台風や豪雨による水害被害が頻発している。直近では、能登半島地震の被災地が9月20日から続く記録的な大雨で被害を受けている。そこで、全国でこれまでどのような水害被害があったのか、過去10年のデータから水害被害額ランキングを作成した。住宅購入時のリスクの把握や水災補償の対応などを解説したい。(フリージャーナリスト:福崎剛)
水害が多発する近年の3つの傾向とは
近年、大規模な水害被害が毎年のように発生している。大型台風や集中豪雨による河川の氾濫や土砂崩れなど、水害の規模や範囲は年々拡大している状況だ。その水害の傾向としては、大きく3つのポイントがある。
- ①水害の頻発と強大化
- ②特定の地域にリスクが集中
- ③経済的影響が拡大
①水害の頻発と強大化
水害の頻発と強大化は、メディアの報道などで誰もが知っていることだろう。2024年8月下旬、日本に上陸した台風10号は鹿児島に上陸、九州と四国を横断して被害は広範囲で長期間に及んだことは記憶に新しい。
この台風10号による被害は死者8名、負傷者128名、家屋損壊1099軒、床上・床下浸水1280軒にも及んだ(内閣府・防災情報「令和6年台風第 10 号による被害状況等について」から)。
勢力を増しながら、動きが遅く広範囲に大雨と風による被害を与えた台風10号だが、その進路予想に関して気象庁が苦労するほど、想定を超えるものだった。このように過去のデータだけでは判断がつかない自然災害が増えている。
②特定の地域にリスクが集中
しかも台風被害で言えば、九州地方は毎年のように水害が起きている。台風10号の影響で線状降水帯が発生した九州や四国のほか、兵庫県や三重県でも大雨となった。
また、台風の接近で鳥取県や埼玉県、岐阜県でも竜巻による激しい突風被害が起きるなど、被害は広範囲に及んでいる。
③経済的影響が拡大
当然、被害による経済的損失も大きくなる。その被害額を都道府県別に見ていくと、自然災害への備えや防災への意識も高くなり、例えば、万一に備える火災保険の補償を見直すきっかけにもなりそうだ。
つまり、災害対策や地域の持続可能性を考える上で、「水害被害額ランキング」は重要な指標になるかもしれないと考えられる。
全国水害被害額ランキング! リスクの高いエリアは?
「全国水害被害額ランキング」は、「国土交通省の水管理・国土保全局河川計画課」の2013年から2022年までの10年間の水害被害額を集計し、被害額の大きな都道府県を並べたものだ。
順位 | 都道府県名 | 被害額(万円) |
---|---|---|
1 | 福島県 | 7,277億2,100 |
2 | 広島県 | 4,591億9,200 |
3 | 岡山県 | 4,409億0,800 |
4 | 熊本県 | 3,964億9,900 |
5 | 福岡県 | 3,930億6,900 |
6 | 栃木県 | 3,304億1,100 |
7 | 宮城県 | 3,260億2,900 |
8 | 静岡県 | 2,971億6,800 |
9 | 長野県 | 2,860億9,000 |
10 | 岩手県 | 2,846億1,100 |
11 | 茨城県 | 2,482億2,900 |
12 | 北海道 | 2,459億8,400 |
13 | 愛媛県 | 2,040億9,100 |
14 | 埼玉県 | 1,650億5,400 |
15 | 京都府 | 1,623億4,700 |
16 | 佐賀県 | 1,570億5,200 |
17 | 大分県 | 1,401億5,300 |
18 | 新潟県 | 1,305億4,000 |
19 | 岐阜県 | 1,305億1,400 |
20 | 宮崎県 | 1,213億9,600 |
21 | 山形県 | 1,188億3,700 |
22 | 千葉県 | 1,100億7,900 |
23 | 神奈川県 | 1,063億9,000 |
24 | 高知県 | 1,023億0,600 |
25 | 鹿児島県 | 1,022億6,900 |
26 | 秋田県 | 989億4,200 |
27 | 兵庫県 | 976億2,900 |
28 | 島根県 | 973億0,600 |
29 | 山口県 | 946億4,300 |
30 | 東京都 | 936億3,800 |
31 | 和歌山県 | 804億9,500 |
32 | 三重県 | 729億6,100 |
33 | 青森県 | 675億5,500 |
