2022年10月のフラット35の金利は、予想に反して大幅に低下しました。さらに10月からはフラット35金利引き下げ制度のリニューアルによって当初の10年間、0.5%台の低金利で固定できる人が増えます。つまり変動金利とほとんど変わらない水準で全期間固定できるのです。フラット35の金利動向とそのメリットについて、分かりやすく解説します。(住宅ローン・不動産ブロガー 千日太郎)
フラット35が市場金利に逆行する、おきて破りの低金利
こんにちは、公認会計士ブロガーの千日太郎です。
こちらは、2022年1月~10月までのフラット35(買取型)の金利と10年国債利回り(長期金利)、機構債の表面利率の推移をグラフにしたものです。
フラット35(買取型)は、毎月の20日ごろに住宅金融支援機構が資産担保証券(機構MBS)を発行して住宅ローンの資金を集め、それを原資としてフラット35の融資を実行しています。そのため、機構債の表面利率(オレンジの折れ線グラフ)とフラット35(グレーの棒グラフ)の上下推移はほぼ一致する傾向があります。そして機構債を買うのは保険会社や銀行などの機関投資家であるため、機構債の表面利率はその時の長期金利(青の折れ線グラフ)に連動する傾向がありました。
2022年9月までは、長期金利と機構債、フラット35の金利の連動が維持されています。2022年3月から米連邦準備制度理事会(FRB)が、インフレ抑制のための利上げを開始したことで長期金利が上昇し、これに伴って機構債の表面利率とフラット35金利もほぼ連動して上がってきました。
しかし2022年9月から10月にかけてイレギュラーな動きとなっています。米連邦公開市場委員会(FOMC)は3回目となる通常の3倍の0.75%の利上げを決定し、それが国内の長期金利(青の折れ線グラフ)に波及して上昇したため、機構債の表面利率(オレンジの折れ線グラフ)も上昇しました。ところが、フラット35(グレーの棒グラフ)は逆に下がったのです。
2022年9月実行 | 2022年10月実行 (カッコ内は前月比) |
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フラット35(買取型)金利 | 1.52% | 1.48%(▲0.04%) |
長期金利(機構債発表時) | 0.20% | 0.25%(+0.05%) |
機構債の表面利率(直近) | 0.50% | 0.58%(+0.08%) |
国が税金を投入して政策的に低金利に抑えた?
フラット35は、住宅金融支援機構の証券化支援事業をもとに民間金融機関と共同で2003年から提供されている住宅ローンであり、民間銀行が金利を決める際にも参考しています。
フラット35(買取型)は、住宅金融支援機構が金融機関からフラット35の債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて「機構債」という形で販売するという仕組みになっています。機関投資家は安全資産として機構債を購入しているので、機構債の表面利率は、発表時点の「長期金利」=「国債の利回り」とほぼ連動しています。住宅金融支援機構は、調達した資金にほぼ固定した経費を上乗せして、私たちに貸す「フラット35」の金利を決めます。
2022年10月のフラット35(買取型)もこのスキームで資金を調達していますので、機構債の表面利率が上がったのに、フラット35(買取型)の金利が下がったということは、独立行政法人という国の財政支援を受けながら運営している政府系組織が、政策的に金利を低く抑えたということを意味するのですね。
今後、金利引き下げ対象者は増加する見込み
さらに2022年10月からはフラット35の金利引き下げ制度がリニューアルされました。
「フラット35S(ZEH)」は、当初5年間0.5%引き下げとなり、6年目から10年目まで0.25%引き下げとなります。そして、従来はやりにくかった異なる金利引き下げ制度の併用がポイント合計制となったことで、多くの人が複数の制度を併用できるようになり、さらにフラット35の適用金利が下がります。
フラット35の金利引き下げ制度(合算可能)
フラット35の合計ポイント別の金利引き下げ
例えば、<住宅性能>で「フラット35S(ZEH)」となって3ポイント獲得し、<管理・修繕>で長期優良住宅の1ポイントを獲得すれば、合計4ポイントとなり、当初10年間0.5%金利が引き下げとなります。
<住宅性能>で高いポイントを獲得できなくても、エリアによって【フラット35】地域連携型の子育て支援にあたると2ポイント獲得できて当初の10年間は0.25%金利が引き下げとなります。
従来ならば1ポイント相当の金利引き下げであった人が2ポイント以上獲得できるといったケースが増えるので、10月はフラット35の金利低下が無かったとしても金利引き下げ制度のリニューアルによって、実質的に低金利でフラット35を利用できる人が多かったのが実状なのです。
2022年10月以降は制度変更で実質的に当初期間の適用金利が下がることが分かっていたのに、加えて市場の金利動向に逆行したフラット35の金利引き下げが行われたということですね。
【関連記事はこちら】>>全期間固定、35年固定、フラット35の住宅ローン実質金利ランキング!132銀行比較で、おすすめの住宅ローンは?【新規借入】
低金利過ぎるフラット35は民業圧迫?
