住宅ローン金利が上がれば、返済負担が増えて借入可能額や購入可能額が減ったり、購入意欲が減退したりしかねない。そのため、デベロッパーは住宅価格を引き下げざるを得ないのではないか? 今後の金利と住宅価格の関係をシミュレーションしてみた。(住宅ジャーナリスト・山下和之)
住宅ローン金利が上がると分譲住宅の価格が下がる?!
2024年3月、日本銀行が長く続いたマイナス金利政策を解除して、17年ぶりに金利の引き上げを実施した。これによって、これまで超低金利が続いてきた変動金利型の住宅ローン金利も上昇する可能性が高くなっている。
2024年6月現在、まだ本格的な上昇には至っていないが、夏から秋にかけて住宅ローン金利の上昇は避けられないという見方が強い。
住宅ローン金利が上がると、住宅市場にはどのような影響があるのだろうか・・・。
金利が上がると分譲住宅の供給数が減少する
三菱UFJ信託銀行が、マンションなどの分譲住宅デベロッパーを対象に「金利上昇で供給動向にどんな変化が起こりそうなのか」について調査を行っている。
その結果は図表1にあるように、住宅ローン金利が0.5%上がった場合、「供給戸数が減少する」の割合が77%と、8割近くに達している。
図表1 住宅ローン金利が0.5%上昇した場合に想定する供給戸数への影響(単位:%)
金利が上がればローン負担が増え、マイホームの購買力が低下し、分譲住宅が売れなくなるため、販売戸数を減らさざるを得ないのではないか、とするデベロッパーが大半というわけだ。
7割以上のデベロッパーが住宅価格が下がると示唆
購買力が低下し、供給数が減少すれば、価格の引き下げによって何とかして購入意欲を引き出そうとする動きが出てくるのではないだろうか。
そこで、同じく「金利が0.5%上がった場合に販売価格がどうなりそうか」の調査結果が図表2だ。
図表2.住宅ローン金利が0.5%上昇した場合に想定する販売価格への影響(単位:%)
これによると、7割以上のデベロッパーが「販売価格が下落する」と答えている。実際にそうなれば、消費者にとって金利上昇はそう悪いことばかりではないのではないかという気もしてくる。
金利上昇と住宅価格の関係をシミュレーション
実際のところ、金利と住宅価格との関係で購買力がどうなりそうなのか、金利上昇、価格下落の両面から返済負担の変化をシミュレーションしてみよう。
金利1.0ポイントのアップで、2割近い返済負担増に
まずは、金利上昇が返済負担に与える影響を試算した結果が図表3だ。
図表3 金利上昇が返済負担に与える影響の試算
設定条件:借入額5000万円、35年元利均等、ボーナス返済なし
上表にあるように、変動金利型の住宅ローンを金利0.2%で利用できる場合、借入額5000万円当たりの毎月返済額は12万3272円。これが、0.2ポイント上がって0.4%に上昇すると12万7595円に増えて、3.5%の増額になる。
1.0ポイントのアップで1.2%になると18.3%の増額で、14万5851円に増える。月額2万円以上も負担が重くなってしまうので、年収などの条件によっては、とても返済が難しいという人も出てくるのではないだろうか。
住宅ローン金利の上昇がマイホームの購入意欲を減退させ、住宅価格の低下をもたらすのではないかという見方もあり得ない話ではないだろう。
借入額が2割減少すれば、返済負担も2割減少
そこで、図表4では金利上昇によって住宅価格が下がると、どれくらい負担が軽くなるのかを見てみよう。
図表4 借入額と返済負担の増減率
設定条件:金利0.2%、35年元利均等・ボーナス返済なし
上表にあるように、5000万円の借入額が必要だったのが、住宅価格の低下によって4800万円の借入れで済むようになると、毎月返済額は12万3272円から11万8341円に、4.0%の減額になる。
さらに、5000万から1000万円下がって4000万円の借入で済むようになると、9万8618円と10万円を切って、5000万円の借入れに比べて20.0%の負担軽減になる。
金利が0.2%のままで住宅価格が1000万円下がれば、購入意欲が高まるのは間違いないだろう。
しかし、価格の下落はあくまでも住宅ローン金利の上昇が前提になっているので、下落した価格だけを見て喜んでいるわけにはいかない。
金利が1.2%まで上昇しても、借入額4200万円なら負担軽減
そこで、金利上昇と住宅価格下落の双方を考慮して試算すると図表5のようになる。
図表5 金利と借入額ごとの返済額を試算
借入額5000万円、金利0.2%の場合の毎月返済額12万3272円をベースにすると、12万円台前半の返済額ですむのは赤字で示した範囲になる。
金利:0.2%→0.4%(+0.2)
借入額:5000万円→4800万円(▲200万円)
返済額:12万2491円(▲781円)
金利:0.2%→0.6%(+0.4)
借入額:5000万円→4600万円(▲400万円)
返済額:12万1453円(▲1819円)
金利:0.2%→0.8%(+0.6)
借入額:5000万円→4400万円(▲600万円)
返済額:12万146円(▲3126円)
金利:0.2%→1.2%(+1.0)
借入額:5000万円→4200万円(▲800万円)
返済額:12万2514円(▲758万円)
金利が1.0ポイント上がって1.2%になったときに、返済額が12万円台の前半ですむには、借入額が4200万円になればいいわけで、金利が1.0ポイント上昇しても、借入額が800万円以上減少すれば、0.2%、5000万円の場合の返済額より負担は軽くてすむ。
新築住宅はコストアップ要因に満ちている
実際のところどうなるのか。冒頭の三菱UFJ信託銀行の調査のように、金利上昇が価格の低下につながるのだろうかといえば、新築住宅についてはかなり疑問符がつくのではないだろうか。
新築の分譲住宅は、①土地の仕入れ値、②建築費、③分譲会社の利益・経費などで構成されるが、その①~③のいずれもが大きく上昇しており、デベロッパーとしては、簡単に価格を引き下げられる環境にはない。
図表6は、マンションなどの鉄筋コンクリート造の工事原価の推移を示しており、このところ右肩上がりの上昇が続いているのがわかる。
図表6 鉄筋コンクリート造の建築工事原価指数(2015年=100)
また、地価の上昇も続いている(図表7)。マンション適地とされる土地については、競争入札が当たり前になっていて、従来の相場の1.5倍、2.0倍の入れ札でないと落札できなくなっているといわれる。
かといって、ゼネコンに対して安値での受注を要請すると、オフィスに比べて利益率の低いマンションの発注を受けてくれなくなる。
図表7 首都圏と東京都区部の住宅地価指数(2000年1月=100)
③の分譲会社の経費・利益に関しても、働き方改革や賃上げの動きが強まっており、その点も新築住宅の価格の押し上げ要因になっている。
金利が上がっても新築住宅の価格は下がらない可能性も
以上の点から、新築住宅は金利にかかわらず、価格の上昇が続くのではないかという見方もある。
つまり、金利だけが上がって、分譲価格は下がらず、負担が重くなるといった事態も十分に想定されるわけだ。
そうなると、新築住宅ではなく、割安感のある中古住宅に目を向けるなどの発想の転換が必要になってくるかもしれない。中古住宅なら需給のバランスで価格が決まるので、新築に比べて価格低下の可能性は高いだろう。
そうした点も含めて、2024年夏から秋にかけての住宅市場は大きなターニングポイントを迎えることになるのかもしれない。
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