住宅ローンの金利引き上げが近づいていると言われています。1月22~23日の日銀金融政策決定会合後に行われた植田和男総裁の記者会見からマイナス金利解除の予想をアップデートし、2024年のマイナス金利解除に伴う金利上昇リスクを回避する方法について解説します。(住宅ローン・不動産ブロガー 千日太郎)
※編集部注:2024年3月の日銀金融政策決定会合で、マイナス金利政策は解除されました。記事は解除前の状況に基づいて執筆しています。
前回記事「2024年の住宅ローン金利はどうなる?2023年の振り返りと今後の動向」
4月のマイナス金利解除観測が高まる
こんにちは、公認会計士の千日太郎です。2024年元日に発生した能登半島地震により利上げ観測が後退していましたが、1月22~23日の日銀金融政策決定会合では大方の予想どおり、大規模緩和政策の現状維持が決まりました。植田総裁は会合後の記者会見で、安定的な物価上昇の確度について昨年と同じ、「引き続き少しずつ高まってきている」とのコメントを繰り返しています。
大半のエコノミストが4月のマイナス金利政策の解除を予想しており、その政策金利の上昇ペースは緩やかなものになると予想していますが、さすがに2007年以来の17年ぶりの政策金利引き上げとなるため、債券市場(長期金利)への影響も警戒されています。
では、住宅ローン金利への影響を見ていきましょう。
※当記事の金利や情報は2024年1月23日時点のものを記載しております。最新の金利情報は、必ず金融機関等の公式サイトをご確認ください。
昨年12月会合後の記者会見からの変化
注目が集まったのは、植田総裁から政策正常化への地ならしのようなコメントがあるかという点だったのですが、昨年の「チャレンジング」発言がマイナス金利解除への意気込みと捉えられた反省もあってか、非常に慎重に言葉を選んでいるという印象を受けました。
マイナス金利政策を解除する条件としては安定的な2%の物価上昇率を達成することであり、その「確度」は「引き続き少しずつ高まってきている」というものです。そして、物価目標が見通せれば、マイナス金利を含む緩和策継続の是非を検討する。現時点で大きな「不連続性が発生する政策運営は避けられる」と言っています。
2024年4月に向けて「確度」が上がっていく
昨年との大きな違いは能登半島地震の甚大な被害です。植田総裁は、その経済的影響の全貌は完全にはつかめておらず、出口の判断にマイナスの影響がある可能性はあると言っています。しかしながら、物価目標の見通しの「確度」については昨年と同じく「引き続き少しずつ高まってきている」と述べているのですね。
つまり定量的にどこまでとは言えなくても、会合ごとにマイナス金利解除の可能性は高まってきているということだと考えてよいでしょう。
そのポイントは賃金と物価の好循環であり、賃金上昇率については具体的には春闘の結果ということになります。今後の日銀会合は3月18日・19日、4月25日・26日に予定されていますが、春闘の第1回回答集計は3月13日を予定しているため、3月の会合でも判断材料がそろう可能性があるのです。そして4月の会合では全ての回答が出そろいます。
現在のところ、4月のマイナス金利解除を予想するエコノミストが最多となっていますが、植田総裁は各会合でマイナス金利解除の判断を行う可能性があると述べています。3月の可能性も否定はできず、賃上げの情報が増えるにしたがってマイナス金利解除の可能性は高まっていくという状況にあります。
不連続性を避ける=金融緩和を続けながら利上げも続ける
もう一つ、ちょっとわかりにくい表現なのですが、大きな「不連続性が発生する政策運営は避けられる」という発言に注目しました。経済学者の植田総裁ですから、おそらく数学用語の「不連続性」である可能性があるのですが、言葉どおりに途中で切れていて続いていないことと捉えても差し支えないと思います。
この不連続性が発生する政策運営について質問され、植田総裁は「マイナス金利を解除したとしても、当面は緩和的な金融環境が続くことになる」と答えています。また、マイナス金利を解除した場合は解除後の連続的な利上げも視野に入れて判断するのか?という質問に対しては「それは当然、そういうことになると思う」と答えています。
つまり、長期金利がそれほど上がらないようにしながら、短期金利を徐々に上げていくという方式でマイナス金利解除を行う、つまりフェードアウトとフェードインで政策転換を図ろうとしているのではないでしょうか。
不連続性を避ける変動金利の上昇ペースは?
日銀がマイナス金利政策を解除すると、変動金利の基準金利も上昇する可能性が高いです。新たに住宅ローンを変動金利で借りる人だけでなく、すでに変動金利で借りている人の金利も上がります。つまり全体的にベースアップすることになります。
ただし、前述の流れでマイナス金利政策が解除されるならば変動金利への影響は軽微なものとなるでしょう。通常、各国の中央銀行が利上げを行う場合は1回の会合ごとの上昇幅は0.25%が多いですが、ブルームバーグがエコノミスト51人を対象に1月10日~15日に実施した調査によると、現在▲0.1%の政策金利から、新たな政策金利の水準に関する予想は「0%程度」が53%、「0~0.1%のレンジ」が41%となっています。参考:ブルームバーグ「日銀マイナス金利解除は4月予想へ収れん進む、1月が消滅-サーベイ」
ちなみに最後に日銀が利上げを行ったのは2007年ですが、当時の利上げ時期と利上げ幅は下記のようになっています。
【ITバブル時】
2000年8月:0%→0.25%
【リーマンショック前】
2006年7月:0%→0.25%
2007年2月:0.25%→0.5%
初回の利上げ幅が通常の利上げ幅の半分(0.1%)くらいで、米欧から周回遅れの利上げであることからペースも緩やかとなれば、変動金利への影響はかなり軽微なものでしょう。
固定金利はどうなる?
