住宅ローン金利が徐々に上昇しています。特に変動金利で借りている人は金利が急上昇した際、毎月の返済よりも金利の方が高くなるという、恐怖の「未払利息」が発生して、返済が滞る可能性もあります。この未払利息は、実は過去に一度発生した歴史があるのですが、その情報はほとんどありません。過去の銀行の対応と、次の金利上昇時にどんな対応をするのか予想します(金融ライター・加藤隆二、現役銀行員)。
未払利息は発生していた!〜住宅ローン30年史
私は1990年のバブル絶頂期の入社です。数年前、「(仕返しは)倍返しだ」というキャッチフレーズで有名になった半沢直樹の主人公と、おそらく同期入社です。もっとも彼のような派手な浮き沈みもないので、当時も今も銀行員です。
今回は、金利が徐々に上昇基調にあるということで、住宅ローン金利の過去の推移を振り返り、「未払利息」が発生するような金利の急上昇時に、銀行はどう対応するのかを予想したいと思います。
住宅ローン金利の変遷
住宅ローンの変動金利(店頭表示金利のこと。詳細は後半で説明)を、データが残っている時期から年表形式で振り返ると、主に以下のようになります。
時期 | 変動金利 (店頭) |
トピックス |
---|---|---|
昭和62年(1987年) | 5%程度 | バブル経済突入前は5%だった |
平成2年(1990年)10月 | 8.5% | バブル絶頂のピークで、一気に金利上昇。ただしピークは短かった |
平成3年(1991)年〜 平成4年(1992)年 |
7.5%〜5.7% | 金利は6%を割り込む水準まで一気に下落 バブル崩壊はこの頃といわれている |
平成5年(1993)年 | 4.8% | 旧・住宅金融公庫と銀行金利がほぼ横並びとなる |
平成7年(1995)年 | 2.625% | 金利低下がやや鈍化 |
平成11年(1999)年 | 2.375% | ここが最低水準。その後、多少の上下はあったがほぼ同レベルで現在に至る |
※店頭金利はいわゆる「定価」であり、実際の融資金利はそこから優遇幅を引いた表面金利(対顧客金利)になります。なお優遇幅は、時期によって違うほか、顧客の信用力によっても変化します。
参考資料を見ると、実はバブルより前から金利は高水準で、バブル前に一旦下降傾向のときもあったようです。またバブルの時期(1988年頃~1991年2月・諸説あり)を物語るように金利が変動していたこともわかります。
では、この中からいくつかの時期を切り取って、その時期に何が起きていたか?を説明したいと思います。
【未払利息が発生】バブル絶頂1990年頃
1990年、バブル経済が絶頂を迎えて、金融引き締めが図られたことで金利が急上昇。わずか1年程度の間に、5%から8.5%まで金利が急上昇しました。そのため、バブル期に短期間ですが民間銀行の住宅ローンで未払利息が発生したケースもあったといわれています。
未払利息とは、変動金利の住宅ローンで急激に金利が上昇し、毎月支払う利息が本来の返済額よりも多くなってしまうこと。通常の返済ペースでは利息を払いきれないことからこう呼ばれます。こうなると元本が減らないどころか借金が増え続けるという危険な状態で、住宅ローン破綻をする可能性が一気に高まります。
未払利息が発生する仕組みは?
