住宅ローンを借りるとき、変動金利にするか固定金利にするかを迷う人は多いだろう。そこでよく利用されているのが、複数のローンを組み合わせた「ミックスローン」だ。住宅ローンに詳しいファイナンシャルプランナーに、ミックスローンのメリット・デメリットや、繰上返済の上手な方法を聞いた(監修:ファイナンシャルプランナー・山本俊成氏)。
ミックスローンはどんな人が利用しているか
そもそも住宅ローンは、できるだけ金利を安くしたいと誰もが考える。そういう意味では金利の低い変動金利の住宅ローン1本で借りたいところだが、変動金利は「いつ金利が上昇するかわからない」というリスクを抱えることになる。金利が上昇すれば、返済額も増加する。人によっては大きな精神的ストレスとなりかねない。
一方、固定金利は金利が一定なので「上昇するかもしれない」という不安を抱かないで済むが、当然ながら金利は高めになる。
「どちらがいいか悩んでいる場合に、変動金利と固定金利を組み合わせた『ミックスローン』を組むケースがあります」(ファイナンシャルプランナーの山本さん)。
ミックスローンは、変動金利と固定金利のどちらかに決められず、迷ってしまった人向けの「折衷案」といえよう。
最近よくみられるのが、夫婦でペアローンを借りる際、それぞれの収入に比例させた金額を借りるというやり方だ。例えば3000万円の物件を購入する際、収入の多い夫が2000万円を借り、収入が少なめの妻が1000万円を借りる。その際、借り入れが多い夫は固定金利を選択し、借り入れが少ない妻は変動金利を選択することが多い。夫の方が借入額が多い分、借入期間も長くなりがちなので、金利上昇リスクがない固定金利を選択する。一方で、妻は借入額が少ないので借入期間も短めとなり、変動金利を選択することが多い。さらに、余裕があれば、変動金利から繰上返済していくことで、変動金利の上昇リスクを回避できる。
ちなみに、それぞれのローンは「借入額」、「借入期間」、「金利タイプ」を自由に組み合わせることができるが、借入期間だけはそろえなければならない銀行もある。
金利が変わらなければ「変動金利」が有利
では、3000万円を変動金利・固定金利で借りた場合、返済がどのようになるのか比べてみよう。変動金利は0.6%で、変動がないものとして計算する。一方、固定金利は1.3%として算出すると、次の表のようになる。
■金利が変わらない場合は、変動金利が有利! | |||
すべて変動金利 金利/0.6% 借入額/3000万円 |
ミックスローン 変動⇒1500万円 固定⇒1500万円 |
すべて固定金利 金利/1.3% 借入額/3000万円 |
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毎月返済額 | 13.3万円 | 13.7万円 | 14.2万円 |
総支払額 | 3184万円 最も安い! |
3296万円 | 3408万円 |
※ 借入額3000万円、借入期間20年、借入時の諸費用はゼロ円として試算。ミックスローンは、固定金利と変動金利でそれぞれ1500万円ずつ借入。固定金利は20年固定とした。住宅金融支援機構のシミュレーションを使って試算。 |
上表のように、金利が変わらないときは変動金利が最も有利となる。「すべて変動金利」で借り入れると総支払額は3184万円、「すべて固定金利」で借りる場合は3408万円なので、「すべて変動金利」の方が総返済額は224万円も少なくなる計算だ。毎月返済額でみると、1.1万円ほど少なくなる。
では、1500万円ずつ変動と固定の「ミックスローン」で借りた場合はどうなるのか。総支払額は3296万円となり、「すべて変動金利」と「すべて固定金利」のちょうど中間の金額になる。固定金利より総支払額は少ないが、変動金利よりは多いという結果になった。
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⇒ 「住宅ローンを変動金利で借りた人でも、借り換えで最大300万円以上もうかる!「高い変動金利」で借りている人は要注意!」
過去には現在より金利が6%も高かった時期も
では次に、金利が上昇するとどうなるのか。今後も現在のような低金利が続くかは不確定で、上昇するリスクは否定できない。金利上昇時に各金利タイプの総支払額がどうなるかシミュレーションした。
なお、金利上昇ケースとして、2%アップ(メーンシナリオ)、4%アップ(大幅な上昇シナリオ)の2ケースを用意した。変動金利(基準金利)は現在、多くの銀行が2.475%としているのに対し、長期的な金利の推移を見ると平均4%程度であることから、2%アップをメーンシナリオとした(基準金利は2.475%であるのに対して、現在は1.9%程度の金利優遇があるため、実際の貸出金利は0.6%程度となる)。
■2%金利上昇(メーンシナリオ)は、固定金利が有利 | |||
すべて変動金利 金利/0.6% 借入額/3000万円 |
ミックスローン 変動⇒1500万円 固定⇒1500万円 |
すべて固定金利 金利/1.3% 借入額/3000万円 |
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毎月返済額 | 13.3万円(~5年) 15.3万円(6年~) |
13.7万円(~5年) 14.7万円(6年~) |
14.2万円 |
総支払額 | 3556万円 | 3482万円 | 3408万円 最も安い! |
