2023年、米欧では相次いで銀行が破綻しました。それに伴い、日本の銀行は破綻しないのか? という心配の声も上がっているようです。先日、住宅ローンの相談に来ていたお客様からも「この銀行がつぶれそうになったら、前もって教えてくれるの?」と聞かれました。万が一銀行が破綻した場合、住宅ローンはどうなるのか? 銀行員の立場から解説します。(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員)
銀行が破綻するってどういうこと? 銀行がつぶれる2つの理由
まずはイメージしにくい「銀行の破綻について」説明したいと思います。「破綻した後どうなるか?」を先に知りたい人は飛ばしても結構です。とはいえ銀行の破綻について知っておくと、理解しやすくなるので、ぜひお付き合いください。
銀行の破綻は、企業の倒産とほぼ同じ意味です。しかし、金融機関は一般的な企業と収益構造などが少し異なるので、「銀行が破綻=つぶれる」というのは「資金繰りに行き詰まる」「監督官庁からレフェリーストップされる」という2つの理由が挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
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【銀行が破綻する理由1】資金繰りに行き詰まる
無担保コール市場の決済資金が払えなくなると、資金繰りに行き詰まり、銀行はつぶれます。
銀行は顧客から預金を集めて、これを元手に企業や住宅ローンなどの融資をして、預金と融資の金利差(これが「利鞘(りざや)」です)で収益を上げる会社です。
このように「預かった預金で融資をして、企業経営や住宅ローンに資金供給をする」という一連の流れを「金融の仲介機能」と呼び、銀行など金融機関の存在意義とも言える仕組みになっています。
一方、預金にはそれぞれ満期があり、預かった預金だけでは資金供給をスムーズに行えません。また銀行が自由にできるお金ばかりではないのが実情です。
そこで、銀行は市場から資金を調達します。金融機関が資金調達するのは「無担保コール市場」と呼ばれ、銀行以外にも証券会社・保険会社などの金融機関が不足資金を調達したり、逆に余剰金を市場に提供したりしています。
ここでは、お互いが金融機関同士であり、相互の信頼に基づいて無担保でお金を貸し借りしているのです。そして、この金融機関同士の信用に基づく資金取引において、期日に間に合わず支払いができないことを「デフォルト」と呼び、通常ならそのような自体が起こることはまずありません。したがってこのような信用に基づく市場が形成されているわけです。
ところが金融機関の経営が悪化すると、コール市場の決済資金(つまり借金の返済金)を、自社だけでは準備できなくなる可能性もあります。過去には1997年・三洋証券(当時)が無担保コールの決済金を準備できず、最終的に破綻したという例があります。
また「準備預金」が準備できない場合も、銀行は破綻すると言われています。
準備預金とは、銀行が顧客から預かった預金の一部を、一定割合で日本銀行に預けておく制度です。預金の種類(普通預金、定期預金)に応じそれぞれの比率(預金準備率、支払準備率とも)で計算する仕組みです。
金融機関は準備預金として必要な額を、翌月の15日までに預けることになっていますが、その準備預金が準備できないと銀行は破綻になるという理屈です。
こちらも過去、北海道拓殖銀行(当時)が資金繰りに行き詰まり、準備預金が準備できなかったため破綻が決定的になったという事実があります。
【銀行が破綻する理由2】監督官庁から「レフェリーストップ」される
金融機関は官庁、そしてその上にある国の政策や方針に沿って経営を行いながら、また監督官庁からの指示や命令に基づいて動く仕組みです。
利益を求める営利企業としては、一般の会社と同じです。しかし、その破綻も監督官庁が引き起こすこともある、というより金融機関は官庁主導で破綻するとも言えるケースのほうが多いのです。
たとえば上記のように資金繰りに行き詰まるケースでも、現実問題としては行き詰まるより前に、監督官庁に支援を求めるのが定石です。そこで官庁により合併などの救済策が示されれば、破綻せずに済むことになります。
その逆に監督官庁から見放されれば終わりです。資金繰りの問題や債務超過などの財務状態の悪化、また放漫経営や投資の戦略の致命的な失敗、さらには経営陣などの不芳(ふほう)行為といった銀行の問題点を公表するように指示されます。
つまりもう経営ができないと公表してギブアップしろと、監督官庁から「レフェリーストップ」されると銀行はつぶれてしまうのです。
こちらは平成22年(2010年)に日本振興銀行(当時)が破綻した例が記憶にも新しいところです。
【参考】銀行破綻のニュースは金曜日の窓口閉店後に流れる?
