池尻大橋の目黒区側「大橋」の地価はなぜ高い? 北区赤羽との意外な共通点、知られざる高台の文教エリア…現地を歩いて調査【地価上昇率ランキング】

【第7回】2026年10月16日公開(2026年10月16日更新)
中川寛子:住まいと街の解説者・東京情報堂代表

将来、地価が上がる街はどこなのか? ダイヤモンド不動産研究所が作成した地価騰落率10年後予測をもとに、住まいと街の解説者・中川寛子氏が地価上昇率の高いエリアを訪れ、解説する連載シリーズ。第7回は、東京都目黒区で上昇率トップの大橋を訪ねた。中目黒や自由が丘でもなく、なぜ大橋の地価上昇率が高いのか。知られざる大橋という町をひも解いていく。

目黒区の地価上昇率トップは意外な街

 目黒区と聞いて多くの人の脳裏に思い浮かぶ街としては、中目黒、自由が丘、2024年に「世界で最もクールな街」にランクイン(15位)した学芸大学あたりだろう。中目黒は毎年桜の時期になると大賑わいだし、自由が丘は駅前に誕生した大型複合施設が話題になっている。

 だが、目黒区でAIが予測する10年後の地価上昇率が高い街トップはもっと地味な、目黒区民でも知らない人がいるかもしれない街、大橋である。しかも、大橋の土地価格は、現時点でも10年後も目黒区内でトップ(現時点の坪単価:522万円→10年後予測:637万円)。地域にあるもっとも有名なものが首都高の大橋ジャンクションという知られざる街が、なぜこんなに高いのか。

【東京都目黒区の10年後地価上昇率予測トップ10】

地区名 上昇率
目黒区大橋 22.0%
目黒区下目黒 21.9%
目黒区上目黒

21.7%

目黒区東山 21.2%
目黒区原町 20.9%
目黒区駒場 20.7%
目黒区中目黒 20.2%
目黒区祐天寺 19.7%
目黒区五本木 19.6%
目黒区洗足 19.1%
約1,000万件の『不動産取引情報・成約価格情報』(出典:国土交通省・不動産情報ライブラリ)などを基に、AI(人工知能)を活用して作成。東京都市大学建築都市デザイン学部都市工学科秋山研究室の大学発ベンチャーである都市空間総合研究所で培われた学術的な知見と、最新のAI技術を用いて構築。詳細は、ダイヤモンド不動産研究所サイト内の「不動産価格データベース」のページを参照。
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谷底と高台が入り混じる目黒区大橋

 目黒区大橋は谷底と高台が半々に入り交じる不思議な街だ。まずは渋谷から世田谷方向へ向かい、低地部分にあたる大橋一丁目を見ていこう。

 国道246号を走っていくと旧山手通りを過ぎたあたりから目黒川へ下る急坂がある。大坂だ。この区間の246号(玉川通り)はかつて江戸と相模国大山(阿夫利神社)を結ぶ古道・大山道と重なっており、大山道最大の難所と言われたのがこの大坂。

 現在の大坂も緩やかにカーブする道がコンクリートの深い壁の薄暗い底を走っており、上部には道路に蓋をするように首都高3号渋谷線。何とも言えない閉塞感があり、しかも複雑な車線変更が求められるとあって、運転が得意ではない人にとってはあまり楽しくない場所のひとつである。

 その坂を下って上り、山手通りを越えたところからが大橋だ。大橋自体はもともとは目黒川にかかっていた街道上の橋のことで、これが玉川線の停留所名となり、早くからこの地の呼称として親しまれていた(目黒区ホームページ「目黒の地名」より)。それが正式な町名になったのは1969年。区内の住居表示のうちでももっとも遅かったそうだ。

 川に下る坂があり、川にかかる橋がありと聞けば、この地が低地であったことはおおよそ推察できよう。下にある地形図はグーグルアースの上に東京地形地図という地形の凸凹を視覚化する地図を載せたもので、池尻大橋駅近くが低地になっているのが分かる。大橋はこの文字の下部のエリアで、目黒川を越えたあたりだ。そこで注目したいのが池尻大橋駅の文字の大橋の辺りの北側に南に向かって伸びる川跡らしき低地があること。

