外国人の不動産購入規制だけでは解決しない!? 日本人が家を買いやすくなる、本当に実施すべき制度改革とは?

2026年9月1日公開(2026年8月31日更新)
高田一洋:一心エステート株式会社代表取締役CEO

政府は当面、外国人の不動産取引の規制はしない方針を示しました。一方、現状把握のための取り組みが進んでいます。今回の外国人政策において、不動産市場にどう影響するか、取引を規制すべきか否か、さらに外国人の購入規制よりも先に見直すべきことについて、現場の実感を交えてお伝えします。(一心エステート株式会社代表取締役:高田一洋)

日本政府、当面は外国人の不動産購入を規制せず

都心マンション
都心マンションが外国人投資家に買われてきた(出所:PIXA)

 「外国人のマンション爆買いを規制するらしい」。そんな話を聞いて身構えた方もいるのではないでしょうか。ところが蓋を開けてみると、政府・自民党が今夏に取りまとめる外国人政策では、当面は実態把握を優先し、不動産取得規制については今後検討する方針とされています。

 今年10月からは、不動産登記の際に国籍情報の提供が義務化され、水面下では制度が動き始めています。「規制はしないが、把握は始める」という一見ちぐはぐな状況は、不動産市場にどう影響してくるのか。今回は外国人政策と不動産というテーマについて、現場の実感も交えてお話しします。

 規制に踏み込まなかった背景には、大きく2つの理由があります。ひとつは、日本がWTO(世界貿易機関)のGATS(サービス貿易に関する一般協定)の下で、不動産取引に関する内外無差別の考え方を前提とした約束をしていることです。そのため、国籍のみを理由として取引を制限する制度を導入する場合には、国際協定との整合性を慎重に検討する必要があります。

 もうひとつの理由は、日本人の代理人を経由するといった「抜け道」を防ぐ実効性のある仕組みが、まだ日本には整っていないことです。せっかく規制をかけても簡単にすり抜けられてしまうようでは意味がなく、今回の規制までしないという判断自体は理解できます。

不動産登記時の国籍申出とベース・レジストリの整備

不動産登記
不動産登記では国籍情報が必須に(出所:PIXTA)

 そのかわりに動き出すのが、実態把握のための制度です。今年10月から不動産登記の際に、新たに所有権の登記名義人となる方について「国籍等」の申出が求められます。これは外国人だけの話ではなく、日本人も含めたすべての個人が対象です。

 パスポートや住民票など国籍を確認できる書類の提出も必要になりますが、登記簿など一般に公開される書面には記載されず、内部管理情報として扱われる予定です。デジタル庁が2027年度をめどに整備を進めている「不動産ベース・レジストリ」というデータベースに、この国籍情報が集約されていく見通しです。

 正直な感想を言うと、この国籍義務化やベース・レジストリの整備そのものが、不動産価格を直接動かすとは思っていません。取引のルール自体が変わるわけではないので、明日から急に売買のハードルが上がったり下がったりすることはないでしょう。

 ただ、これまで「住所と氏名からしか外国人かどうかを推測できない」という心もとない状態が続いてきたなかで、ようやく国として実態を正確に把握できる土台ができるのは、地味に見えてかなり大きな一歩だと感じています。データが揃えば、「なんとなく外国人が買っているから価格が上がっている気がする」という感覚論から、根拠のある議論へと一歩進めるはずです。今後の不動産政策の起点になる変化だと捉えています。

【関連記事】>>所有物件の住所変更登記の義務化で、不動産の流通量が増えたら価格は下がる? 不動産取引のプロが解説

外国人の不動産取引は、規制すべき?海外の事例と比較

 外国人による不動産取引は規制すべきだと思うか。個人的には一定の規制は必要だと考えています。

 都心のマンション価格が上がっている要因の一つに、外国人富裕層による購入がある、という指摘はよく耳にします。そこに対して「取得のハードルを上げるべきだ」という声が出ることは、的外れだとは思いません。これは単純な排外主義の話ではないと考えています。世界に目を向ければ、外国人による不動産取得に何らかの制限を設けている国のほうがむしろ多数派です。

 オーストラリアでは、2025年4月から2027年3月までの時限措置として、外国人が中古住宅を購入することは原則できません。購入できるのは、新築物件、オフプラン(完成前の物件)、空き地に限られ、いずれもFIRB(外国投資審査委員会)の許可が前提です。裏を返せば、中古住宅を売却する際の買い手は、オーストラリア市民権者や永住権保持者、ニュージーランド市民に事実上限られることになります。

シンガポール コンドミニアム
シンガポールの住宅(出所:PIXTA)

