フラット35の金利が下がり、変動金利と比べて選択に迷う人が急増しています。今回は変動金利とフラット35のどちらが得になるのか、シミュレーションを交えて深掘り解説していきます。(住宅ローン・不動産ブロガー 千日太郎)
マイナス金利政策の解除をめぐる住宅ローン金利の動向
3月の日銀によるマイナス金利政策の解除はいわゆる金融引き締めではなく、緩和政策を継続するという建前がありました。そのため、短期政策金利が0.1ポイント上昇したものの、現在のところ住宅ローンの変動金利には一部銀行(住信SBIネット銀行)を除いて大きな影響はありません。むしろ三井住友信託銀行は変動金利を3月までの0.405%から4月は0.330%に下げ、SBI新生銀行は4月から0.29%のキャンペーン金利を開始しています。
昨年4月8日に日銀総裁に就任した植田和男氏は、実に1年足らずで歴史的な長さで続いた大規模緩和政策を大きな混乱なく手仕舞いました。ただし「普通」の緩和政策は続けていくと言っており、これが市場に受け入れられたことが今回のマイナス金利政策の解除を成功させた要因ではないかと見ています。
また、国内の長期金利は上昇傾向にあったのですが、住宅金融支援機構が取り扱うフラット35(買取型)の金利は3月の1.84%から4月は1.82%に0.02ポイント下がっている点にも注目です。
さらにフラット35については子育て世帯向けの金利引き下げ「子育てプラス」によって最大年1%の引き下げとなるため、全期間固定型でありながら当初期間は変動金利並みの低金利で借りられる状況になっています。
ただしフラット35は頭金を1割以上入れなければ高い金利になってしまうことと、借り入れの時点で決まっている当初期間が過ぎれば金利引き下げは無くなり、毎月返済額が当初よりも高くなる点に注意が必要です。
【関連記事はこちら】>>日銀は3月会合でマイナス金利政策を解除!今後の住宅ローンへの影響は?
変動金利は今後何パーセントまで上がるのか?
植田日銀のマイナス金利政策解除は、表面的にはゼロ%の短期政策金利を0.1%に上昇させる利上げではありましたが、より強調されたのは金融緩和政策を継続するというものでした。
植田総裁は会合後の記者会見で、今後は短期政策金利を操作する伝統的な手法で物価の安定を実現していきたいという方向性を示しました。これを実現するには、現在の0.1%のままではダメです。0.1%から金利を下げると再びマイナス金利政策に逆戻りしてしまいます。
短期政策金利を操作するには、最低でも今の0.1%から1段階金利を上げなければなりません。できれば、上げられるうちに2段階くらい上げておきたいというのが本音ではないかと思います。通常、中央銀行が短期政策金利を操作する場合の最少単位は0.25%ですから、2段階上げれば0.5%上昇することになります。
日銀総裁の任期は5年でちょうど1年経ちましたが、残り4年の間に複数回の利上げを行い、短期政策金利をコントロール可能で、景気を冷やしもせず過熱もさせない自然利子率の水準にしたいと考えていると見ています。
3月の利上げはマイナスをゼロにするもので、いわばノーカウントですが、次の追加利上げからは、いよいよ民間銀行も変動金利の店頭基準金利を上げてくる可能性があります。
5年後の政策金利の水準と、変動金利で借りた場合の影響額
それでは、変動金利で住宅ローンを借りた場合、5年後の政策金利の上場幅によって総返済額がどのくらい増加するのか。シミュレーションで確認してみましょう。
図表1:【金利上昇シミュレーション】
【前提条件】物件価格5,000万円、借入金額5,000万円(フルローン)。変動金利0.4%(5年ルール125%ルールなし )、借入期間35年。元利均等返済、ボーナス払いなし。
金利上昇幅 (5年後) |
毎月返済額 (当初) |
毎月返済額 (上昇後) |
総返済額 |
増加額 |
---|---|---|---|---|
+0.00% | 約12.8万円 | 5,359万円 | ||
+0.25% | 約12.8万円 | 約13.2万円 | 5,530万円 | +約171万円 |
+0.50% | 約12.8万円 | 約13.7万円 | 5,760万円 | +約401万円 |
+1.00% | 約12.8万円 | 約14.7万円 | 6,068万円 | +約709万円 |
+1.25% | 約12.8万円 | 約15.2万円 | 6,255万円 | +約896万円 |
+1.50% | 約12.8万円 | 約15.8万円 | 6,447万円 | +約1,088万円 |
+1.75% | 約12.8万円 | 約16.3万円 | 6,642万円 | +約1,283万円 |
なお、+0.00%は今後追加利上げがなく(あったとしても再び下がって)、5年後以降も今の金利水準で安定するという楽観的なシナリオです。この全く上昇しないと予想しているエコノミストは極めて少数派であり、あえて比較のために計算しました。
多数派のエコノミストはある程度の範囲で植田日銀が今後利上げを行うものと予想しています。日銀が金融緩和政策を開始する前、2008年のリーマンショック直前の短期政策金利は0.5%であり、このあたりまでは想定してもよいと思います。変動金利が5年後に0.5%上がると毎月返済額は約1万円増え、総返済額は約401万円増えます。今から5,000万円を変動金利で借りるならこの程度の影響は当たり前に想定しておくべきラインだと思います。
上記はあくまで過去のデータを引き合いにして将来も同じだろう、という無難な予想です。こんなに簡単に将来を予想できるなら誰も苦労はしません。そこで上振れした場合の金利水準でも計算をしてみる必要があります。
例えば変動金利が5年後に1%上がると毎月返済額は約2万円増え、総返済額は約709万円増えます。毎月返済額にしても総返済額にしても、1割を超える増加となります。一般論として1割超という割合は計画の中で無視できないレベルの増減であり、このリスクに対する備えを怠ると計画の大幅な変更を余儀なくされるレベルのリスクと言えます。
