ここ最近毎年のように、全国各地で未曾有の自然災害が起きている。なかには、避難できないまま亡くなった人もいたが、なぜ災害が起きても安全な場所に身を移すことができなかったのだろうか。そこで今回は、災害から生命を守るための防災と避難の基本について解説しよう。(フリージャーナリスト:福崎剛)
災害から命を守るために意識するべき4つのポイント
以前、東京都江戸川区の「水害ハザードマップ」が注目されたのはご存じだろうか。
表紙中央に位置する江戸川区は赤線で縁取られ、「ここにいてはダメです」と記載されている。大きな赤い矢印は、他の地域への避難を促しているものだ。
受け取りようによっては、まるで、江戸川区は大変危険だということを強調しているようにも見える。その強烈なメッセージ性が話題となり、江戸川区の水害ハザードマップは、多くの人の注目を集めた。
そもそもハザードマップとは、自然災害の想定被害や、有事の際に利用できる地域の避難場所を示したものだ。各自治体が主導となってハザードマップが作られているのだが、その存在を知らない人も多い。
そこで、江戸川区ではメッセージ性を強めた表紙を採用し、住民に危機感を持たせることにしたのだろう。危機感を持てば、一人一人の意識が高まる。最終的には、それが住民の命を守ることにつながるからだ。
こうした防災対策情報の発信については、市区町村だけでなく、政府も積極的に動いている。国土交通省は、全国各地のハザードマップが確認できる「ハザードマップポータルサイト」や、防災に関する基本的な情報を提供する「防災ポータル」を運営している。
ところが、いくら行政が情報発信していても、実際に被災した場合には、最終的に個人の判断と行動が命をつなぐ。しかし、どんな自然災害でも「避難しきれずに命を落としてしまった」というケースが後を絶たないのはなぜだろうか。
実は、「災害時に適切な行動が取れるかどうか」のポイントは4つある。
2.ハザードマップで、周辺地域のリスクを知る
3.最寄りの避難場所を確認する
4.避難するタイミングを理解する
この4つを意識しておけば、万一の場合に対処しやすくなり、命を守る行動につなげることができる。
災害発生時の「警戒レベル」について知っておこう
想定外で起きるのが自然災害だとすれば、いかにその被害を最小限に抑えられるのかを真剣に考えるべきだろう。まず行うべきことは、市民ひとりひとりが災害から自分の生命を守ることだ。
そのためには、避難行動を「いつするか」が問われる。TVのニュースで「避難してください」と連呼していても、避難できない人・しなかった人は多かった。もしかすると、避難する決断もできないまま自宅待機していたケースがほとんどかもしれない。
また、「自分は被災しないだろう」という妙な思い込みがあり、なかなか避難行動に踏み切れないことも多い。防災無線が懸命に避難を呼びかけても逃げ遅れた人もいる。
では、どういうタイミングで避難すべきなのだろうか。改めて、ここで「警戒レベル」を確認してみよう。「内閣府防災情報のページ」には、下記のように警戒レベルの区分と、住民が取るべき行動が示されている。
警戒レベルは5段階に分かれ、心構えを高める「警戒レベル1」から命を守るための最善の行動をとる「警戒レベル5」まである。このうちどのタイミングで避難をしたら良いのだろうか。
「警戒レベル3」になれば、避難開始をしていい。特に高齢者は、このレベルで早く避難したほうがいい。また、一般の市民でも「警戒レベル4」になれば、全員速やかに避難すべきとなっている。
ニュースや気象情報から警戒レベルを確認し、速やかに避難場所へ移動する。これこそ、防災・減災の最も有効な手段に違いないのである。
「避難場所」と「避難所」の違いとは?
