全国の地銀や信金が、返済期間を最長50年に延ばした住宅ローンに注力しています。ネット銀行では住信SBIネット銀行が8月に住宅ローンの最長期間を50年に拡大しました。今日は金融機関にとっての50年住宅ローンはどういうものか?住宅ローンの利用者としては50年住宅ローンのどの部分に気を付けて利用すべきか?について詳しく解説します。(住宅ローン・不動産ブロガー 千日太郎)
50年の住宅ローンを借りられる人の条件とメリット
こんにちは。公認会計士の千日太郎です。
返済期間が最長50年の住宅ローンが増加しています。建築資材や燃料費の高騰などが相まって住宅価格の上昇が続くなか、毎月の返済額を抑えたい若年層の開拓を狙っているようですね。
そこで、最長50年の住宅ローンを導入している主な金融機関の条件をまとめてみました。実は、誰でも50年の住宅ローンを借りられるわけではないのです。
【50年住宅ローンの条件】
実行時年齢 | 完済時年齢 | その他の条件 | |
住信SBIネット銀行 |
満80歳 未満 |
||
広島銀行 |
満82歳 未満 |
中古は最長35年 | |
福岡びびき信用金庫 |
満80歳 未満 |
||
西日本シティ銀行 |
満81歳 以下 |
建築から50年を超えない 期間または35年の範囲内 |
|
常陽銀行 |
満80歳 未満 |
40年超となる場合は 当行所定の条件を満たす必要 |
|
福井銀行 |
満29歳 以下 |
満80歳 未満 |
|
釧路信用組合 |
満80歳 未満 |
住宅ローンの完済時の年齢はおおむね80歳前後までとしている金融機関が大多数であり、これが天井ということになります。80歳から50年を差し引くと、住宅ローンのスタート時点ではおおむね30歳以下でなければなりません。
また、一部の金融機関では取得する住宅にも条件が付いています。これらはあくまで各行のホームページで公開されている情報からとったものですので、条件が空欄となっている金融機関でも実際には条件が付されていたり、ホームページで公開されていない条件が隠されていたりする可能性も否定できません。
つまり最長の50年で住宅ローンを組むためには、実行時点で30歳以下(または29歳以下)である必要があるのですが、年齢が高くても44歳未満の人であれば従来の35年よりも長い期間の住宅ローンを組める可能性があるということでもあります。われわれ住宅ローン利用者にとって最長期間に新たなオプション(選択肢)が増えたということは、明らかなメリットと言えるでしょう。
しかし、住宅ローンはあくまで借金であり、返済責任を伴う以上はメリットとデメリットが表裏一体として存在する点にも注意が必要です。
【関連記事はこちら】>>住信SBIネット銀行の住宅ローンの口コミ・金利・手数料は?
50年ローンを導入する金融機関と債務者のメリット、デメリット
例えば、金融機関にとってのメリットは裏返すと住宅ローンを借りるわたしたち債務者のデメリットとなります。また、金融機関にとってのデメリットは債務者のメリットです。住宅ローンの最長期間を50年に延長するメリットとデメリットの対応関係を表にまとめると下記のようになります。
【50年住宅ローンのメリットとデメリット対応関係】
金融機関のメリット | 債務者のデメリット |
---|---|
多額の融資を長期間にわたり行うことで売り上げが増える | 多額の借金を長期間にわたり負うことで利息の支払いが増える |
金融機関のデメリット | 債務者のメリット |
多額の融資を回収する長期間の間に債務者の財政が悪化して回収できなくなるリスク | 多額の融資をしてもらえて元本返済はゆっくりでいい |
金融機関が採用する審査の基準として融資負担率があります。『融資負担率(=年間返済総額/額面年収)を一定率以下にする』という基準があり、その人の年収によっても基準が変わるケースがありますが、一般的な年収の範囲内では20%~30%程度と上限としている金融機関が多数派となっています。
35年から50年に返済期間を延長することで、従来の融資負担率の基準をあてはめると融資可能額を増やせるのです。
