マンション価格の高騰で平均的な会社員の年収では購入が難しくなっているため、当面の負担を軽減できる、50年返済が可能な住宅ローンが注目されている。しかし、50年ローンにはデメリットも多いため、よく考えた上で利用するようにしたい。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
返済期間50年の住宅ローンが注目されている
一般的な住宅ローンの返済期間は35年が上限だが、最近では、返済期間が50年の住宅ローンが増えてきている。
もともと、一部の地方銀行で50年返済が可能なローンは実施されてきたが、地銀のローンは利用できる人が地元に限られており、金利などの条件も厳しかったため、さほど広まることはなかった。
また、住宅金融支援機構と民間提携のフラット35でも、50年返済が可能な「フラット50」が実施されているが、フラット35に比べて金利がやや高めで、対象が長期優良住宅に限られるなどの事情もあって、こちらもあまり広まってはいない。
そうした中、ネット銀行の住信SBIネット銀行が、50年返済が可能なローンの取り扱いを開始。ネット銀行であるため、金利が地方銀行よりも低い水準に設定されている上、エリアに関係なく全国で利用可能である点が、これまでにないインパクトを与え、50年ローンが改めて注目されるようになった。
50年ローンを利用するメリット
50年ローンが注目される理由として、毎月の返済額や返済負担率が減少するというメリットがある。具体的には以下の通りだ。
メリット① 家賃並みの返済負担でマンションが買える
50年ローンが可能になれば、35年ローンに比べて毎月の返済額が減少し、住宅が買いやすくなるように見える。
図表1にあるように、フラット35で5000万円を借り入れる場合、元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は16万3331円だが、50年返済が可能なフラット50なら、毎月返済額は13万8604円に減少する。
図表1 フラット35とフラット50の毎月返済額の比較(住宅金融支援機構)
設定条件:借入額5000万円、元利均等・ボーナス返済なし、金利は2023年12月現在
住信SBIネット銀行の変動金利型を利用すれば、もっと負担が軽減される。35年返済だと毎月12万5378円だが、50年返済では9万3030円と10万円を切る(図表2)。
図表2 35年ローンと50年ローンの毎月返済額の比較(住信SBIネット銀行)
設定条件:借入額5000万円、元利均等・ボーナス返済なし、金利は2023年12月現在
利便性の高いエリアの賃貸マンションに住んでいる人だと、これぐらいの家賃を負担している人が少なくないのではないだろうか。家賃並みの負担でマンションを購入できるのだから、注目度が高まっても当然のことだ。
メリット② 返済負担率が軽減されて審査に通りやすくなる
50年ローンの利用で毎月の負担が減れば、銀行のローン審査に通りやすくなるというメリットもある。
図表3にあるように、フラット35で5000万円借りると、毎月返済額は16万3331円で、年収600万円の人の返済負担率(年収に占める年間返済額の割合)は32.6%に達する。
図表3 フラット35とフラット50の返済負担率
設定条件:借入額5000万円、元利均等・ボーナス返済なし、金利は2023年12月現在
銀行の審査においては、年収400万円以上なら返済負担率は35%まで認められているから、審査に合格できる可能性は高いのだが、32.6%ならギリギリなので、勤務先や家族の条件などによっては、審査でダメだしが出る可能性がある。
それが、フラット50なら、毎月13万円8604円に減って、年収600万円でも返済負担率は27.7%に低下する。これなら、審査に合格する可能性がかなり高まるのではないだろうか。
ただ、近年はマンション価格が高騰しているので、5000万円のローンではすまないケースが増えている。
では、借入額を8000万円として試算してみよう。フラット35の条件で計算すると、年収600万円では返済負担率が52.3%、年収800万円でも39.2%に達して、まず審査に合格できないだろう。
そこで、50年返済が可能なフラット50にすると、返済負担率は年収600万円で44.4%、年収800万円で33.3%、年収1000万円で26.6%に低下する(図表4)。
図表4 フラット35とフラット50の返済負担率
設定条件:借入額8000万円、元利均等・ボーナス返済なし、金利は2023年12月現在
年収600万円では審査にひっかかるが、年収800万円以上なら合格する可能性が高まりそうだ。
50年ローンのデメリットをよく確認しておこう
こうした借りやすさがある半面、50年ローンにはさまざまなデメリットがある点を忘れてはならない。
結論を言ってしまえば、50年ローンの利用は考えずに、35年の範囲内で利用できるようにしたほうが絶対に安心。なぜなのか――。
デメリット① 総返済額は1500万円近くも増えてしまう!
