日銀は7月の金融政策決定会合で追加利上げを決定し、住宅ローンの変動金利も上昇します。「金利のある世界」への準備として、今後の住宅ローンの動向や変動金利の5年ルールが適用される場合の返済額をシミュレーションしてみます。(住宅ローン・不動産ブロガー 千日太郎)
日銀が7月会合で追加利上げを決定し、「金利のある世界」へ
こんにちは、公認会計士の千日太郎です。日銀が7月30日〜31日の金融政策決定会合で0.15ポイントの追加利上げを決定し、政策金利を0.25%程度に引き上げ、「金利のある世界」へ突入します。
これを受けて、メガバンクを筆頭に、主要銀行が相次ぎ9月からの短期プライムレート(短プラ)を0.15ポイント上げることを決めています。
住宅ローンの変動金利の店頭基準金利は短プラに連動するため、変動金利で住宅ローンを借りている人の金利負担が増えることになります。
図表1 日本の政策金利と短期プライムレートの推移
6月会合から利上げに前のめりだった
7月会合後の植田総裁の記者会見では、「今後、物価が制御できないほど高騰したときに、急激な連続利上げを余儀なくされることのないよう、前もって利上げを行った」と説明していました。
つまり、日銀としてもこれが想定よりも早期の利上げであることを認めています。
同時に発表された経済・物価情勢の展望によると、2024年度の実質経済成長の見通しは0.5~0.7%と、4月時点の0.7~1.0%より下方修正されており、消費者物価(除く生鮮食品)は2.5~2.6%と、4月時点の2.6~3.0%より下方修正されています。
データを見る限り、植田総裁の言う「物価の上振れリスク」はないように見えますね。
また、8月5日に公開された6月会合の議事要旨によると、先行きの金融政策運営について次のように記されています。
経済・物価見通しが上振れたり、見通しを巡る上振れリスクが高まったりする場合も、利上げの理由となるとの認識を共有した。
別の一人の委員は、物価について、来年度後半の2%の「物価安定の目標」の実現に向けて想定通り推移しているが、上振れリスクも出てきているとの見解を示した。
出所:日本銀行「2024.8.5 政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨」
主だった委員が以前から物価の上振れリスクを警戒し、利上げに対して前のめりだったことがうかがえます。
7月の早期利上げについては、データの裏付けを待たず、そのまま決が採られたという感は否めません。
政策金利はさらに上がる可能性も
また、植田総裁の会見では記者から
「日本の政策金利は過去30年で0.5%を超えたことがない。0.5%以上の利上げを判断する材料としては、現状と比べてさらに追加で必要な材料があるのか」
との質問に対して、次のように答えています。
「今回、物価見通し、経済見通しもですけれども、ほとんど変更していないわけですが、引き続き金利を上げていくという考えでおります。その際に 0.5%は壁として意識されるかというご質問だったと思いますが、そこは特に意識しておりません」
つまり、今の見通しのままでも引き続き金利を上げていくし、0.5%を超えることもあるということです。
メガバンク3行は9月から短プラを1.625%に引き上げ
おそらく、「引き続き金利を上げていく」という発言を受けて、メガバンク3行(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)は、普通預金の金利引き上げを決定。
三菱UFJ銀行は、9月から短期プライムレート(短プラ)を0.15ポイント引き上げ、1.625%にすると発表しました。つまり、横並びで変動金利が上がることを意味します。
「0.5%を超えることもある」という発言は市場に大きな衝撃となって、円高と株安が進みました。
8月5日の為替は1ドル=142円台、日経平均の終値は前週末比4,451円28銭安の31,458円42銭。下げ幅としては、1987年10月のニューヨーク株式市場の大暴落、ブラックマンデー翌日に付けた3,836円48銭をはるかに超えるものであり、史上最大であったことが報じられています(なお翌6日の日経平均は反発し急騰しました)。
このまま日本が景気後退期に逆戻りし、日銀のさらなる利上げは頓挫する可能性もあるでしょう。
短期的には住宅ローンの金利を下げる銀行も出てくる
目下の円高と景気の先行き懸念から、投資家のリスク回避姿勢が一段と強まっており、債券を買う動きから長期金利も0.8%台まで急降下。「金利のある世界」への過渡期に、前倒しで利上げを断行した副作用が出ています。
また、ゼロ金利時代の感覚を色濃く残した状態での利上げであるため、銀行によってはその対応に差が出る可能性があります。
銀行業では預金業務で預かったお金を融資業務で貸し出す、その利ザヤが銀行業の利益の源泉です。リスク回避で安全資産への回帰は銀行にとって預金を獲得するチャンスでもあるわけです。
変動金利を上げない銀行も出てくる
住宅ローンの変動金利の店頭基準金利は短プラに連動しており、その基準金利から値引きにあたる「引き下げ幅」が適用されて金利が決まります。
基準金利を0.15ポイント上げて、それと同じ0.15ポイント引き下げ幅を増やせば適用金利はそのままということです。
住宅ローンの新規利用者から預金を獲得したい銀行は、短プラを上げつつ、上記の方法を使って変動金利を低いままに抑える可能性もあります。
なお、現在返済中の人は0.15%金利が上昇することになります。
【関連記事】>>住宅ローン金利の引き上げを自分だけ回避する方法! 銀行のマニュアルに記された「金利を据え置きにしてもよい顧客」とは?
