災害時に必要なお金は「生活費の6カ月~1年分」!?
もしもの時に備える最低額は180万円だと心得よう

2023年10月31日公開(2023年11月13日更新)
佐藤益弘:優益FPオフィス 代表取締役

近年、台風や洪水、豪雨、地震といった大規模災害が増えています。残念なことに、被災して住まいを失ってしまった方も大勢いるのですが、いま現在、安全に暮らしている場合でも、いつ被災するかを予測することはできません。そこで、この連載では、特に住宅における「リスクマネジメント」について紹介します。今回は、災害に備えた「お金」の考え方について紹介していきましょう。(優益FPオフィス 代表取締役:佐藤 益弘)

災害 備え 現金
もしもの備えに、現金はいくら必要?(出所:PIXTA)

 被災すると、家計に大きなダメージが発生します。保有している財産が無傷であることは稀ですし、仕事も休まざるをえなくなると、期待していた収入が得られないこともあります。非常時には節約も難しく、もしかすると、期待する程の援助(支援金や給付金など)が受けられないかもしれません。そんな時、手持ちの預貯金が全く無いと、被災後、あっという間に家計が回らなくなり、生活を再建するのも困難になってしまいます。

 ただ、もしもの時のために、いったいどれ程の預貯金を蓄えておけば良いのかは、あまり知られていません。災害におけるリスクマネジメントについて紹介している本コラムでは、今回、経済的な面での「災害対策」について説明します。

被災したら、「助成金+保険金+個人の預貯金」から復旧費用を捻出することに

 実は、「災害が起きたときのために、どれぐらいの預貯金を用意しておけば良いのでしょうか?」と聞かれても、画一的に答えることはできません。被災状況によって、復旧するまでに必要な金額や時間も違いますし、もともとのお財布事情や、保有財産の多寡は、各家庭によって異なるからです。

 ただ、金額を想定するための計算方法はあります。

【計算式】生活復旧にかかる費用 = 助成金 + 保険金 + 預貯金

 もしも被災してしまったら、生活復旧のためにいくらか費用がかかりますが、そのすべてを預貯金で賄うのではありません。国や自治体から生活再建のための経済的な支援もありますし、適正な保険に加入していれば、保険会社から保険金がいくらかもらえるでしょう。ですから、この3つを使って生活を立て直すことになるのです。

災害によって必要になった経費は預貯金で補填
被災したら、保険金・助成金・預貯金を使って生活復旧することになる!

 これを計算式で表すと、このようになります。

【計算式】災害用に用意する預貯金= 生活復旧までにかかる費用 - 助成金 - 保険金

 では、具体的にどの程度の預貯金が必要になるのか見ていきましょう。

「生活復旧にかかる費用」の中身とは?

 具体的な預貯金額を検討する前に、被災した場合どのような経費が発生するのかを知っておく必要があります。おおまかに分類すると、2つの経費があります。

1.生活復旧するまでの「生活費」

 通常の生活に戻るまでに必要な生活費は、一般的に「生活費の6カ月分」だと言われています。半年も経てば元の生活に戻れるだろう……という経験則から、このように言われているようです。ところが、近年の大規模災害では仮設住宅に住まう期間も長期化していると聞きますから、この限りではないでしょう。

 より周到に構えるなら、「生活費1年間分」と期間を長めに想定するか、生活費を何割か増しに考えておいた方が良いでしょう。

2.「補修費・修繕費」

 住居などが被害を受けた時の、補修費・修繕費です。ただ、ハザードマップなどを駆使して、事前に被害想定ができていたとしても、「補修費自体」を試算することは至難の業です。工事費などは需給関係で決まる点もあり、特に災害発生時には工事費が高騰する可能性があります。また、その状況を見越して、災害発生後は悪徳業者が必ずといって良いほどはびこりますから、注意しましょう。

 補修費について最悪のケースを想定するとしたら、住宅を建て直すことです。実際、FPとしては「建て直し費用を想定して考えるように」とアドバイスをしています。

災害時に受け取れる、助成金・保険金とは?

