空き家900万戸なのに新築は年80万戸! 中古が選ばれない裏に国の税制と「新築神話」(『教養としての空き家』第1回)

【第1回】2026年8月27日公開(2026年8月27日更新)
丸岡智幸:株式会社ネクスウィル 代表取締役

2023年の空き家数は900万戸に達し、過去最多を更新した。それにもかかわらず、新築住宅は年間80万戸台のペースで建ち続けている。背景にあるのは、新築に手厚い固定資産税の減額や住宅ローン減税といった国の制度、「中古=安い」という日本社会に根付いた意識、そして中古仲介よりも新築販売のほうが利益の大きい不動産業界の構造だ。木造住宅の税務上の資産価値は、築22年を超えるとほぼゼロと評価される。そんな日本では、まだ住める家が「空き家」のまま放置されていく。住宅が余る時代に知っておきたい、新築偏重の正体を解説する。【丸岡智幸著:書籍『教養としての空き家』(ブックダム)から転載】

教養としての空き家
書籍『教養としての空き家』

余っているのに、なぜ新築が建ち続けるのか

 空き家問題を解決する最短の方法は、空き家に住む人が増えることです。これは誰もが理解できることでしょう。しかし、現実は新築に住む人が圧倒的に多いのが現状です。

 そこには、国の政策、日本に深く根付いた「新築神話」、そして不動産業界の構造が複雑に絡み合っています。

 最新の国土交通省のデータを見てみましょう。2023年度の新築住宅着工戸数は約80万戸にのぼり、ここ数年も年間80万戸台で推移しています。住戸数全体も2013年が6062万9000戸、2018年が6240万7000戸、2023年が6504万7000戸と増加傾向にあります。

 その一方で、空き家数は2023年に900万戸に達し、これは2018年の調査から51万戸増加した過去最高の数字です。

 このデータが示すのは、新築が供給され続ける一方で、既存の住宅が活用されずに「空き家」として放置されている、つまり「余った住宅がどんどん増えていく」という日本の住宅市場が抱える根本的な問題です。

 では住宅が余っているのになぜ、新築が建てられ続けているのでしょうか。その背景には、国の政策が大きく影響しています。

 たとえば、固定資産税です。新築住宅の場合は、3年間、長期優良住宅であれば5年間、固定資産税額が2分の1に減額されます(マンションなどの新築は5年間または7年間)。しかし、中古住宅には、このような減税措置は適用されません。

 また、住宅ローンを利用する際に重要な住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)も、新築住宅に手厚い内容となっています。新築住宅の場合、年末のローン残高の0.7%が13年間にわたって所得税などから控除されます。一方で、中古住宅の場合は、この控除期間は10年間と短くなります。

 つまり、制度的に新築の方が経済的なメリットが大きく、消費者は自然と新築を選びやすくなっているのです。

 なぜ国はこれほど新築を推し進めるのでしょうか。その理由は、新築建設が経済全体に大きな波及効果をもたらすと認識されているからです。

 そもそも住宅は、「人生で一番高い買い物」と言われるほど高額です。さらに建設業は多くの雇用を生み出し、資材の製造や流通など、関連する多様な産業を活性化させます。

 これは、戦後の復興期に「質より量」で住宅を供給する必要があった時代背景から続く考え方であり、高度経済成長期を通じて「住宅供給」が経済成長の原動力の一つとされてきた名残とも言えるでしょう。

 国の制度だけでなく、私たち日本人の心理も新築住宅を強く後押ししています。

 仮に新築住宅を購入したと友人に話すと、「新築なの? すごいじゃん!」と言われ、中古住宅を購入したと話すと、なんとなく「へぇ、そうなんだ……」といった反応が返ってくることが多いのではないでしょうか。こういった反応の違いが生じるのは、「中古=安い」という印象や、ある種の偏見が社会に存在するからでしょう。

 その結果、日本の住宅市場における中古住宅のシェアは、わずか16.2%に留まっています(国土交通省、2024年)。

 一方で欧米先進国では、中古住宅が市場の中心であり、平均して7割程度を占めています。彼らには、「ヴィンテージ」という感覚によって古いものに歴史や趣、そして価値を見出す文化が根付いています。身近な例では、ヴィンテージのジーンズや古着を想像するとイメージしやすいでしょう。

