「住宅ローン控除(減税)」は、最大で合計455万円(2024年~25年)の税金が還付されるが、なるべく多くの控除を引き出して儲けるためには注意が必要だ。現在の低金利をうまく活用すれば、住宅ローンの金利支払いよりも税金還付額のほうが多い「マイナス金利(収支がプラス)」状態になるだけでなく、繰り上げ返済のタイミングを工夫すれば、儲けを最大化できる。
現在の超低金利下で住宅ローン控除で得するには、
「新常識3カ条」を守って、タイミングよく返済を!
住宅ローン控除は多額の税金還付があり、非常にメリットが大きい制度だ。ただし、繰り上げ返済のタイミングを工夫するだけで、数十万円もお得になる。
そこで、現在の超低金利下において、「住宅ローン控除で得する、繰り上げ返済の新常識3カ条」をまとめた。この3つを守りながらタイミングよく繰り上げ返済していけば、控除額を数十万円も増やせる可能性がある。
(1)控除の対象となる住宅ローン残高まで、繰上返済
(2)「金利<控除率」なら、慌てて繰り上げ返済しない
(3)「金利>控除率」なら、積極的に繰り上げ返済(ただし毎年1月)
まずは、自分の控除率を確認
ひとつずつ解説するにあたって、まずは自分の控除率などを確認しておこう。
下表で、自分が入居した年を見て、自分に適用される「控除率」「控除期間」「住宅ローン残高上限」を確認しておこう。入居した年で自分の控除率などが決まり、終了まで変更されない。物件タイプごとに控除対象となる金額の上限が違うので確認しよう。なお、2024年以降に建築確認を受けた新築住宅は、省エネ基準を満たしていないと住宅ローン減税を受けられなくなったので注意しよう。
物件タイプ別の住宅ローン残高の上限 ※新築の省エネ基準未達物件、中古は年による変更なし |
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住宅タイプ | 住宅ローン残高上限 | ||||
---|---|---|---|---|---|
新築 13年間 |
認定住宅 |
5000万円 4500万円 |
|||
ZEH |
4500万円 3500万円 |
||||
省エネ基準 |
4000万円 3000万円 |
||||
その他 |
0円※ |
||||
中古 10年間 |
認定住宅 | 3000万円 | |||
その他 | 2000万円 |
※国土交通省「令和6年度住宅税制改正概要(令和5年12月)」を参考に作成。子育て・若者夫婦世帯とは、「19歳未満の子を有する世帯」又は「夫婦のいずれかが40歳未満の世帯」。2025年度税制改正でも同様の方向での緩和を検討している。また、新築住宅(その他)については、2023年12月31日までに建築確認を受けた、または2024年6月30日までに建築されていれば、借入限度額を2,000万円として10年間の控除が受けられる
2023年以前に入居した場合は、控除率、物件タイプごとの住宅ローン残高の上限が違うので、覚えていない場合は国税庁のサイトなどで確認しよう。
入居年によって控除率、控除期間が違う |
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入居年 |
控除率 |
控除期間 |
住宅ローン残高 の上限 |
||
---|---|---|---|---|---|
2013年〜 | 1% | 10年 | 3000万円 | ||
2014年〜 | 1% | 10年 | 5000万円 | ||
2019年10月〜 | 1% | 最大13年 | 4000万円 | ||
2022年~ | 0.7% |
最大13年 |
5000万円 | ||
2024年~ | 0.7% |
最大13年 |
子育て世帯等 5000万円 その他 4500万円 |
※参考:国税庁「No.1212 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)」
(1)控除対象となる住宅ローン残高上限まで、繰り上げ返済
住宅ローン控除の対象となるのは、物件タイプによって上限が決められている。もし年末の住宅ローン残高が、控除の上限を超えている場合は、手持ちの現金・預金があるのであれば、なるべく早めに繰り上げ返済してしまったほうがいい。控除の対象とならない部分は、なるべく減らしておくのがいい。