 被災後には、国や自治体、保険会社から一時金を受け取れることがあります。災害によって被った経済的損失の一部を、この一時金によって補填することができます。

1.国や自治体、銀行などからの支援金

 国や自治体などの公的機関や、銀行などの金融機関から、被災した世帯に対してお金が支払われる、もしくは貸し出される場合があります。被災者生活再建支援法を主軸に、さまざまな制度がありますから、簡単に紹介しておきましょう。

【公的サポートの一部】

・被災者生活再建支援制度(最大300万円が支給)
・住宅の応急修理制度(修繕費の実費請求が可能)
・災害援護資金による貸付制度(150~300万円)
・災害復興住宅融資(住宅金融支援機構による貸し付け)
・住宅ローンの返済負担軽減策

 それぞれの制度の詳細については、以前のコラムで紹介していますから、こちらも参考にしてみてください。
【関連記事はこちら】>>もしも被災して自宅が壊れたら…。事前に確認しておきたい災害後6つの公的サポート

2.火災保険などの一時金

 火災保険や地震保険といった、災害保険に加入している人も多いでしょう。その場合、築年数や構造など住宅価格(概算)を試算し、再建築を前提に保険金を設定しているケースがほとんどです。つまり、保険金額は「補修費」とほぼ同額になるはずです。

 仮に、補修費が保険金で全て賄えるのであれば、先ほどの計算式でいうと、「災害用に用意する預貯金」は「生活復旧までにかかる費用」から「保険金」を引いた金額になります。

【計算式】災害用に用意する預貯金 = 生活復旧までにかかる費用 - 助成金

 ところが、この「助成金」は被害の程度、または種類によって、その額も変わってきます。場合によっては、想定しているほどの額がもらえないということも、大いにあり得ますから、助成金を当てにして預貯金の額を低く見積もることは避けた方が良いのです。

普段の家計を見直して、生活費の半年~1年分を災害用に貯金しよう

 ということは、「災害用に用意する預貯金」の目標は、「生活費の6カ月~1年分」ということになります。まずは、この費用を試算して、貯金目標を明確にしましょう。

 すべての貯金に言えることですが、まずは「家計の現状把握」、そして具体的な「目標設定」をすることで、貯金の実行を確実なものにできます。そこでFPとして普段紹介している3つのステップを紹介します。

1.家計の収支確認

 まず、日常生活を送りながら、家計の状況を確認します。

 災害対策として必要な預貯金額の目安は、「生活費の6カ月~1年間分」とお話ししました。そこで、まずはご自身の家計における、「基本生活費」の金額を書き出しましょう。

 「基本生活費」とは、食費・水道光熱費・通信費・日用雑貨費・教養娯楽費などが当てはまります。毎月の支出の他に、年に数回ある特別な支出も計算して、年間における合計金額を算出しましょう。合計金額を12で割ると、1カ月の生活費が分かりますから、そこまでくると「災害用に用意するお金」が分かります。

【計算式】災害用に用意するお金 = 基本生活費 ×6カ月~12カ月分

 例えば、「基本生活費」が25万円の世帯の場合、「災害用に用意する預金額」は、150万円(=25万円×6ヶ月分)ということになります。生活費を2割増しで考えた場合は、180万円(=25万円×1.2×6ヶ月分)。避難生活を1年だと想定すれば、300万円(=25万円×12ヶ月分)用意しましょう、ということになります。ちなみに、どれだけの期間を想定するかは各家庭によってまちまちです。

 自分の家庭の基本生活費が分からない場合は、「月30万円」を目安に考えてみてください。総務省の家計調査によると、2人以上の世帯の生活費は約25万円だと言われていますから、参考にすると良いでしょう。

 必要な金額が分かったら、貯蓄計画を立てるために、家計の現状を把握しましょう。年間収入から年間支出を引けば、今の家計が赤字なのか黒字なのかを確認できます。

【1年間で貯蓄できる金額は?

A:年間の手取り収入
 =収入金額-(所得税+社会保険料+住民税)
B:年間の支出 =基本生活費+住居関連費+車両費+教育費+保険料+その他

A:年間の手取り収入B:年間の支出1年間で貯蓄できる金額

 「1年間で貯蓄できる金額」がマイナスであれば赤字。プラスであれば黒字ということになります。

 私たちFPは、この計算をする際には「家計の収支確認表(出所:日本FP協会)」という表を使っています。もし、ご自身で実践する際には、こちらも利用してみてください。

2.家計のバランスシートで純資産を確認する

 バランスシートとは、「賃借対照表」と呼ばれるもので、現在の資産や負債の状況を表すものです。企業の会計では一般的に使用されているものですが、家計にとっても、資産を管理するのに非常に有効なツールです。

