住宅ローンを申し込んでも、不動産の担保不足が原因で、銀行・金融機関から「融資不可」や「減額回答」が来る場合がある。そこで、住宅ローンにおける担保不動産の担保評価方法と対応策について、信用金庫はじめ地方銀行や大手銀行で25年以上、住宅ローンの営業推進や商品開発を手がける田中伸氏(株式会社ニコニコ住宅ローン代表)に聞いた。(フリージャーナリスト:福崎剛)
住宅ローンの審査は、顧客属性や担保評価が影響する
住宅を購入するほとんどの人が住宅ローンを利用する。だが、申し込んでも審査にパスしなければ融資してもらえない。審査では安定した収入がチェックされるが、それだけではない。
では、銀行・金融機関ではどのような項目について審査をしているのだろうか。『平成30年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書』(国土交通省住宅局、平成31年3月)によれば、銀行・金融機関が融資を行う際の審査項目で多いのが、以下の項目だ。
- 「健康状態」(98.6%)
- 「借入時年齢」(98.3%)
- 「完済時年齢」(97.7%)
- 「担保評価」(97.2%)
- 「勤続年数」(95.7%)
- 「年収」(95.6%)
- 「連帯保証」(94.9%)
こうしてみると審査で重視するのは、大きく2つ考えられ、「顧客属性」と「購入しようとする物件の担保評価」だ。
「審査ではまず、顧客属性を見ます。住宅の購入動機、計画性、雇用形態、職種、勤続年数、経歴などを見て、支払いができるのか判断します。また、顧客属性に問題がない場合でも、物件の担保評価が低いと住宅ローンは融資できなかったり、減額になったりすることもあります。銀行で融資の対象にならない物件と判断されたために住宅ローンの承認が下りなかったケースも考えられます。特に中古物件では要注意です」と田中伸氏は、担保評価が住宅ローンの融資不可や減額になりやすい要因だと話す。
住宅ローンの借り手の審査と同時に、購入物件に価値があるのかを審査しているのだ。
担保評価方法は、物件や銀行によって違う
住宅ローンの審査の重要な要素である「不動産の担保評価」。その決め方は、次の手順を取る銀行・金融機関が多い。
1、大手不動産会社や提携業者の物件なら、販売価格で評価
2、外部の不動産鑑定会社を利用
3、路線価をベースに試算
1、大手不動産会社や提携業者の物件なら、販売価格で評価
まず、売り主が「大手不動産会社」であったり、「大手不動産仲介会社」経由で不動産を購入したりした場合、「新築でも中古でも売価(売却価格)から評価しようとします」(田中伸氏)。大手不動産会社が手掛けた不動産であれば、資産価値も高く、値下がりしにくいと銀行が考えるからだ。また大手不動産仲介会社経由で中古不動産を購入した場合も、きちんと担保評価されているとみられる。
なお、銀行と不動産会社が住宅ローンの審査や金利などに関して提携している場合であれば、審査を通すよう最大限の努力をしてくれるため、担保評価で問題が起こることはほとんどない。
ちなみに同じ案件でも提携業者経由と、顧客自身が直接銀行に申し込んだ場合では結果が異なることがある。提携業者経由で持ち込めば、審査条件の緩和や実行金利で優遇が受けられる事がある。一方、顧客自身が直接、銀行の窓口で申し込みをすると、優遇が受けられないだけでなく案件否決や減額回答される場合があるが、より金利の低い銀行を見つけられることもある。
2、外部の不動産鑑定会社を利用
売り主が大手不動産会社でない場合は、外部の不動産鑑定会社等の査定評価を使うことになる。
宅地やマンションなど、個人が住居として使用する不動産の場合、取引事例比較法という方法を使い、近隣の類似した不動産の売買事例と比較しながら担保評価をすることになる。
ただし、この評価方法の注意すべき点は比較する事例によって担保評価額には幅が出ることである。高値で売れた事例を比較対象とすれば担保評価は上がりやすくなる半面、売り急いで安かった事例を比較対象とした場合、グレードの高い物件でも担保評価額は低めになってしまうケースもある。
鑑定会社は過去半年から2年前くらいのデータの相加平均で査定するため、例えば不動産が上がり基調の時には期待した査定価格にならないケースもある。
3、路線価をベースに試算
不動産鑑定会社を使っていない銀行や、不動産鑑定会社のサービス対象エリア外である場合は、「路線価」をベースに試算することになる。土地は路線価×125%(つまり1.25倍)として試算するのが基本だ。
「売却事例などが少ない地方の物件で採用されますね。事例がまったくない場合は、地元の不動産や物件の近隣に直接聞き込みをして、評価することもあります」(田中氏)
都心においても、路線価と時価に大きな乖離があるために、担保評価額が安くなってしまう可能性がある。
また、担保評価は、評価する側のさじ加減で数百万の金額差になる。そのため、金融機関によって担保評価にも差が出てしまう。1社の銀行・金融機関で住宅ローンの審査が通らなくても、ほかの銀行・金融機関でならOKという場合もある。
担保不適格物件は、要注意!