例えば、2024年、2025年に入居の場合、認定住宅なら住宅ローン借入残高の最大4500万円まで(子育て・若者夫婦世帯は最大5000万円)という上限がある。建物のスペックによって上限が変わる。認定住宅なら0.7%にあたる31.5万円(子育て・若者夫婦世帯は35万円)が毎年、控除される。それを超える残高分については、繰り上げ返済してしまっていいのだ。
ただし、自分の支払っている税額(所得税+住民税の一部)が35万円、または21万円に満たない場合は、自分が支払った税金しか戻ってこないので気をつけよう。所得税は全額戻ってくるが、住民税については9万7500円が上限となっている(2022年以降)。自分の税額を計算してみよう。おおよそ年収650万円以上あれば、年間35万円の税金が全額戻ってくる可能性がある。
【関連記事はこちら】>>住宅ローン控除額(減税額)シミュレーション! 年収別に計算可能
もし、支払っている税額が控除額に満たない場合は、「支払っている税額(所得税+住民税の一部)×100倍」が控除対象の住宅ローン残高と考えて、そこまでは繰り上げ返済するようにしよう。
もちろん、生活資金などに必要な現金・預金まで繰り上げ返済してしまってはいけない。病気やケガ、勤めている会社の倒産時などに支払えなくなっては元も子もない。一般に「生活費1年分程度を現金・預金として取っておくべきだ」というファイナンシャル・プランナーが多いので、自分のライフスタイルに合わせて預金しておきたい。
(2)「住宅ローン金利<控除率」なら、慌てて繰り上げ返済しない
通常、現金・預金があるのなら繰り上げ返済をするのが常識だった。しかし、現在の金利動向をみると、変動金利は0.4%程度で、あなたの控除率0.7%を大きく割り込んでいる。そこで、「住宅ローン金利<控除率」なら、慌てて繰り上げ返済しないほうがいい。
支払い金利は残高×0.4%程度であるのに対して、控除で戻ってくる税金は残高×0.7%だ。差し引きすると、借金をしているのに、残高×0.3%程度の利益を生むことになる。住宅ローン控除によって、まさに「マイナス金利の世界」をが生まれている。
そのため、無理に繰り上げ返済をすると、利益が減ってしまうので、あえて繰り上げ返済しないのが正解だ(下表を参照)。
住宅ローン控除は、繰り上げ返済ありとなしではどちらがお得? (金利0.38%、残高1000万円で試算) |
|
対応 | 「金利+減税」は、年いくら? |
---|---|
繰り上げ返済なし | 残高1000万円 ×(金利0.38%-減税0.70%) =3.2万円の利益 |
繰り上げ返済500万円 | 残高500万円 ×(金利0.38%-減税0.70%) =1.6万円の利益 |
この「儲かる状態」を、わざわざ縮小することはない。手持ちの現金・預金が潤沢にあっても、10年間または13年間は絶対に繰り上げ返済せずに利益を受け取り続けよう。
そして住宅ローン減税の期間が終わったら、繰り上げ返済を一気に行うのがいい。
住宅ローン控除は毎年の年末の残高を元に控除額が決まるので、繰り上げ返済するのであれば、住宅ローン減税の期間が終わった時がベスト。「余裕があればすぐに繰り上げ返済すべきだ」という今までの常識とは逆の対応になるので、覚えておきたい。
(3)「住宅ローン金利>控除率」なら、積極的に繰り上げ返済
では、「住宅ローン金利>控除率」ならどうするのか。
これは従来と同じ考えで、なるべく繰り上げ返済すべきだ。戻ってくる税金よりも金利の支払い金利の方が多いので、なるべく残高を減らしたほうがいいのは当たり前だろう(下表を参照)。
住宅ローン控除は、繰り上げ返済ありとなしではどちらがお得? (金利1.5%、残高1000万円での年間収支) |
|
対応 | 「金利+減税」は、年いくら? |
---|---|
繰り上げ返済なし | 残高1000万円 ×(金利1.5%-減税0.7%) =8.0万円の支払い |
繰り上げ返済500万円 | 残高500万円 ×(金利1.5%-減税0.7%) =5.5万円の支払い |
なお、何月に繰り上げ返済をするればいいのか?