これは「都市伝説」に近い話ですが、銀行破綻のニュースは金曜日の15時以降、つまり銀行窓口閉店後、店舗のシャッターが閉まったあとに発表されるという説があります。これについては私も銀行に入社したばかりの頃、当時の上司から教わった記憶があります。
理由は、発表がこのタイミングであれば、窓口が閉まっているので預金の払い出しなど、銀行に顧客が押し寄せる「取り付け騒ぎ」を発表当日は回避できるから。そして、土日を使って、翌週の顧客殺到に向けた準備もできるからです。
また預金者や融資を受けている人も、土日の間に、これからどうするか考えることができ(考えることしかできない、とも言えるが)精神的に少しは落ち着くことも考えられます。トラブルを少しでも抑えようとする動きだと考えられます。
あくまで銀行内部で語り継がれている話ですが、過去に破綻した銀行の事例や、破綻した銀行から転職してきた銀行員から聞いた話に基づいていたり、あながち全く根拠のないうわさ話でもないと銀行員は感じています。
参考に、最近破綻したいくつかの銀行が破綻を発表した日を振り返ると以下の通りです。
- ・日本振興銀行:2010年(平成22年)9月10日(金)
- ・中部銀行:2002年(平成14年)3月8日(金)
- ・石川銀行:2001年(平成13年)12月28日(金)
参考:経済産業省/破綻金融機関等リスト(平成12年11月1日以降)
このように全部が全部ではないにしろ、金曜日に破綻した金融機関が、事実としてあるということです。明確な根拠はない話ですが、私の勤務する銀行ではいまだに「金曜日の破綻ニュースには注意しろ」と言われています。
また実際に銀行の破綻はどのように発表されるのか? こちらは日本振興銀行の例(※1)をご参考ください。また日本振興銀行の場合、最終的にイオン銀行が引受銀行になりましたが、そこに至るまでのイオン銀行の発表資料(※2)も、あわせて参考資料として紹介します。報道や発表がどのように推移するのか?日付を意識しながら見ると面白いかもしれません。
※1 預金保険機構発表資料
預金保険機構/平成22年(2010年)9月10日/日本振興銀行の経営破綻と今後の業務等について
※2 イオン銀行の発表資料
イオン銀行/お知らせ/2011年3月10日/本日の一部報道について
イオン銀行/お知らせ/2011年9月23日/本日の一部報道について
預金保険機構/平成23年(2011年)9月30日/日本振興銀行の最終受皿の決定について
イオン銀行/お知らせ/2011年10月20日/第二日本承継銀行の株式取得に係る株式売買契約の締結について
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破綻したあとに発動する防御装置「ペイオフ」
銀行が破綻した場合、一定額の預金と利息は保護されるなど顧客保護を目的として発動する防御装置が「ペイオフ」です。
破綻してから発動するペイオフは、自分が当事者にでもならない限り、なかなか知ることができないので、ここで基礎知識をおさえておきましょう。
【ペイオフの基礎知識】
- ペイオフとは?
銀行が破綻した場合、預金保険で全額保護される預金については預金保険機構が直接支払う仕組みのこと。銀行は預金額に応じ保険料を預金保険機構に支払うことで「破綻したときに備え預金に保険を掛けている」とも言える。
- ペイオフの対象になる預金は?
預金者1人の預金:普通預金、定期預金、定期積金など(一部の金銭信託も)を合計して1,000万円の元本(元金)と利息が保護される(利息には計算方法、特例などもあり、必ずしも元本1,000万円とその利息がすべて保護されるとは限らない)。また上記とは別に「全額保護される預金」もある。
- 全額保護される預金もある?
決済性がある預金(小切手や約束手形用の当座預金などが該当)や、利息が付かない預金(無利息型預金など)といったように、特定の条件を備えた預金は、万一銀行が破綻した場合に、金額にかかわらず全額保護される。
- 元本1,000万円を超える預金はどうなる?
元本1,000万円を超過する預金は、破綻した銀行の財務状態などによりカットされる可能性がある(破綻した時点では全額返ってこないとか、逆に3分の2は大丈夫などすぐには決まらない)。また、もともとペイオフ対象外の預金(外貨預金など)は、上記のペイオフ預金には含まれないが、そもそも元本保証がないのでどうなるかわからない(破綻した銀行を引き受ける銀行:引受銀行に移るのが原則)。
- 保護された預金は、そのあとどうなるのか?