34 | 群馬県 | 491億8,700 |
35 | 石川県 | 483億3,600 |
36 | 徳島県 | 402億6,600 |
37 | 福井県 | 382億1,100 |
38 | 長崎県 | 332億5,300 |
39 | 鳥取県 | 312億2,100 |
40 | 愛知県 | 271億7,400 |
41 | 奈良県 | 261億7,400 |
42 | 富山県 | 243億7,100 |
43 | 滋賀県 | 243億2,700 |
44 | 大阪府 | 224億4,700 |
45 | 山梨県 | 172億0,400 |
46 | 沖縄県 | 127億2,400 |
47 | 香川県 | 89億6,000 |
まず、水害被害額が大きいエリアで区分すると、西日本(九州・中国地方)の水害被害の頻度が高い。また、東北エリアの福島県と岩手県は県域が広いため、自然災害が起きやすいことが考えられる。
では、ランキング上位の主な水害被害を見ていこう。
第1位:【福島県】約7,277億円
福島県の過去10年の水害被害(2013年〜2022年)は、7,277億円でダントツの被害額となった。
実は、2011年の東日本大震災後に、台風による大雨・洪水被害にも見舞われている。例えば、2013年では7月22日の大雨・洪水や、同年8月5日の大雨・洪水の被害も甚大であった。9月の台風18号では猪苗代町や郡山市で浸水被害が起き、県内全域に台風被害がもたらされた。
さらに、2019年の「令和元年東日本台風」による水害で、約6,798億円の被害を受けており、水害被害の頻度と被害額が飛び抜けている。
第2位:【広島県】約4,592億円
2位の広島県の大きな水害としては、2014年8月の洪水・土砂災害がある。猛烈な雨を観測した広島県では、8月20日未明、広島市において土砂災害が多発した。このとき、死者77名、負傷者68人、住戸全壊179棟、半壊217棟、床上浸水1,084棟、床下浸水3,097棟もの被害を受けている。
また、2018年7月の豪雨によって、広島県内で約3,388億円の水害被害が発生している。
第3位:【岡山県】約4,411億円
岡山県の大きな水害としては、2018年7月の豪雨が統計開始以来、最大となった。倉敷市真備町で堤防が決壊し、大規模な浸水により甚大な被害が発生している。これにより、岡山県は水害被害額が約4,209億円にも及んだ。
第4位:【熊本県】約3,965億円
2020年7月の豪雨では、九州南部地方、九州北部地方、東海地方及び東北地方の多くの地点で、24、48、72時間降水量が観測史上1位の値を更新するなど、記録的大雨となった。
この大雨で球磨川の堤防が破損し、熊本県の人吉市や球磨村では中心部が完全に浸水して被害拡大につながった。
特に人吉市などでは内水氾濫が起きたほか、避難所が浸水するケースも見られた。その水害被害額はざっと3,300億円にも及ぶ。
第5位:【福岡県】約3,930億円
福岡県の大きな水害としては、2017年の約1,590億円の水害被害額が挙げられる。九州北部で2017年7月5日の昼頃から夜にかけて強い雨域がかかり、短時間に記録的な雨量を観測した。
これによって、福岡県、大分県では大量の土砂や流木とともに洪水が発生し、甚大な人的被害、家屋被害が発生している。
また、2021年8月には発達した前線により発生した線状降水帯のため、24時間降水量が多いところで400ミリを超えるほどの大雨となり、がけ崩れなどが起きて、水害被害額は約520億円にもなっている。
第6位:【栃木県】約3,302億円
2015年の台風第18号に伴う豪雨により、利根川水系鬼怒川で洪水が起き、堤防が決壊。約660億円の被害額となった。また、同洪水により茨城県でも約1,590億円の被害額が出ている。
第7位:【宮城県】約3,264億円
2015年9月、宮城県では台風18号および豪雨により、鳴瀬川水系渋井川の堤防が決壊するなど河川氾濫が発生、2,765戸で断水、高速道路、国道、県道、政令市道であわせて16区間が通行止めとなった。
また、2,133棟の浸水被害が発生しており、その被害額は約330億円となった。さらに、2019年の東日本台風によっても被害額は甚大で、約2,530億円ほどの水害被害が発生している。
第8位:【静岡県】約3,034億円
2022年に起きた台風15号の被害では、静岡県・愛知県・三重県等で1,900億円もの水害被害が発生している。