担保評価と共に注意したいのは、対象物件が担保不適格物件ではないことの確認だという。というのは、担保不適格物件の場合は、住宅ローンの融資が不可となったり、融資が下りても減額されたりしてしまうからだ。
「特に中古物件の購入で住宅ローンの申し込みがあると、担保不適格物件でないかをチェックされます」と田中氏。
例えば、住宅と店舗が併用するような物件で、住宅部分の床面積が50%以上の住宅となっていない場合は融資対象外となる。以下の画像は、各銀行の商品説明書・約款を拡大したものだ。様々な条件が書かれていることが分かるだろう。
違法建築物に関しても同じだ。特に下町の密集市街地では、建ぺい率や容積率が低く抑えられているため、基準をオーバーして建築基準法を守っていない建物が多い。そういう物件に関して住宅ローンの融資は、原則不可としている銀行・金融機関がほとんどである。
「ただし、建ぺい率や容積率の超過は10%程度まで許容している場合が多く、特に地元の信金や地銀は、柔軟に対応してくれる場合もあります」と、金融機関によってもケースバイケースだと田中伸氏は語る。
住宅ローンを申し込む人の顧客属性に問題がなくても、物件に難がある場合は、住宅ローンが下りるか、減額されるか不確定になってしまう。できることなら、担保不適格物件を選ばないことがベターだろう。
ここで、担保不適格の条件を紹介するので、一覧表を参考にしてほしい。
一般的な住宅ローンの「不適格条件」
【全物件共通】
1) 併用住宅で居宅(住宅)部分が50%未満である物件(住宅ローンとして取り扱う場合のみ)
2)違法建築物件(建ぺい率・容積率超過、最低敷地面積違反、等)
3)越境が発生しており隣地と解消していない物件
4)法的、物理的瑕疵がある物件、訴訟を起こされている物件
5)接道道路が建築基準法42条に該当していても担保不適格になる可能性がある場合(接道道路が私道で第三者が所有している)
6)43条但し書き道路(第三者の再建築の可否と通路部分の持ち分所有がポイント)
7)住宅ローン完済時に耐用年数を大幅に超過する物件
8)保留地物件、仮換地物件で住宅ローン実行時に単独所有で所有権登記できない物件
9)借地権・賃借権、定期借地権物件で融資期間が残存期間を超える場合
10) 未登記部分のある住宅
11)市街地調整区域の物件
12) 都市計画事業決定済であり購入物件が計画道路にかかっている物件
13)埋蔵文化財包蔵地の敷地
【マンション(区分所有物件)】
14) 登記簿上面積で25㎡もしくは30㎡未満の場合
15)長期修繕計画が整っていない、長期修繕積立金に大幅な未収金がある
16)マンション建替え・取壊し決議が可決された物件
出所:田中伸著「住宅ローンの強化書」(にじゅういち出版)
【関連記事はこちら】>>住宅ローンで「土地代の先行融資」「借地権付き物件」「市街化調整区域」を借り入れはできる?