銀行が破綻すると、一時的に整理のため臨時的に設立された特別な銀行(承継銀行などと呼ぶ)に移るが、破綻処理が終わったあとは取引を引き継ぐことになる銀行(こちらは「引受銀行」などと呼ぶ)に取引が移動することになる。そのあとは引受銀行で取引を続けてもいいし、破綻処理の最中から引き受け後など解約することもできる。
【関連記事】>>固定金利を押し付けられないように注意!銀行員が選ぶ住宅ローンの金利タイプが「変動金利」
銀行が破綻した場合、住宅ローンはどうなるの?
ここからは、住宅ローンがどうなるか?を3つのポイントから解説します。
※なおここからお話しするのは、銀行が破綻した場合の基本的な対処法や、実際に破綻した銀行で発生した事例などを参考にしています。もしも実施に銀行が破綻した場合の対応などはケースバイケースなのでご注意ください。
1「ローン残額」はどうなる?
2「担保」はどうなる?
3「条件」はどうなる?
銀行が住宅ローン獲得のため、どこも低金利をアピールしていることはお分かりかと思います。そして前述した通り、住宅ローン金利は各銀行で自由に設定できるので、他行より低金利を打ち出そうと躍起になっているのが現状です。
銀行が破綻したら「ローン残額」はどうなる?
銀行が破綻しても住宅ローンには期限の利益があるので、一部の例外を除き住宅ローンはそのまま引受銀行に引き継がれます。「破綻したから全額返済して」と完済を迫られることはありません。
「期限の利益」とは、文字通り期限が来るまで確保されている利益という意味です。住宅ローンの場合には「通常通りの返済をしていれば、最終返済期限まで銀行から一括返済を迫られることはない」という利益があるのです。
住宅ローンも融資という契約なので、銀行との約束事などを決めた「規定書(ルールブックといった意味)」があります。こうした規定には「銀行が破綻したら一部あるいは全額返済することになっている」といった条項はありません。これは期限の利益があるからなのです。
ただし、通常通り返済ができていない場合は、話が違ってくる場合があります。冒頭「一部の例外を除き」とただし書きしたのはこのためです。
たとえば返済が長期間遅れている人のローンは、銀行破綻で他の人と同じように引受銀行が引き受けてくれない可能性もあるのです。
銀行が破綻すると、受け皿となる引受銀行では、引受対象の債権(住宅ローンや事業資金融資など)をすべて引き受ける義務はなく、引受銀行の判断で取捨選択することができます。
つまり「まともな融資(正常債権)は引き受けるけど、不良債権はいらないよ」と主張ができるのです。もちろんすべてが引受銀行の希望通りになるとは限りません。実際は、破綻銀行側や監督官庁なども含めて調整されます。
しかし、原則として不良債権や返済が遅れがちな融資は引受銀行が拒否して、債権回収会社(「サービサー」などと呼ばれます)などに譲渡されることもあるのです。
このような理由から、返済が遅れている住宅ローンは銀行破綻により、他の銀行ではなく回収会社に移されてしまう可能性もあるので注意が必要です。
銀行が破綻したら「担保」はどうなる?
「銀行が破綻すると、住宅ローンの担保になっている家もなくなっちゃうの?」これは、私の銀行窓口でお客様から出た質問です。
そして、このように私はお答えしました。
「銀行が破綻したからといって担保の自宅を取り上げられるようなことはないので大丈夫です。また仮に破綻したときもお客様の手続きなどは、あまりないはずです」
銀行が破綻しても通常通り返済していればローンはそのまま、と期限の利益で説明しました。ローンがそのままなので担保もそのまま引き継がれ、銀行破綻で家を失うようなことはありません。
また実際の流れは銀行側で担保の内容を変更するくらい(具体的には債権者・お金を貸している銀行の変更登記)です。このときに、場合によっては登記するための委任状や、登記を変更することについての「承諾書」などを書いてくれと郵便が来る程度で、ローンを借りている人はほとんど手続きすることはないと思われます。
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銀行の安全性もしっかり見ましょう
住宅ローンを借りた銀行が破綻してしまった場合、想像より大変なことは起こらないかもしれません。しかし、そうはいっても良いことよりも悪いことが発生する可能性のほうが高いように考えられます。そもそも銀行の破綻は、自分に関係なくとも、思わぬ影響を受けることだってあります。
それくらい銀行の選択が重要だということです。住宅ローンを検討する際は、借入利率やサービスだけでなく銀行の安全性、つまり「つぶれにくさ」も考えてみることをおすすめします。
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【調査概要】
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淡河範明さん
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