これは私見ですが、もしかしたら10月のフラット35は金利が低すぎて民業を圧迫しているということになるかもしれません。それが「保証型」というフラット35を取り扱う「アルヒ」「住信SBIネット銀行」の金利動向から見て取れるのです。
金利を下げたアルヒと、金利を上げた住信SBIネット銀行
フラット35には既に述べた「買取型」に加えて「保証型」というスキームがあります。ここではアルヒの保証型について説明しましょう。
買取型と同じく金融マーケットから資金を集めるのですが、住宅ローンは住宅金融支援機構には売却せず、債権者は民間金融機関のままです。つまり、民間金融機関は住宅金融支援機構に保証料を払ったうえでもうけが出るようにフラット35の金利を決めているのです。そのため、保証型のフラット35は取り扱う金融機関の裁量によって決められるということです。
この保証型の主力商品はアルヒの「スーパーフラット」と、住信SBIネット銀行の「保証型」なのですが、2022年9月から10月にかけてのフラット35(保証型)の金利対応に大きな違いがありました。
アルヒは買取型と同じ幅の0.04ポイント金利を下げたのですが、住信SBIネット銀行は逆に金利を上げています。それも9割融資では買取型と同じ水準の1.48%に上昇させるために、0.09ポイントも上昇させているのです。
対応にこうした違いが生じる理由としては、「親会社の民間銀行の影響の有無があるのではないか?」と見ています。
住信SBIネット銀行は、シンプルに三井住友信託銀行とSBIホールディングスが50%ずつ株式を保有しています。対等とはいえ、50%を保有している三井住友信託銀行の影響力は大きいですし、そもそも住信SBIネット銀行が販売している「ネット専用住宅ローン」は三井住友信託銀行が最終債権者となるもので、住信SBIネット銀行は契約締結の代理をしている形となります。
住信SBIネット銀行がフラット35の保証型の金利を下げず、買取型と同じ水準まで上げた背景としては、あまりにフラット35の金利が低すぎて三井住友信託銀行の商品が売れなくなってしまうことを危ぶんだためではないでしょうか? つまり三井住友信託銀行に忖度しているのではないでしょうか。これはあくまで千日太郎の私見です。
これに対してアルヒは上場しており、そもそも株式の50%を保有している親会社にあたる会社がありません。そのため、民間金融機関に忖度することなく、買取型の下がり幅と同じだけ保証型のスーパーフラットの金利を下げるという対応になったのでしょう。
このように、親会社に民間金融機関がある住信SBIネット銀行が買取型と同じように保証型の金利を下げられないということは、買取型の金利水準そのものが民間金融機関の営業妨害となるほどの低金利であるということを表しているのではないでしょうか。
最低金利は0.5%台! 変動か固定か論争は終わる?
保証型の金利を下げたアルヒの「スーパーフラット」は、頭金を多く入れることによって適用金利が下がる上に、団信不加入であれば、団信込みの金利から、金利が0.28%引き下げとなります(多数の銀行が取り扱う買取型では団信不加入とすることで0.2%の引き下げになります)。掛け捨ての生命保険が安い30代の人にとってはアルヒの「スーパーフラット」で団信不加入を選択することにより低コストで住宅ローンを借りられるというメリットがあります。
2022年10月に、アルヒの「スーパーフラット」を団信不加入で利用し、金利引き下げ制度で最大の4ポイントを獲得したとしたら、下表のような融資金利で住宅ローンを借りることが可能となるのです。
つまり、全期間固定金利でありながら当初の10年間は0.5%台で借りられるということになります(ただし頭金40%以上必要)。メガバンクの変動金利が0.475%ですから、ほとんど変動金利に近い金利水準ですね。
こうなると、団信に入るよりも、掛け捨ての生命保険の方が安くなる30代で家を買う人や、そもそも団信の恩恵を受けることのない独身で家を買う人にとっては、フラット35のほうがメリットは大きく、変動か固定かで悩むことはなくなってくるでしょう。
【関連記事はこちら】>>アルヒの住宅ローンの口コミ・金利・手数料は?「フラット35」の取り扱いシェアは1位!
まとめ
これまでは、千日太郎の住宅ローン金利予想については、おおむね的中してきましたが、さすがにフラット35がここまで下がるとは予想していませんでした。おそらく、他の民間銀行の担当者も同じでしょう。
10月のフラット35の金利水準が今後も続くのであれば、「低金利で固定したい」という住宅ローン利用者、つまりほとんどの住宅ローン利用者はフラット35に流れると思います。それに対抗して、民間銀行が対抗して金利を下げてくれればうれしいですね。
しかし、金融市場は常に動いていますし、なかなか思うようにはいかないものです。もしかしたらフラット35の金利を下げ過ぎたことを反省して徐々に上げてくる可能性もゼロではありません。いずれにしても、金利の想定外の動きをある程度吸収できる、無理のない資金計画を立て、実行していく必要があります。住宅ローンの返済計画は無理せず、できるだけゆとりのあるものにするようにしてください。
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