特に静岡県では猛烈な雨が降り続き、複数の地点で24時間雨量が400ミリを超えるなど記録的な豪雨で、平年の9月の1カ月分の雨量を上回り、観測史上1位を更新した。
その結果、がけ崩れや土石流などの土砂災害が167件も発生し、堤防決壊や越水・溢水による氾濫や内水氾濫などで被害が甚大となった。
第9位:【長野県】約2,862億円
2019年10月の台風19号に伴う大雨によって、信濃川水系千曲川の堤防が決壊した。これにより、浸水想定区域内にある北陸新幹線の車両基地の新幹線車両10編成(1編成12両)が浸水。北陸新幹線のダイヤに長期間にわたり影響が出たことで、大きな損失が生じた。
第10位:【岩手県】約2,846億円
岩手県の水害被害で大きな事例は、2016年に発生した台風第10号による被害である。8月30日に岩手県大船渡市付近に上陸したこの台風により、多量の土砂や流木を含む洪水の発生が起き、低地の大部分が浸水した。
記録的な集中豪雨による急激な水位上昇で被害が広がり、被害額は約1680億円にまで膨らんだ。
水害被害額が少ないエリアでも、リスクが低いとは言えない
昔から沖縄や九州地方は台風の被害を受けてきた過去があり、水害被害額の上位を見ても西日本が多いことがうかがえる。
ところが、近年の温暖化に起因する異常気象によって、台風や線状降水帯の発生が想定外の被害をもたらしている。
そのため、ここなら水害被害が少ないとは断言できない状況でもある。例えば、香川県は水害被害額では圧倒的に低い額であるが、それがそのまま安全とは結びつけられない。
瀬戸内海を挟んで、岡山県や広島県は水害被害額の上位ランキングに入っていることを考えれば、香川県がいきなり上位にランクインする可能性もあるからだ。
ただし、水害被害額のランキングの上位は、いずれも近年の被害額が大きくてランクインしていると考えられる。
特に、過去10年間で何度も被害を受けているのか、それとも1度で大きな被害が出たのか、それによってもリスクの大きさは変わってくる。
簡単に考えれば、ランキングの下位の都道府県であれば、水害被害のリスクは低いと思われる。とはいえ、異常気象が多い時代にあっては、どの都道府県が水害に見舞われるか予想できないのも事実である。
住宅購入時はハザードマップで水害リスクの確認が必須
住宅に関しての水害リスクは立地に関係するため、どういうリスクがあるのかはハザードマップで確認しておくことが重要だ。
ただし、水害のリスクは大きく分けて地方と都市で異なることを理解しておきたい。
地方における水害リスク
地方では台風や集中豪雨によって河川の氾濫や土砂崩れが多く発生し、その結果として浸水被害が頻繁に起きる。このような地方の水害リスクは、特に地形に依存しているため、住宅購入時にはハザードマップでのリスクが確認しやすい。
例えば、近隣の河川より低地に位置する土地、土砂崩れの可能性がある山間に近い土地、宅地造成で盛り土している土地などは、地図上でも容易にリスクを想像できる。
地方では、こうした地形的要因が水害リスクに直結するため、立地選びには慎重さが求められる。
都市部における水害リスク
一方、都市部では下水の排水容量を超えたために起きる内水氾濫、地下鉄や地下街などが浸水することで、ビルの電気基盤などインフラ被害にまで及ぶこともある。
内水氾濫とは、市街地で発生する氾濫で、雨水の排水が追いつかずに下水道や用水路、マンホールなどから水があふれ出す現象である。特に建物が密集する都市部では、下水能力を超えた雨水によって内水氾濫が発生しやすい。
下記は、近年の全国における水害被害をグラフ化したもので、過去10年間の水害被害額の原因を大別したものである。
東京都の水害被害を被害額ベースで見ると、内水氾濫による被害額が全体の71%を占めている。洪水氾濫等による被害額は29%であることから、都市部では圧倒的に内水氾濫が多いことがわかる。
都市部での住宅購入時には、地盤の固さや丘陵地などの立地条件が二の次にされがちである。特にタワーマンションの上層階を購入する場合、床上浸水のリスクはほとんど考慮されないことが多い。
しかし、2019年の武蔵小杉のタワーマンションの事例では、建物全体の電気設備が地下にあり、浸水による長期間の停電が発生したことが問題となった。
こうなると、地形的な判断だけでは水害リスクを十分に把握できず、被災した場合、その被害規模や金額は莫大になりがちだ。