住宅ローンの変動金利の上昇幅は政策金利の上昇幅を抑えることで小さくできますが、固定金利については同じ予想は成立しません。
住宅ローンを固定金利で組む人にとっては長期金利がどこまで上がるかがポイントになります。長期金利はYCC(イールドカーブ・コントロール)政策で急激な上昇を抑えるという建前になっていますが、上限は撤廃されており1%をある程度超えることも容認するというものになっています。
この記事を書いている時点で長期金利は0.6%台ですが、日銀の利上げによって1%を超える水準まで急上昇する可能性もあるわけです。住宅ローンの固定金利は長期金利に連動するという建前になっていますので、たまたま日銀が利上げした月に住宅ローンの実行日が重なってしまうと割高な金利で住宅ローンを実行せざるを得なくなってしまうわけです。
民間銀行の住宅ローン金利は月初に公開され、その金利がその月に適用されることになっていますが、何があってもの途中でそれを変えないというルールはありません。長期金利の上昇が一時的なものであっても、その上がった月に住宅ローンを組む人は、その固定期間にわたって高い金利を払わなければならないのです。
金利上昇を避けるために固定金利を選んだはずが、住宅ローンの実行月に急激な金利上昇があった場合は変動金利で実行した方がマシという皮肉な結果になるのですね。
公的融資フラット35によるリスクヘッジ
意外かもしれませんが、全期間固定のフラット35によってリスクヘッジできるのです。
フラット35(買取型)は、独立行政法人である住宅金融支援機構が民間金融機関から住宅ローン債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて「機構債」という形で販売するという仕組みになっています。
【フラット35の資金の流れ】
機関投資家
↓機構債の代金
住宅金融支援機構
↓代金
窓口の銀行
↓貸付金
フラット35の借り手
この機構債はフラット35の融資を実行する前月の20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家は機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する建前となっています。つまり融資実行月の前月に実質的な住宅ローンの金利が決まるということです。
フラット35(買取型)の金利と長期金利の推移をグラフにしました。オレンジの折れ線は長期金利の推移であり、青の棒がその機構債の条件公開のタイミングで決まったフラット35(買取型)の金利です。
(機構債発表の日) | 10月金利 (2023年9月21日) |
11月金利 (2023年10月20日) |
12月金利 (2023年11月17日) |
1月金利 (2023年12月15日) |
2月 (2024年1月19日) |
---|---|---|---|---|---|
長期金利 | 0.72% | 0.84% | 0.79% | 0.67% | 0.64% |
機構債 | 1.08% | 1.18% | 1.11% | 1.05% | 1.00% |
フラット35 | 1.88% | 1.96% | 1.91% | 1.87% | 1.82%予想 |
2024年2月のフラット35の金利が決まる機構債の表面利率は前月の1月19日に発表されており、これに基づいて2月の金利は1.82%程度と予想できるわけです。もし2月に長期金利が急上昇したとしても、2月に適用されるフラット35の金利は1.82%にフィックスされるということです。
このように、フラット35の金利は前月の長期金利の水準によって前もって決まるというスキームであるため、日銀会合の利上げによって長期金利が急上昇するリスクをヘッジすることができるというわけです。
まとめ〜
3月、4月に実行予定ならば複数の審査を通すべし
ひとまず1月の会合ではマイナス金利解除が見送られましたが、次は3月会合そして4月が濃厚となっています。どちらでマイナス金利の解除が決まってもおかしくないという構えで臨む必要があります。
フラット35は公的融資であり、金利の急激な上昇時には政策的に住宅ローンの金利の上昇を緩やかにする傾向があります。さらに2024年2月の資金受取分から新しい金利引き下げ制度、子育てプラスがスタートします。金利引き下げの上限が年1%まで引き上げられており、子育て世帯はポイントの獲得によってさらに金利引き下げを得られます。
政策金利については日銀がマイナス金利を解除したとして、米国ほど急激に上げていくことはないと見ていますが、変動金利を選ぶということは、「金利が上がっても自分は返済を継続できるか?」「どの程度までならば許容できるのか?」といった判断を、市況を見ながら随時行うことが必要になってきます。
早い段階で一つの金利タイプ、一つの金融機関に決めてしまい、その後の情報収集を怠っていると、割高な金利で住宅ローンを借りざるを得なくなってしまいます。複数の金利タイプ、金融機関で審査を通しておき、住宅ローンの実行月まではしっかり情報収集するよう努めてください。
【関連記事はこちら】>>住宅ローンの金利上昇リスクにどう対応すべきか? リスクを軽減するコツも紹介
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淡河範明さん
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