住宅ローンの変動金利には、以下の3つの防御機能(激変緩和措置)があります。多くの銀行が以下のルールを導入しています。
1、金利・年2回見直しルール
金利は毎日とか毎週などの短期間で変わることはない、原則は年2回見直し(最近は、年2回以外の銀行もある)
2、返済額5年間固定ルール
返済開始から5年、次の5年というサイクルの最中は金利が急上昇(下降も)しても返済額(口座から引き落とされる金額)は変わらないルール
*返済額は変わらなくても、元金と利息の組み合わせは変動するので、金利上昇局面では金利の割合が多く、逆に元金は少なくなる
3、1.25倍(125%)ルール
5年ごとに見直される返済額は、直前返済の1.25倍より多くはならない
以上のルールがあるため、金利が上昇しても、すぐには毎月の返済額が増えないというメリットがあります。
ただし、毎月の返済額が上昇するのが5年ごとであるため、金利上昇が急激な場合は毎月返済額よりも利息の方が多くなってしまうことがあります。これを「未払利息」と呼びます。この状態だと毎月返済をしているのに、住宅ローン残高がどんどん増えていくという恐ろしい状態になります。
なお、「未払利息が発生したケースもあったといわれている」と表現したのは、公的な資料が見つからなかったからです。
ただし、先輩方に聞いてみると、1990年頃、確かに未払利息が発生していたというのです。以下は、先輩方から聞いた、当時の状況です(この時期、私は銀行に入社したての見習いだったので、実際に現場で経験した先輩方に当時のことを聞きました)。
確かに金利がピークになったとき未払利息が起きた人はいるみたいだけど、そんなに大きな騒ぎにならなかった。
それと、自分は担当するお客さんのことしか見ていなかったから、「銀行全体で何人だった?」とか、「日本全体で何人いた?」とかは、おそらく公表されなかったと思う。
(先輩A)
あの頃はバブル真っただ中で「実家の山が売れた」とか、個人が億単位の大金を普通に手にしていた時代で、わざわざ借金などせずキャッシュで家を買う人もけっこういたから、住宅ローンを借りていた人はそんなに多くなかったと思う。
それと、住宅ローンを借りていて未払利息になりそうな場合、「そんなことになるなら(未払利息が発生するなら)全部返すよ」と自己資金でさっさと完済した人もいた。
(先輩B)
あのときは、かなり早い時期に銀行本社から『未払利息が発生しそうな人のリスト』みたいなものが来て、支店の対象者を事前フォローするようにと命令があった。なぜなら『〇〇銀行で未払利息が発生!』なんてニュースになったら、客離れが起きるかもしれなかったから。
自分も対象のお客さんに『金利の変更』、つまりその人だけ特別に金利を引き下げて未払利息が発生しないようにしたんだけど、このときもお客さんに「今回は特別な対応なので、決して他言無用でお願いします」と口止めをした。なぜなら、他のお客さんからすれば不公平だと文句が出るから。秘密裏に対処したということだよ。
(先輩C)
以上の話を簡単にまとめると、「現実に未払利息は発生したが、短い期間の瞬間的なもので、また未払利息が発生した人も大人数ではなかったため社会的な問題にまでは発展しなかった」といったところでしょう。ただし瞬間的とはいえ、過去に未払利息が発生したというのは事実です。
このように先輩の話を聞いて、私もなるほどと思い、だから自分の記憶にも残っていなかったんだと納得できました。なおこれは、あくまで私の勤務する銀行の「内輪(うちわ)話」です。どの銀行も同じように対応したわけではありません。
【住宅金融公庫を狙え!】1993年頃
現在は、原則として公的ローンの方が、銀行の住宅ローンより金利は高めです。(*銀行ローンの金利種類や優遇条件にもよる)
ただしバブル期はこれが逆で、たとえば住宅ローン金利がピークの8.5%だったとき、当時の公的ローンである「住宅金融公庫(フラット35の前身)」は5.5%。銀行ローンのほうが高く、その金利差は3.0%(店頭表示金利)もありました。
しかし、バブルが崩壊した1993年頃から、銀行住宅ローン金利がどんどん下がっていったわけですが、当時の住宅金融公庫は固定金利なので金利が下がることはなく、銀行では住宅金融公庫のローンから銀行の住宅ローンへの借り換えを積極的に推進していました。実際に、私はこのころ、新築のローンよりも、住宅金融公庫でまだ高かった時期の固定金利で返済を続けている人の借り換えばかりやっていました。
なぜなら借り換えは新築より時間がかからず、手っ取り早かったからです。借り換え融資を実行して返済させれば終わりで、新築のように融資実行まで数カ月など時間がかからないのです。ただ、「自分は古いローンを奪い合っているだけで、新築など真の住宅ローンで顧客の役に立っていないなあ」と感じていたのも事実です。
【銀行同士のつぶしあい】1990年代後半から現在まで
バブル崩壊から時が経ち、金利低下も収束したあとは、金利も最低水準で長期間推移してきました。
この時期になると、もう住宅金融公庫の借り換えもやり尽くしてしまい、銀行では新築顧客の奪い合いと「銀行間の住宅ローン借り換え合戦」が起こり、現在も続いている状況です。銀行間の競争は金利競争から始まり、もう競争もできないくらいの低水準になると、今度は団体信用生命保険(団信)の差別化で顧客を呼び込むようになっています。
今後の金利上昇で、銀行はどう動く?
今、未払利息が発生したら銀行はどうする?