 災害に遭い、住宅が全壊したり自動車が流されたりすると、資産を失い、多額の負債だけが残る可能性があります。そういう意味でも、常日頃から、どんな資産や負債を、どの程度持っているのか、整理して把握しておきましょう。そうすることで、家計の見通しが立てやすくなり、災害時の家計管理のイメージが付きやすくなるからです。

家計のバランスシート(出所:日本FP協会)
家計のバランスシート(出所:日本FP協会)

 「資産」に数えられるのは、現金・普通、定期預金・貯蓄型保険・株式・投資信託・その他の投資商品・住宅(現在の市場価値)・その他になります。「負債」に数えられるのは、住宅ローン・自動車ローン・カードローン・奨学金・その他です。

 資産の合計から、負債の合計を差し引くと、家計の「純資産」が把握できます。普段の生活では、純資産がマイナスであっても、キャッシュフロー(資金繰り)さえ回っていれば問題ありません。

 ただ、災害に遭って、収入が途絶えたり、予想以上の支出が増えたりし、キャッシュフローが滞ると極めて厳しい家計状況に陥ります。特に、住宅ローンを返済中の場合、純資産を早めにプラスにする努力が必要です。

 住宅ローンに関していうと、現在は超低金利ですから、闇雲に住宅ローンを繰り上げ返済して、負債を早急に減らすことだけを考えるのではなく、確実に預貯金をを増やすことで、気持ちの上でも余裕を持った状態にすることも一案です。

 さて、ここまで家計把握ができたところですが、災害対策としては、もう一歩補足が必要です。

3.ライフイベントを確認し、将来の家計予測を立てる

 現在の家計状況が確認できたら、人生に起こりうる将来のイベントを確認してみましょう。何年後にどのようなイベントがあり、どれくらいのお金が必要かを表に書き出すことで、自分や家族の数年後の姿を見える化できます。これを、ライフイベント表といいます。

ライフイベント表の記入例
ライフイベント表の記入例(出所:日本FP協会)

 例えば、子どもがいる家庭だと、入学時などにまとまったお金が必要になります。大まかな目安で構いませんから、分かる範囲で書き出してみましょう。イメージができれば、先読みしてお金の準備をすることも可能です。

 この「ライフイベント表」と、先ほどの「家計の収支確認表」を使い、将来の家計収支と金融資産の推移を確認できるようにしたのが、「キャッシュフロー表」です。言い換えると、家計の「体力」を確認することができる表です。

 例えば、「〇年後には、車の買い替えがあるから、純資産が減る時期だな」ということが分かったり、「長男入学の年には、現金が必要になるので、キャッシュフローが厳しくならないように、前もって貯金しよう」といったことが出来るようになります。

 これを使えば、被災した際に必要になる、新たな住居費や、避難にかかる費用などが、家計に及ぼすダメージも具体的に予想できます。

まとめ

 このように家計管理をすることは、複雑ですし、面倒なように思うかもしれません。ですが、災害時の経済的負担が精神面に及ぼすダメージは非常に大きいので、いざという時のために、日頃から貯蓄しておくことが重要です。

 家計における資産の中で最も金額が高いのは、多くの場合、おそらく住宅になりますが、半壊・全壊などの被害に遭ってしまった場合、経済的な予測が立てられないと、生活を再建するのが困難になります。

 前回お伝えしたような「公助」や「互助(助け合い)」も大切ですが、災害対策の基本は、自分で可能な範囲の備えをするという「自助」なのです。住まいの場所の選び方や、免震耐震対策、災害用の食糧飲料品の備蓄も含めて、自助努力が重要になります。これは経済面でも同じことが言えます。住宅の災害保険に入っているのであれば、被災後の生活費だけ預貯金しておけば良いのですから、これを機に、もしもの場合に備えて、貯蓄をしていきましょう。

 今回紹介した貯蓄方法を実践するのに便利なツール(家計の収支確認表、家計のバランスシート、ライフイベント表)は、日本FP協会のWEBサイトにて無料でダウンロードできます。実践されたい方は、利用してみてください。また、詳細なプランを立てたい方は、日本FP協会のCFP®認定者検索システムなどを使えば、専門家を探すことができますから、問い合わせてみると良いでしょう。

災害対策コラムのリンク集

1.命と住まいを守る「リスクマネジメント」とは?
2.「リスクマップ」を使って災害対策の優先度を知ろう
3.給付金など、災害後に受けられる6つの「公助」を紹介
4.災害発生時に頼りになるのは、助け合いの精神
5.もしもの備えには「生活費6カ月分」の預貯金が必要!
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