立地や老朽化だけが、空き家が放置される理由ではない。売ることも活用することもできないまま時間だけが過ぎていく物件には、「共有持分」「再建築不可」「借地権」という3つの壁がある。相続を重ねて共有者が増え、一人でも所在不明になれば売却は止まる。建築基準法の接道義務を満たさない土地は、価格が都心部でも5〜6割減、地方では9割減になることもある。地主の承諾がなければ建物すら売れない借地権付きの家も同じだ。いずれ実家を引き継ぐ人が知っておきたい「売れない不動産」の正体を解説する。【丸岡智幸著:書籍『教養としての空き家』(ブックダム)から転載】
「売りたくても売れない」不動産が存在する理由
空き家が長期にわたり放置される理由には、立地や建物の老朽化といった目に見えるものだけではなく、法律的な制約や人間関係のこじれといった、外からは分かりにくい事情が深く関わっている場合があります。
その中でも多いのが「共有持分」「再建築不可」「借地権」という3つの要因です。
相続を重ねるほど動かせなくなる「共有持分」
まず、共有持分とは、1つの不動産を複数人で共有している場合に、それぞれの人が所有している権利の割合のことです。たとえば、3人兄弟で実家を相続した場合、それぞれ3分の1ずつの土地の所有権を持つことになります。
民法では、持分に応じて土地を使用したり収益を得たりすることができること、売却や大きな変更には共有者全員の同意が必要なことなどが定められており、取り扱いはこれらの規定に従う必要があります。

空き家は、相続を重ねるうちに所有者が増えて連絡の取れない人や意思の異なる人が混じってくると、売却や活用への動きが止まってしまいます。
連絡の取れない共有者がいる場合はどうなるのか
以前、共有者の一人が海外に移住し所在不明になった物件を扱ったことがありました。連絡先を追跡しても途中で途絶え、最終的には裁判所に「共有物分割請求」を申し立てるしかありませんでした。
申し立てを行うと、裁判所は「公告」という手続きを取ります。具体的には、「官報」に掲載されます。官報とは、国が発行する公式の情報誌で、法律の制定や政府の決定事項などが掲載されており、インターネットでも誰でも閲覧できます。
ここに「この物件の共有者は名乗り出るように」という通知を掲載し、裁判所の掲示板にも同様の内容を貼り出します。これは、連絡が取れない共有者にも最後の機会を与えるための手続きです。
期限までに現れなければ、裁判所が「この金額で持ち分を買い取りなさい」と決定します。買い取る側は、その金額を「供託」します。供託とは、現金を法務局に預け、相手がいつでも受け取れる状態にしておくことです。こうして持ち分の代金を公的に預けることで、相手と直接やり取りをしなくても、法的に所有を確定することができるのです。
こうした手続きは半年から1年以上かかり、費用もかさみます。地方の低価格物件では、手続きが終わった頃には利益がほとんど残らないこともあります。実際、立地の将来性を見込んで動いた案件が、周辺相場の下落でほとんど利益にならなかったこともありました。
こうした状況を避けるために、相続時に誰が取得するかを決め、他の相続人には現金や他の資産で分ける方が、将来の火種を減らすことにつながります。
最大の障壁は法律ではなく"感情”
また、共有持分については人間関係も大きく影響します。たとえば、共有者の一人が「経済的には売ったほうが良いが、兄弟が得をするのは面白くない」などという理由で同意を出さないケースもありました。感情が交渉の最大の障壁になるのです。
こうした場合、第三者を入れることで感情的なやり取りを整理し、話し合いの土台を作ることができますが、それでも折り合いがつかない場合は、最終的に法的手続きに委ねざるを得ません。
建て替えができない土地「再建築不可」
次に、再建築不可の物件です。これは、現行の建築基準法に適合しないため、原則として建物を建て直せない土地のことです。再建築不可物件の多くは、接道義務(幅員4m以上の道路に2m以上接していること)を満たしていません。
ただし、セットバックによって建て替えをすることができる場合もあります。セットバックとは、接している道路が4m未満の場合に、道路中心線から2m後退して敷地を後ろに下げ、道路幅を確保することです。再建築不可の土地でも、セットバックによって接道要件を満たせば再建築が可能になることがあります。
しかしながら、後退した敷地は道路扱いとなり建物を建てることができなくなります。要するに、建て替える前の広さの家が建てられなくなるのです。そのため、「この土地は活用のしようがない」と、空き家を残したまま放置されるケースが多くなります。
再建築不可の物件価格は、周辺相場より大きく下がり、都心部でも5〜6割減、地方では9割減になることもあります。
印象的だったのは、再建築不可のアパートが火災で全焼し、更地になってしまった案件です。再建築できず、かといって中に入るための道路が狭いので駐車場にも転用できません。そのため放置され、雑草が伸び、不法投棄の現場と化していました。
出口戦略を「売る」から「貸す」に切り替える
一方で、建物が残っていれば別の道があります。地方の再建築不可物件でも、修繕して賃貸物件として活用すれば、数年で投資額を回収できる場合があります。
仮に、物件を100万円で入手できるとなれば、出口戦略を「売る」ではなく「貸す」と割り切る投資家も少なくありません。最終的に売却価格がタダ同然でも、その前に十分な利益が得られるからです。
地主の承諾がなければ売れない「借地権」
最後に借地権です。これは建物を建てる目的で、地主から土地を借りる権利のことです。土地の所有権は地主が持ち続けますが、借地権者は借りた土地に建物を建てて所有することができます。
借地権は、おもに普通借地権と定期借地権の2種類があります。普通借地権は、契約期間が定められていますが、契約更新によって長期にわたって土地を借り続けることができます。定期借地権は、契約期間が定められており、契約更新はできません。契約期間満了後は、更地にして土地を地主に返還する必要があります。
普通借地権の場合で、建物を売却する際は、地主の承諾が必要です。このとき承諾料を請求されたり、承諾自体を拒まれたりすることがあります。
以前、相続で借地権付きの空き家を引き継いだ方から相談を受けました。既に別の場所に自宅を構えており、その空き家を売却したいというものでした。地主は当初それを承諾しましたが、後になって「更地にして返すように」と条件を変えてきました。解体費用は高額で、依頼者は途方に暮れていました。そこで弁護士が介入し、法的に正当な理由がない限り承諾を拒めないことを示し最終的に売却が実現しました。
こうした事案は、地主と借地人の関係が代替わりした時点で起こりがちです。親同士の長年の信頼関係がリセットされてしまうからです。そうでなくても、借地人の態度や言動のわずかな変化から関係がぎくしゃくし、それが引き金になることもあります。
空き家を未来の負債にしないために
共有持分、再建築不可、借地権のどれも法律的な知識と同時に、人と人との関係性が深く絡む問題です。制度上の解決策はあっても、感情のもつれが大きな壁になることは少なくありません。
現場で感じるのは、こうした問題は時間とともに複雑化し、解決コストが増すということです。相続や契約の段階で先を見据えて整理を行い、感情が絡む前に専門家を介入させることが、空き家を未来の負債にしないための最も確実な方法だと考えています。
※本記事は転載にあたり、読みやすさを考慮して一部編集・再構成しています。
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