 シンガポールでは、土地付きの一戸建てはそもそも外国人には買えず、コンドミニアムは購入価格の60%という強烈な追加印紙税がかかります。

 東南アジアの国々でも、外国人が持てるのは区分所有権に限られるケースが多く見られます。こうして見渡すと、外国人だから一律に排除するという話ではなく、自国の資産や国土をどう守るかという各国共通の政策課題として取得ルールを整えている国のほうが実は普通なのです。

 私が特に規制が必要だと感じているのは、経済安全保障に関わる部分です。今、東京都心ではビルやレジデンス、ホテルなどを対象とした外資による大型投資案件が数多く見られます。このまま進めば、日本の企業が太刀打ちできなくなっていくと危惧しています。外資の案件から生まれる収益は、海外に流出していく構造のため、結果として国内に十分な投資収益が還元されにくくなる可能性が出てくるのです。

 国の経済を強くしていく前提に立つなら、一定の規制は国政としてやるべき判断だと思います。もちろん、これは「外国人は出ていけ」という話ではありません。私たちが海外で商売をすれば現地で相応の税負担やルールを課されるのと同じで、日本国内での取引にも一定のルールがあって然るべきだ、というごく当たり前の話です。

 外国人による取引を通じて日本人がほとんど関わらないところで利益が生まれている構図があるのは事実です。ただ、その入り口となる開発を手がけているのは日本のデベロッパーであるケースも多く、経済活動としての側面を無視することはできません。規制の是非は、感情論ではなく、こうした経済実態を踏まえたバランス感覚で議論すべきだと考えています。

外国人規制より先にすべきなのは「相続税」の見直し

 もうひとつ、忘れてはいけない論点があります。外国人規制だけを進めても、庶民が東京をはじめとした都心部で家を買えるようにはならないだろう、ということです。

都心マンション
マンション購入のハードルが上がっている(出所:PIXTA)

 今回の規制論議の大義名分は「価格を下げるため」というものでした。しかし実際、一般の方が家を買いにくくなっている大きな要因の一つは、物件価格の上昇に所得の伸びが追いついていないことだと考えています。 

 ここが解消されない限り、外国人規制をどれだけ進めても、庶民の住宅取得のハードルはそう大きくは下がりません。社会保険料の負担のあり方についても、住宅取得のしやすさに関わってくる論点です。

 考えてみれば、これまで住宅取得のハードルを下げるために工夫を重ねてきたのは、政府ではなく民間企業でした。住宅ローンという商品がそうですし、35年を超える50年ローンの登場、赤の他人同士でも組めるペアローン、残価設定型のローン商品なども生まれてきました。

 「なんとか家を持ってもらうために」という発想で、民間はどんどん新しい仕組みを生み出してきました。行政や政府がそれに見合うだけの後押しをしてきたかというと、まだ物足りないというのが率直な感想です。

 そのなかで、私が本気で見直してほしいと思っているのが相続税です。相続税は日露戦争後の財政事情を背景として創設され、その後、戦後の税制改革などを経て現在の制度へと見直されながら続いてきました。海外には相続税を設けていない国や、実質的な負担が日本より軽い国もあります。

 税の在り方は国ごとの事情があるとはいえ、資産形成や住宅取得のハードルを下げるという観点からすれば、相続税のような負担を軽くしていくことも、外国人規制と並んで、むしろ、それ以上に検討されるべきテーマだと私は思っています。

 相続税の負担が軽くなれば、親から子へと引き継がれる資産の目減りを防げます。まとまった資産を相続すると、その一部を納税にあてるために不動産を手放すケースも珍しくなく本来なら住宅取得や資産運用に回せたはずの原資が削られてしまいます。負担が軽くなれば、その分を頭金やローン返済の原資にしやすくなり、親の代からの資産を活かせるかどうかが住宅取得のスタートラインの差にもつながってきます。

 外国人による不動産取得の規制は、一定の国土保全や経済安全保障の観点から必要でしょう。しかし、それだけで「庶民が家を買えない問題」が解決するわけではありません。給与水準の底上げ、税制の見直し、民間の創意工夫をさらに後押しする環境づくり。ここまで含めて、複合的に取り組んでいく必要があると考えています。

住みたい家に住むためには官民の連携が必須

 外国人によるマンション取得規制は、当面は見送られる方向ですが、国籍情報の義務化などを通じて、実態把握という土台づくりは着実に進んでいます。データが整えば、感覚的な議論から根拠のある政策論議へと進んでいけるはずです。

 安全保障や国土保全に関わる部分については、私はしっかりとした規制が必要だと考えています。同時に、庶民が家を買いにくくなっている本当の要因、所得の伸び悩みや税制の重さにも目を向けなければ、問題の根本的な解決にはつながりません。外国人政策の議論をきっかけに、日本の住宅市場全体をどう健全な形にしていくか。不動産業に携わる人間としても、引き続き注視していきたいテーマです。

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