「横浜市が78年ぶりに人口減少した」というニュースを意外に感じた方は多いのではないでしょうか。なぜ人口減少が起こったのか。人口が減ると、不動産価格も下がっていくのか。不動産業に携わる筆者の視点から、大都市・横浜ならではの独自性に触れながら詳しく見ていきます。(一心エステート株式会社代表取締役:高田一洋)
横浜市で78年ぶりの人口減少。政令指定都市で最も人口が多い大都市の異変
2025年の国勢調査の速報値で横浜市の人口が375万4840人となり、5年前の前回調査から2万2651人減ったことがわかりました。人口が減少するのは1947年以来、実に78年ぶりです。
横浜市区別の地図と人口増減率
区別に見ると、増加したのは6区、減少したのは12区。増加率が最も高かったのは西区の3.0%増、減少率が最も大きかったのは金沢区の3.4%減でした。また、人口は減った一方で、横浜市の世帯数は179万2729世帯と過去最多を更新し、1世帯あたりの人員は2.09人で過去最少になっています。中区や西区など都心部の4区では、1世帯あたりの人員が2人を下回っているそうです。※参照:総務省統計局「令和7年国勢調査 調査の結果」、横浜市「令和7年国勢調査速報値(横浜市集計)」
正直、このニュースを見た瞬間は「横浜が?」と驚きました。横浜といえば政令指定都市のなかで最も人口が多く、ずっと右肩上がりで人が増え続けてきたイメージが強い街です。そこにブレーキがかかったというのは、不動産に携わる人間としてはかなり印象的な出来事でした。
人口減少は、横浜の不動産価格にどう影響する?
人口が減っているのだから、不動産価格も下がるのではないか。そう考える方もいるかもしれませんが、私はそう単純な話ではないと見ています。区別のデータを見ても、人口が増えている西区や神奈川区、港北区は、いずれもマンション価格が上昇し続けているエリアです。人口減少と価格上昇が同時に起きている、というのが横浜の今の実態に近いと思います。
賃貸相場についても同じ傾向が出ています。路線の相互直通が進んだエリアでは、賃貸物件の家賃も上昇基調にあり、供給が需要に追いついていない状況が続いています。人が減っているエリアと、家賃・価格ともに上がっているエリアが、同じ横浜市の中で共存している。これが今の横浜を理解するうえで押さえておきたいポイントです。
特殊な大都市である横浜
ここで少し、横浜という街の立ち位置について触れておきます。横浜は神奈川県の県庁所在地であり、単独でも大都市としての機能を持つ街ですが、同時に東京への通勤・通学圏という側面も強く持っています。都心へのアクセスの良さから住宅地として選ばれ続けてきた、いわば東京の衛星都市としての顔と、独立した大都市としての顔、その両方を兼ね備えているのが横浜の特殊なところです。
今回の人口減少の背景には、少子高齢化による自然減に加えて、横浜の住宅価格が東京郊外の街よりも割高になっていることが挙げられています。都心から出て住まいを探す人たちの受け皿として、これまでのようには機能しきれていない実情が見えてきます。
つまり、横浜が「高くて手が届きにくい街」になりつつあるということです。ここは今回のテーマの核心部分にもつながってきます。
横浜中心部に住めない層が町田へ流れている
住宅価格が高いため、横浜の中心部に住めない層が、東京都町田市などの隣接エリアに流れていく動きが起きています。これは、東京都心で以前から起きていた現象です。渋谷や新宿、品川といったターミナル駅は再開発や利便性の向上とともに価格が上がり続け、単身者やファミリー層にとって手が届きにくい水準になっていきました。すると需要は隣接する駅へと波及します。
かつて新宿の価格に手が届かなくなった層は、中央線を西へ進んだ先の吉祥寺に住まいを求めました。吉祥寺はその受け皿となって人気エリアへと成長しましたが、人気が定着するにつれて吉祥寺自体の価格も上昇し、今度は西側の国分寺や国立、八王子方面へと同じ動きが広がっていきました。
横浜と町田の関係も、これと同じ構図だといえるでしょう。横浜の中心部に住むことが難しくなった層が隣接エリアに流れる動きが範囲を広げ、その結果として「横浜でなくても町田で構わない」という選択をする人が増えてきているのではないでしょうか。
相鉄・東急新横浜線の開業で、人気上昇中のマイナー駅
町田のような分かりやすい例だけでなく、地元の人以外にあまり知られていなかったマイナーな駅の人気も上がっています。相鉄・東急新横浜線が開業してから、保土ケ谷区や港北区、神奈川区といったエリアの利便性が見直され、人気が上昇中です。都内は高すぎて手が出ないけれど、ここなら通勤も便利だと考える層が厚くなっています。(編集部注※区・駅名の青字をクリックすると、ダイヤモンド不動産研究所が算出した中古マンション価格相場データを確認できます)
東急東横線沿いでいえば、白楽駅や妙蓮寺駅といった、これまで横浜駅や渋谷駅ほど名前が知られてこなかった駅にも注目が集まり始めています。学生街としての落ち着きを残しながら、横浜駅まで数分、渋谷や新横浜へのアクセスも良好です。