繰り上げ返済はネットで簡単にできるようになったとはいえ、毎月こまめに返済するの手間がかかるため、多くの人は年に1回程度、まとめて返済している。住宅ローン控除は12月末の住宅ローン残高を元に計算しているので、控除額が確定した後の1月に繰り上げ返済するのが正解だ。
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年収が約800万円以上など、高い条件がある
ちなみに、住宅ローン控除の上限である合計455万円全額(2024年の場合)をすべて使い切るのは、なかなかハードルが高い。先ほど紹介した「繰り上げ返済の新常識3カ条」を実践しつつ、以下の3つの条件をクリアする必要がある。
住宅ローン減税455万円をすべて使い切る条件
- (1)年収が約650万円以上(控除対象の税金が50万円以上)
- (2)住宅ローン残高が4550万円以上をキープ
- (3)認定住宅であること
上記の条件は自分の努力ではどうにもならないものもあり、455万円全額を使い切るのはなかなか難しい。過大な期待はしないほうがいいだろう。
また、上記の(2)住宅ローン残高が5000万円以上をキープを厳密に守ると、実は借入当初の残高が膨らんで金利支払いが増えてしまうため、必ずしも13年間トータルの収支でメリットがあるとは言えない。計算が複雑なので省略するが、まずは5000万円を切るまで繰り上げ返済し、その後は残高をなるべくキープすればいい(認定住宅の場合)。5000万円をすべて使い切ることにあまり意味はないのだ。
なお、住宅ローン控除の概算については、当サイトの住宅ローン控除シミュレーションを活用しよう。
【関連記事はこちら!】⇒住宅ローン控除額(減税額)シミュレーション! 年収別に計算可能
最大455万円の減税と、メリットが大きい
最後に、現在の住宅ローン控除を解説しておこう。住宅ローン控除は2022年の税制改正によって、大きく変更された。かなり複雑な制度で、購入する住宅によって減税となる金額が違う。
【2022〜2025年の住宅ローン減税の概要】
- ・控除率は0.7%
- ・減税期間は、住み始めてから13年間(新築)、または10年間(中古住宅)
- ・各年末(12月)の住宅ローン残高に、控除率0.7%を掛けた額が上限
- ・支払った税金(所得税、住民税の一部)が減税額の上限
- ・物件タイプにより、減税対象となるローン残高が異なる
控除される金額が大きいだけに、この控除をあてにして、家計をやりくりする人もいるだろう。例えば、年末の住宅ローンの残高が3000万円であれば、3000万円×0.7%=21万円が、「所得税と住民税の一部」から戻ってくる。
控除額は、認定住宅(認定長期優良住宅または認定低炭素住宅)ならば最大で年35万円×13年=455万円と、かなり高額だ。住宅ローン控除の適用を受けるには、確定申告をしなければならないが、2年目以降はサラリーマンであれば会社の年末調整で処理できる。手続きが簡単で効果が大きい制度だ。
できればフルに減税措置を受けたいところだ。
【住宅ローン減税額はいくらになる?】
年収と借入額によって、住宅ローン減税額は異なる。いくつかのケースで、年収別に総額いくら減税されるか紹介しよう。
年収400万円(借入額2000万円)=減税額152万円
年収400万円(借入額4000万円)=減税額240万円
年収600万円(借入額2000万円)=減税額152万円
年収600万円(借入額4000万円)=減税額303万円
年収800万円(借入額4000万円)=減税額303万円
年収800万円(借入額6000万円)=減税額434万円
※2人家族、共働き、認定住宅を購入、金利1.05%、11年目以降は1.30%。借入期間35年で計算。
【関連記事はこちら】>>住宅ローン控除額(減税額)シミュレーション! 年収別に計算可能
増築や100万円以上のリフォーム工事も対象
なお、現在は新築住宅や中古住宅だけでなく、増築や一定のリフォームで100万円以上の工事も対象となる。
特に2021年度以降は40㎡以上の小規模物件も対象になっている。一方で、2022年度からは所得要件が厳しくなり、2000万円以下でないと住宅ローン控除を受けられなくなった。他にも以下の表のような条件があるので参考にしてほしい。
「住宅ローン控除」のその他の適用条件(2022〜2025年度)
- ・ 控除率を0.7%、控除期間を新築住宅等は原則13年、既存住宅は10年とする。
- ・ 既存住宅(中古住宅)を含め、住宅の環境性能等に応じた借入限度額の上乗せ措置を講じる。
- ・ 令和6年以降に建築確認を受ける新築住宅について、省エネ基準適合の要件化。
- ・ 既存住宅の築年数要件(耐火住宅25年以内、非耐火住宅20年以内)について、「昭和57年以降に建築された住宅」(新耐震基準適合住宅)に緩和。
- ・ 新築住宅の床面積要件について、令和5年以前に建築確認を受けたものは40㎡以上に緩和(合計所得金額1,000万円以下の者に限る)。
- ・ 適用対象者の所得要件を合計所得金額3,000万円以下から2,000万円以下に引下げ。
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淡河範明さん
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