「がん団信ってなに?」と聞かれたら、あなたはどう答えますか? 今、住宅ローンを利用している人なら、団体信用生命保険について基礎的なことはご存知だと思います。しかし「がん団信ってなに?」「がん団信って必要なの?」と考えると、答えは難しいと思います。そこで今回は住宅ローンと団体信用生命保険、特に「がん団信」について銀行員がわかりやすく解説します。(金融ライター・加藤隆二)
がん団信、団体信用生命保険の基本を説明
まず「がん団信」と[団体信用生命保険(団信)」を、併せて解説します。
そもそも「団信」とは
団体信用生命保険とは、銀行やフラット35などの住宅ローン融資を受けている人(債務者)を被保険者とする保険契約のことです。
住宅ローンを利用している人が「死亡」または「所定の高度障害の状態(※)」になったとき、保険会社がローンの残額を支払い、銀行がローンを完済する仕組みで、「残された家族がローンを背負わなくていい」という保険です。
※所定の高度障害の状態:ケガや病気が原因で、身体の機能がいちじるしく低下した状態のことで「中枢神経系統や内臓に障害が残り、終身にわたり介護が必要になる状態」などいくつかのケースがあり、団体信用生命保険の取り扱い保険会社によって内容が異なる。出典:「住宅金融支援機構・フラット35/団体信用生命保険」
一般的な生命保険と違うのは、保険契約者であり保険料を支払うのは銀行などの金融機関で、被保険者である住宅ローン利用者が死亡した場合に、保険金を受け取るのも金融機関という点です。保険金を受け取ると、死亡時のローン残額と同じ金額の保険金が支払われ、即座に住宅ローンが完済されるので金融機関が保険金をもらえるわけではありません。
また「保険料を支払うのは銀行」と書きましたが、銀行は住宅ローンで利用者から受け取る利息から保険料相当分をまとめて、生命保険会社に保険料として支払います。ここから「団体」という名前がつくのですが、保険料のもとになるのはローン利息なので、結局ローン利用者は自分で団信の保険料を払っていることになるのです。とはいえローン利用者に万一のことが起きたときに、残された家族が住宅ローンの返済に追われずに済む、安心できる仕組みと言えます。
一般的な団信と「付加価値型団信」
住宅ローンの団体信用生命保険は「一般的な団信」と、「2つの付加価値型団信」の合計3種類に分類されます。
付加価値型団信とは、特定の疾病に特化しているなど、一般的な団信に比べメリット(付加価値)がプラスされた団信のことです。別名「ハイブリッド団信、特定団信」などとも呼ばれ、がん団信も付加価値型団信の1つです(がん団信については後半で詳しく触れます)。
<一般的な団信と2つの「付加価値型団信」>
- 1. 団体信用生命保険
一般的な団体信用生命保険 団信といえばこちらを意味する。
死亡または高度障害になった場合に保険金でローンが完済できる。 - 2. 付加価値型団信①「疾病保障特約付き団信」
「がん団信」「3大疾病」「8大疾病」など特定の疾病(病気にかかるという意味)に特化するタイプの団信。
一般的な団信は、死亡または高度障害にならないと保険金が支払われないが、疾病保障特約付き団信では指定された疾病と診断された時点、あるいは一定期間の療養が必要で仕事ができない状態(就業不能状態)が続くと、保険金が支払われるのが最大の特徴。
3大疾病は「がん・心疾患(心筋梗塞)・脳血管疾患(脳卒中)」の組み合わせ。
8大疾病は上記した3つの疾病に「高血圧症・糖尿病・慢性腎不全・肝硬変・慢性膵(すい)炎」を加えたものが一般的(※2)。
また、団体信用生命保険は、保険を取り扱う生命保険会社(引受保険会社、幹事保険会社などと呼ぶ)によって指定の疾病や保険支払い条件が異なるので、金融機関がどの保険会社と提携しているかによって団信の内容も変わってくる 。 - 3. 付加価値型団信②「ワイド団信」
過去に大きな病気をした人でも加入できるように、条件が緩和されている団信で、「引受条件緩和型団信」とも呼ばれる(※3)。
緩和された条件や、保険の内容もさまざまで、病歴がある人がすべて加入できるわけではない。
※2 りそな銀行「3大疾病保障特約付団信とは?」 横浜銀行「8大疾病保障特約付き団体信用生命保険」
※3 三菱UFJ銀行「ワイド団信」
そして重要なのは、付加価値型団信は一般的な団信より金利が高いという点です。
「がん団信のように特定の疾病に特化したり、ワイド団信のように加入条件が緩和されていたりなど、特典がある分、金利が上乗せされる。つまり、金利と引き換えに付加価値を手に入れる」とも言えます。
がん団信を詳しく知ろう!