>>住宅ローンで別荘、投資用物件、アパート併設物件を購入できる?主要14銀行の「資金使途」を徹底調査
旧耐震物件は、耐震基準適合証明書の取得を
「担保不適格」となる条件の主なものを見ていこう。
ひとつが「旧耐震の物件」だ。1981年(昭和56年5月31日までに建築確認された建築物)は、旧耐震の物件となり、それ以降は新耐震基準の建築物となる。
「旧耐震物件の購入は、よく考えたほうがいいですね。価格は手ごろかもしれませんが、住宅ローンが組めない場合がありますから」と田中さんは指摘する。
旧耐震の物件でも耐震補強工事をして、新耐震の基準を満たす「耐震基準適合証明書」を取得していれば住宅ローンの審査は問題なくパスする。とはいえ、マンションの場合は、管理組合の総会決議で承認を得なければ耐震補強工事すら実施できないルールがある。中古マンション購入を検討する場合は、新耐震物件か、もしくは耐震補強工事を実施した物件をチェックするといいだろう。
マンションは長期修繕計画や積立金を確認する
担保不適格となる条件では、マンション特有のものある。
1つが、ワンルームのような狭小物件(25㎡〜30㎡)だ。こうした狭い物件は住宅ローンの対象になっていない場合が多い。
「ほぼ全銀行で登記上の面積に下限を設けています。一例を挙げるとある信託銀行は25㎡以上、あるメガバンクは30㎡以上ないと住宅ローンを適用してもらえません。首都圏の大手地銀では50㎡未満の物件は住宅ローンの対象外にしています。仮に住宅ローンの融資を受けられるとしても頭金を3割用意しなければならないとか、投資物件でないことを示すために、銀行から購入物件に引越した住民票の提出を求められたりします」(田中氏)
マンション全体の長期修繕計画が整備されていなかったり、修繕積立金に大幅な未収金がある物件も、住宅ローンが下りなかったり減額される可能性がある。
「マンションの場合、区分所有者で結成する管理組合で修繕について取り決めないといけませんが、管理組合が機能していないと、必要な修繕工事もできません。少なくとも20年以上の長期修繕計画が用意されているか、また修繕工事が適切に行われているかも金融機関はチェックします」(田中氏)
また、各戸から毎月集める修繕積立金が、中には長年未払いのままになっているケースもある。こうしたマンションは、管理不全で適切な修繕工事もできないと見なされがちだ。
実は、多くのマンションは修繕積立金不足が問題になっており、不足分を管理組合で借り入れて修繕工事をすることになる。そうしたケースでは、大規模修繕が決まった翌月から管理費と一緒に工事代融資の返済額が上乗せされ、極端な例では毎月の管理費が1戸当たり5万円や6万円になってしまうリスクもある。そのため、マンション全体の維持管理が良好でない物件は、担保不適格物件にされて住宅ローンの減額になったりする。
担保不足なら、「無担保ローン」活用の検討も
では、担保割れ、担保不足の場合はどう対応すればいいのだろうか。
使い勝手がいいのが、用途の広い「無担保ローン」だ。
無担保ローンは、担保割れしている不動産のローンとして利用できる。「担保不足で借り換えできない」という人も、無担保ローンになら借り換えは可能だ。さらに土地の購入や既存の住宅取り壊しなどの費用、リフォーム費用も借りられる。
ただし、これまで解説してきた有担保住宅ローンと比べて金利が高く借入可能期間も短い。店頭金利は住宅ローンよりも1%程度高く設定されている場合が多い。担保がいらないため、審査はスピーディーで、登記手続きなどの諸費用もかからない。銀行・金融機関によって異なるが、地銀や信金での最大借入可能額は1000万円〜2000万円、借入期間は15年〜20年(なお、メガバンクでは借入可能金額が最大で300万円〜500万円)が多い。例えば、「ろうきん」(中央労働金庫)では2000万円、借入期間20年の大型無担保ローンも提供している。
しかし、住宅ローンほど多額の資金を借り入れできないので、利用は限定的だろう。
【関連記事はこちら】>>リフォーム費用など幅広く使える「無担保住宅ローン」とは? 審査や金利の違い、デメリットについても解説
担保不適格かどうか、買う前に確認しておこう!
住宅ローンを借りる際の、担保評価について解説した。
以下のポイントを知っておけば、住宅ローンを借りられる確率がアップするので、参考にしてほしい。
・担保不適格物件は避ける。中古住宅の場合、担保不適格の条件に当てはまらないかを確認しておこう。
・旧耐震物件の購入は慎重に。住宅ローンが借りられないことがある。
・担保評価が低い場合は、無担保ローンも借りられるが、金利が高く上限金額も低め。
※田中伸氏の著書「住宅ローンの強化書」は、フラット35、民間銀行の住宅ローンでは何を審査しているのかを細かく分析しています。
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