日銀が、金融政策の転換にかじを切り、金利上昇への不安が高まる昨今です。今回は「銀行間で変動金利の引き上げ時に足並みをそろえることはあるのか?」という疑問に、金利上昇の兆候や銀行業界の内情を交えながら、銀行員がお答えします。(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員)
住宅ローン金利とは?どうなったら上がるのか?
金利上昇の銀行事情を述べる前に、金利がどのような仕組みで決定され、どうなったら上昇するのか、カンタンにおさらいしていきましょう。
そのほうが、後半の内容をより吸収しやすくなります。
変動金利の仕組みと金利が上昇する要因
変動金利では、以下のポイントを押さえておきましょう。
・変動金利は短期プライムレート(*)に連動する形式が多いが、ネット銀行など連動しない銀行もある
・短期プライムレートなどをもとにした「基準金利」があり、顧客はそこからマイナス○○%優遇された実際の金利(適用金利)で借りる
・基準金利に連動しているので、基準金利が上がれば引っ張られて自分の金利も上がり、下がれば自分の金利も下がる
(*)短期プライムレート:銀行が大企業などに対して行う1年以内・短期融資の最優遇金利のことで、市場金利に左右される。現在の短期プライムレート水準は1.875%、最高値は1990年12月の8.25%
固定金利の仕組みと特徴
固定金利のポイントは次の通りです。
・固定金利は長期金利(原則10年国債新規利回りなど)をもとに各銀行が2,3,5,10年あるいは最終回まで全期間の固定金利を決定し、毎月発表している
・自分に固定金利が適用されている間は、金利上昇の不安はない
・金利上昇リスクに過敏な人が固定金利を選んできたが、そういった人たちはこれから金利上昇に進めば「固定金利を選んでおいてよかった」と自分の選択に納得する。
・逆に金利が上がらず、今の低金利水準が続いた場合は「変動金利にしておけば、こんなに金利を払うこともなかったのに」と後悔するかもしれない
【参考】金融広報中央委員会「知るぽると」/金利タイプの種類 ― 新たに住宅ローンを借入れる ― 住宅購入資金 ~ローンの選び方、そのポイントとは?
【関連記事はこちら】>>銀行員が考える、住宅ローン金利引き上げシミュレーション! その時、顧客は選別される
銀行は足並みをそろえているのか?
ここからは、各銀行の金利を確認していきましょう。
金利比較で考える
現実には、銀行は金利で足並みをそろえているのでしょうか? それを一覧表で比べてみました。
<住宅ローン・変動金利の新規金利>
適用金利は公式サイトで表示される、手数料などを含まない表面金利(記事執筆2024/3/22現在・筆者調べ)
【結論】どの銀行も採算ギリギリだからほぼ横並び
表から見えるのは、銀行間でバラつきも地域格差もあるということです。
〈一覧表から見えてくる銀行の「足並み」〉
1. 採算度外視の低金利で積み上げを図るネット銀
2. 低金利グループ(都銀、一部地銀)
3. 採算重視で高い金利の地銀
メガバンクや地銀の一部では、金利競争から離脱している銀行もあります。たとえばメガバンクの中でも三井住友銀行だけ高水準になっていますし、みずほ銀行でも将来的に住宅ローンから撤退するといった情報もあります。また、地方銀行大手も高水準なのは、一部のメガバンクと同様に住宅ローン以外にビジネスチャンスを求めているということが背景にあります。
一方、金利にバラつきがあるとはいっても、実際にはそれほど大差はありません。
たとえば上表で最も金利が低い住信SBIネット銀行(0.298%)と、メガバンクで中位のみずほ銀行(0.375%)の差は0.077%です。
これを「借入3,000万円・35年返済」で比べた場合、以下のようになります。
住信SBI銀行(0.298%)
総返済額31,595,340円(うち利息1,595,340円)
みずほ銀行(0.375%)
総返済額32,016,180円(うち利息2,016,180円)
両者の利息差は420,840円となりますが、35年という長い年数の42万円であり、ほとんど差がない水準と言えます(たとえば両者で借り換えをしようとしても、借り換えの費用で金利差42万円を上回るので、メリットが生まれません)。
こうした点から、銀行は収支などを考えた「採算ラインのギリギリ」で適用金利を決めているので、示し合わせてはいないのに、結局は横並びになってしまうと言えるのです。
足並みはそろえていないのに、なぜ同じような金利になるのか?