一般に「がん団信」と呼ばれるのは「がん」に特化した団信のことで、一般的な団信にがん疾病に関する特約条項(付加価値)をプラスしているものです。
がん団信の特徴は以下の通りです。
<がん団信の特徴>
- ●「がんと診断」されたら住宅ローン残額の保険金が支払われ、住宅ローンの残高が無くなる
- ●保険金以外に一時金として給付金を受け取れる場合もある
- ●高度な先進医療などの治療用としてさらに一定額(通算で1000万円までなど)を受け取れる先進医療が付帯するがん団信もある
- ●がん団信の申し込み(告知)では、今までがんになったことがない、というのが大前提
- ●がん団信に加入できても住宅ローンを借りた実行日(責任開始日と呼ぶ)から90日以内でがんになってしまうと、保険の対象にならない場合がある
- ●がんと診断されたら住宅ローン残高の半分だけ保証するタイプのがん団信もある(がん団信50などと呼ばれ、100%保証するタイプはがん団信100とも)
- ●がん団信の金利上乗せは「がん50%保障団信」が金利+0.1%程度。「がん100%保障団信」が金利+0.2%程度が相場
- ●最近は、がん団信50ならば「金利上乗せなし」という金融機関が増えている。ただし、保証内容はがん団信100タイプに比べると、限定的
【関連記事】>>「団体信用生命保険」徹底比較!住宅ローンでおすすめの団信は?
がん団信を付けるべきか?~銀行員はこう考えます
がん団信を付けるべきか? それは、その人のライフスタイルやお金に対する考え方で変わってきますが、銀行員の私はこう考えます。
がん団信は、いくらなのか?
一般的な生命保険と比べて、保険の内容や金利上乗せなどを考えたうえで、がんに備えたいなら「がん団信」を付けるという選択肢もあると思います。
ちなみに金利上乗せですが、たとえば0.1%の金利上乗せがどのくらいの差になるか? ここで考えてみましょう。
※前提条件:借入額3,000万円、35年返済、変動金利、元利均等返済
<がん団信の値段は? 返済額から試算>
毎月返済額 | 総返済額 | |
---|---|---|
①一般的な団信 (金利0.4%) |
76,557円 | 32,153,754円 |
②がん団信付き (金利0.5%) |
77,875円 (+1,318円) |
32,707,560円 (+553,806円) |
*筆者が試算 |
①一般的な団信で金利上乗せなし(金利は年0.4%)
②がん団信付きで金利上乗せ0.1%(金利は年0.5%)
以上の住宅ローンを比べると、がん団信を付けた場合の毎月返済額は1,318円多くなります。自分のローンに置き換えた場合に、毎月の増加額を計算して検討するのもよいでしょう。
たとえば私自身、民間の生命保険会社で「がん保険」に加入しています。その保障内容は、「がんと診断されたら数百万円の一時金、その後は入院日額1万円、先進医療を数千万円まで保障してくれる」といった具合です。がんの治療には安心して専念できる内容だと感じています。
一方で、例示した住宅ローンでがん団信に加入していたなら、がんと診断されたら最大3,000万円の住宅ローンが保険金で完済できるのですから「がんになったら3,000万円の保険金を受け取れる(ただしローン完済に充当されるので手元には来ませんが)」という解釈も行き過ぎではないと思います。
私は銀行員であって、保険の販売員ではありませんが「月1,300円程度のお金で、がんになったら住宅ローンがチャラになる保障が手に入る」と考えられる人なら、がん団信はおすすめできます。
私自身、住宅ローンを申し込むときにはまだがん団信というものがなかったのですが、もしあったなら真剣に検討して、おそらく、がん団信を選んだと思います。
【参考】がんに関する公的データ
ここで最新の公的統計資料から、がんに関するデータを紹介します。
- ●2021年にがんで死亡した人は381,505人(男性222,467人、女性159,038人)