目黒区大橋

目黒川と空川が合流していた地点が大橋の低地部分。周囲は高台でかつては軍用地。ちなみに目黒川を挟んで都心側は淀橋台、外側は目黒台で同じ武蔵野台地だが、目黒台のほうが標高は低い(画像は、Google Earthに東京地形地図を載せた上で文字を書き加えたもの)

池尻大橋駅
池尻大橋は隣り合う目黒区大橋と世田谷区池尻の地名を合体させた駅名。駅からは目黒川に並行して商店街が伸びている(筆者撮影)

 目黒川は、国道246号下流から開渠になっているので川があることは誰でも知っている。だが、大橋には北から目黒川に合流するもう1本の河川が注ぎ込んでいた。空川である。大橋のあたりは2本の河川の合流地点だったのである。

目黒川
目黒川は国道246号を渡ったところで開渠になる。その手前までは暗渠になっており、遊歩道として整備されている。かつては空川というもう1本の川も合流していた(筆者撮影)

 空川の源流は地図で上流に駒場東大前駅を書いたことでお分りだろう、駒場4丁目辺りで、その後に駒場野公園内にある日本近代農学発祥の地といわれるケルネル田圃を経て南に向かい、目黒川に注いでいた。昭和に入り、山手通りや国道246号の立体交差工事などに合わせて昭和30年代には暗渠化されている。

目黒区空川沿い

山手通りの1本裏側がかつての空川沿い。空川のあたりから台地に向かっては階段がある(筆者撮影)

松見坂近くの高低差
松見坂近くでは空川のあったところと台地の差はこれくらいになる。かなり大きい(筆者撮影)

大橋ジャンクションができる前は、飲食店が広がっていた

 この2つの河川が合流する谷底、大橋の周囲は逆に三方が高台になっている。それを過去の土地利用とともに見たのが下の図。これは今昔マップon the webという過去の地図を現在の地図を並べてみることができるもので、ここではそのうちの1896~1909年の大橋周辺の地図を表出した。

今昔マップで目黒区大橋をみる

明治時代の当該地域の様子。赤字が高台、軍用地。青地がかつての谷底に当たる部分になっている(画像は今昔マップon the webに点を入れて加工したもの)

 中央に青い点が打ってあるのが大橋一丁目界隈。そして目黒川を挟んで向かい側の赤い点が、西郷隆盛の弟で政治家、軍人だった西郷従道邸のあった青葉台。北側の大量に赤い点があるエリアは駒場で、ここには陸軍のさまざまな施設が配備されていた。さらに南側の赤い点は東山、駒沢練兵場。大橋は底だが、逆に周辺の高台には軍事関連施設が集まるいわゆる軍都だったのである。

 この配置から私が連想するのは赤羽。赤羽も現在団地がある高台には軍事施設が置かれており、荒川の水運が利用でき、低地には商店街や飲み屋街が広がっていた。大橋も同様に高台は陸軍用地、足元には目黒川があり、そして低地も。

 実際、大橋もジャンクションができる前は低地には飲食街が広がっていた。その意味では、赤羽と大橋は都内の北と南でかなり離れており、現在の状況も違うが、明治時代にはある意味ツインな軍都だったのである。

 その大橋を大きく変えたのは、冒頭にあげた大橋ジャンクション建設に伴う再開発。現在ジャンクションがある場所には、かつて東急玉川線の大橋車庫があり、同線の地下化後(現在の東急田園都市線の一部)は東急バス大橋営業所になっていたのだが、その周辺には昭和な雰囲気の個人経営の居酒屋やスナックが密集、独特な雰囲気を醸し出していた。しかし、再開発はそれらを一掃、今見るタワーマンションにジャンクションという風景に変えた。

大橋ジャンクション

国道246号の下は高架のために暗いが、特に大橋ジャンクション周辺は圧迫感がある(筆者撮影)

大橋の高台は、ファミリー層が好む閑静な住宅地

 続いてもうひとつの、高台の街という顔を見ていこう。246号を挟んで南側は低地だが、北側の大橋二丁目は空川沿いを除けば高台で、町域の面積という意味では高台のほうが広いだろう。駒場の軍用地に連なる地域で、江戸時代には将軍が鷹狩に訪れたという地である。

