃貸契約時に不動産会社指定の火災保険商品への加入は必須か

 不動産の賃貸借契約において、貸し主が火災保険への加入を義務付けることは法的に有効です。しかし、保険会社や保険商品を一方的に指定し、借り主の選択の自由を奪うことは法令違反となる可能性があります

 貸し主が、借り主に対して必要な補償内容を定めて火災保険への加入を賃貸借契約の条件とすること自体に問題はありません。主に借り主が火災などを起こした場合の原状回復義務を確実に履行してもらうためであり、貸し主の正当な権利と見なされています。

 しかし、貸し主や不動産会社が特定の保険会社や保険商品を名指しで指定し、それ以外は認めないというやり方は、消費者契約法などに抵触するおそれがあります。

 借り主には保険商品を自由に選ぶ権利があり、貸し主がその選択の自由を不当に制限することは問題視されるからです。つまり、借り主は自分で火災保険を選んで加入できます

 ただし、自分で選ぶ際には、貸し主が求める最低限の補償内容や保険金額(補償の上限額)を満たしているかを確認する必要があります

 また、貸し主や管理会社によっては、指定の保険以外への加入を認めてもらうために、借り主が交渉する必要がある場合があります。

 もし、指定された商品の保険料が高いと感じたり、補償内容に疑問があったりする場合は、自分で保険商品を探すことも検討しましょう。

不動産会社などが用意した火災保険に加入するメリットと注意点

 賃貸借契約時に不動産会社が用意した火災保険に加入するメリットと注意点を整理してみましょう。

3つのメリット

1.割引の可能性:不動産会社が保険会社と団体契約を結んでいることで、団体割引が適用され、個人で加入するよりも保険料が割安になるケースもあります。

2.手続きが楽:入居手続きと一緒に保険の申し込みができるので手間がかかりません。

3.物件に適した補償プラン:その物件を知りつくした不動産会社の担当者であれば、想定できるリスク(たとえば、水災のリスクがある物件など)を考慮した適切な補償内容の商品を選んでくれます。

3つの注意点

1.必ずしも保険料が安いとは限らない:団体割引が適用されていても、借り主にとって不要な特約が付帯されていて、結果的に高い保険料の商品を勧められることもあります。

2.商品選択の機会損失:賃貸専用のパッケージ商品以外にも、通常の火災保険で必要な補償だけを選び、適切な保険金額で加入できます。自分で探したほうが補償内容と保険料のバランスが良い場合もあります。

3.補償内容の確認は必須:勧められるがままではなく、必要な補償(家財の適切な補償範囲、借家人賠償責任特約と個人賠償責任特約の付帯)が適切な保険金額で設定されているか、自分で確認する必要があります。

自分で賃貸住宅の火災保険を探して加入する際のチェックポイント

 賃貸住宅の火災保険は、保険代理店や街の保険ショップで複数社の商品とプランを提案してもらうか、インターネットで賃貸住宅に対応した保険商品を自分で探したりする方法があります。

 その際、以下の3つの注意点が挙げられます。

1.家財の水災損害の補償
2.借家人賠償責任特約
3.個人賠償責任特約

1.家財の水災損害の補償

 インターネット専用商品の場合、家財の水災損害が補償されないものが多いです。水災補償は河川の氾濫による洪水のほか、内水氾濫(大雨により雨水の排水が追いつかず、下水道・用水路などから水があふれ出す現象)や土砂災害も含まれています。物件所在地の役所のホームページに掲載されている「ハザードマップ」でリスクを把握し、水災補償の必要性を判断しておきましょう。

2.借家人賠償責任特約

 賃貸借契約の条件として保険金額が指定されていることも少なくないので、それに合わせるのが基本となります。しかし、指定がない場合は1~2人用で500万から1,000万円、ファミリータイプでは1,000万から2,000万円程度を目安に設定しましょう。

3.個人賠償責任特約

 賃貸借契約で不動産会社から提案される賃貸専用パッケージ商品やインターネット専用商品の保険金額は数千万円が多いです。最低1億円の保険金額を確保しましょう。保険代理店経由であれば3億円や無制限で付帯可能な商品も多くあります。

 個人賠償責任特約は、日常生活または住宅の使用中、管理中に起きた偶然事故で他人にケガをさせたり他人の物に損害を与えたりした場合に、法律上の損害賠償責任を負ったときの補償となります。自転車事故など高額賠償判決事例を踏まえ、できるだけ高額補償の商品を選びましょう。

【関連記事】>>自転車事故も対象になる火災保険の個人賠償責任特約を解説! 保険金を受け取れるケースや確認しておきたいポイントは?

まとめ

 最後に、賃貸住宅の火災保険について整理しましょう。

  • ・必要な補償は「家財補償」「借家人賠償責任特約」「個人賠償責任特約」の3つ
  • ・保険会社や商品は指定に従う義務は通常ない
  • ・指定商品は手軽で割安な場合もあるが、自分で比較検討するメリットも大きい
  • ・選ぶ際は「水災補償」「地震保険」「個人賠償責任特約の補償額(最低1億円)」を必ず確認する

 賃貸住宅の火災保険をたんなる「お守り」や「契約上の義務」とせず、財産や賠償責任から生活を守る具体的な「備え」としましょう。

【関連記事】>>賃貸の火災保険は、自分で加入する方が安くなる!? お得な商品の選び方、保険金額設定のポイントを解説

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