住宅の取得費用は高額であるため、両親や祖父母などから資金を援助してもらう人は意外に多い。そこで住宅取得資金に対する贈与税について解説しよう。特に注目なのは、2019年4月から非課税枠が拡大する「住宅取得資金贈与の特例」だ。(住宅・不動産ライター 椎名前太)
贈与を受けた人の平均額は1145万円!
住宅に関する調査・研究などを行っている住宅生産団体連合会の顧客実態調査(2017年)によると、土地と建物を合わせた取得費の平均額は4889万円だった。
この金額を多くの人は、自己資金と住宅ローンを利用して捻出する。それでもすべて自前で用意するのは難しい、という人もいるだろう。そのような場合は、親などから援助してもらうという手もある。実際にそうするケースは少なくなく、同調査で「贈与あり」と回答した人は18%いた。その平均額は1145万円。家を購入する人の約5人に1人は1000万円前後の贈与を受けているのだ。
しかしながら贈与には贈与税がかかる。せっかく住宅取得資金を援助してもらったのに、その多くが納税にまわってしまったら、肝心の住宅が買えなくなってしまう。そのため住宅取得資金に対する贈与に関しては、以下の3つの制度を組み合わせて納税額を軽減する方法がある。その内容を紹介していこう。
(1)住宅取得資金贈与の特例
(2)暦年贈与
(3)相続時精算課税制度
(1)住宅取得資金贈与の特例とは?
高額な住宅を取得するための贈与に関しては、贈与税を軽減する制度が設けられている。それが「住宅取得資金贈与の特例」だ。これは2019年10月に予定されている消費税10%への増税に向けた消費拡大策で、一時的に特例枠(非課税枠)を拡大する。
住宅取得資金贈与の特例は、直系尊属(直系尊属とは両親や祖父母のこと)からの住宅取得資金の贈与を受けた場合に限り、一定額を非課税とするもの。ただし、自分が住むための家を新築したり、取得・購入したり、さらには増改築も含まれる。
それが2019年4月より以下のように大幅に非課税枠が拡大する。
住宅取得資金贈与の特例枠(非課税枠) | ||
---|---|---|
時期 | 省エネ等住宅の 非課税枠 |
左記以外の住宅の 非課税枠 |
~2019年3月31日 | 1200万円 | 700万円 |
~2020年3月31日 | 3000万円 | 2500万円 |
~2021年3月31日 | 1500万円 | 1000万円 |
~2021年12月31日 | 1200万円 | 700万円 |
これだけ枠が拡大するのであれば、2019年4月以降に住宅を購入すればいいと考える人もいるだろうが、もちろんそう簡単な話ではない。
この住宅取得資金の特例(非課税枠の拡大)は2019年10月に予定されている消費税10%を納税する住宅が対象だ。つまり、消費税が8%のままの分譲住宅や中古住宅(2019年9月末日までに引渡し可能な物件)は、従来の700万円または1200万円までが非課税となる。
契約から引き渡しまでに時間がかかる「注文住宅」は、4月以降に契約して10月以降に引渡しになれば拡大枠の対象となる。
また、この特例を利用するには、必ず贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までに確定申告をする必要がある。忘れずに行おう。
次に、非課税枠を利用できるおもな要件を見ていこう。
■利用者の要件は、年収2000万円以下など■
住宅取得資金贈与の特例を利用するには、以下に挙げる要件を満たしている必要がある。一つでも条件から外れたら利用できないので、確認しておこう。
・贈与者の直系卑属であること(父母・祖父母など直通する系統の親族。養父母も含まれる。叔父・叔母、配偶者の父母・祖父母は含まれない)
・贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上であること
・贈与を受けた年の所得税課税額が2000万円以下であること
・2009年分から2014年分までの贈与税申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その全額を利用して住宅の新築等をすること
■建物は、50㎡以上などが要件■
建物についてもいくつかの要件がある。新築の場合と、増改築の場合に分けて説明しよう。
・新築または取得の場合
新築または取得した住宅の登記簿上の床面積(マンションの場合は専有部分の床面積)が50㎡以上240㎡以下で、かつ、その住宅の床面積の2分の1に相当する部分が利用者の住居となるものであること。