水害リスクの高い場所を避ける
そこで、住宅購入時に注意するポイントとして、内水氾濫が起きやすいなど、周辺の水害リスクは調べておきたい。
・下水道の排水能力が低い場所
・下水道や水路が大きな川に流れ込む水門などの周辺に近い場所
また、世田谷区や大田区など、内水氾濫ハザードマップを公開している自治体もあるので確認するようにしたい。
これからは、住宅購入時の条件として立地を語るときには、水害リスクがいかに低いかが重要になる。
大型台風や線状降水帯、集中豪雨などが発生しやすい時代だからこそ、水害リスクの確認は必須といえそうだ。
【関連記事】>>あなたの家の災害対策は万全? ハザードマップの確認だけでは足りない、命と住まいを守る「リスクマネジメント」を知っておこう
万一の保険は、水災補償を手厚くすると安心
水害は特定の地域やエリアだけに起きるわけではない。そのため、万一の備えとして火災保険で補償を考えておくことも、不動産を持つ上では大切なことだ。
実は、一口に損害保険といっても各社同じ補償やサービスではないし、掛け金も変わってくる。そこで、この機会に住宅の保険を見直してみてはいかがだろうか。
2024年10月から火災保険の値上げが予定されており、さらに、これまで全国一律だった「水災補償」の保険料も細分化されることになった。この水災補償は、水害被害のときに補償してくれる保険にあたる。
【関連記事】>>火災保険の値上げは2024年10月か?! 都道府県別の上昇率はどのくらいかや、来年度の改定ポイントも解説!
水災補償の保険料が細分化
水災補償とは、台風や集中豪雨、洪水による建物の損害補償※であり、集中豪雨などによる土砂崩れなどの補償も含まれる。
※床上浸水または地盤面から45cmを超える浸水の場合
水災は地形的な差異によって発生するリスクも異なるため、そうした水害リスクを加味して保険料に反映しようというのが新しい水災料率になり、保険の掛け金が変わることになった。
損害保険料率算出機構では、「水災等地検索」ページがあり、住宅所在地の「都道府県」と「市町村」を選んで検索すると、水災リスクの低い「1等地」から最も高い「5等地」の5段階で表示される。水災リスクの発生しやすい地域かどうか、「1等地」から「5等地」の5段階で区分によって保険料に反映するという。
住宅を購入する前であれば、購入予定の宅地所在地を検索して水災リスクを把握しておくことも必要だろう。
水災補償と水ぬれ補償の違い
最後に、「水災補償」と「水ぬれ補償」の違いについて触れておこう。「水ぬれ補償」は、「給排水設備などの破損」または「他の住戸で起こった水漏れ事故」が原因となって生じた損害を補償するものだ(ただし、設備の老朽化が原因による破損事故などは補償外となる)。
火災保険では、「水災補償」「水ぬれ補償」の両方を掛けておくのが安心である。特に、水災補償においては、水災リスクが最も高い「5等地」に住宅がある場合は、ぜひ水災補償をつけておきたい。また、「1等地」の場合でも水災リスクはゼロではないので、検討してみたい。
【関連記事】>>火災保険の「水災補償」は必要? 水災と水濡れ被害の違いと、加入すべきケースを紹介!
まとめ
水害被害額ランキングと水災リスクへの対応について解説してきた。以下がまとめとなる。
- ・最近の水害被害は異常気象の影響も大きく、被害の規模、被害額ともに甚大になっている
- ・水害被害額ランキングによれば、断然のトップは福島県である。全体的には西日本の地域で水害被害が大きい傾向がうかがえる
- ・水害被害額の少ない地域においても、いつ甚大な被害が発生するかわからない。過去10年間の被害額ランキングの過多によって、水害リスクが低い地域だと断定はできない
- ・住宅を購入するなら、水害リスクの確認は必須。これだけ毎年のように大きな水害が発生していることを考えると、ハザードマップだけではなく、被害が増えている内水氾濫に関わる下水道の整備なども知っておきたい
- ・水害に備えた補償の手厚い火災保険を選ぶためには、住宅の所在地から水災リスクが5段階のどの区分に相当するのかを検索しておく。「損害保険料率算出機構」の「水災等地検索」から簡単に何等地かを調べることができるので、それを参考にして、万一に備え、水災補償をつけておきたい
【関連記事】>>専門家が選ぶおすすめ火災保険
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