バブル絶頂期に未払利息が発生した際は、短い期間であり、未払利息が発生した人も大人数ではなかったため、大事にならずに済みました。
しかしそれは、「銀行が潰れることなど絶対にない」と信じられていた時代のことです。その後、多くの銀行が潰れたり合併したりして、生き残りを図ってきました。現在の状況では「困っている人には特別に金利を引き下げる」などを自主的に行う銀行はあまりないのではないかと思いますし、金融庁から強権的な指示が出されない限り、難しいというのが現状かと思います。
確かに、リーマンショック時には、多くの住宅ローンの返済困窮者が生まれたため、条件緩和(金利減免、返済期間の延長など)が政府主導で導入されました。ただし当時、困窮者の数が増えたといっても、銀行が傾くほど多かったわけではなく、政府からの補助金・公的資金導入などはなく、民間銀行の自助努力で対応できた程度の規模でした。
今後、金利が急上昇した場合、変動金利で借りている人の多くが返済に行き詰まる可能性があり、その規模はリーマンショック時に比べてべらぼうに大きくなるでしょう。個人だけでなく、法人も同様に返済に困ることになります。そのため銀行自身が自らの経営を重視するなら「困っている人に特別に金利を引き下げる」などの措置を、銀行が積極的に取れるかどうかは疑問が残ります。
参考:金融庁「中小企業等に対する金融円滑化対策について」
【関連記事はこちら】>>住宅ローン返済が苦しいなら「リスケ」の検討を!メリット・デメリットと、必要な条件を解説
まとめ
あらためて銀行の顧客への対応を振り返ってみましょう。
1990年ごろは、未払利息があれば、積極的に金利の引き下げをしてくれたなど「銀行に余力があった時代」。
2009年ごろは、金融庁に言われて(これが本音で、「金融円滑」という建前もありましたが)「仕方なく金利を引き下げた時代」。
そして将来、対象人数が多すぎると「金利引き下げも難しい時代」がやってくるかもしれません(もちろんそれ以前に、「元本カット」は過去にも例がないので、これからも絶対にないと思います…)。
往々にして私たち銀行員は「コップに半分しか水がない」とネガティブ思考タイプが多いのですが、こんなネガティブな将来予測は当たってほしくないものです。
〜固定金利から変動金利への借り換えが流行する?
あくまで個人の意見ですが、もし変動金利の低水準が今後もしばらく続いていくとして、今度は銀行住宅ローンの固定金利を変動に借り換える動きが出てくるのではないでしょうか? 過去に住宅金融公庫の借り換えに取り組んできた銀行員としては、銀行はそんな行動を取るのではとみています。
現在の銀行固定金利(固定金利と変動金利のミックス型を含む)は、そもそも「金利を引き下げたりできないかわりに固定金利」になっているとも言えるわけで、契約している銀行では(当然ながら)金利を変更することはできないはずです。でも、固定金利は上昇局面にある中で、変動金利は低水準が続いており、中にはさらに引き下げている銀行もあります。そのため、どうしても金利を下げたいなら、別の銀行で変動金利(あるいは低利の固定金利)に借り換えればいいわけです。
もちろん借り換え手数料が必要ですし、現在が固定金利なら違約金を支払わないと解約できない銀行もあります。そうしたデメリットなどを差し引いても変動金利に変更する動きは出てくるのではないか?と考えています。
そして、ここからが重要なところで(というか、本当はあまり話したくはないのですが)「金利が気になるなら『ダメで元々』と、今の銀行に相談してみては?」ということです。
住宅ローンは銀行と顧客の契約ですが、契約はあくまで契約であって、その銀行があなたを手放したくないなら、少々無理な相談でも、もしかしたら「あなただけ特別ですよ」と固定金利を変動金利に変えてくれるかもしれないのです。本来は許されないはずの全期間固定金利⇒変動金利への切り替えや手数料の免除(減額)だって、対応してくれる可能性もゼロではないと思われます。事実、私の勤務する銀行では顧客にこうした対応をしているケースもあります。これも「返されるくらいなら、特別待遇をしてでもローン残高を維持したい」という事情があるからです。
もちろん、すべての銀行がこのような対応をするとは限りませんし、この記事読んで、なお変動金利を選択するということは、「その後の金利上昇リスクは自分で負わなければいけない」ということです。借り換えなどを銀行から提案された場合も同じで、最終的に顧客自身が判断しているので、金利上昇に関して銀行の補填など期待できないことは、言うまでもありません。
【関連記事はこちら】>>銀行が住宅ローン借り換えに必死なのは、他行のシェアを奪える「倍返し」施策だから!
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淡河範明さん
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