 246号沿いにかつて富士塚のあった上目黒氷川神社があるが、そこの標高が32mほど、神社脇にある目黒警察大橋交番のあたりが22mと聞けば、高低差はお分かりいただけるはず。大橋は低地、高台が246号でぱっきり別れるのだ。

目黒区大橋の高台から低地を見下ろす

目黒氷川神社から見た国道246号。階段の大山道と記された石碑が置かれている(筆者撮影)

駒場高校

淡島通沿いにある都立駒場高校。このエリアには学校が多く集まっており、教育環境としては優れているといえそう(筆者撮影)

 しかも氷川神社から西側、淡島通りまでの高台側は大きな区画が続き、公用地が多い。淡島通り沿いには東京都立駒場高校があり、その南側には目黒区立第一中学校、警視庁の第三機動隊、関東財務局の大橋住宅、本体は駒場に位置するが、駒場東邦中学校・高等学校もこのあたり。

 246号に近いエリアには東邦大学医療センター大橋病院もある。また、淡島通りの北側には京王井の頭線の駒場東大前駅があり、そこには東京大学駒場キャンパス、東京都立国際高校がある。

駒場東邦

こちらは私立の中高一貫校駒場東邦。校舎自体は駒場にあるが、入口は大橋エリアに(筆者撮影)

 こうした情報から推測されるのは、大橋は高低がそれぞれ違う魅力のある街であること。それが異なる層に受ける街になっているのではないかということだ。

 ジャンクションがある低地が駅に近いこともあって目につくが、ファミリー層にとっては北側の高台にある住宅地が大きな魅力になっている。教育熱心な家庭からしたらレベルの高い教育機関が集中する安全で都心近くの高台である。実際に行ってみると緑の多い環境で公園もあり、住環境としてもすばらしい。淡島通りを通る渋谷行きのバスは本数も多く、利便性は高い。

松見坂
渋谷駅行のバスが通っており、本数も多くて便利。通りの向こう側の坂の下にかつては川が流れていた(筆者撮影)

 そのため、淡島通り沿いにはいかにも高額な中庭のある大型マンションがあり、2018年に隣接地に移転した東邦大学医療センター大橋病院跡地に2025年に竣工したマンションも億オーバーがベースだった。

淡島通り
高台を走る淡島通り。右側は駒場。緑の濃さが低地エリアとかなり違う(筆者撮影)

 一方、駅近くの低地側にはスーパーや商業施設も多く、隣接する東山エリアにある池尻大橋駅前商店街を中心に目黒川沿い、246沿い、淡島通り沿いの松見坂周辺には古くからの店舗に加え、個人経営の今風の飲食店なども増えている。

 つまり、低地側は利便性を望む若年層に、高台は教育環境を望むファミリーに受けているということになる。池尻大橋駅は地上に出たところの頭上に首都高が走り、目の前に国道246号という暗いイメージがあり、それが街の本質を覆い隠しているが、実はさまざまな層にとって魅力的な要素がある街なのである。

池尻大橋駅
渋谷駅からは東急田園都市線で一駅。不幸なことに一番混む区間だが、とりあえず一駅だ。車利用なら都心にもすぐ(筆者撮影)

 それが渋谷のすぐ隣という立地もあって高値に結びついているのだろう。ある意味、知る人ぞ知る存在というわけで、この地の特に高台を選ぶ人は情報を精査できる人たちだろう。

今後の大橋エリアの開発はどうなるか

 ただ、今後の開発という意味ではある程度限定されそうだ。大橋一丁目側ではジャンクションと目黒川の間に余地があるが、それほど広い土地はなく、大きな変化は望めそうにない。  

 また、二丁目の空川沿いには古くて小さな木造住宅が残されているが、ここも区画が小さく、それほど化けることはなかろう。二丁目では東西で区画のサイズが異なり、東側には区画が小さい私有地が多いのだが、ここも高低差のある土地でもあり、変化は少しずつ起きていくように思われる。

 ひとつ、まとまった土地といえば2012年に閉校した旧都立芸術高校の跡地がある。これは都立駒場高校に隣接しており、敷地は約6200平方メートル。閉校以来、すでに14年間未活用のままだが、いくら東京都がお金持ちとはいえ、そろそろなんとかしていただきたいところ。明るい高台上の土地でもあり、地域の価値をさらに高める使い方をしていただければ幸いである。

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