- ●がんと診断されたあと5年間の生存率は男女計で64.1 %
- ●一生のうち、がんと診断される確率は男性65.5%、女性51.2%
以上のように、生涯で見れば「2人に1人はがんになる」ものですし、いったんがんと診断されれば、5年間の生存率は 64.1%しかありません。
また、下表を見ると分かりますが、「60代以降はがんになる確率が上昇する」ことが分かります。
個人的には、やはりがんに対する保障としてがん団信を考えるべきですし、それもまだ若いうちに決断するほうがいいと強く感じます。
<全がんに対する罹患率(年齢帯ごと)>※2019年
男 | 女 | |
---|---|---|
40-44歳 | 0.2% | 0.5% |
45-49歳 | 0.3% | 0.5% |
50-54歳 | 0.6% | 0.6% |
55-59歳 | 1.2% | 0.8% |
60-64歳 | 2.2% | 1.3% |
65-69歳 | 2.6% | 1.3% |
※参考「国立研究開発法人国立がん研究センター/最新がん統計」 |
金利交渉ができるなら付けてよいかも
上記したように、金利上乗せによる増加額はものすごく大きな金額ではないと思われます。とはいえ金利上乗せはイヤだと考えているなら、金利の交渉をしてみるのも一つの手です。住宅ローンを複数の銀行に相談中なら、金利だけでなく団信も比較してみることは大事なので「がん団信の金利0.1%上乗せをなしにしてくれたら、こちらの銀行で借りますよ」と交渉できる余地があるなら、うまくいけば金利上乗せなしでがん団信を付けることも可能になります。
ただしこういったハードネゴシエーション的な金利交渉は、やはり信金や地銀といった顧客密着度の高い金融機関の場合なら可能かもしれません。規模の大きなメガバンクや、そもそもリアルな店舗がないネット銀行では、こうした金利交渉自体が想定できないと思われます。
がん団信の注意点とは?
なお、がん団信を考えるうえで注意すべきこともあります。
まず、がん団信やそのほかの付加価値型団信も同様ですが、一度住宅ローンを借りて一般的な団信に加入してしまったら、あとからがん団信に変えられない場合があります。したがって、最初にしっかりと団信を選ぶ必要があるのです(*途中で変更できるケースも一部であります)。
また、住宅ローンの申し込みでは、融資申し込みや金利に意識がいきがちで、団信はどちらかと言えば優先順位が低くなる傾向にあります。また融資契約のときになり、はじめて団信を考えるお客様も多く(ここは銀行員の姿勢も考えるべきですが)、ただなんとなく言われるまま団信を選んでしまう人もいるのです。
しかし、借金だけでなく自分の命と家族の将来のことも考える時間的、精神的余裕を持ちたいもので、住宅ローンと並行して団信についてもしっかり説明してくれる銀行となら、将来も安心して付き合っていけると思います。
まとめ〜がん団信はおすすめ
今回はがん団信についての説明と、がん団信を付けるべきか?考えるヒントについてお話ししてきました。
銀行員として私の意見を申し上げるなら「がん団信は付けられるなら付けるべきである」と考えています。
なぜなら、がん団信は一般的な団信と同じ保障に、がんの特約が付くものであり、毎月返済額の差を考えてもがんになった時に住宅ローンをカバーしてくれるがん保険は他にまずないと思うからです。もちろん一般的ながん保険もがんに対する保障という点では優れているので、こちらを一緒に検討するのもおすすめです。
私も住宅ローンを借りていますが、私の時代にはがん団信がなく一般的な団体信用生命保険に加入するしかなかったのですが、もしやり直せるなら、私ならがん団信を付けたいと思います。
この記事が、皆さんの参考になれば幸いです。
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