・増改築等の場合
増改築等の後の住宅の登記簿上の床面積(マンションの場合は専有部分の床面積)が50㎡以上240㎡以下で、かつ、その住宅の床面積の2分の1に相当する部分が利用者の住居となるものであること。
増改築等の工事費が100万円以上であること。
・省エネ等住宅とは
省エネ等住宅とは、国が定める以下の条件のいずれかに当てはまることが条件だ。最近時の住宅はほとんどどれかには該当している。
① 断熱性能等級4もしくは一次エネルギー等級4以上
② 耐震等級2もしくは免震建築物であること
③ 高齢者等配慮等級3以上であること
これら要件については、くわしくは下記国税庁のサイトをチェックしよう。
No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
(2)暦年贈与は、年110万円の基礎控除を利用
「暦年贈与」とは、一般的な贈与税の暦年課税方式を使ったもの。1年間の贈与の合計額から基礎控除額110万円を差し引き、その残りの金額に税率を掛ける。つまり、毎年110万円までの贈与であれば、税金はかからないというわけだ。
それでは、1500万円の贈与を受けた場合の贈与税額はどうなるのか。以下がその計算方法だ。まずは「基礎控除」110万円を引き、「基礎控除後の課税価格」に税率をかけ、最後にその課税価額に対応した「控除額」を差し引く。
・1500万円-110万円(基礎控除)=1390万円(課税価格)
・1390万円×45%(税率)-175万円(控除額)=450万5000円(贈与税額)
贈与税の税率(暦年課税) | ||
---|---|---|
基礎控除後の 課税価格 |
税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
つまり、1500万円の贈与に対する贈与税は約450万円であり、約3分の1は納税しなければならないのだ。そのため、暦年贈与だけで、住宅取得資金を調達しようという人はほとんどいない。
一方で、年110万円までの基礎控除の範囲内であれば税金はかからないので、多くの人は年110万円までの贈与に抑えている。ただし、年110万円の贈与を10年間続ければ1100万円にもなるので、住宅ローンを借りた後の返済時に、暦年贈与を使うという手もある。
なお、最初に取り上げた「住宅取得資金贈与の特例(非課税枠)」では、この基礎控除額110万円を加えることが可能になっている。つまり、住宅取得資金に限っては、一定の条件をクリアすれば最大3110万円の贈与が非課税となるのだ(2020年3月31日まで)。
(3)相続時精算課税制度は、単なる先送り
住宅取得資金の贈与の方法としては、「相続時精算課税制度」を利用するという方法もある。相続時精算課税制度は、父母などから住宅取得資金として生前に贈与された資金については、その時点では課税されず、相続時にその贈与した資金を含めて「相続税」をかけるというもの。利用できる枠はかなり大きく、2500万円まで贈与税がかからない。
この「相続時精算課税」と「住宅取得等資金贈与の特例」の特例は併用が可能だ。したがって、最大5500万円の贈与が非課税となる。ただし、110万円の基礎控除と3つの併用はできない。
最大5500万円という枠は大きくみえるが、相続時精算課税制度は、実質的には納税を相続時まで先送りするものだ。したがって、利用すべきか否かは相続財産の総額などによる。
そのため、まずはメリットが大きい「住宅取得資金贈与の特例」を利用すべだ。贈与する金額が大きくて、「住宅取得資金贈与の特例」では不足する場合については、この「相続時精算課税制度」を検討する価値があると考えておけばいいだろう。なお、相続する財産が相続税の対象にならないほど少額ならば、問題なく利用できる。
最後に忘れないでおきたいのが、相続時精算課税制度は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に一定の書類を添付した「贈与税の申告書」を提出する必要があること。
もっとも有利な制度を使おう
以上が、住宅取得資金の贈与税を軽減する方法だ。
3つの贈与の方法をうまく使い分けて、税金の支払いを抑えるようにしたい。
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