住宅ローンを「変動金利」で借りている人の多くは、「変動金利だけに、最近の低金利の恩恵を受けて金利が下がっているので借り換えの必要はない」と考えているようだ。しかし、それは大間違い。実は、過去に借りた人は「高い変動金利」のままになっているケースが大半だ。シミュレーション(試算)してみると、借り換えによって金利が下がり、200万円近くもおトクになるケースもあるので、借り換えを急ぐべきだろう。
住宅ローンの変動金利にした人でも、高い金利のまま固定されている
2024年現在、住宅ローンの変動金利は新規借り入れした場合、年利0.4%を切るような超低金利となっている。
そんな中、住宅ローンを変動金利で借りている人のなかには、こんな人が結構いるようだ。
「住宅ローンのホームページを見てみたら、借りたときよりも金利がかなり低くなっていたよ。変動金利で借りておいてよかった!」
住宅ローン金利の低下に伴い、自分が借りている変動金利も下がっていると思っている人は多いが、これは大きな間違いだ。
たしかに、住宅ローン金利は2007年頃から低下の一途をたどってきた。2016年に日銀が「マイナス金利政策」を導入したことで金利は一段と低下した。
2024年3月にはマイナス金利政策は解除され、7月には追加利上げが決定されたものの、8月時点では今なお低金利だ。
しかし、すでに住宅ローンを借りている人の金利は、最近の金利低下の恩恵を受けられていないのだ。
現在の低金利が適用されている人は、新規または借り換えた人のみ
これを聞くと、「変動しない変動金利なんて、矛盾していないか?」と思うだろうが、実は、現在の低金利が適用されるのは、新規借入や、借り換えで新たに住宅ローンを借りた場合のみ。既存の借り手は借り換えを行わない限り、現在の金利が下がることはない。
つまり、すでに借りている人には、「高い変動金利」が適用されたままになっているということだ。
変動金利は借り換えなければ金利が下がらない理由
すでに変動金利で住宅ローンを借りている人の金利は、どうして下がっていないのか。答えは単純で、銀行が金利を下げないからだ。
住宅ローンの「店頭金利」は、「短期プライムレート(通称・短プラ)」をベースにして決めている銀行が多い。
「短期プライムレート」とは、銀行が業績の良い会社に1年以内の短期貸し出しを行う際に基準とする金利のこと。短期プライムレートは優良中小企業の貸出金利や信頼できる個人の融資などに幅広く用いられている。
金利については銀行側で自由に設定できることになっているが、2009年以降、銀行は短期プライムレートを変更していない。
そして大手銀行の場合、住宅ローンの「店頭金利」は「短期プライムレート」+1%をとしているため、ずっと変化していない。とは言っても、実際の貸出金利は年々下がっている。なぜだろうか。
その秘密は、下図を見れば分かるだろう。ある大手銀行の変動金利の決まり方を図示したものだ。2009年と2018年の金利についてみてみよう。
まず、住宅ローン金利を決定するベースとなるのが、「店頭金利」だ。「店頭金利」は、言わば「住宅ローンの定価」だ。
次に、実際の貸出金利である「表面金利」は、「店頭金利」から「金利優遇幅」を引いて計算する。「金利優遇幅」とは「住宅ローンの値下げ幅」のことだ。
定価とも言える「店頭金利」は、ここ14年ほど変化がない。
ただし、銀行間の競争激化によって「金利優遇幅」はどんどん拡大しており、2024年には金利優遇幅が2.0%にまで拡大している。
金利優遇幅は、借りている間は変わらない
もはや定価である「店頭金利」の姿かたちは残っていないくらい、「金利優遇幅」が非常に大きくなることで、金利が下がってきたのだ。
そして、厄介なことに金利優遇幅は、借りている間は変わることがない。
つまり、新規貸し出しの金利優遇幅は拡大されているのに、既存の借り手は借りた当時の金利優遇幅がずっと適用され続けているのだ。
上図であれば、2009年3月に借りた人は、金利優遇幅はずっと「1%」のままで、変動金利は借入時から現在まで、2.475%ー1.000%=1.475%のままだ。
もし、借り換えれば、0.4%を切るような低金利が適用されるだろうことを考えると、「高い変動金利」を押し付けられているとも言えるだろう。
もし、定価である「店頭金利」自体が引き下げられれば金利は下がるが、「店頭金利」は15年も据え置かれたままで、望みは薄い。
よって、既存の借り手が、現在の低金利を利用したいのであれば、住宅ローンを借り換えるしかない。
こうした複雑な仕組みが、前述した「変動金利」に対する誤解を引き起こしているのだ。
変動金利で借りている人は、借り換えで200万円近いメリットも
以上のように、金利優遇幅が大幅に拡大している今、借り換えないと損をしてしまうことは明白だ。
では、実際に借り換えを行った場合、どれくらいメリットがあるのかシミュレーションしてみよう。
下表は、過去に大手銀行で変動金利を借りた人が、ネット銀行の変動金利(2024年現在の表面金利でトップクラスの低金利である、0.298%で借り換えたときにお得になる金額(メリット額)をまとめたものだ(当初の借入金額3000万円、返済期間35年、借り換えの諸費用すべて込み)。
変動金利の借り換えメリット額を試算 |
|||
大手銀行からの借入時期 | 借入時の 金利 |
ネット銀行 との金利差 |
メリット額 (諸費用考慮後) |
---|---|---|---|
2007年に借入 | 1.475% | -1.225% | 116万円 |
2008年に借入 | 1.475% | -1.225% | 136万円 |