■4%金利上昇(大幅上昇)は、固定金利が有利 | |||
すべて変動金利 金利/0.6% 借入額/3000万円 |
ミックスローン 変動⇒1500万円 固定⇒1500万円 |
すべて固定金利 金利/1.3% 借入額/3000万円 |
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毎月返済額 | 13.3万円(~5年) 17.6万円(6年~) |
13.7万円(~5年) 15.9万円(6年~) |
14.2万円 |
総支払額 | 3961万円 | 3685万円 | 3408万円 最も安い! |
※ 借入額3000万円、借入期間20年、借入時の諸費用はゼロ円として試算。ミックスローンは、固定金利と変動金利でそれぞれ1500万円ずつ借入。固定金利は20年固定とした。住宅金融支援機構のシミュレーションを使って試算。 |
こちらは、金利2%上昇、同4%上昇のどちらのケースでも、「すべて固定金利」の総支払額が最も少なくなった。金利上昇時は、やはり固定金利が有利だ。
2%金利上昇ケースを見てみると、「すべて変動金利」の総支払額は3556万円、「ミックスローン」で借りた場合が総支払額は3482万円、「すべて固定金利」の総支払額は3408万円なので、「すべて固定金利」が最も支払い額が少なくなる。3つのローンを比べると、総支払額は最大で148万円もの差がある。「ミックスローン」については、それほど金利上昇の影響が多きくなかったことから、「すべて変動金利」と「すべて固定金利」のちょうど中間の金額になり、金利上昇のリスクをある程度、緩和できるということになる。
「総支払額を少なくしたい」という要望と、「変動金利の上昇リスクを取りたくない」という要望を同時に満たすことはできない。ただし、ミックスローンであれば、金利が上昇しても、金利が上昇しなくても、それぞれの要望をある程度、満たせるということが分かるだろう。変動金利と固定金利で迷っている人には、ミドルリスク、ミドルリターンとも言える、ミックスローンが丁度いいだろう。
繰上返済によって、リスクをさらに減らせる
ミックスローンを借りた場合、考えておきたいのが「繰上返済」だ。リスクを減らしつつ利息支払いを減らしたいと考えるのであれば、繰上返済を随時していくことがカギになる。金利上昇リスクがある「変動金利」から繰上返済することで、リスクを減らせるのだ。
また、「固定金利から繰上返済する」という人も一部にいる。当面、変動金利は上昇する見込みがないと考えれば、固定金利から繰上返済するのも間違いではないからだ。ただし、固定金利から繰上返済するのは、将来、金利が上昇したとしても返済に困らないだけの支払い能力がある人でないと、おすすめはできない。
繰り上げ返済は金利支払いを少なくするためにぜひ進めるべきだが、返済比率が高いまま住宅ローンを組んでいるような人が、繰上返済しすぎると危険だ。給料が減ったり、急な出費が発生すると、手持ちの現金がなくて困ってしまう。さらに、金利が急上昇する場合もありので、こうした危機に備えて、一定の蓄えは手元に取っておきだろう。
繰上返済しすぎると、逆にリスクを増やす可能性があるというわけだ。
ミックスローンのデメリットは、コスト、管理の大変さ
ただし、ミックスローンにはデメリットもあるので気をつけたい。
最大のデメリットは、費用が若干高いこと。複数の住宅ローンを借りることになるので、それぞれの住宅ローンごとに、印紙税、抵当権設置費用が必要だ。また一部の銀行では手数料が2倍かかることもある。ただし、アップする金額で言えば10万円程度なので、それほど大きい負担ではないと感じる人も多いだろう。
書類については、それぞれ2通、記入しなければならず、手間も大変だ。なお、三井住友信託銀行のように、契約関係書類が1通、抵当権設定も1件で済ませられるという銀行もあるが、ごく一部だ。
もう一つのデメリットが管理が簡単ではないということ。「繰上返済」の項目で説明したように、借り手の考え方や金利状況次第で、繰上返済すべき金利タイプは変わってもおかしくない。しかし、いざ繰上返済するというときにどんな目的でミックスローンを借りたのか覚えている人はさほど多くないだろう。それだけに、あらかじめファイナンシャルプランナーなどの専門家のアドバイスを受けて、将来のライフプランを考えながら、どんな場面ではどう対応すべきかということも記録しておいた方がいい。
リスクは減少するが、ゼロになるわけではない
以上がミックスローンのメリットとデメリットだ。変動金利と固定金利で迷っているのなら、ミドルリスク、ミドルリターンである「ミックスローン」を選ぶといいだろう。最後にポイントを振り返っておこう。
・「金利上昇リスク」と「利息」を抑えるなら、「変動+固定」の折衷案で検討
・リスクは減らせるが、ゼロになるわけではない
・ミックスローンは、諸費用が若干割高になる
・基本は「変動金利」から繰上返済するが、余裕がある人は「固定金利」からでもいい
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調査日:2023年12月
調査対象:大手金融機関の住宅ローン利用者(5年以内に住宅ローンを新規借り入れ、借り換えした人)
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淡河範明さん
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