一番簡易な対応としては、手持ちの資金で繰り上げ返済をすることによって元本を減らし、毎月の返済額を減らし、利息の負担を減らすという方法です。例えばこのケースで5年後に1%上がるシナリオでしたら、5年後に580万円を返済額軽減型で繰り上げ返済することで毎月の返済額を約12.8万円のままとし、利息の負担を約131万円減らすことが出来ます。変動金利で借りるならば想定を超える金利上昇に備えて手持ちに余裕資金を確保しておく必要があるのですね。
全期間固定金利で金利上昇リスクを回避
余裕資金の確保によらずに金利上昇リスクを避ける方法としては、全期間固定金利で借りるというものがあります。同じ物件をフラット35で子育てプラスの恩恵も加味して購入するシナリオで比較してみましょう。
図表2:【変動金利とフラット35の比較】
【前提条件】物件価格5,000万円、借入金額4,500万円(頭金を1割)。全期間固定金利1.83%、子育てプラスの金利引き下げ:1ポイントで5年間年0.25%(最大1%)。借入期間35年、元利均等返済、ボーナス払いなし。
金利引き下げ (子育てプラス) |
引き下げ |
毎月返済額 (当初) |
毎月返済額 (上昇後) |
総返済額 |
---|---|---|---|---|
12P | 15年間▲1% | 約12.3万円 | 約13.6万円 | 5,985万円 |
8P | 10年間▲1% | 約12.3万円 | 約13.9万円 | 6,152万円 |
4P | 5年間▲1% | 約12.3万円 | 約14.2万円 | 6,356万円 |
0P | 約14.5万円 | 6,597万円 |
先程の図表1と比較すると、変動金利で1%の金利上昇があった場合の総返済額と、フラット35で子育てプラスのポイントを8~12得て借りた場合の総返済額がおおむね近似していることが分かりますね。また、当初の毎月返済額は変動金利よりもフラット35の方が抑えられています。これは1割の頭金を入れていることによるものです。
また金利引き下げのポイントが得られず、金利の引き下げなしでフラット35を借りた場合でも、変動金利が5年後に1.75%上がった場合よりは総支払額を少なく抑えられるということが分かります。
住宅金融支援機構のHPによると、子ども3人の家族で「【フラット35】地域連携型(子育て支援)」が利用できるエリアにZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)かつ長期優良住宅を取得する場合に9ポイント得られるとあります。他にもポイントを得られるケースがあるため、8ポイントを超える子育てプラスも現実的に可能と言えます。
変動金利と同額の総返済額で金利を固定する方法
返済期間を短く設定することで適用金利が下がるフラット20を利用する方法もあります。この場合、総返済額は変動金利のまま、金利を固定することができるのです。2024年4月の適用金利は1.43%ですから、これに子育てプラスの1%金利引き下げが加わると0.43%で固定できることになりますね。
図表3:【変動金利とフラット20の比較】
物件価格5,000万円、借入金額4,500万円(頭金を1割)。全期間固定金利 1.43%、子育てプラスの金利引き下げ:1ポイントで5年間年0.25%(最大1%)。借入期間20年、元利均等返済、ボーナス払いなし。
金利引き下げ (子育てプラス) |
引き下げ |
毎月返済額 (当初) |
毎月返済額 (上昇後) |
総返済額 |
---|---|---|---|---|
8P | 10年▲1% | 約19.6万円 | 約20.6万円 | 5,321万円 |
4P | 5年▲1% | 約19.6万円 | 約21.1万円 | 5,471万円 |
0P | 約21.6万円 | 5,682万円 |
図表3と図表1を比較すると、変動金利で0.5%の金利上昇があった場合の総返済額よりも、フラット20で子育てプラスの金利引き下げが全くない場合の総返済額の方が若干少なくすむという結果になります。しかし、毎月の返済額はフラット20の方が大きいですね。これは1割の頭金を入れていても返済期間を20年と短くしているためです。
変動金利を同じ総支払額で金利上昇リスクを回避するには、返済期間を短く設定することでも十分に可能ということです。ただし、毎月の返済額が高くなってしまいますので、毎月返済額が無理なく続けられる水準におさまっているかを慎重に判断する必要があります。金利上昇がなくても収入が減って住宅ローンを続けられなくなる人のケースの方が圧倒的に多いのです。
まとめ~変わりゆく変動金利の時代
日銀の利上げはインフレ抑制のためにドンドン金利を上げていく欧米型の金融引き締めではなく、マイナス金利という異常な緩和政策を正常化し、緩和的でありながらも「金利のある世界」に戻すことが主眼だといわれています。
変動金利で借りている人の金利が短期的にドンドン上がるということはないので安心してよいのですが、日銀の植田総裁はこれからは短期政策金利を操作する「普通の金融政策」を行っていくと発言しており、そのためにはあと複数回の利上げが必要になります。おそらく次回以降の利上げからはいよいよ変動金利が上昇していくと、個人的に予想しています。
住宅ローンは35年返済など長期にわたるものです。変動金利を選ぶということは、金利が上がるたびに、毎月の返済にいくら影響するか?そして総額ではいくら増えるのか?というチェックをその都度行うことが必要になってくるでしょう。
【関連記事はこちら】>>住宅ローンの金利上昇リスクにどう対応すべきか? リスクを軽減するコツも紹介
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淡河範明さん
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