・【35年返済】額面年収500万円の場合、融資負担率30%の年間返済総額は150万円となり、金利1%とすると融資可能額は4,428万円が上限
・【50年返済】同条件だと、融資可能額は5,900万円が上限
金融機関にとって返済期間を50年に延長するメリットは、多額の融資を長期間にわたり行うことで売り上げが増えるということです。
一方で、デメリットもあります。融資期間を35年から50年に延長するということは、審査基準を緩和することを意味するわけですから、多額の融資を長期間にわたり行う与信管理の難しさが増すという負の側面があるわけです。
金融機関としては住宅ローンの実行後、何事もなく50年にわたって債務者がゆっくり返済し続けてくれればメリットを享受できるのですが、今までやらなかった理由としては、そううまくはいかないだろうということがあるからです。
今回、地銀や信金を中心として50年の住宅ローンを開始した背景には、過熱する住宅ローン(変動金利)の低金利競争ではネット銀行やメガバンクと張り合えないため、競争戦略上やむを得ないのだと思います。その50年住宅ローンの市場に住信SBIネット銀行が参入してきたことは、地銀信金にとってかなりの脅威でしょう。
債務者のデメリットを帳消しにするコツ
住宅ローンのルールと仕組みをよく理解して、債務者にとってのデメリットが顕在化しないような返済計画を立てれば、50年住宅ローンのメリットをローリスクで享受することができます。これを3つ、ご紹介しましょう。
① 余裕があれば繰り上げ返済を
② 住宅ローン控除が終わってから繰り上げ返済
③ 定年時の住宅ローン残高を把握して貯蓄目標に
一つずつ解説していきます。
①余裕があれば繰り上げ返済を
購入当初から自分の収入が増えてきた場合は、繰り上げ返済することで借入元本を減らし、以後の利息コストを軽減することができます。債務者の「多額の借金を長期間にわたり負うことで利息の支払いが増える」というデメリットを直接的に減らす方法が、繰り上げ返済です。繰り上げ返済には手数料がかかることがありますが、ネットバンキングを利用することで何度でも手数料が無料になる金融機関が増えてきました。
繰り上げ返済には返済期間短縮型と返済額軽減型の2種類があり、都度どちらかを選択して行います。
返済期間短縮型:繰り上げ返済額だけ返済期間を短縮し、その後の毎月返済額は変えない。
返済額軽減型:繰り上げ返済後の毎月返済額を軽減し、その後の返済期間は変えない。
より利息の節約効果が高くなるのが返済期間短縮型です。元本の減少に加えて借入期間が短くなるため、利息負担が減りやすいのです。しかし、住宅ローン控除の期間が残っている間は、返済に余裕ができてもあえて繰り上げ返済しないことをお勧めしています。
②住宅ローン控除が終わってから繰り上げ返済
住宅ローン控除は、購入から最大10年または13年間にわたり年末の住宅ローン残高に一定率(0.7%または1%)を乗じた金額を上限として、所得税などからキャッシュバックされる減税制度です。
つまり、繰り上げ返済することによって年末の住宅ローン残高が減ると、住宅ローン控除による減税額も減ってしまうということになります。特に変動金利を選択した人ならば、その利率よりも住宅ローンの控除率の方が大きいわけですから、繰り上げ返済は割に合わない選択です。固定金利を選択した人であっても、減税のメリットが目減りすることに変わりはないので、積極的に繰り上げ返済を行うことはお勧めしません。
住宅購入直後は、手持ちの資金が最も減るタイミングでもあり、不測のアクシデントに最も弱いタイミングです。繰り上げ返済するよりも、まずは貯蓄の水準をもとに戻すことを優先することをお勧めします。
下表は6,000万円を金利1%、50年の元利均等返済で借りた場合を例として、住宅ローン減税が終了したであろう10年後のローン残高、1年ずつ期間を短縮するために必要な繰り上げ返済の金額、繰り上げ返済によって節約できる利息の金額を一覧にしたものです。
必要な繰り上げ返済額はいくら?