2009年に借入 | 1.475% | -1.225% | 156万円 |
2010年に借入 | 1.475% | -1.225% | 177万円 |
2011年に借入 | 1.275% | -1.025% | 148万円 |
2012年に借入 | 0.875% | -0.625% | 59万円 |
2013年に借入 | 0.875% | -0.625% | 69万円 |
2014年に借入 | 0.775% | -0.525% | 50万円 |
2015年に借入 | 0.775% | -0.525% | 59万円 |
2016年に借入 | 0.625% | -0.375% | 17万円 |
2017年に借入 | 0.625% | -0.375% | 23万円 |
2018年に借入 | 0.625% | -0.375% | 30万円 |
2019年に借入 | 0.625% | -0.375% | 37万円 |
2020年に借入 | 0.475% | -0.225% | -22万円 |
2021年に借入 | 0.475% | -0.225% | -19万円 |
2022年に借入 | 0.475% | -0.225% | -16万円 |
2023年に借入 | 0.475% | -0.225% | -12万円 |
※大手銀行からの借り入れ当初の借入金額は3000万円、借入期間35年、借入金利は当時の大手銀行の平均的な金利とした。借り換え後はネット銀行とし、借入金利は0.298%。借り換えの諸費用は、銀行への手数料が借入額×2.2%、印紙税・登記費用・司法書士報酬が20万円で試算した。 |
2010年に変動金利で借りた人は177万円もお得に
たとえば、2010年に変動金利で住宅ローンを借りた人の現在の金利は1.475%のままなので、ネット銀行の0.298%へ借り換えをした場合、1.225%も金利が低くなる。
その結果、借り換え手数料などを支払ったとしても、今後の支払額は177万円も減少する。つまり、借り換えを行うだけで177万円も儲かるのだ。
このメリット額には驚くだろうが、住宅ローン金利はここ10年ほど優遇金利を拡大させながら下がり続けているため、ある意味当然のこととも言える。
表を見ればわかるが、数年前に借りたばかりの人でも、借り換えによって数十万円の借り換えメリットが発生する。
しかし、これだけのメリットがあるにもかかわらず、よく分からずに放置している人は何十万人もいると言われている。これは、非常にもったいないことだ。
ダイヤモンド不動産研究所の「返済額シミュレーション(借り換え)」なら、借り換えによるメリット額も試算できるので、ぜひ使ってみよう。
借り換えメリットを得るなら、今がチャンス!?
変動金利は、ここ10年間で1%も金利が下落し、もっとも金利が低い銀行は0.4%以下まで下がっている。
ただし、銀行が住宅ローンを貸し出すのにかかるコストは0.5%とも言われており、変動金利については、これ以上、下がる余地がほとんどないというのが実情だ。むしろ、2024年7月の短期プライムレートの利上げにより今後は金利上昇が予想される。
そのため、変動金利で住宅ローンを借りている人は、金利が「底」になりつつある今、借り換えのチャンスと言えるだろう。
変動金利で住宅ローンを借りている人の中には、今より1%以上高い金利で住宅ローンの支払いを続けている人もいる。
借り換えを実行するだけで、昨今の金利優遇幅引き下げ競争によるメリットを手に入れられるのだが、勘違いしている人が多いためか、言わば「宝の持ち腐れ」状態になっている。
住宅ローンの借り換えの審査に落ちたところで、デメリットはまったくない。変動金利の住宅ローンを借りているのであれば一度、借り換えでメリットがあるかどうかを検討するのがいいだろう。
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今回作成した「住宅ローン利用者口コミ調査」の調査概要は以下のとおり。
【調査概要】
調査日:2023年12月
調査対象:大手金融機関の住宅ローン利用者(5年以内に住宅ローンを新規借り入れ、借り換えした人)
有効回答数:822人
調査:大手アンケート調査会社に依頼
評価対象:有効回答数47以上を対象とするアンケートの設問は以下の7問。回答は5段階評価とした。なお、評価点数の平均点は小数点第2位以降を四捨五入。
【アンケートの設問】
Q1.金利の満足度は?
Q2.諸費用・手数料等は妥当でしたか?
Q3.団体信用生命保険には満足しましたか?
Q4.手続き・サポートには満足しましたか?
Q5.審査について、満足していますか?
Q6.借り入れ後の対応に満足しましたか?
Q7.他の人にも現在の銀行を勧めたいと思いますか?
【回答の配点】
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満足している(5点)
どちらかといえば満足している(4点)
どちらともいえない(3点)
どちらかといえば不満である(2点)
不満である(1点)
・総合評価については、各項目の平均値を全て合算。読者が重視する「Q1金利の満足度」については点数を3倍、「Q3団信の満足度」の点数を2倍として、点数の合計を50点満点とし、10で割ることで5点満点の数値を求めた。
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淡河範明さん
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