固定金利を下げる銀行も出てくる
また、変動金利が横並びで上がるタイミングには、固定金利への借り換えニーズが高まるタイミングでもあります。
変動金利の水準が上がれば、固定金利も同様に上がることになるのですが、まだゼロ金利時代の感覚を引きずった低金利ではあるのです。
こうした「変動金利から固定金利に乗り換えたい住宅ローン利用者」の受け皿となるため固定金利を下げる銀行が出てくる可能性があるのです。
「金利のある世界」で変動金利5年ルールのツケを払えるか?
ただし、変動金利で借りている人が一つのシナリオとして持っておくべきなのは、この株安が一時的なもので、日本が再び景気後退期に入らず、日銀が0.5%の壁を超えて利上げを継続する可能性です。
植田総裁は記者会見で変動金利の5年ルールに触れ、「5年間賃金が先に上がっていって、その後、利払い額が上がるということで負担もかなり大きく軽減されるというふうに認識しています」と述べています。
変動金利上昇による毎月返済増のシミュレーション
では、どのくらい賃金が上がっていれば家計に影響しないと言えるのでしょうか? 5年ルールあり・なしのケースでシミュレーションしてみましょう。
2024年8月に5000万円を35年元利均等返済、ボーナス払いなし、0.3%の変動金利で借り入れ。変動金利の上昇ペースは、2024年9月に0.15%上昇した後、2024年12月に0.25%、2025年6月に0.25%、2025年12月に0.25%上昇し、止まるとしています。その結果が図表2、3です。
図表2 5年ルールの有無で金利上昇時の返済額をシミュレーションした推移
図表3 5年ルールの有無で金利上昇時の返済額をシミュレーション
5年ルールがない場合は、金利が上がると毎月返済額も上がっていくのですが、5年ルールがある場合は、5年間にわたり毎月返済額を据え置くため、5年間のツケを後払いすることになります。
そのため、金利が上がったときの毎月返済額は5年ルールがある場合の方が高くなります。
5年ルールがある場合は、金利が上がってから5年経過したときに、どれだけ毎月返済額が上がるのかを把握して、自分の給料から払えるのかを確認しておく必要があるのです。
5年ルールの支払い増に耐えうる収入増のシミュレーション
千日太郎が著書やYouTubeで「無理なく返済できる住宅ローンの金額の目安」として推奨しているのが、ボーナス払いなしの毎月返済額を手取り月収の4割以下に抑えることです。
そこで、利上げ前の毎月返済額と5年ルールで支払い額が上がった後の毎月返済額をこのルールに当てはめてみました。
図表4 5年ルールの支払い増に耐えうる収入増のシミュレーション
借入額5000万円、35年元利均等返済、ボーナス払いなし、変動金利0.3%
図表4の通り、現時点で月の手取りが313,555円の人にとって無理なく返済を継続できる住宅ローンの支払いが125,422円です。
5年後に支払いが149,007円に上がったときに、手取り月収が372,518円に上がっていれば、今と同じ感覚で支払いを継続できるということになります。
2024年の春闘では、33年ぶりに5%超の賃上げとなったことが報じられていますが、仮にこのペースが維持されれば、4年目で上記の月収を達成する計算です。
もし、5年後の収入がこの目標額を下回ったとしても、たちまち住宅ローンを払えなくなってしまうとは限りません。ただし、下回った分だけ相対的に住宅ローンの負担が重くなるということになります。
「金利のある世界」への過渡期では、複数の金利タイプで審査を通しておく
7月の追加利上げについては、3月のマイナス金利解除と違って市場との対話がうまくいっていないようですね。
0.5%を壁として意識しないという日銀総裁の発言が引き金となったのか、米国の利下げ局面、景気後退懸念と重なって記録的な株安を引き起こしました。これにより、日銀の利上げは早い段階でストップする可能性もあります。
ならば、変動金利が得なのかというと、そうとは言い切れないでしょう。
住宅ローンの返済期間は、一般的な最長借入期間35年と長きにわたります。変動金利を選ぶということは、
「金利が上がっても自分は返済を継続できるか?」
「どの程度の上昇までならば許容できるのか?」
こうした判断を、市況を見ながら随時行うことが必要になってきます。
今は「金利のある世界」への過渡期にあって、金融機関によって住宅ローンの対応に差が見られるタイミングです。
早い段階で一つの金利タイプ、一つの金融機関に決めてしまい、その後の情報収集を怠っていると、割高な金利で住宅ローンを借りることになるかもしれません。
民間と公的融資、変動と固定など、複数の金利タイプ、金融機関で審査を通しておき、住宅ローンの実行月まではしっかり情報収集するよう努めてください。
【関連記事】>>住宅ローンの10年後の変動金利は1.2%〜2.6%まで上昇と予想! 12銀行を試算
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