 しかし、日本では「中古=古いもの」といったイメージがつきまといがちです。「誰かが住んだ家はちょっと……」という心理的な抵抗感があるのも事実です。

 加えて、日本が地震や台風などの災害が多い国であることも、「新築神話」を形成する一因かもしれません。江戸時代には、火災や地震による倒壊が頻繁に起こることを前提に、あえて耐久性の低い家が建てられていたという話もあるほどです。

 そのため、「建物は長持ちするもの」という概念が育ちにくく、欧米のような「ヴィンテージ」に対する価値観が形成されにくかった可能性があります。

 不動産市場のビジネス構造も、次のような理由で新築偏重を生み出しています。

新築の利益率が高い

 新築住宅の建設と販売は、不動産会社にとって利益率の高いビジネスです。土地を仕入れ、そこに建物を建てる。この過程では、土地の仕入れ値や建築コストが一般の消費者には見えづらく、企業が利益幅を大きく取りやすい「ブラックボックス」が存在します。

 たとえば、ある不動産会社が土地を2000万円で仕入れ、2000万円で建物を建てたとします。それが5000万円で売れた場合、1000万円という大きな粗利益が出ることになりますが、消費者は土地の取得価格や建築原価を正確に知ることはできません。

 一方で中古住宅の売買は、既存の建物を「仲介」する形になるため、主な収入源は売買価格に応じた仲介手数料になります。この手数料は、宅地建物取引業法で上限が定められています。たとえば400万円を超える物件の場合、「売買価格の3%+6万円+消費税」が上限となります。

 5000万円の中古物件を仲介しても、手数料は150万円+消費税――。新築の建設・販売に比べて、中古仲介は得られる利益が小さいため、不動産会社は自然と新築事業を優先する傾向にあります。

法定耐用年数を過ぎると査定価格がゼロに

 日本では、建物の価値が時間の経過とともに急速に下がっていくという特殊な考え方があります。これは法定耐用年数が大きく影響しています。

 法定耐用年数とは、会計上の「建物や機械などを資産として使える期間」のことです。たとえば、木造住宅の法定耐用年数は22年と定められています。つまり、築22年を超えると、税務上は建物の資産価値がほぼゼロと評価されてしまうのです。

 それを根拠に、不動産会社が行う木造住宅の査定の価格もゼロになるケースが多々あります。実際には、まだ耐久性があり、住み続けることが可能な建物であっても、「使える年数」ではなく「会計上の耐用年数」で価値が判断されてしまうため、中古住宅が「資産」として魅力的に映りにくくなっているのです。

住宅ローン審査の新築優遇

 住宅ローンも新築優先の構造を助長しています。新築住宅は、銀行にとって担保評価が高く、比較的ローン審査が通りやすい傾向にあります。

 一方で、築年数の古い中古住宅では、ローンの審査が厳しくなったり、融資額が希望通りにならなかったりするケースも少なくありません。新築を購入する方が総額は高くても、月々の返済計画が立てやすく、結果的に買いやすい状況になっているのです。

 近年、中古住宅の流通を活性化させるために住宅の専門家が建物の状態を診断し、劣化状況や不具合の有無などを検査する「ホームインスペクション(住宅診断)」の普及が進められています。しかしながら、依然として「中古=訳あり」というイメージや、そもそも中古を購入したいという意欲が低い現状では、その効果も限定的です。

 同じ中古でも自動車の場合は、活発に売買が行われています。これは、新車と中古車の価格差が明確であり、消費者が中古車を選択する経済的なメリットを認識しやすい点、そして業者側も中古車販売で十分な利益を確保できるビジネスモデルを構築している点が大きいでしょう。

 しかし住宅の場合、土地や建物の価格が消費者には見えにくく、「元値が分からない」という不透明さも、中古市場の活性化を阻む原因になっています。

 このような要因で中古住宅市場が活性化せずに、住宅の総数は増え続けているのに「使える空き家」が放置されていく、という矛盾を生み出しているのです。

※本記事は転載にあたり、読みやすさを考慮して一部編集・再構成しています。

続きはこちら>>相続した実家が売れない⁉ 「共有持分」「再建築不可」「借地権」という3つの落とし穴とは?

教養としての空き家
丸岡智幸著・ブックダム
教養としての空き家

日本には空き家が900万戸あり、住宅全体の7軒に1軒にのぼる。地方は人口が減って商店や学校が消え、都心は家賃が高騰して「住む場所が借りられない」時代に。この問題に、私たちはどう向き合えばいいのか?
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