第一に、先に触れたように50年ローンは35年ローンに比べると金利がやや高めに設定されている上、返済期間が長期化して、利息がかかる期間が長くなる。そのため、完済までの総返済額が圧倒的に多くなってしまう。
図表5にあるように、借入額5000万円の場合、フラット35なら完済までの総返済額は6860万円だが、フラット50だと8317万円に増える。35年返済に比べて、なんと1457万円、1500万円近くも返済負担が増加するのだ。
図表5 35年返済と50年返済の残高の変化と総返済額
設定条件:借入額5000万円、元利均等・ボーナス返済なし、金利は2023年12月現在
デメリット② 50年ローンは買い替えや売却が難しくなる
総返済額が増えるだけではない。返済期間を長くすると、その分、元金の減りが遅くなる。いつまでも多額のローンが残り、売却や買い替えなどのニーズが生じたとき、動きにくくなるという問題が発生する。これが50年ローンの第二のデメリットだ。
同じように5000万円借りたとしても、フラット35なら10年後には残高が3893万6000円と4000万円を切るが、フラット50だと4323万1000円と4400万円近く残ってしまう。
現在のように、マンション価格が上がっているうちはいいのだが、いつまでもそんな時代が続くとは限らない。中古マンション価格が頭打ちとなって、下落に転じた場合、10年後の売却可能価格が4000万円を切ることも十分に考えられる。
それでも、35年返済であれば、ギリギリ売却可能価格の範囲内だから、比較的スムーズに売却や買い替えができるはず。それが、50年返済では担保割れになってしまう。
そうなると、銀行は簡単に抵当権の抹消に協力してくれず、売るに売れない状態に陥り、売却や買い替えが難しくなってしまうだろう。
しかも、35年返済なら35年後には残高がゼロになるが、50年返済だとまだまだ残高が残り、40年後の残高は1354万6000円と、1400万円近くも残ってしまうのだ。
それでは精神衛生上にも好ましくないだろう。人生100年時代、老後資金として2000万円以上が必要といわれているが、いつまでも住宅ローンが残っていると、老後資金を蓄える余裕がなくなってしまう。
住宅ローンは35年返済までの範囲で、ゆとりある資金計画を
そもそも、住宅ローンには完済時の年齢が満80歳までという条件があるので、50年返済を利用できる人は、実質的に20代に限られる。これが第三のデメリットだ。
図表6にあるように、25歳なら50年返済でも74歳で完済できるが、30歳だと79歳になってしまう。70代で住宅ローンを返済するだけの収入を確保できるのかといえば、多くの人が難しくなるのではないだろうか。
図表6 借入時年齢別の返済可能期間
その意味でも、50年ローンの利用はできるだけ控えて、35年返済までの範囲内でゆとりある資金計画を組めるようにするのがいいわけだ。
返済期間を短くすれば、毎月返済額が増えるといっても早めに完済できるので、精神的なゆとりも生まれるのではないだろうか。
年配者なら親子リレーローンの活用も可能
同じような問題として、年配の人だと最長返済期間を利用できず、資金計画が難しくなることがある。たとえば、50歳の人だと、最長35年を利用できるローンでも、完済時年齢が満80歳までなので、35年返済は利用できず、29年返済までに限られる。
図表7にあるように、毎月返済額が増え、返済負担率からみた必要な年収が高くなり、年収によっては住宅ローンを利用できなかったり、借入額の減額を求められたりする可能性が高まる。
図表7 50歳以降の返済負担率別の必要年収
設定条件:借入額5000万円、元利均等・ボーナス返済なし、金利は2023年12月現在
そんなときには、子どもなどをローン返済の後継者に指名することで、「親子リレーローン」を利用できる。そうすれば、親の年齢にかかわらず、子どもの年齢で完済時の年齢条件をクリアできるようになり、親が50歳であっても、最長35年返済が可能になるのだ。
本来なら、50歳であれば29年までの返済期間の範囲内で資金計画を組めるようにするのが一番いいのだが、子どもの同意を得られるようであれば、35年返済を利用しても問題はないだろう。
ただし、その場合でも50年ローンの利用は考えもの。子どもに対して、いつまでも住宅ローンの返済を強いることになるからだ。やはり、住宅ローンは最長でも35年返済までにしておくのが無難ではないだろうか。
【関連記事】>>住宅ローン50年時代の正しい処方箋とは? 常に繰り上げ返済を意識すべきだ
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