※6,000万円を金利1%、50年元利均等返済、ボーナス払いなし。10年後(残高5027万円)に繰り上げ返済
短縮したい期間 | 繰り上げ返済額 | 利息節約額 |
---|---|---|
1年短縮 | 102.8万円 | 49.8万円 |
2年短縮 | 206.6万円 | 98.5万円 |
3年短縮 | 311.4万円 | 146.2万円 |
4年短縮 | 417.2万円 | 192.9万円 |
5年短縮 | 524.2万円 | 238.5万円 |
6年短縮 | 632.2万円 | 283.1万円 |
7年短縮 | 741.2万円 | 326.5万円 |
8年短縮 | 851.4万円 | 368.9万円 |
9年短縮 | 962.7万円 | 410.1万円 |
10年短縮 | 1,075.1万円 | 450.3万円 |
10年後のローン残高は5,027万円になっており、その時点で102.8万円を返済期間短縮型で繰り上げ返済すれば、返済期間を1年短縮することができて、利息の負担は498,013円減るということになります。
例えば30歳から50年ローンを組むと10年後には40歳ですが、まだ40年も住宅ローンが残っていることになります。完済予定は80歳ですからね。完済年齢を70歳とするために10年短縮するには1,075.1万円を繰り上げ返済する必要があります。
住宅ローン控除を満額受けて使わずに置いておくとすれば10年で350万円たまっています。残りの725万円を貯蓄するには、1年あたり72.5万円を積み立てていけばよいということになりますね。住宅ローン控除が終わるまでの当初10年の目標として、上記のような計画を立てて実行していけば、デメリットを減らすことができるでしょう。
【関連記事はこちら】>>住宅ローン控除を最大化する新常識を公開!金利0.7%〜1%未満なら、税金の戻りが多く、「打ち出の小槌」状態に
③定年時の住宅ローン残高を把握して貯蓄目標に
もう一つ、定年までの長期のスパンとして立てる計画があります。もし10年の間に想定外のアクシデントで目標を達成できなかった場合の次の計画です。定年時のローン残高を把握して、定年までにこの金額を確保できるようにしておくということです。
これは、アラフィフから住宅ローンを組む人に特にお勧めしている方法です。アラフィフから最長期間で住宅ローンをスタートすると、定年の65歳ではかなりまとまった金額の住宅ローンが残ることになるため、定年時のローン残高を目標として貯蓄する必要があるのです。30歳以下であっても、50年の住宅ローンを組む場合は定年時のローン残高を意識して貯蓄計画を立てなければならないのです。
下記は30歳で6,000万円を金利1%、50年の元利均等返済で借りた場合を例として、60歳、65歳、70歳の時点で残っている住宅ローンの残高です。
住宅ローン残高はいくら?
※30歳で6,000万円を金利1%、50年の元利均等返済で借りた場合
年齢 | ローン残高 |
---|---|
60歳 | 2,764万円 |
65歳 | 2,123万円 |
70歳 | 1,451万円 |
当初の10年という中期の計画に加えて、定年までの長期の計画として上記のローン残高に相当する貯蓄を確保しておくという計画を立て、実行に移していくことをお勧めします。
まとめ~住宅ローンという長期計画のポイント
35年の住宅ローンであっても、自分の今まで生きてきた期間と同じくらいかそれを超える期間です。50年はそれをはるかに超える期間であり、今ある前提がまったくアテにならないほどに長期間のプロジェクトです。そもそも、住宅ローンを選ぶというのは一人の人間の能力を超えた仕事なのだと思っています。
ゴールが目視できているようなヨットレースで勝つためのライン取りや風読みとは違います。しかし、専門家も含めて多くの人がこのようなレベルで話をしているように思います。本当に必要なのは、太平洋を横断するような大航海で自分と家族を全員生還させるための準備とかじ取りなのです。
どうしても、住宅ローンの金利や毎月の返済額が気になるところだと思いますが、確実に完済するためには、同時に長期の視点を持つことが重要です。収入がある間にいくら繰り上げ返済資金をためなければならないのか、また、自分が定年の年齢になったときにいくらの住宅ローンが残っているのかを把握し、それを踏まえた貯蓄計画を立てることをお勧めします。
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淡河範明さん
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