こうした「知る人ぞ知る」駅が、路線の再編や再開発をきっかけに一気に表舞台に出ているのです。これは今の横浜エリア特有の動きだと感じています。青葉区や都筑区の港北ニュータウン周辺も、ファミリー層からの支持が厚く、人気があります。
鶴ヶ峰駅では、2007年に駅直結の再開発ビル「ココロット鶴ヶ峰」が誕生し、南口側の利便性が先行して高まりました。現在は、踏切をなくす連続立体交差事業が進行中で、北口側の再整備も見据えた動きが続いています。二俣川駅も、都心方面への所要時間が短縮されたことで存在感を増しているエリアです。
かつては地元の人以外にあまり知られていなかったこうした駅が、都心直通効果によって少しずつ盛り上がりを見せている状況は、東京の中央線沿線などで以前から起きてきた現象と重なります。中心となる駅の価格が上がり続けることで生まれる歪みが、こうしたエリアの価値を押し上げているのです。
東京都心にも不動産の価格上昇で人口が減るエリアがある
横浜と似た構図は、都心でも見られます。2025年国勢調査(令和7年国勢調査)によると、東京23区全体では人口が増加している一方、千代田区・渋谷区・目黒区の3区は減少に転じています。しかし、ご存知の通り、いずれのエリアも不動産価格の上昇は激しいエリアです。
価格が上がりすぎた結果、住み替えのハードルが上がり、若い世代やファミリー層が入れ替わりにくくなる。結果、人口の伸びが止まる、あるいは減る。この流れは横浜だけでなく、価格上昇が著しい都心部に共通する現象です。
人口が減少しても、不動産価格が一様に下がるわけではありません。価格は市全体の人口の増減だけでなく、そのエリアに需要が集まり続けるかどうかで決まるからです。
横浜に話を戻すと、みなとみらいや西区のように、駅から近く再開発が進んでいる、都心へのアクセスが良いエリアは、市全体の人口が減っても限られた需要を惹きつけ続けることができます。こうしたエリアは新築の供給が少なく、需要が供給を上回る状態が続けば価格は上がり続けます。
これに対して、都心へのアクセスに時間がかかり、再開発も進んでいないエリアでは、人口減少がそのまま需要の縮小に直結しやすくなります。今回、減少率が最も大きかった金沢区は交通利便性の面で課題を抱えるエリアと重なっています。
つまり、人口減少という市全体の数字だけを見ても、個々のエリアの価格動向を正確に予測することはできません。駅からの距離、再開発の有無、都心への所要時間といった要素によって、同じ横浜市内でも価格が上がるエリアと下がるエリアがはっきり分かれてきていると感じています。
不動産価格の上昇は、街にとってプラスなのか
ここまでの話を踏まえて、私自身の考えをお伝えします。不動産価格の上昇は、街にとって一概にプラスとは言い切れるものではありません。
もちろんプラスの面もあります。地価や物件価格が上がれば、すでに住んでいる方の資産価値は上がりますし、自治体にとっても固定資産税収入の増加という形で恩恵があります。街のブランド力が上がれば、商業施設の出店も進み、街全体の活気につながることもあります。
ただ、その裏側で起きているのが、今回の人口減少のような現象です。価格が上がりすぎると、これから家を持とうとする若い世代やファミリー層が入ってこられなくなります。また、既存の住民は高齢化していき、新しい住民との入れ替わりが起きにくくなります。
今回の横浜市のように、世帯数は増えているのに1世帯あたりの人員が過去最少になっているというデータは、単身世帯や高齢の少人数世帯が増え、子育て世代がその街を選びにくくなっている実情の裏返しだと私は見ています。
価格が上がること自体は市場としてはごく自然な動きですが、その街に住み続けられる人、これから住もうとする人にとってどうかという視点を、私たち不動産業に携わる者は忘れてはいけないと思っています。
横浜の人口減少が示した都市の課題
横浜市の78年ぶりの人口減少は、少子高齢化という大きな流れに加えて、価格の上昇によって住み替えの受け皿になりきれなくなってきた、という横浜特有の事情が重なって起きたものです。
区によって明暗が分かれ、価格が上がり続けるエリアと人口が減るエリアが同じ市内に同居しています。そして、その価格上昇の余波は町田のような隣接エリアや、これまで注目されてこなかった駅にまで広がりつつあります。
横浜という街のブランド力そのものは、簡単に揺らぐものではないでしょう。ただ、価格が上がり続けた先に何が起きるのかを今回の人口減少という数字がひとつの答えとして示してくれたように感じます。
街の資産価値を守ることと、次の世代がその街に住み続けられることをどう両立させていくか。これは横浜に限らず、価格上昇が進むすべてのエリアが向き合っていくべき課題だと考えています。
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