警戒レベル3や4が発令されて、いざ避難しようとなった場合、あなたならどこへ避難するだろうか? 実は、自治体が指定する「避難をする場所」には、2種類ある。「避難場所」と「避難所」だ。
この2つの名称は似ているが、役割が異なっている。未だに「避難場所」と「避難所」を混同している人が少なくないので、ここで改めて確認しておこう。
「指定緊急避難場所」(以下、避難場所)とは、災害対策基本法により、災害の危険から命を守るために緊急的に避難する施設、または場所として定められたものだ。
「指定避難所」(以下、避難所)は、避難した居住者等が災害の危険がなくなるまで、または災害により自宅へ戻れなくなった居住者等が一時的に滞在する施設だ。
つまり、災害時に生命の安全を確保するため緊急的に避難する場所が「避難場所」になる。
一方、「避難所」は、被災者が一時的に滞在・居住できる施設であり、安全を確保する場所ではない。東日本大震災では、「避難場所」に向かわず「避難所」に逃げたことで、津波の犠牲者となった事例もあった。
なお、津波対策として、学校施設では「避難場所」と「避難所」を明確に指定することとされている。学校によっては、敷地や施設で「避難場所」と「避難所」が別のところに指定される場合もあるのだ。
日頃から家族の間で、もしも災害時に避難する場合は、「避難場所」に向かうことを決めておくことだ。
ハザードマップで近隣地域の災害リスクを把握する
2015年の「水防法等の一部を改正する法律」によって、自治体はハザードマップを作成することになった。
一例を紹介しよう。2018年(平成30年)に発表された「江東5区大規模水害ハザードマップ」は、荒川と江戸川が氾濫することを想定したものだ。河川に沿って赤く塗られたエリアは、3m以上、5m以上の浸水の可能性がある。このハザードマップを確認すると、足立区、葛飾区、墨田区、江戸川区、江東区の5区は大きなリスクを抱えていることが分かる。
この水害ハザードマップを発表したときには、いたずらに不安をあおるものだという声もあった。しかし、気候変動で想定外の集中豪雨に見舞われることも多くなった今、防災・減災を意識させるものとしては有用だと評価されるべきだろう。
ちなみに、このハザードマップがあるからといって、ただちにこの5区が居住地として危険だという判断をするのも間違っている。ハザードマップは、リスクを知ることで、その場所に住んでいる人達が、災害時に適切な行動をとるためのものだ。いかに、災害に備えて行動するかが重要なのである。
居住地のハザードマップは、先ほど紹介した「ハザードマップポータルサイト」でも確認することができる。また、各自治体のホームページや役所でも情報を得ることができるので、目を通しておこう。
また、ハザードマップを確認しながら、実際に周辺を歩いてみるのも良い。ハザードマップを眺めるだけでは分からなかった、多くの情報が得られるはずだ。
災害は自分事だと認識しよう!
自然災害に対して、防災意識が低いのは、2つの理由があると思われる。
1つは、「自然災害を、リアルな出来事として肌身で危険を察知できない」ことがあげられる。実際、災害を映像情報として知っているものの、身近な危機と捉えられない人たちが少なくない。これは、避難指示や避難勧告が出ていてもなかなか避難しなかった実態からも明らかだろう。
2つめは、「自分が住んでいる地域が、災害リスクの高い地域だと認めたくない」というものだ。不動産会社や周辺住民も、災害リスクがあると不動産価値が下がるために、あえて危険であることを話題にしないことがある。これは、原発の安全神話と同じで、「思考停止」が長く続いているためだ。
例えば、「基礎杭をしっかり打ち込んでいるから安全安心だ」「免震工法だから安心安全だ」と思い込んでいるのである。そうなると、万が一のことを考える機会が少なくなり、防災意識が低下する。こうした思考停止に陥ってしまうのは、周辺環境のマイナスイメージの話題から、目を背けて来たことが一因だ。
しかし、自然災害はいつどこで起きるか分からない。自分だけは大丈夫だと思わずに、「災害は自分事」だと思うことが重要なのだ。
まとめ
気候変動で台風の大型化や局所的集中豪雨が頻繁に発生する時代、ひとりひとりが防災・減災の意識を持つ必要に迫られている。公共的なハード面の防災対策には予算的な限度があり、「自分の生命は、自分で守る」のが災害対策の基本なのだ。
まずは、居住地域のハザードマップで、想定される被害範囲や避難場所を確認し、防災意識を高めておくことだ。
また、水害等に備え、自治体が発表する「警戒レベル」情報から、避難するタイミングを決めておくことも重要である。特に高齢者の場合は、「警戒レベル3」で避難し、遅くとも「警戒レベル4」では全員が避難する意識をもっておこう。
なお、災害時に生命の安全を守る場所として真っ先に向かうべきところが「避難場所」になる。日頃から最寄りの避難場所を確認しておくことも重要となる。
これからは災害に強く、減災効果を持つまちづくりが推進される一方で、市民ひとりひとりも災害・減災に対する個人レベルでの対応力が求められるのである。
【関連記事はこちら】>>あなたの家の災害対策は万全? ハザードマップの確認だけでは足りない、命と住まいを守る「リスクマネジメント」を知っておこう
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