採算面以外でも、結局同じような金利になってしまう理由としてもうひとつ、銀行業界の事情を少しだけお話しします。
示し合わせはしないが「情報交換」はあるかも
銀行の内輪話を一つ紹介します。
これは、後輩(私が勤務する銀行の経営中枢に近い優秀な人物)と住宅ローン金利について語り合ったときに聞いた話です。
〈以下、私(加藤)と後輩の会話から〉
後輩「いいえ、示し合わせることはありません。仮にそんなことがあれば、独占禁止法などに抵触するおそれもありますので、表立っても水面下でも金利を横並びにするような話し合いはありませんよ。同業として定期的な会合のようなものはありますが、あくまで情報交換などの場であって、銀行が一堂に集まって金利に関する会議をするようなことはないですよ」
加藤「でも、急激に高い金利を出すとか、その逆で超低金利を打ち出すなどの場合でも、銀行間で打ち合わせなどはしないの?」
後輩「はい、やはり打ち合わせなどはしません。これも、歩調を合わせるのはマズいからです。でも、変動金利で返済中のお客さまの金利が一斉に引き上げになるような事態では、もしかしたら、『どの銀行が先陣を切るか?』などの議論はあるかもしれませんね」
銀行業界では、大きな動き(新しい手数料の導入など)がある場合、まずメガバンクから始まって地方銀行、信金・信組が続くといった流れになるのが一般的です。
たとえば「未利用口座手数料(一定期間入出金の動きがなく残高も1万円未満などの口座は手数料がかかるようになった)」の導入では、やはりまずメガバンクから始まり、地銀や信金などがあとに続きました。また最近の話題としては、日銀の金利政策見直しを受けての普通預金金利の引き上げも、メガバンクから始まり、地銀などに波及していることでもわかります。
今後、変動金利の一斉引き上げなどが現実になった場合も、おそらくメガバンクが先に発表すると思われますが(個人的見解です)、その際はどこか特定の銀行だけに非難が集中しないようにするなど、「(横並びの)調整」はあるかもしれません。たとえば「変動金利の引き上げを、全金融機関で同日同時刻に一斉発表」といったシチュエーションも考えられます。先日、大手銀行は預金金利を引き上げましたが、ほぼ同時、一斉に引き上げました。
「ウチは他とは違う!」という銀行が出てくるかも
もう一つ考えられる可能性として、「よそはよそ、うちはうち」と独自路線の銀行も出てくることも考えられます。住宅ローンを重要なビジネスととらえている金融機関では、他が引き上げをしても、自社の金利は引き上げずに据え置くかもしれません。その結果「収益が悪化したとしても、それに見合うだけの新規ローンを獲得すればいい」という理屈もあるのです。したがって『当行は、変動金利は上げません!」といった戦略を持つ銀行も、もしかしたら出てくるかもしれません。
銀行員が考える「変動金利一斉引き上げ」の前兆
では今後、変動金利(ローン返済中の人)の引き上げがあるとしたら、事前に動きや兆候などはないのでしょうか? 過去の事例や銀行業界の慣習などからヒントを探ってみたいと思います。
前兆1.「論調」「世論」に注意
一斉の金利引き上げといった一大事では、おそらく政府も関与してくるでしょうし、あるいは事前にどこからか話が漏れて「住宅ローン変動金利引き上げのXデーは○月○日」などの記事が出始める可能性があります。そしてニュースや報道の論調も「金利は引き上げになる」という前提に立った内容が増えてくるでしょう。そうなると世論も「金利は上がるのか?」ではなく「いつ上がるのか?」に変わり、銀行の間でも金利引き上げが決定事項になってくるかもしれません。
前兆2.「○末」の日には注意
たとえば過去、銀行が破綻するときなどは、期末(3月末日)や月末、そして週末の金曜日(それも窓口が閉まった夕方5時頃に発表)に発表するケースが多く見られました。なぜなら、金曜の夕方の発表なら土、日は休業なので窓口対応をしなくていいし、いろいろと準備もできるから、ということが銀行業界では言われています。これは業界内の「あるある」で根拠などはないのですが、銀行破綻の発表が金曜日や月末だった例はあります。こういった点から、銀行員としては月末や週末などの「末日は報道に注目」するようにおすすめします。
【参考】預金保険機構/日本振興銀行の経営破綻と今後の業務等について(平成22年9月10日)*発表は金曜日
まとめ
今回は、金利引き上げで銀行が足並みをそろえるのか?という内容でお話ししてきました。
ですが、この記事を書いている現時点でも、私の勤務する銀行内部で金利引き上げの情報や指示事項などはありません。私自身、住宅ローンを変動金利で返済しているので人ごとではないのですが、もし金利引き上げが現実となったら、それを止めることはできません。ですから「金利は上がるのか?」という予想(あくまで予想というだけ)とか「金利が○%上がると返済額はいくら増える?」(シミュレーションすればだれでもわかりますが、ただそれだけです)といった記事や情報に一喜一憂しても、精神衛生上からは良くありません。
それなら、「どうせ金利が上がるんだから」と対策(引き上げに備えた貯蓄や借り換えの検討など)を考えたほうがいいと、銀行員の私は考えます。
【関連記事はこちら】>>「住宅ローン金利はいつ上がる?」「知らないうちに引き上げられる?」~気になる質問に銀行員が回答
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